18 / 86
第18話 私、モテてたんですか? 鈍感で悪かったな
しおりを挟む
翌朝、これしきのことで二日酔いになる私ではない……と大見得を切りたいところだったが、頭痛がした。
まあ、仕方が無いな。
しおしおとシャワーに入り、服を清潔なものに着替え、しぶしぶ朝食をとった。
それから、少し考えた。
ライフル撃ちを止めるわけにはいかない。
競技会の成績が悪くても、実戦では十分な成績を上げている。
でも、評価はされない。
確かに少しさびしいような気もするが、今までだって、たった一人でこうやって来た。成果は上がっている。結果は嘘をつかないのだから。
ドアを開けて外へ出て、基地へ行く。
また、あの荒野に一人で立つ。オレンジ色の太陽とくぐもったような夜空。糧食は何がいいかな? 一人で味わう煮しめたような紅茶の味。
早く行かないと、また、ろくな糧食が残っていないに違いない。魚だの鶏だのはいやだ。あとで時間が出来たら、射撃場へ遊びに行って、思う存分撃ちまくってやろう。
基地へ出勤すると、ジェレミーがさっと振り返った。マイカがにっこりしてくれた。
「おはよう」
オスカーがうれしそうで、ナオハラがにやついていた。昨日、そういや裸踊りしていたな。ナオハラは二日酔いじゃないのかな。
「また、一週間だよね? それとも、前の作戦の続きだっけ?」
「一応、一週間分の装備。この前のグラクイ大出現は、後始末が大変過ぎた。もう二度とやりたくないよ。いつもと同じメニューに戻す」
「よし。まず、糧食の確保だ。この間は2回連続で食べられちゃったからな」
「……食い物の話好きだな……」
「うん」
倉庫へ入り込んで、せっせと糧食を漁り始めた。鶏も部位によっては悪くないが、ササミのサラダなんかいやだ。
「ノッチ、夕べはギルと一緒だったそうだな?」
オスカーが、ふらりと倉庫にやってきた。
「あー、そうそう。ハンスの店でね。ナオハラがテーブルの上で裸で踊っていたよ」
「えっ? なんだ、それ。まずいんじゃないか」
オスカーは、全裸を想像したらしかった。それは違う。
「ハンスが『スナイパー隊と飲もう』って言う会を月一回やってるそうだ。知ってた?」
「うん。行ったことは無いけどね。おれはスナイパーじゃないし」
「ナオハラだって、スナイパーじゃないさ。鉢合わせしたんだ。十パーセント引きだとか言ってたけど。猛烈に飲んでたよ」
オスカーは、そんな与太話より私のほうに関心があったらしい。まじまじと見据えた上で、慎重に、でも、さりげなく聞いた。
「あんた、ギルと一緒に帰ったって? 酔っ払って」
「めっちゃ酔っぱらってた。確かに。飲みたい気分だったんだよ」
私は夕べのことを思い出して、少し嫌な顔をした。ギルのことじゃない。その前のことだ。
「じゃあ、ギルと付き合う気になったのかい? ナオハラが言ってたけど……」
「は? 何の話?」
私は、糧食から目を離して、オスカーの顔を見た。
「昨日、ハンスの店では、ギルが君の隣に腰掛けた時から、みんなが固唾を飲んでいたそうだ。ギルが、あんたに、べた惚れなのはみんな知ってるし、みんなギルのことをいいヤツだと思っているし、うまくいけばと祈るような気持ちだったらしい」
思いがけない展開だった。
「べたぼれ? 全然、知らない。誰かほかの人の間違いじゃない?」
オスカーがため息交じりに言った。
「いいえ。違います。あんたのことです。良くある話だろ、入隊しました、先輩にきれいなお姉さんがいました……」
