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第2話 秘密の遺産相続
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ジョゼフィン大伯母は、フィオナには優しかったが、父のチャールズや、そのほかの家族には辛辣だった。
特に母と義姉は、舌鋒鋭く何回かぐっさり言われたことがあるらしく、出来るだけ接触しないようにしていた。
だが、大伯母は金持ちだったらしい。
死んだ今となっては、言い返される危険性がないので、母も義姉も大っぴらに大伯母の悪口を言っていたが、遺産の行方には強い関心を抱いていた。
「明日朝、馬車の用意ができたら、ジョゼフィン伯母さんの遺言を聞きに行こう」
「お義父様、私もご一緒してよろしくって?」
伯爵の話など無視して夫のアンドルーとばかり話していたアレクサンドラが、急に態度を変えて伯爵に甘えるように尋ねる。遺産の内容が気になるのだろう。
「だめだよ、アレクサンドラ。お前は呼ばれていない」
フィオナは、ビクついた。仕切りたがりの義姉は、そっけない断り方をされて怒っているに違いない。
もし、フィオナに遺産が多めにいくとなったら、どんな仕打ちを受けるだろう。
もう、何ヶ月も前の話だ。
病床に臥せった大伯母は、亡くなる前に、フィオナを呼んで言った。
「あたしの財産は、全部、あんたの名義にしといたからね。そのことは、あんたの母親には内緒だよ。あんなに呑気な女もいないよ。人が良くてもあれじゃねえ……。チャールズが苦労するはずだよ」
ちなみに、チャールズとはフィオナの父の名前である。
「あんたは、まだ若い。お金は、成年になるか、あんたが結婚するまでお預けだ。それまでは手当てだけをあげるから、ドレスや化粧品に使いなさい」
大伯母は、フィオナのほっぺをつついた。
「泣くんじゃないよ。誰もが羨むいい男と愛し合って結婚するのが、一番いいんだろうけど、あんたを一番大事にしてくれる男と結婚するんだよ」
フィオナは半分しか聞いていなかった。大伯母の声が、あまりにも弱々しかったからだ。
「お金なんかいらない。ジョゼフィンおばさまに生きてて欲しい」
大伯母は苦しい息の下から、ほんのり微笑んだ。
「みんな順番だよ。だけど、あたしはあんたがかわいいんだよ。いいかい? 結婚だけが幸せじゃないけど、幸、不幸もダンナ次第だってのもほんとのことさ。あたしなんか、三回も結婚したんだから、あたしの言うことは確かなんだ」
それから数か月を経ずして大伯母は亡くなった。
そして今日、フィオナと父は、呼び出されて、大伯母の代理人、ゴードン弁護士の実利一点張りの狭苦しい事務所に並んで座らされていた。
ダーリントン伯爵ともあろう身が、市中の弁護士ごときに、こんなさえない事務所まで呼び出されたのは、はなはだ不本意だった。
だが、致し方ない。
大伯母は、かなりの資産を有していて子どもはいなかった。相続人は自分しかいないのだ。
今、目の前には、伯母の遺産がゆらゆらと揺れている。
伯爵は椅子に深く掛け直した。
「ジョゼフィン・ハドウェイ様は、この遺贈につきましては、完全なる秘密にしておきたいと仰せです。財産目当てのご親族からのさまざまなお申出を避けるためでございます」
伯爵は深くうなずいた。まことにもっともである。
伯爵の脳裏には、父の兄妹たちや従兄弟たちの顔が浮かんだ。
もっとも、伯母が警戒したのは、伯爵本人とフィオナの兄とその嫁だったのだが。
「ここに、ご遺贈の手紙がございます。読み上げろと言う御遺言でございまして」
父は、日ごろ仲の悪かった伯母の手紙の中身は、自分への叱責ではないかと怖れた。そんなもの、聞きたくもない。大叔母は毒舌で有名だった。だが、遺産がらみとなればやむを得なかった。
「聞こう」
『3万ルイは、甥チャールズとその娘フィオナに半分づつ遺贈する。この遺贈は、フィオナが幸せな結婚をした時か、成年に達した時発効する。それまでの間、フィオナには別途月々の手当てを付す。またチャールズは、フィオナに幸せな結婚をさせること。なお、この遺贈については、他言ならないこと』
「半分ずつ?」
予想していたより、だいぶ少ない額だった。だが、伯母の財務状況について具体的な話を聞いたことはなかったので、伯爵はそんなものなのかもしれないと思った。
だが、それより驚いたのは、フィオナと折半という点だった。
弁護士はうなずいた。
「ジョゼフィン・ハドウェイ様は、ご承知の通り、フィオナ様を可愛がられておられました」
