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第9話 婚約者を思い出す
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そこまでは良かった。
しかし、あの事件以降、アーネストは少し沈んでいるように見受けられ、ジェラルドは心配だった。
ついつい、お世話をしてしまう。
「ジェラルド様。私がします。下級生バディは、私の方です」
声が暗い。
「ダメだ。お前、おっちょこちょいだから」
伯爵家の御曹司で成績優秀、サラリとした黒髪と光るような灰色の目の、近寄りがたい雰囲気のイケメンが、黒エプロンを巻いてコーヒーとトーストをサーブしている。
「俺は鍛練があるからもう行くけど、しっかり食えよ」
アーネストの部屋を出て、ジェラルドはふと気が付いた。
これまでアーネストがジェラルドの部屋に来ていたが、この頃はジェラルドがアーネストの部屋に行っている。
ジェラルドもアーネストも一人部屋だ。
ということは、アーネストは相当な家の息子だと言うことか。
騎士学校は、平民にも門戸を開いており、そのため学費は安かったが、寮となるとさまざまである。
全寮制は、学校がほぼ軍隊なのだから当然だが、さすがに貴族の御曹司などはいい部屋に住む。
ジェラルドは伯爵家の嫡男だから空いていた一人部屋に、当然のように入れられた。アーネストはあんな性格だから、どこに入れられても文句は言わなかっただろう。つまり自動的にあの部屋になったのだろう。
「よほど金持ちの子か」
アーネストの家名に記憶はなかったので、平民だろう。だが、ジェラルドのバディに付けられるくらいだから、平民でもいいところの息子なのかもしれなかった。
さもなくば、親が心配して一人部屋にしたのだろう。なにしろ、どう見ても騎士学校向きじゃない。
「この間は、ピーターソンをぶっ飛ばしたんだって?」
翌朝、授業に出ると、愉快そうにケビンが話しかけてきた。
「仕方なかった。後ろから襲い掛かってきたんだ」
ジェラルドは説明した。
別にピーターソンを悪者にしたって、かまわないと思う。そもそもは、アーネストが決闘なんか受けて立つのが間違っているんだが。
「アーネストをかばったんだって? お前、男色じゃないかともっぱら噂になっているぞ?」
ちょっとジェラルドは気まずい気分になった。自分はアーネストを、そう言う意味で好きなわけではない。
「違うよ。ただ、あのままだとアーネストが大ケガしそうだったんで。ピーターソンは嫌な奴だ」
それからジェラルドはいいことを思いついた。
「大体、俺には婚約者がいるぞ」
そう。なんだかんだですっかり忘れていたが、婚約者がいる。
お茶のお誘いもこないし、手紙一本送られてくるでもないので、見事に忘れていた。しかし、こういう時はとても便利だ。
うっかり母に感謝しそうになった。
「そう言えばそうだったね」
ケビンの返しに、ジェラルドはウンウンと激しくうなずく。
自分でも、どうしてアーネストの世話をするのか、ちょっと疑問だった。
まめな方だと思ったこともなかったのに、アーネストが真剣に悩んでいる様子を見ていると、ウロウロしてしまうのである。
もしかして、自分は本当に男色家というジャンルになるのだろうか。男色家ってどんな感じなんだっけ?
「しかも、平民女子の間では、ソレのせいでますます人気度がアップしているらしい」
「ソレのせいとは?」
ジェラルドは、眉間に皺を寄せて問いただした。よくない予感がする。
「男同士の愛というか。あの訳の分からなさは、俺には理解できない」
気持ち悪さで、ジェラルドは総毛立った。酷い誤解だ。
鍛練場に入った時、ジェラルドは、自分とアーネストが見つめ合っている柄のウチワを発見した。
背筋が寒くなった。断じてアレは違う。なんだ。キモチワルイ。
「あれを回収するわけには……?」
一緒に来たケビンに聞いてみた。
「所有権の問題がある。肖像権の問題に関しては、彼女たちの手作りなので、ジェラルド様とアーネスト様のお姿ではありませんと否定されたら、あの絵がお前とアーネストの絵だと証明しなくちゃいけなくなる」
よくわからないけど、それ、すごく嫌。
「彼女たちの意図を立証することはほぼ不可能だ」
プロではないのかと思えるほど、よく似ている絵もあった。ただし、お互いがお互いを、うっとりと熱く見つめ合っている場面だった。
「何の話か分からんが、禁止も回収もダメってこと?」
ケビンはうなずいた。
「絵がヘタクソなものも多いので、誰の顔のつもりかわからないのも多いし。ヘタでも彼女たちは嬉しいらしい。で、あいにくな話だが、書籍化されているらしいのだ」
「書籍化……とは?」
「本にして読んでる。妄想だな。なんか、二人が愛し合っているとか言う……」
もう、聞くのも嫌だったので、ジェラルドはダッシュでその場から逃げた。逃げながら、反省した。
これまで婚約者をなおざりにしてきて悪かった。
こういう時こそ婚約者!