オスカーの顔をまじまじと見つめた。うそを言っているわけではないらしい。
きれいなお姉さん……なんか、イメージが違うと思うが。ギルの目は大丈夫なんだろうか。
夕べの店の様子を思い出した。
「じゃあ、妙にシーンとしていたのは……あと、出て行ったら、急に歓声が起こってたのは……」
「そう。うまくいったので、みんな大喜び」
「うまくいったって、どういう意味?」
オスカーが困ったような顔をしていた。
「うーん、おれもあんたが付き合いましょうって、OKするとは思えなかった。」
恐ろしい誤解も世の中にはあったものだ。
「おかしくないか? それ。考えてもみろ。ギルは二三、私が三十近く。ずいぶん年が離れている。ギルが私を好きだって? みんなが本気でそういう勘違いをしてるのか? そういう場合って、私が悪者になるのか? 一緒に帰らなきゃよかったよ。みんなにそう思われているだなんて、ギルが気の毒だ」
「あのな、どこを勘違いしてると言ってるのかがわからんが、少なくとも、ギルは本気だ。一緒に帰ったくらいで、カップル成立とはギルは考えないだろうけど」
私はかなり困った。
「オスカー、誰からもそんな話は聞いてもいない。少なくとも私は知らない。ギルは本気なのかな?」
「知らないと言い切られても……。そりゃ誰も教えてくれないだろう。だけど、全然、感じ取れもしなかったというのかい?」
「全然、知らん。大体、本人も何も言ってない。ガセじゃない?」
「ていうか、あんた、それ、ひどくないか? まあ、元々他人に関心がないとは思っていたけど。ちょっとは、気づいてやれよ」
「うーん、なんか、夕べ、ハンスが妙なこと言ってたような。その話だったのか。でも、周りにカップル成立と思われていたら、それだけでギルは傷つく。気の毒だよ。いいやつなのに」
「困った話だ……あんた、ちょっと……鈍感なんじゃ」
オスカーは、途方にくれたらしかった。私は、まだ三日分しか集めていない糧食を眺めて考えた。
「知らん振りして過ごすしかないよ。一回くらい一緒に帰ったくらいでなんなんだ」
「あんた、誰とも一緒に帰ったりしないだろ。少しは人と付き合ったらどうなんだ」
いや、昨日はちょっと、事情があって……でも、説明はめんどくさかった。
オスカーもジェレミーも、とても仲が良かった。仕事の上での話だが。
ギルだって同じだ。
三人とも、荒野に出ても、あるいはほかに倉庫の片づけをしたり、いろんな記録や請求書の申告をしたり、銃の手入れをしたり、とにかく何をするにも、要領を得ていて、他人に手間をかけさせない、そして協力しあえるいい関係だった。
冗談も愚痴も言えるし、たまに食事を付き合うことだってあったし、飲みに行くこともあった。
確かにギルは優しかった。
なんというか、果てしない優しさだった。
それは、たとえば、オスカーやジェレミーには頼まないことを頼めるような優しさだった。
どんな無理でも喜んで聞いてくれそうだった。例えば、私的なことなんかでも……家具が重すぎて、動かせないとか……ワインを買い込み過ぎて運べなくなったから一緒に運んで……って、どこのアホ女だ。自分で運べ。さもなくば、手配してから買え。どんだけ飲む気だ。
ええと、ワインだったらOKか。一緒に宅飲みしましょうと言う暗号で、これは頼んでもいいかな? でも、化粧水の大びんが安かったから買っちゃったけど荷物多すぎで運べない、こっちのはNGでふざけんなって言われるレベル?