渋々伯爵は同意した。それは知っている。
「全額、フィオナ様に相続させるおつもりでしたが、まだ、未成年でございますので、成年になられるか、フィオナ様が幸せな結婚をされるまで面倒を見られる父上に、半額、お預けになられたのです」
父親は娘の顔を見た。
伯爵は、娘が可愛くないわけではなかった。しかし、娘の社交界デビューは、正直、彼の手に余る。よい結婚をさせる自信はまったくない。
「その結婚が幸せかどうかは、誰が決めるのかね?」
「それにつきましては、後刻、説明させていただきます。
それでは、伯爵様は別室へどうぞ。これから、フィオナ様へ、ハドウェイ様から、生活諸般に関するご忠告が数多くございます。全文、お伝えせよと申しつかっております」
伯爵は、そそくさと立ち上がった。長くかかりそうだ。『幸せな結婚』をさせられなかった場合、遺産はどうなるのだろうか。彼の関心はこの一点のみだった。
生活諸般にわたる伯母の忠告など、聞きたくもなかった。生前、伯母には散々説教されたのである。もうたくさんだ。別室で、弁護士の秘書に茶菓でもてなされながら、待っていた方がマシである。これは伯爵夫人には内緒だが、ゴードン弁護士事務所の秘書はブロンド美人で伯爵の好みだった。
悲しそうな表情をした娘が残ったが、ゴードン弁護士は、父親のチャールズが部屋から出て行ったことを確認すると、彼女の目の前に紙を一枚出してきた。
そして、とても小さな声で、言った。
「先程の金額は父ダーリントン伯爵様への表向きの金額で、こちらが本当の金額でございます」
差し出された紙の数字を読んだフィオナは、あまりのことに言葉を失った。
3万ルイどころではない。その何十倍もの金額が書かれていたのだ。
「大伯母様は、このことは、必ず秘密にするようにと言い残されました」
フィオナは、弁護士の顔を見た。
「父上にも母上にも黙っていなくてはなりません」
「どうしてですか?」
「大伯母様は、財産のある娘だからと言い寄ってくる男はいくらでもいるだろう、でも、金目当ての男にロクな男はいない。今のあなたを、そのまま好きになってくれる男と結婚しなさいとおっしゃったのでございます」
その前の日、ゴードン弁護士は秘密にしろなどと若い娘に言っても無理ではないかと助手のウィリアムに言ったものだった。
ウィリアムは、そんな秘密が守れるものですかと言い切った。
「だって、贅沢したい年頃ですよ。ドレスだって欲しいし、アクセサリーだって欲しい。お金ならあるんです。たとえどれほどの価値の遺産なのか、本人には正確にわかっていなかったとしても」
その通り。フィオナに遺された遺産は文字通り莫大だった。
なんだって買えるのだ。欲しくても我慢していたもの。リボンやお菓子、ちょっとした髪飾り、新しい靴や羽のついた流行の帽子、それにドレスだ。それどころではない。目抜き通りにあるしゃれた3階建てのアパルトマンを丸ごと買いこんで、内装を全部好みのものに入れ替えて、夜な夜な贅沢なパーティを開けるくらいだ。
「この遺産相続の件が知れ渡れば、計算高いカネ目当ての男たちがどっと押し寄せるだろうよ。黙っておかないと不幸になる」
「でも、本人がしゃべってしまうでしょう。意地の悪い女友達に自慢されたり、社交界に出ても誰にも注目されなかったら……」
彼だって、年端のいかない娘がこんな莫大な額のお金を手にしたらどうなるか、不安だった。
「本人がしっかりしていればいいんだが。無理だろうね」
故ハドウェイ夫人の気に入りのフィオナとはどんな娘なのだろう。並々ならぬ関心を持ちながら、そんな素振りはチラとも見せず、弁護士は言葉を続けた。
「また、兄嫁や兄、兄嫁に押し切られた母上や軽い気持ちの父上が、あなた様に金の無心をするだろうと」
これにはフィオナは全面的に同意できた。さすがは大伯母。慧眼である。
「フィオナ様にしたところで、家族の手元不如意を望まれる訳ではないだろうが、ご家族はフィオナ様から貰えることを当たり前に思い始め、いずれ、思うほどもらえないと不満を募らせるに違いない。そのうち、感謝どころかつらく当たり始めるのが目に見えていると仰せられました」
歯に衣着せぬ大伯母らしい物言いである。そして、悲しいことながら、それは全くの真実だった。
フィオナは決意を固めた。
大伯母のいうことは正しい。
これまで何年も彼女は大伯母と付き合ってきた。彼女の言うことは経験に裏打ちされた正しい判断だった。
「黙っていますわ。決して誰にも話しません」
「そうですか」
地味でおとなしそうなフィオナの決断は少しばかり弁護士を驚かせた。
