グラクイ狩り〜真実の愛ってどこに転がってますか〜

buchi

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第12話 グラクイが押し寄せる

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 ジェレミーからの通信が入ってきた。

『本城のほうから、大群接近』

「どこへ?」

『この前,大軍を処理した地域を目指しているように見えます』

「どれくらいの数だ?」

 中佐が怒鳴った。通信経由なので、怒鳴っても一緒なのに。

『数百から千』

 



「ジェレミー」

 呼びかけたのはバルク少佐だった。

「あいている戦闘員に光爆弾をありったけ持ってこさせろ。今すぐだ。糧食とテント、ここにいる全員分の武器もだ」

 ジェレミーが一瞬黙った。それから彼は尋ねた。

『少佐……戦うつもりですか?』

 少佐は特に興奮した様子も無かった。

「やつらがここへ来るということは、彼らにとって、それだけのリスクを背負う値打ちがある何かが、ここに残っていると言う意味だ。死体か、卵か。
 だとすれば、渡してはならない。今、ここを離れたら、戦闘はおそらくずっと長引く」


 私の糧食は、またもや全員に食べられてしまう羽目になった。

「すまないね、少尉。いつもいつも」

 バルク少佐は言った。

 中佐は帰らされてしまっていた。

「邪魔だ」

 と少佐はコメントした。


 オスカー以下のブルーの連中は、荷物で死にそうになって後からやってきた。

 正確に言うと、荷物を持ってきたのは非戦闘員たちなのだが、オスカーたちは別な地区にすでに派遣されていたものを基地へ呼び戻されて、武器だとかテントだとかがさっぱりわからない非戦闘員たちの先頭に立って、必要物資の選択をさせられたのだ。
 レッドの隊は、すでにここへ着いていたので、彼らの分の物資も持参せねばならず、大量になったので、選んだりするだけでも結構大変だったらしい。

「行くぞ」

 バルク少佐は指示を出した。

「ライフル隊は最前線へ。レーザーではなく、火器を使い、やつらを少しでもグラクイの死体から遠ざけろ。リーダーは、ノルライド少尉」

 黙って前へ出た。

「後は、ギル、オスカー、ベック、シン、ケムシア、バホイ、ジャクスン」

 妥当な選択だ。ベストメンバーだ。

 次に少佐は光爆弾の設置部隊を指名した。

「いいか。ライフル隊は、射程の長い銃でやつらを押し戻す。死体の散乱するエリアには、侵入させるな。
 だが、深追いするな。ラインをキープして密集させるんだ。その間に爆弾部隊は光ボムを設置し、一斉発射する。
 ノックダウンさせたらこっちのものだ。
 きちんと連絡を取って、非戦闘員や他の者が光ボムで目をやられることに無いように気をつけるんだ。俺は、光爆弾を指揮する。
 お前らはやつらを押し戻せ。急げ。走れ」

 やつらの侵入を防げばいいだけだ。大人のグラクイはレーザーガンを使うが、ライフルの方がはるかに射程は長かった。

 八人は、武器も持たない小さな赤い点を、殺す手間もかけずに蹴散らして、灰色の野原を走った。たいした距離ではない。もうすぐそこにグラクイは来ている。

 急がないと、彼らはどんどん死体のあるエリアへ侵入してきてしまう。

 まず、射程が届く範囲に出来るだけ早く到達して、撃ち殺す。ひるませて引かせるが、後から後からグラクイは押し寄せている。

 足止めを食らわせ、密集地帯を作り、そこへ光ボムを撃ち込む。そのあとは……気を失った連中を殺戮するだけだ。効率的と言うやつだ。

 火器を抱えて走るのは、正直しんどい。4キロでも実はこたえる。ギルが真横を走って、時々私を見ていた。むかつく。

 私は遅れるに決まっている。体力が無いのだ。ギルはそのことを知っている。しまいに彼は私の銃を取り上げて走り出した。

「ギルッ!」

 ヤツは無視しやがった。確かにギルは体が大きくて、筋肉質だ。重量級のくせに走らせても早い。4キロくらい彼にとってはたかが知れている。

 私たちの後ろは、光爆弾を抱えた部隊が続く。

「止まれッ」

 私が怒鳴った。

 赤い点は、どんどんこちらへ侵食してきていた。

 銃を取り戻すと、すぐに寝転んで設置した。もっと高性能の機関銃を使いたいところだが、どこの倉庫にも見当たらないところを見ると、機関銃の使用は、たぶん、禁止されているのだろう。

 みな戸惑っていた。この距離では当たらないと思っているのだ。

 スコープをのぞき目を凝らす。周りの観客のことは忘れた。弾が届く限りの隅から連射する。風も無い。

 端から、きれいに当てていく。何も無い灰色の空に音が響き、銃から煙が上がる。三〇発全部撃った。空の端に黄色い液体をまとわりつかせた黒い頭が飛ぶのが見える。

「首飛ばしか……」

 誰かが、ため息のような声でつぶやくのが聞こえた。後ろから迫ってきた爆弾組が、この有様に仰天しているのがわかった。黒い頭が乱舞しているのが見えたのだ。

「よし、ひるんだぞ。もっと距離を押し戻せる」

 私は、もう見栄は張らず、熱い銃をギルに渡した。自分は足だけを持つことにした。情けないが仕方ない。重量物の持ちすぎで、腕が震えるようでは当たらなくなる。

 オスカーがにやりとした。私のスタンドプレーを笑っているのだ。

 それからは、射程範囲までくると、全員で撃ちまくった。距離がありすぎると、命中率が落ちる。だが、いつだって私の弾だけは命中した。全部が当たらなくても、どの弾が当たるかわからないから、弾が届く範囲から彼らは退却せざるを得ない。死体がなくなる端のところまで、みんなで交代で撃って、押して押して、敵を退却させた。