いや待て。この事例集は、全部、彼氏かそれに近い男の取説で、ギルは違う……
そこまで考えて、崖っぷちをのぞき込んだ気がした。
ダメじゃないか、私。
無理を頼んだことはなかった。仕事仲間の線を越えたことなんか無論ない。
でも、何でも喜んで聞いてくれそうだということには気が付いていたのに、それがどうしてなのかには頭が回ってなかった。
確かに、噂だけではないかもしれない……。
いや、違う。噂ではないそうだ。今、オスカーがそう言った。
さっき、オスカーが言いかけたのは、「あんた、ちょっと鈍感過ぎない?」みたいなセリフなんだろう。
人と付き合いたくないというのは、こういう深読みがものすごく手間だからだ。
誰かが倉庫をのぞき込んで、バルク少佐が呼んでいると声をかけた。
急に冷却された気がした。バルク少佐には悪い予感しかしない。
ジェレミーの席に着くと、バルク少佐は、顎で座れといすを指し示した。
やっぱり機嫌がよさそうではなかった。何を頼んでも、聞いてくれそうもない。
「夕べ、もう少し、自己推薦してほしかった」
少佐は疲れた様子で文句を言った。
「お任せくださいの一言くらい言えないのか、君は」
「どんな仕事だかわかりませんが、百パーセント確実は無いと思いました」
「百パーセント確実は、誰にも無い。
野外で七百メートルを一発でも当てられたのは君だけだった。だから、君が、最も私たちが希望しているスナイパーに近い。
君は五発を全部当てた。ほかに選択の余地は無い」
私はだいぶ当惑した。事情を知らないので、どう振る舞えばいいかわからなかったのだ。
「少将は、もう少し人を当たれといわれた。民間のスナイパーをという意見だった。無理だ」
「無理ですか」
「ダメだ。軍の中で処理してしまいたい。民間人に何が出来る。機密の保持が全く出来ない。民間が優秀で軍がダメだという考え方は間違っている。少将は文官出身なんだ。それに時間がもう無い」
事情がわからない私は黙っていた。それを察してか、少佐は、言葉を続けた。
「とにかく、少尉には待機を命ずる。動くな。夜は寝て、昼間、起きておけ。いつ徴集がかかるかわからない」
「あの、いつもの作戦のほうは?」
「行くな。君は、リストから外れたわけじゃないんだ。出動するなら、昼間だ。昼夜逆転する作戦の参加はもってのほかだ。体調に万全を期しておけ。チームはオスカーに任せとけ」
それから、彼は付け加えた。
「大体、酒臭いぞ。そんなに飲むくらいなら、自己推薦の練習でもしとけ。君よりずっと腕の無い連中の大言壮語を聞かせてやりたいくらいだ」
ジェレミーとマイカが、遠巻きにしていた。
「ジェレミー!」
少佐が大声で呼ばわった。
「ノルライド少尉を荒野には出すな。待機させろ。後は頼む」
ジェレミーとマイカ、オスカーを始めとしたバルク隊の連中は、目を丸くしていた。
まあ、仕方が無いな。
しおしおとシャワーに入り、服を清潔なものに着替え、しぶしぶ朝食をとった。
それから、少し考えた。
ライフル撃ちを止めるわけにはいかない。
競技会の成績が悪くても、実戦では十分な成績を上げている。
でも、評価はされない。
確かに少しさびしいような気もするが、今までだって、たった一人でこうやって来た。成果は上がっている。結果は嘘をつかないのだから。
ドアを開けて外へ出て、基地へ行く。
また、あの荒野に一人で立つ。オレンジ色の太陽とくぐもったような夜空。糧食は何がいいかな? 一人で味わう煮しめたような紅茶の味。
早く行かないと、また、ろくな糧食が残っていないに違いない。魚だの鶏だのはいやだ。あとで時間が出来たら、射撃場へ遊びに行って、思う存分撃ちまくってやろう。
基地へ出勤すると、ジェレミーがさっと振り返った。マイカがにっこりしてくれた。
「おはよう」
オスカーがうれしそうで、ナオハラがにやついていた。昨日、そういや裸踊りしていたな。ナオハラは二日酔いじゃないのかな。
「また、一週間だよね? それとも、前の作戦の続きだっけ?」
「一応、一週間分の装備。この前のグラクイ大出現は、後始末が大変過ぎた。もう二度とやりたくないよ。いつもと同じメニューに戻す」
「よし。まず、糧食の確保だ。この間は2回連続で食べられちゃったからな」
「……食い物の話好きだな……」
「うん」
倉庫へ入り込んで、せっせと糧食を漁り始めた。鶏も部位によっては悪くないが、ササミのサラダなんかいやだ。
「ノッチ、夕べはギルと一緒だったそうだな?」
オスカーが、ふらりと倉庫にやってきた。
「あー、そうそう。ハンスの店でね。ナオハラがテーブルの上で裸で踊っていたよ」
「えっ? なんだ、それ。まずいんじゃないか」
オスカーは、全裸を想像したらしかった。それは違う。
「ハンスが『スナイパー隊と飲もう』って言う会を月一回やってるそうだ。知ってた?」