母が、婚約者をつけてくれたのにも感謝、しかも合わなければ消滅というコースを残してくれたことにも感謝した。
ジェラルドは、母にお手紙を書いた。
「マリー・アメリー・アーネスティン嬢との交友をあまりにもなおざりにしてきたので、ご不興を買っているのではと心配です。一度、お目にかかるか、お手紙でも差し上げたいと思います」
前向きな自分に、母は大喜びするだろう。
しかし、あの事件以降、アーネストは少し沈んでいるように見受けられ、ジェラルドは心配だった。
ついつい、お世話をしてしまう。
「ジェラルド様。私がします。下級生バディは、私の方です」
声が暗い。
「ダメだ。お前、おっちょこちょいだから」
伯爵家の御曹司で成績優秀、サラリとした黒髪と光るような灰色の目の、近寄りがたい雰囲気のイケメンが、黒エプロンを巻いてコーヒーとトーストをサーブしている。
「俺は鍛練があるからもう行くけど、しっかり食えよ」
アーネストの部屋を出て、ジェラルドはふと気が付いた。
これまでアーネストがジェラルドの部屋に来ていたが、この頃はジェラルドがアーネストの部屋に行っている。
ジェラルドもアーネストも一人部屋だ。
ということは、アーネストは相当な家の息子だと言うことか。
騎士学校は、平民にも門戸を開いており、そのため学費は安かったが、寮となるとさまざまである。
全寮制は、学校がほぼ軍隊なのだから当然だが、さすがに貴族の御曹司などはいい部屋に住む。
ジェラルドは伯爵家の嫡男だから空いていた一人部屋に、当然のように入れられた。アーネストはあんな性格だから、どこに入れられても文句は言わなかっただろう。つまり自動的にあの部屋になったのだろう。
「よほど金持ちの子か」
アーネストの家名に記憶はなかったので、平民だろう。だが、ジェラルドのバディに付けられるくらいだから、平民でもいいところの息子なのかもしれなかった。
さもなくば、親が心配して一人部屋にしたのだろう。なにしろ、どう見ても騎士学校向きじゃない。
「この間は、ピーターソンをぶっ飛ばしたんだって?」
翌朝、授業に出ると、愉快そうにケビンが話しかけてきた。
「仕方なかった。後ろから襲い掛かってきたんだ」
ジェラルドは説明した。
別にピーターソンを悪者にしたって、かまわないと思う。そもそもは、アーネストが決闘なんか受けて立つのが間違っているんだが。
「アーネストをかばったんだって? お前、男色じゃないかともっぱら噂になっているぞ?」
ちょっとジェラルドは気まずい気分になった。自分はアーネストを、そう言う意味で好きなわけではない。
「違うよ。ただ、あのままだとアーネストが大ケガしそうだったんで。ピーターソンは嫌な奴だ」
それからジェラルドはいいことを思いついた。
「大体、俺には婚約者がいるぞ」
そう。なんだかんだですっかり忘れていたが、婚約者がいる。
お茶のお誘いもこないし、手紙一本送られてくるでもないので、見事に忘れていた。しかし、こういう時はとても便利だ。
うっかり母に感謝しそうになった。
「そう言えばそうだったね」
ケビンの返しに、ジェラルドはウンウンと激しくうなずく。
自分でも、どうしてアーネストの世話をするのか、ちょっと疑問だった。
まめな方だと思ったこともなかったのに、アーネストが真剣に悩んでいる様子を見ていると、ウロウロしてしまうのである。
もしかして、自分は本当に男色家というジャンルになるのだろうか。男色家ってどんな感じなんだっけ?
「しかも、平民女子の間では、ソレのせいでますます人気度がアップしているらしい」
「ソレのせいとは?」
ジェラルドは、眉間に皺を寄せて問いただした。よくない予感がする。
「男同士の愛というか。あの訳の分からなさは、俺には理解できない」
気持ち悪さで、ジェラルドは総毛立った。酷い誤解だ。
鍛練場に入った時、ジェラルドは、自分とアーネストが見つめ合っている柄のウチワを発見した。
背筋が寒くなった。断じてアレは違う。なんだ。キモチワルイ。
「あれを回収するわけには……?」
一緒に来たケビンに聞いてみた。
「所有権の問題がある。肖像権の問題に関しては、彼女たちの手作りなので、ジェラルド様とアーネスト様のお姿ではありませんと否定されたら、あの絵がお前とアーネストの絵だと証明しなくちゃいけなくなる」
よくわからないけど、それ、すごく嫌。
「彼女たちの意図を立証することはほぼ不可能だ」
プロではないのかと思えるほど、よく似ている絵もあった。ただし、お互いがお互いを、うっとりと熱く見つめ合っている場面だった。
「何の話か分からんが、禁止も回収もダメってこと?」
ケビンはうなずいた。
「絵がヘタクソなものも多いので、誰の顔のつもりかわからないのも多いし。ヘタでも彼女たちは嬉しいらしい。で、あいにくな話だが、書籍化されているらしいのだ」
「書籍化……とは?」
「本にして読んでる。妄想だな。なんか、二人が愛し合っているとか言う……」
もう、聞くのも嫌だったので、ジェラルドはダッシュでその場から逃げた。逃げながら、反省した。
これまで婚約者をなおざりにしてきて悪かった。
こういう時こそ婚約者!
母が、婚約者をつけてくれたのにも感謝、しかも合わなければ消滅というコースを残してくれたことにも感謝した。
ジェラルドは、母にお手紙を書いた。
「マリー・アメリー・アーネスティン嬢との交友をあまりにもなおざりにしてきたので、ご不興を買っているのではと心配です。一度、お目にかかるか、お手紙でも差し上げたいと思います」
前向きな自分に、母は大喜びするだろう。
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