『ノルライド、行き過ぎだ。調子に乗るな、そこでいい。少し、退却して彼らをひきつけろ』

 少佐の指令が飛んだ。

『ボムのセットが終了した。カウントを始める。すぐに目を覆え』

 全員、すぐに指示に従った。単にまぶしいだけだが、まずくすると目をやられる。
 照明弾みたいなものだが、やつらにとっては致命的らしい。必ず気絶する。

『……3、2、1、0』

 この前の比ではない。あるだけの光爆弾を一斉に爆発させたのだ。目隠しをしていても、周囲が明るくなるのがわかった。

『目隠しをはずしてよし』

 はずさなくてもわかっていた。成功だ。

 目の届く範囲内のやつらは全員倒れていた。

 後ろを振り返ると、バルク少佐がかなり離れたところにいるのが見えた。GPSで続々と人々がやってきていた。彼は、握手しながら無線機に向かってなにかしゃべっている。

『ノルライド、君は手順を知っている。今すぐ、パレット中佐の部隊が来るから、彼らに手順を教えてやってくれ。
 そっちのはじから、本城と反対側へ向かって、卵と死体の処理を行っていく。
 同時にブラックの連中を君につける。ブラック隊以外の諸君は、自分の部隊に戻りたまえ。ご苦労だった』

 ブラックの連中は、すぐにやってきた。光爆弾と糧食とテントを持参してきていた。ベックはブラック隊だったので、彼らと合流した。ナオハラとゼミー、シェリもやってきた。

 私は隊長のロウ曹長と握手した。彼は猛烈に張り切っていた。さっきまでのげんなりした様子とは大違いだった。

「ハロー、少尉。後部から見てましたよ。頭飛ばすの。めちゃくちゃだ。人間業じゃない」

 彼は興奮気味に賞賛した。

「ありがとう。ところで、光爆弾はどうしてここにあるのかな?」

「持ってけと言われたんですよ。予備だろうな。そのほか糧食一週間分もね。一週間の作戦のつもりなんじゃないかな」

 ロウ曹長は昇進したてで、まだずいぶん若いはずなのに、赤毛の頭が薄くなりかかっていた。背が高く、ひょろりとした、そばかすだらけの男だった。

『ノッチ、ロウ、作戦を説明するから聞いてくれ』

 ジェレミーから連絡が入った。

『しばらくは総力戦になる。休暇に入っていた部隊も召集した。指揮はタマラ少将が執る。
 まず、先週殺した連中の死体を回収する。君たちが、今日、気絶させた連中は、休暇部隊が止めを刺し、その後、同様に回収する。回収は非戦闘部隊が行う。

 君たちの任務は、作業を邪魔されないよう、グラクイの次の襲撃を食い止めることだ。つまり』

 ジェレミーは少し間を空けた。

『護衛部隊だ。最前線て訳だ。慎重さが要求される。昼夜交代で見張りにあたれるよう、2チームづつの配置だ。がんばれ。以上』

「OK、ジェレミー」

 まあ、いい。一人仕事じゃないが、最前線だ。そいでもって誰も死ぬはずも無い。仕事が効果的で、サクサク進むのは悪くない。

「ロウ、じゃあ、ひとつ取り掛かりますか? 作戦部は、あの死体を片付けるのに一週間かかると踏んでいるわけだ」

「大歓迎だ、少尉。あそこで袋を持って腰をかがめてうろうろしているところを想像したらやりきれねぇ。俺たち、得したぜ」

 ロウは、銃を片手にうれしそうに笑って見せた。ブラック隊は総勢六人。知ってる限りでは、うちの連中とほぼ同じくらいの年回りのはずだ。

 我々二人は、交代の打ち合わせや、ベースの設営にかかり、そのあと一緒に飯を食った。

「ゼミー、こんなのしかなかったの?」

 鯖のトマト煮と、鰯と豆の煮込み、それからツナのサラダ、鳥のささ身のグラタンを眺めながら、私は顔をしかめた。糧食の選択をしたのは、ブルー隊なのだ。

「仕方が無かったんですよ。豚とか牛が売り切れで。ありったけの糧食を持ち出したんです」

 シェリが文句を言った。

「これならありますよ」

 彼女は開けたアルミパックを私の鼻先に持ってきた。レバーのペーストだった。大嫌いなのに。私の嫌そうな顔を見て、ブラックまで笑っていた。

 ブラックの連中も野菜の煮物には、がっかりしたようだったが、確かに倉庫にあるもの全部を出してこなければ、間に合わなかったに違いない。

 灰色の草原のかなたに夕陽が沈んでいく。こうやって見ていると、地平線との間で、輪郭も定かならぬ太陽は緑色に燃えているようにも見えた。全員が、その奇妙な夕陽を目で追っていた。

「よし、交代しよう。俺たちの番だ」

 ロウが言った。
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