「うん。行ったことは無いけどね。おれはスナイパーじゃないし」
「ナオハラだって、スナイパーじゃないさ。鉢合わせしたんだ。十パーセント引きだとか言ってたけど。猛烈に飲んでたよ」
オスカーは、そんな与太話より私のほうに関心があったらしい。まじまじと見据えた上で、慎重に、でも、さりげなく聞いた。
「あんた、ギルと一緒に帰ったって? 酔っ払って」
「めっちゃ酔っぱらってた。確かに。飲みたい気分だったんだよ」
私は夕べのことを思い出して、少し嫌な顔をした。ギルのことじゃない。その前のことだ。
「じゃあ、ギルと付き合う気になったのかい? ナオハラが言ってたけど……」
「は? 何の話?」
私は、糧食から目を離して、オスカーの顔を見た。
「昨日、ハンスの店では、ギルが君の隣に腰掛けた時から、みんなが固唾を飲んでいたそうだ。ギルが、あんたに、べた惚れなのはみんな知ってるし、みんなギルのことをいいヤツだと思っているし、うまくいけばと祈るような気持ちだったらしい」
思いがけない展開だった。
「べたぼれ? 全然、知らない。誰かほかの人の間違いじゃない?」
オスカーがため息交じりに言った。
「いいえ。違います。あんたのことです。良くある話だろ、入隊しました、先輩にきれいなお姉さんがいました……」
オスカーの顔をまじまじと見つめた。うそを言っているわけではないらしい。
きれいなお姉さん……なんか、イメージが違うと思うが。ギルの目は大丈夫なんだろうか。
夕べの店の様子を思い出した。
「じゃあ、妙にシーンとしていたのは……あと、出て行ったら、急に歓声が起こってたのは……」
「そう。うまくいったので、みんな大喜び」
「うまくいったって、どういう意味?」
オスカーが困ったような顔をしていた。
「うーん、おれもあんたが付き合いましょうって、OKするとは思えなかった。」
恐ろしい誤解も世の中にはあったものだ。
「おかしくないか? それ。考えてもみろ。ギルは二三、私が三十近く。ずいぶん年が離れている。ギルが私を好きだって? みんなが本気でそういう勘違いをしてるのか? そういう場合って、私が悪者になるのか? 一緒に帰らなきゃよかったよ。みんなにそう思われているだなんて、ギルが気の毒だ」
「あのな、どこを勘違いしてると言ってるのかがわからんが、少なくとも、ギルは本気だ。一緒に帰ったくらいで、カップル成立とはギルは考えないだろうけど」
私はかなり困った。
「オスカー、誰からもそんな話は聞いてもいない。少なくとも私は知らない。ギルは本気なのかな?」
「知らないと言い切られても……。そりゃ誰も教えてくれないだろう。だけど、全然、感じ取れもしなかったというのかい?」
「全然、知らん。大体、本人も何も言ってない。ガセじゃない?」
「ていうか、あんた、それ、ひどくないか? まあ、元々他人に関心がないとは思っていたけど。ちょっとは、気づいてやれよ」
「うーん、なんか、夕べ、ハンスが妙なこと言ってたような。その話だったのか。でも、周りにカップル成立と思われていたら、それだけでギルは傷つく。気の毒だよ。いいやつなのに」
「困った話だ……あんた、ちょっと……鈍感なんじゃ」
オスカーは、途方にくれたらしかった。私は、まだ三日分しか集めていない糧食を眺めて考えた。
「知らん振りして過ごすしかないよ。一回くらい一緒に帰ったくらいでなんなんだ」
「あんた、誰とも一緒に帰ったりしないだろ。少しは人と付き合ったらどうなんだ」
いや、昨日はちょっと、事情があって……でも、説明はめんどくさかった。
オスカーもジェレミーも、とても仲が良かった。仕事の上での話だが。
ギルだって同じだ。
三人とも、荒野に出ても、あるいはほかに倉庫の片づけをしたり、いろんな記録や請求書の申告をしたり、銃の手入れをしたり、とにかく何をするにも、要領を得ていて、他人に手間をかけさせない、そして協力しあえるいい関係だった。
冗談も愚痴も言えるし、たまに食事を付き合うことだってあったし、飲みに行くこともあった。
確かにギルは優しかった。
なんというか、果てしない優しさだった。
それは、たとえば、オスカーやジェレミーには頼まないことを頼めるような優しさだった。
どんな無理でも喜んで聞いてくれそうだった。例えば、私的なことなんかでも……家具が重すぎて、動かせないとか……ワインを買い込み過ぎて運べなくなったから一緒に運んで……って、どこのアホ女だ。自分で運べ。さもなくば、手配してから買え。どんだけ飲む気だ。
ええと、ワインだったらOKか。一緒に宅飲みしましょうと言う暗号で、これは頼んでもいいかな? でも、化粧水の大びんが安かったから買っちゃったけど荷物多すぎで運べない、こっちのはNGでふざけんなって言われるレベル?
