【完結】貧乏伯爵令嬢は男性恐怖症。このままでは完全に行き遅れ。どうする

buchi

文字の大きさ
20 / 57

第20話 仮面舞踏会で密会

しおりを挟む
アレクサンドラの活躍で、伯爵とアンドルーは黙った。

とりあえず、一週間だけ待てと。

二人の男は知らなかったが、舞踏会が一週間後だったのだ。

「行ってきます」

少しだけ不安そうなマルゴットを残して、フィオナは馬車に乗り込んだ。




仮面舞踏会。

一応、仮面は付けている。知らない者同士と言う建前の、良く言えば自由な、悪く言えば奔放な舞踏会。

グレンフェル侯爵が仮面舞踏会に出てくるだなんて、今から思えば、大変な偶然だったのだ。

彼はそんな会に来るような人ではない。

そして、彼はその体格からすぐに誰だかばれてしまう。仮面舞踏会には不向きだった。

フィオナ自身は、そこまで知られた存在ではなかった。もっとも、グレンフェル侯爵が彼女とだけ踊ると言う形で社交界に挑んだおかげで、フィオナも社交界で相応に知られた存在になっていたが。


だが、会場に足を踏み入れ、なんとなくダンスフロアを見渡した途端、フィオナは、心臓が止まりそうになった。

なぜなら、一際目立つ大柄な男と素晴らしいドレスを着た粋な女性のカップルが目に入ったからだ。

そして、その二人がやたらに目についたのは、他の人々もそのカップルを見つめていたからだ。

『まさか……グレンフェル侯爵?』

あれほど背が高く、見惚れるような体格の男性はそういない。
それなら、一緒にダンスをしている女性は誰だろう。

「クリスチン嬢が今度はグレンフェル侯爵狙いか……」

どこかから小さな声で噂するのが聞こえた。

どうやって声をかけたらいいのかわからない。まさか、女の方からダンスを申し込むわけにもいかないし、そもそもあの中に入っていく度胸もなかった。

とりあえず、ほかの男からダンスを申し込まれるのを避けるため、最初の仮面舞踏会同様、今晩も壁の花目指して柱の陰に隠れた。
グレンフェル侯爵はどこへ行ったのだろう。ちょっと目を離したすきに彼はダンスフロアから消えていた。



「あら、失礼」

前と全く一緒だった。後ろにいた男性に突き当たりそうになってフィオナはあわてた。

「ここがお得意なんですね?」

口元が笑っているが、目元は完全に隠されて人相は全く分からない。でも、フィオナにはわかった。声を聞いた途端、心臓が反応したからだ。

「どうして、こんな場所を選んだのですか? 仮面舞踏会なんて」

聞き覚えのある、深くて低い声が尋ねた。

「家族に聞かれたくなくて……あなた一人とお話ししたくて」

「ここが適当かどうか、わからないけれど」

グレンフェル侯爵は、後ろにいた給仕に銀貨を渡した。給仕は心得たと言わんばかりにこっそり二人を狭い一室へ案内した。

「あの、ここは?」

給仕がどう見てもニヤリと笑って、灯り一つをテーブルに置いてドアを閉めた途端、フィオナは聞いた。
窓もない、小さな事務室みたいな部屋だった。

「えーと、ここは、こういう話がある人たちに使う部屋なんだよ」

侯爵とフィオナは、ほかに座るところがなかったので、一つだけおいてあるソファに並んで座った。

「防音室?」

「世の中、防音は大事だよね」

グレンフェル侯爵はちょっと困っている様子だったが、とにかく話を聞こうと言い出した。

「伯爵家に伺おうと思っていたのに。その方が正式だろう?」

「私、その前に聞きたいことがあって……」

「何を?」

フィオナは侯爵をじっと見つめた。
彼はとても心配そうな顔をしていた。いつもの冷たそうで傲慢にさえ見える顔と全然違う。
思わず、フィオナは笑いそうになった。みんな、誰も、この人のこんな表情を知らないのだわ。

「あなたのお家のこと。私が婚約したセシルはあなたではなかったのですね?」

侯爵はこの質問は覚悟していたようだった。

「セシルはセシルだよ。セシル・ルイス・アルバート」

「私の婚約者のセシルではないのね」

「……そう。セシル・ロバートではない」

「婚約者のセシルはどうして死んだのでしょう?」

セシルは長いこと黙っていた。

「誰かが君に何か言ったのだろうね」

その通りだった。沈黙がそのまま答えだった。

「誰かが、兄を殺したのは私だと告げ口したのだろう」

そんなことを聞きに行ってどうするのだ、とアレクサンドラは言った。

だが、フィオナは聞いておきたかった。
彼がどう説明するのか。

結婚して欲しいと言った男に聞く。あなたは殺人者なの?

