グラクイ狩り〜真実の愛ってどこに転がってますか〜

buchi

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第26話 プライベートな過去話

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 私とバルク少佐は、黙って待っていた。話すことなどなかったし、話をしていい部屋なのかわからなかった。誰か聞いているかもしれなかった。

 だいぶたってから、誰かが入ってきた。

 タマラ少将だった。一緒についてきた文官は、タマラ少将を部屋に入れると、自分はどこかへ消えてしまった。



「待たせたね」

 彼の話し方は、全然、軍人口調でなかった。物柔らかで、非常に穏やかだった。

「バルク少佐、ノルライド少尉、君たちには作戦に尽力した者として、今回の成果を聞いてもらいたいと思ったので、ここへ呼んだのだ。それに各人の個人的なことに関わってもいたのでね」

 個人的なこと? 私はきょとんとした。バルク少佐を見ると彼も不審そうだった。心当たりがないらしい。

「君たちのおかげで、ジャニスの城と呼ばれる部分への立ち入りが可能になった。
 私たちは、まず、グラクイに命令する方法があるなら、どこかにそのヒントが残されているのではないかと、中を探し回ったのだが、これは完全な空振りで終わってしまった。
 過去の気象データについても、何かジャニスが掴んでいることはないだろうかと探したが、何も残されていなかった。ジャニス自身が、日の光が届かないことについては、なぜだろうと不思議がっていた。
 彼は日記のようなものを付けていて、買い物の額だの自分の予定だのを雑多に書き込んでいたのだが、役に立ちそうな話は全然なかった。
 まあ、正直な話、ジャニスにはあまり期待していなかったのだけれどね。彼に学があるとも思えなかった。ハイスクールを出た後、色々な仕事を転々としていたようだ。グラクイへの指示の方法も彼が発見したのではなく、一風変わった彼の父親が、おそらく偶然発見したものらしい。だから、私は……」

 タマラ少将は、ため息をついた。

「ジャニスを殺す必要がなかったかもしれないとも考え始めている。
 彼を殺さず、グラクイへの意思伝達方法を、聴取したほうがよかったかもしれない。
 まあ、この意見は軍人諸君には不評だ。
 現実的ではないしね。ジャニスは変人だった。意地でも教えなかっただろう。
 それに、彼はせっせとグラクイに武器を供給し続けて、軍の仲間を危険にさらしていた。この点については、処罰に値する」

 タマラ少将は、にこりとした。

「ましてや、せっかく、スナイパーという難しい仕事を完遂してくれた君たちに言う言葉ではない。
 君たちは命令を忠実に、完璧に実行してくれたのだ。
 おかげで、グラクイへの新たな命令はもう出ないし、武器の供給もなくなる。彼らは武器を持てなくなるだろう。一安心だ。
 我々軍の人間だけでなく、近隣のすべての人々にとって、大きな成果だ。
 君らのおかげだ。居住制限は、グラクイの安全性が確かめられたら、解除できる。みな、喜ぶだろう」

 少将の意見は全くその通りだった。合理的で常識的で、安心できる。

「さて、次の目標は、気象データの捜索のやり直しだ。
 ジャニスの城の周辺地域が我々の手に落ちたので、さらに北進できる。
 旧の気象センターの地域にも進める。数年前から、ここを調査したくてたまらなかった。
 だが、危険すぎてそばに近寄れなかったのだ。
 今ならいける。 
 なにかが残されているだろう。少なくとも過去の気象データが手に入ると踏んでいる。過去の火山の爆発や、その規模や、それに伴う一時的な太陽の光の薄らぎ、その回復具合が解明されるだろう。期待している。
 一方で、今、グラクイは卵を取り戻すのに必死になっている。
 おそらくジャニスの最後の命令だろう。
 グラクイが地上へ出てきてくれるのなら、やつらを始末するチャンスだ。
 また、そちらのほうに彼らの主力が注がれているなら、旧の気象センターには、彼らの手が回らないだろう。センターの調査の安全性が高まるだろうと期待している。
 ここまでが、今のところ、君たちのおかげで、我々がたどり着けた成果の部分だ。さて……」

 タマラ少将は神妙に拝聴していた私たちのうち、まず、私に話すことがあると言った。

「ノルライド少尉に話すことがあるから、君は席をはずして欲しい」

 バルク少佐もかなりびっくりした様子だった。少将が少尉ごときに、何を話す必要があるのか、私も目を大きく見開いていた。



 少佐が、例の文官の招きで退室し、ドアが閉まると、少将は私に向き直った。
 
 少将は、なにか当たり前の、差しさわりのない事務的な会話をするような調子で、穏やかに話しかけてきた。

「特に問題にするほどのことではないが、一応伝えておいたほうがいいと思ってね。個人の問題なので、少佐には少し席をはずしてもらった」

 個人の問題って何だろう? 心当たりがなかった。

「例のジャニスだが、彼の個人的文書の中から、君に関する記述が見つかった」

「え?」

「なに、驚くのも無理はない。つまらない話だが、ジャニスには息子がいて、名前をケネス・ガーランと言った」

「ケネス・ガーラン?」

「そう。そのケネスだが、君が大学に入ったころ、同じ大学に院生で在籍していた」

 私は、顔をしかめた。知らない名前だと思った。私はそう言ってみた。

「うん。そうかもしれない。大変、変わった人物らしい。まあ、あまり良くない意味でね。
 院生にはなったが、すぐに教授から退学させられている。とある女性に執着し、ストーカーまがいの行為を行ったことがその理由だ」

 私は、ぱっと思い出した。

「その女性というのが私なのですね?」

「そう。ジャニス自身が自分の息子には手を焼いていた。
 かなり変わった性格の持ち主だったらしく、それ以前にも何回か似たような事件を起こしており、大学側から警告を受けていた。
 しかし、そのときの事件が元で退学せざるを得なかった。
 ジャニスはそれを恨んでいた。彼は息子のことを嫌っていたらしいが、一方で息子が有名大学で研究職に就いているという点については自慢していたらしい。
 矛盾しているような気もするが、彼の性格が難しかったことを考えるとありえるのだろう。
 退学後、2ヶ月して息子が死んだため……」

「死んだのですか? まさか、自殺とか?」

「違う。当時の警察の調書も調べた。本人のミスによる事故で間違いない。
 ただ、ジャニスは、どうしても、その事実を受け入れられなかったらしい。
 勝手に自殺ではないかと疑いを持ち始め、事故とは関係のない君を恨み始めたのだ。
 ジャニスは世をすねた生活をしていたし、特に金があるわけではなかったから、君の行方を調べることなど出来なかった。
 ところが、君は二年ほど前、軍に入隊した」

 そのとおりだったが、何の関連があるのかわからなかった。

「そのために色々な資料、特に軍のホームページなどに君の名前が出るようになった。
 たぶん最初のころは、ジャニスも全然気づかなかっただろうが、おそらく、なんらかの戦闘の時、あるいは昇進か何かの時に、君の名前が軍のHPに載って、ジャニスは君が軍の最前線、つまり今いるここに配属されていることに気づいたのだろう。
 ジャニスが復讐にでられるチャンス到来というわけだ」

 復讐?
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