いや待て。この事例集は、全部、彼氏かそれに近い男の取説で、ギルは違う……
そこまで考えて、崖っぷちをのぞき込んだ気がした。
ダメじゃないか、私。
無理を頼んだことはなかった。仕事仲間の線を越えたことなんか無論ない。
でも、何でも喜んで聞いてくれそうだということには気が付いていたのに、それがどうしてなのかには頭が回ってなかった。
確かに、噂だけではないかもしれない……。
いや、違う。噂ではないそうだ。今、オスカーがそう言った。
さっき、オスカーが言いかけたのは、「あんた、ちょっと鈍感過ぎない?」みたいなセリフなんだろう。
人と付き合いたくないというのは、こういう深読みがものすごく手間だからだ。
誰かが倉庫をのぞき込んで、バルク少佐が呼んでいると声をかけた。
急に冷却された気がした。バルク少佐には悪い予感しかしない。
ジェレミーの席に着くと、バルク少佐は、顎で座れといすを指し示した。
やっぱり機嫌がよさそうではなかった。何を頼んでも、聞いてくれそうもない。
「夕べ、もう少し、自己推薦してほしかった」
少佐は疲れた様子で文句を言った。
「お任せくださいの一言くらい言えないのか、君は」
「どんな仕事だかわかりませんが、百パーセント確実は無いと思いました」
「百パーセント確実は、誰にも無い。
野外で七百メートルを一発でも当てられたのは君だけだった。だから、君が、最も私たちが希望しているスナイパーに近い。
君は五発を全部当てた。ほかに選択の余地は無い」
私はだいぶ当惑した。事情を知らないので、どう振る舞えばいいかわからなかったのだ。
「少将は、もう少し人を当たれといわれた。民間のスナイパーをという意見だった。無理だ」
「無理ですか」
「ダメだ。軍の中で処理してしまいたい。民間人に何が出来る。機密の保持が全く出来ない。民間が優秀で軍がダメだという考え方は間違っている。少将は文官出身なんだ。それに時間がもう無い」
事情がわからない私は黙っていた。それを察してか、少佐は、言葉を続けた。
「とにかく、少尉には待機を命ずる。動くな。夜は寝て、昼間、起きておけ。いつ徴集がかかるかわからない」
「あの、いつもの作戦のほうは?」
「行くな。君は、リストから外れたわけじゃないんだ。出動するなら、昼間だ。昼夜逆転する作戦の参加はもってのほかだ。体調に万全を期しておけ。チームはオスカーに任せとけ」
それから、彼は付け加えた。
「大体、酒臭いぞ。そんなに飲むくらいなら、自己推薦の練習でもしとけ。君よりずっと腕の無い連中の大言壮語を聞かせてやりたいくらいだ」
ジェレミーとマイカが、遠巻きにしていた。
「ジェレミー!」
少佐が大声で呼ばわった。
「ノルライド少尉を荒野には出すな。待機させろ。後は頼む」
ジェレミーとマイカ、オスカーを始めとしたバルク隊の連中は、目を丸くしていた。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる