90 / 100
第90話 着々と進む
そして、ハミルトン家の豪勢な館に現れたのは、パース公爵夫人だった。
国王陛下からの正式な結婚申し込み文書を持参した侍従のお付きという形で現れたのだ。
ハミルトン家の王都の屋敷は、どこの公爵家にも負けないくらい豪華だ。
屋敷は贅を尽くしていても、それでも、家格の差というものはある。
パース公爵夫人が現れたことでハンナの心臓はキュッとなった。
これまで、ハンナの上に立ち、当然のように指示をしてきた人。
その人が、今、ハンナの前に頭をたれている。
王子殿下の妃殿下。
ハンナは、わかっていたこととはいえ、これからのことを思うと緊張した。
殿下は田舎で暮らすから、緊張するような場面はないと断言していた。
そんなことはないと思う。パース夫人ににらまれたら、ハンナなんか蛇ににらまれた蛙だ。
「本当にようございました」
パース夫人は極めて柔和な笑顔だった。
「ハミルトン伯爵令嬢に決まられて」
へ?
ハンナは拍子抜けして沈黙した。本気かしら?
「人にはそれぞれ向き不向きがございます」
ハンナは心の中で必死にうなずいた。ハンナに王子妃殿下なんか無理だ。
「ピッタリの人材でございます」
ハンナは、世の中が十五度くらい傾いた気がした。
「でしゃばることなく控え目で気配り目配りが利く、本当に安心できる令嬢でした。その上、殿下がメロメロです」
そう言われると顔が赤らんだ。
「それでは、本日は王子妃にふさわしいドレスを選んで持ってまいりました」
は?
「来週、パーティにでられるのでしょう?」
来週でしたっけ? 殿下の過去話に夢中になってしまっていたわ。
「具体的な日取りを聞いていないのですが」
「来週の火曜日でございますわ」
何でもないことのようにパース夫人は答えたが、服がない!
「ど、どちらのお宅でのパーティなのでしょうか?」
「まず、こちらをお試しになって」
パース夫人の後ろから針子軍団がぞろぞろ現れた。いつだったか、殿下とデートをするときに、色々な衣装を出してきてくれた人たちだ。見覚えがある。
「これまでも、ずっと王子妃にふさわしい衣装を選んで作ってましたのよ」
最後に顔をのぞかせたのは、間違いなくデザイナーのハドソンさん!
「今回は、婚約発表のドレスということですから……清楚なものを持参いたしました!」
「どうしても、王子妃ということで、豪華めで威圧感のあるドレスを作ってしまいましたからねえ」
なんだか聞き捨てならない発言が、当たり前のようにゾロゾロと発せられているけども!
彼女たちは、あちこち動き回って、ハンナに、空色と青で花の刺繍が施されたドレスを着せつけた。
「とてもきれいですわ」
パース夫人は満足した様子だった。
「最初のお目見えですわね。堂々と王子妃らしく振る舞ってくださいませ」
この言葉を安易に信じていいのだろうか?
国王陛下からの正式な結婚申し込み文書を持参した侍従のお付きという形で現れたのだ。
ハミルトン家の王都の屋敷は、どこの公爵家にも負けないくらい豪華だ。
屋敷は贅を尽くしていても、それでも、家格の差というものはある。
パース公爵夫人が現れたことでハンナの心臓はキュッとなった。
これまで、ハンナの上に立ち、当然のように指示をしてきた人。
その人が、今、ハンナの前に頭をたれている。
王子殿下の妃殿下。
ハンナは、わかっていたこととはいえ、これからのことを思うと緊張した。
殿下は田舎で暮らすから、緊張するような場面はないと断言していた。
そんなことはないと思う。パース夫人ににらまれたら、ハンナなんか蛇ににらまれた蛙だ。
「本当にようございました」
パース夫人は極めて柔和な笑顔だった。
「ハミルトン伯爵令嬢に決まられて」
へ?
ハンナは拍子抜けして沈黙した。本気かしら?
「人にはそれぞれ向き不向きがございます」
ハンナは心の中で必死にうなずいた。ハンナに王子妃殿下なんか無理だ。
「ピッタリの人材でございます」
ハンナは、世の中が十五度くらい傾いた気がした。
「でしゃばることなく控え目で気配り目配りが利く、本当に安心できる令嬢でした。その上、殿下がメロメロです」
そう言われると顔が赤らんだ。
「それでは、本日は王子妃にふさわしいドレスを選んで持ってまいりました」
は?