「大伯母さまからのプレゼントは、実はもう一つございます」
弁護士が合図すると、ドアが開いた。
特に母と義姉は、舌鋒鋭く何回かぐっさり言われたことがあるらしく、出来るだけ接触しないようにしていた。
だが、大伯母は金持ちだったらしい。
死んだ今となっては、言い返される危険性がないので、母も義姉も大っぴらに大伯母の悪口を言っていたが、遺産の行方には強い関心を抱いていた。
「明日朝、馬車の用意ができたら、ジョゼフィン伯母さんの遺言を聞きに行こう」
「お義父様、私もご一緒してよろしくって?」
伯爵の話など無視して夫のアンドルーとばかり話していたアレクサンドラが、急に態度を変えて伯爵に甘えるように尋ねる。遺産の内容が気になるのだろう。
「だめだよ、アレクサンドラ。お前は呼ばれていない」
フィオナは、ビクついた。仕切りたがりの義姉は、そっけない断り方をされて怒っているに違いない。
もし、フィオナに遺産が多めにいくとなったら、どんな仕打ちを受けるだろう。
もう、何ヶ月も前の話だ。
病床に臥せった大伯母は、亡くなる前に、フィオナを呼んで言った。
「あたしの財産は、全部、あんたの名義にしといたからね。そのことは、あんたの母親には内緒だよ。あんなに呑気な女もいないよ。人が良くてもあれじゃねえ……。チャールズが苦労するはずだよ」
ちなみに、チャールズとはフィオナの父の名前である。
「あんたは、まだ若い。お金は、成年になるか、あんたが結婚するまでお預けだ。それまでは手当てだけをあげるから、ドレスや化粧品に使いなさい」
大伯母は、フィオナのほっぺをつついた。
「泣くんじゃないよ。誰もが羨むいい男と愛し合って結婚するのが、一番いいんだろうけど、あんたを一番大事にしてくれる男と結婚するんだよ」
フィオナは半分しか聞いていなかった。大伯母の声が、あまりにも弱々しかったからだ。
「お金なんかいらない。ジョゼフィンおばさまに生きてて欲しい」
大伯母は苦しい息の下から、ほんのり微笑んだ。
「みんな順番だよ。だけど、あたしはあんたがかわいいんだよ。いいかい? 結婚だけが幸せじゃないけど、幸、不幸もダンナ次第だってのもほんとのことさ。あたしなんか、三回も結婚したんだから、あたしの言うことは確かなんだ」
それから数か月を経ずして大伯母は亡くなった。
そして今日、フィオナと父は、呼び出されて、大伯母の代理人、ゴードン弁護士の実利一点張りの狭苦しい事務所に並んで座らされていた。
ダーリントン伯爵ともあろう身が、市中の弁護士ごときに、こんなさえない事務所まで呼び出されたのは、はなはだ不本意だった。
だが、致し方ない。
大伯母は、かなりの資産を有していて子どもはいなかった。相続人は自分しかいないのだ。
今、目の前には、伯母の遺産がゆらゆらと揺れている。
伯爵は椅子に深く掛け直した。
「ジョゼフィン・ハドウェイ様は、この遺贈につきましては、完全なる秘密にしておきたいと仰せです。財産目当てのご親族からのさまざまなお申出を避けるためでございます」
伯爵は深くうなずいた。まことにもっともである。
伯爵の脳裏には、父の兄妹たちや従兄弟たちの顔が浮かんだ。
もっとも、伯母が警戒したのは、伯爵本人とフィオナの兄とその嫁だったのだが。
「ここに、ご遺贈の手紙がございます。読み上げろと言う御遺言でございまして」
父は、日ごろ仲の悪かった伯母の手紙の中身は、自分への叱責ではないかと怖れた。そんなもの、聞きたくもない。大叔母は毒舌で有名だった。だが、遺産がらみとなればやむを得なかった。
「聞こう」
『3万ルイは、甥チャールズとその娘フィオナに半分づつ遺贈する。この遺贈は、フィオナが幸せな結婚をした時か、成年に達した時発効する。それまでの間、フィオナには別途月々の手当てを付す。またチャールズは、フィオナに幸せな結婚をさせること。なお、この遺贈については、他言ならないこと』
「半分ずつ?」
予想していたより、だいぶ少ない額だった。だが、伯母の財務状況について具体的な話を聞いたことはなかったので、伯爵はそんなものなのかもしれないと思った。
だが、それより驚いたのは、フィオナと折半という点だった。
弁護士はうなずいた。
「ジョゼフィン・ハドウェイ様は、ご承知の通り、フィオナ様を可愛がられておられました」
渋々伯爵は同意した。それは知っている。
「全額、フィオナ様に相続させるおつもりでしたが、まだ、未成年でございますので、成年になられるか、フィオナ様が幸せな結婚をされるまで面倒を見られる父上に、半額、お預けになられたのです」