「それは、婚約者を殺したかも知れない男とは結婚できないと言う意味?」

侯爵の目がフィオナを見つめる。

「わ、私は……あなたのことが知りたかったの」

そうだ。フィオナはセシルの口から、説明をしてほしかった。彼自身の話を聞きたかった。


「学校を出た後、僕は跡取り息子じゃなかったから、海軍に入った。勉強が嫌いだったから文官はなりたくなかった。このまま軍人として生きるつもりだった。ある日、知らせが来て兄が死んだと伝えて来るまでは……」

え?  自宅にいたわけではなかったの?


「その時、僕はインド洋上にいた。話を知ったのは一ヶ月後で葬儀にも間に合わなかった」

「それでは……」

「僕が殺したと言われていることは知っている」

グレンフェル侯爵は素っ気なく言った。フィオナは顔を赤くした。疑っていると思われている。

「当時、僕がどこにいるか知っている人なんかいなかったんじゃないかな。グレンフェル家は代々文官の血筋だ。軍に行くなんて、例外だ。誰もが、兄弟とも大学に行っていると信じていたろう」

「あの、あなたがお兄様が亡くなられた時、外国にいたのなら……」

「いかにも嘘くさい?」

「なぜ、そうおっしゃらなかったのですか?」

セシル・ルイスは黙った。

「僕が疑われた方がいいと思ったんだ」

「どうして?」

「それはね、僕なら、いつでも身の潔白を証明できるから。それに僕はずっと海にいたから噂で何を言われようと気にならなかった」

「そんなに軍の居心地がよかったのですか?」

「いやいや、そんなことはない。だが、何回か実戦に出ている。説明しにくいが、一緒に苦労してきた仲間は、仲間なんだ。尊敬できる上司もいたし、先輩も後輩もいた。世間の風なんて知ったこっちゃなかった。社交界なんか、気にもしていなかった」

ずっと、家の中だけにいて、学校にも行ったことのないフィオナは、しかし熱心に聞いていた。

「楽しそうに聞こえます」

「でも、最終的には辞めなくてはならなくなった。父は、僕に自分の地位を引き継がせたがった。兄が死んだせいで、僕は軍を辞めて兄の在籍していた学校に行かなくてはならなかった」

「学校はいかがでしたか?」

「つまらなかった。実に。すぐにやめてしまった。そのあと、学校で習ったことは有益だったと後悔したけれど。父が死んだので跡を継いで貴族院議員の席を占めたのだ」

「それで、どうなりましたの?」

「いや、こんなことばかりを話していても仕方ないけど、それが今の僕だ。ずっと走って来ただけだ。議員になると、社交界に出ないといけなくなった。妻も探さなくてはならない。母が言うんだ」

フィオナと同じではないか。

「でも、独身でいいと思っていた。無理にパーティに出て、誰かと一緒になって、その親戚と付き合い、いろんなこと考えると嫌になった。僕は不精なんだと思う」

結構、侯爵は真剣に話していた。

「独身を貫く変わり者の男もいないわけじゃない。それでも何とかやっていっている」

どんどん、話がずれて行くことを侯爵も気が付いていた。結婚しない理由を、結婚したい女性に説明してどうする。
そんなことを言いたいんじゃない。彼はため息をついた。口説くのがうまいとは、お世辞にも言えないだろう。

「昔からそうだった。君といると、余計なことばっかりしゃべっている。昔、セシルとのケンカの顛末をずっとずっと泣きながら説明してたことがあったよね」

フィオナはちょっとだけ覚えていた。泣いているルイスを一生懸命慰めていたことがある。なぜ泣いているのかわからなかったが。

侯爵は突然仮面を取った。
フィオナは、その顔に見とれた。整った目鼻立ちの彼が真横に座っている。仮面があれば冷静でいられるけれど、生で見つめられるともじもじしてしまう。

「あなたも外して欲しいな。顔が見たい」

フィオナは恥ずかしかった。だって、きっと、気持ちが顔に出ている。でも、この話は真剣勝負だった。ちゃんと向き合おう。

フィオナは自分も仮面を外した。
侯爵の方が反応したことに気が付いて、フィオナはビクンとした。
近すぎる。

「それで、聞きたかったことはそれだけ?」

「では、真犯人は誰なのですか?」

侯爵は苦しそうな顔になった。

「知らない」

「知らない?」

「わからない」

「調べようとはしなかったのですか?」

「調べてどうする? 結局、一緒だ。興味がなかった。兄は戻らない」

興味がない……そんなはずはなかった。

フィオナの心に誰かが付けた侯爵のあだ名が浮かび上がった。黒い侯爵。

「僕が犯人だと思われている方が気が楽だ」

侯爵はフィオナを見つめた。

「こんな話をしたいわけじゃなかった」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

処理中です...