「来週、パーティにでられるのでしょう?」
来週でしたっけ? 殿下の過去話に夢中になってしまっていたわ。
「具体的な日取りを聞いていないのですが」
「来週の火曜日でございますわ」
何でもないことのようにパース夫人は答えたが、服がない!
「ど、どちらのお宅でのパーティなのでしょうか?」
「まず、こちらをお試しになって」
パース夫人の後ろから針子軍団がぞろぞろ現れた。いつだったか、殿下とデートをするときに、色々な衣装を出してきてくれた人たちだ。見覚えがある。
「これまでも、ずっと王子妃にふさわしい衣装を選んで作ってましたのよ」
最後に顔をのぞかせたのは、間違いなくデザイナーのハドソンさん!
「今回は、婚約発表のドレスということですから……清楚なものを持参いたしました!」
「どうしても、王子妃ということで、豪華めで威圧感のあるドレスを作ってしまいましたからねえ」
なんだか聞き捨てならない発言が、当たり前のようにゾロゾロと発せられているけども!
彼女たちは、あちこち動き回って、ハンナに、空色と青で花の刺繍が施されたドレスを着せつけた。
「とてもきれいですわ」
パース夫人は満足した様子だった。
「最初のお目見えですわね。堂々と王子妃らしく振る舞ってくださいませ」
この言葉を安易に信じていいのだろうか?
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~
遠野エン
恋愛
王太子から理不尽な婚約破棄を突きつけられた伯爵令嬢ルティア。聖女であるライバルの策略で「悪女」の烙印を押され、すべてを奪われた彼女が追放された先は荒れ果てた「廃墟の街」。人生のどん底――かと思いきや、ルティアは不敵に微笑んだ。
「問題が山積み? つまり、改善の余地(チャンス)しかありませんわ!」
彼女には前世で凄腕【経営コンサルタント】だった知識が眠っていた。
瓦礫を資材に変えてインフラ整備、ゴロツキたちを警備隊として雇用、嫌われ者のキノコや雑草(?)を名物料理「キノコスープ」や「うどん」に変えて大ヒット!
彼女の手腕によって、死んだ街は瞬く間に大陸随一の活気あふれる自由交易都市へと変貌を遂げる!
その姿に、当初彼女を蔑んでいた冷酷伯爵シオンの心も次第に溶かされていき…。
一方、ルティアを追放した王国は経済が破綻し、崩壊寸前。焦った元婚約者の王太子がやってくるが、幸せな市民と最愛の伯爵に守られた彼女にもう死角なんてない――――。
知恵と才覚で運命を切り拓く、痛快逆転サクセス&シンデレラストーリー、ここに開幕!
婚約者を妹に取られた私、幼馴染の〝氷の王子様〟に溺愛される日々
佐藤 美奈
恋愛
エリーゼ・ダグラス公爵家の令嬢は、フレックス・グリムベルク王子と婚約していた。二人の結婚は間近に迫り、すべてが順調に進んでいると思われた。しかし、その幸せは突然崩れ去る。妹のユリア・ダグラスが、フレックスの心を奪ってしまったのだ。婚約破棄の知らせが届くとき、エリーゼは絶望に打ちひしがれた。
「なぜ?」心の中で何度も繰り返した問いに、答えは見つからない。妹に取られたという嫉妬と、深い傷を負ったエリーゼが孤独に沈んでいた。そのとき、カイル・グリムベルク王子が現れる。
彼はエリーゼにとって、唯一の支えであり安らぎの源だった。学園で『氷の王子様』と呼ばれ、その冷徹な態度で周囲を震えさせているが、エリーゼには、その冷徹さとは対照的に、昔から変わらぬ温かい心で接してくれていた。
実は、エリーゼはフレックスとの婚約に苦しんでいた。彼は妹のユリアに似た我儘で気まぐれな性格で、内心では別れを望んでいた。しかし、それを言い出せなかった。
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。
厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです
あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。
社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。
辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。
冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。
けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。
そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ自分の居場所を取り戻していく。
静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。
【追記】無事完結できました。ありがとうございました。
夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!
佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。
「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」
冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。
さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。
優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。