父親は娘の顔を見た。
伯爵は、娘が可愛くないわけではなかった。しかし、娘の社交界デビューは、正直、彼の手に余る。よい結婚をさせる自信はまったくない。
「その結婚が幸せかどうかは、誰が決めるのかね?」
「それにつきましては、後刻、説明させていただきます。
それでは、伯爵様は別室へどうぞ。これから、フィオナ様へ、ハドウェイ様から、生活諸般に関するご忠告が数多くございます。全文、お伝えせよと申しつかっております」
伯爵は、そそくさと立ち上がった。長くかかりそうだ。『幸せな結婚』をさせられなかった場合、遺産はどうなるのだろうか。彼の関心はこの一点のみだった。
生活諸般にわたる伯母の忠告など、聞きたくもなかった。生前、伯母には散々説教されたのである。もうたくさんだ。別室で、弁護士の秘書に茶菓でもてなされながら、待っていた方がマシである。これは伯爵夫人には内緒だが、ゴードン弁護士事務所の秘書はブロンド美人で伯爵の好みだった。
悲しそうな表情をした娘が残ったが、ゴードン弁護士は、父親のチャールズが部屋から出て行ったことを確認すると、彼女の目の前に紙を一枚出してきた。
そして、とても小さな声で、言った。
「先程の金額は父ダーリントン伯爵様への表向きの金額で、こちらが本当の金額でございます」
差し出された紙の数字を読んだフィオナは、あまりのことに言葉を失った。
3万ルイどころではない。その何十倍もの金額が書かれていたのだ。
「大伯母様は、このことは、必ず秘密にするようにと言い残されました」
フィオナは、弁護士の顔を見た。
「父上にも母上にも黙っていなくてはなりません」
「どうしてですか?」
「大伯母様は、財産のある娘だからと言い寄ってくる男はいくらでもいるだろう、でも、金目当ての男にロクな男はいない。今のあなたを、そのまま好きになってくれる男と結婚しなさいとおっしゃったのでございます」
その前の日、ゴードン弁護士は秘密にしろなどと若い娘に言っても無理ではないかと助手のウィリアムに言ったものだった。
ウィリアムは、そんな秘密が守れるものですかと言い切った。
「だって、贅沢したい年頃ですよ。ドレスだって欲しいし、アクセサリーだって欲しい。お金ならあるんです。たとえどれほどの価値の遺産なのか、本人には正確にわかっていなかったとしても」
その通り。フィオナに遺された遺産は文字通り莫大だった。
なんだって買えるのだ。欲しくても我慢していたもの。リボンやお菓子、ちょっとした髪飾り、新しい靴や羽のついた流行の帽子、それにドレスだ。それどころではない。目抜き通りにあるしゃれた3階建てのアパルトマンを丸ごと買いこんで、内装を全部好みのものに入れ替えて、夜な夜な贅沢なパーティを開けるくらいだ。
「この遺産相続の件が知れ渡れば、計算高いカネ目当ての男たちがどっと押し寄せるだろうよ。黙っておかないと不幸になる」
「でも、本人がしゃべってしまうでしょう。意地の悪い女友達に自慢されたり、社交界に出ても誰にも注目されなかったら……」
彼だって、年端のいかない娘がこんな莫大な額のお金を手にしたらどうなるか、不安だった。
「本人がしっかりしていればいいんだが。無理だろうね」
故ハドウェイ夫人の気に入りのフィオナとはどんな娘なのだろう。並々ならぬ関心を持ちながら、そんな素振りはチラとも見せず、弁護士は言葉を続けた。
「また、兄嫁や兄、兄嫁に押し切られた母上や軽い気持ちの父上が、あなた様に金の無心をするだろうと」
これにはフィオナは全面的に同意できた。さすがは大伯母。慧眼である。
「フィオナ様にしたところで、家族の手元不如意を望まれる訳ではないだろうが、ご家族はフィオナ様から貰えることを当たり前に思い始め、いずれ、思うほどもらえないと不満を募らせるに違いない。そのうち、感謝どころかつらく当たり始めるのが目に見えていると仰せられました」
歯に衣着せぬ大伯母らしい物言いである。そして、悲しいことながら、それは全くの真実だった。
フィオナは決意を固めた。
大伯母のいうことは正しい。
これまで何年も彼女は大伯母と付き合ってきた。彼女の言うことは経験に裏打ちされた正しい判断だった。
「黙っていますわ。決して誰にも話しません」
「そうですか」
地味でおとなしそうなフィオナの決断は少しばかり弁護士を驚かせた。
「大伯母さまからのプレゼントは、実はもう一つございます」
弁護士が合図すると、ドアが開いた。
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