グラクイ狩り〜真実の愛ってどこに転がってますか〜

buchi

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第27話 バルク少佐の呼び出し

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 復讐とはひどすぎる。

 その死亡事故は、私のせいではない。たとえ自殺だったとしても無関係だ。単なる逆恨みだ。

 ケネスという男を知ってはいた。私は彼の標的にはなったが、特に彼と接触があったわけではない。その点、ケネスという男はきわめて不気味だった。勝手に何の理由もなく標的を定めるのである。
 担当教授が彼を排除したのも無理はない。私はこの点について、一応、少将に説明した。少将は微笑んだ。
 
 「心配はいらない。担当教授のローレンス博士は、かなりの高齢だが健在で、我々が色々お聞きした点について、きわめてはっきりした記憶をお持ちで、きちんと証言していただいた。
 君の言うことは全て裏づけが取れている。
 たぶん、ここ数ヶ月間、君が出て行くと、グラクイが必ず出没していたのは、こういった事情によるものじゃないかな。その意味では、ジャニスが死んでよかった理由が一つ増えたことになる。そして、最近のスナイパー事件について言えば……」
 
 少将はうなずきながら、言った。
 
「君たちは、最初から監視されていたのかもしれないと思う。
 そうでなければ、見つかるはずがない。
 そのためにあれだけの距離をとって待機を重ねていたのだ。
 君たちはプロで、きちんと準備を重ねた上での実行だった。それなのに襲撃された。ありえないことだ」

 頭の中で疑問がひらめいた。

 それなのに、どうして成功できたのだろう。おかしい。
 すごくおかしい。それなら、なぜ、ジャニスは、みすみす死んだのだ。わかっていたんじゃなかったのか。


 また、私はあることに気づいた。

「バルク少佐は、私のほうの事情に巻き込まれて負傷したのでしょうか。だとすれば、申し訳ないことに」

「いいや。その点について君に説明する権利は私にはないが、それは絶対にない。
 逆に、君の方がバルク少佐に迷惑を掛けられたともいえるかもしれない。
 まあ、とにかくジャニスは死んだし、今となっては、深く考える必要も、心配する必要もない。
 ローレンス博士は、君の事をよく覚えておられて、非常に心配されていた。君に過失がないことを強調され、我々に君の警護を依頼されたくらいだった」

 少将は静かに笑い出した。

「君の警護は難しいね。君ほど腕の立つ人物はいないと説明したら、博士はびっくりしていた。まあ、実際に話をしたのは私じゃないが、報告書にはそう書いてある」

 学生の頃の話や、その続きの話は聞きたくなかった。すっかり忘れていたのに、こんなところで、そんな話を聞かされるとは思っていなかった。

「今や、何の危険もないことなので、特に説明しなくてもいいのだが、あなた自身の話だから、知らせておくべきだろうと思ったのだ。だから、待っていてもらった。時間をとらせてすまなかったね」

「いいえ、とんでもありません。どうもありがとうございます。少将の忙しい時間を割いていただきまして」

 私は深く礼を言った。

「個人の問題だから、オーツ中佐にも言わなかったのだ。黙っておけば、誰にも知られることはない。ジャニスが死んだ今となっては、この話はなんの問題も起こさないのだから」

「本当にありがとうございます」

 少将の配慮に私は感謝した。
 徹頭徹尾、要領を得た、明確で行き届いた説明だった。
 彼がこの話を、中佐たちにせず、本人のみに伝えたのは節度と親切によるものだ。
 だが、少将が親切なだけの人間ではないことを、私はなんとなく嗅ぎ取った。


「それから、もう一つ」

 私は、顔をあげた。なんだろう。

 少将の黒い目が、真正面から向き合った。

「これは、業務命令として伝えておく。我々はジャニスしか、殺していない」

 あの女のことだとピンときた。

「絶対にほかの誰にも話してはいけない。軍の内部の仲間にもだ」

「誰にも話していません」

 私は答えた。私も、少将を真正面から向き合った。信じてもらわなくてはならない。
 あの話は、まずい。だが仕方なかったのだ。あの女は目撃者なのだ。

「ジャニスの話も、上層部と私の配下の一部の者しか知らない。それ以外の話は、私とバルク少佐と君だけだ。中佐も知らない」

「わかりました」

「理由はわかるだろう?」

「はい。絶対に話しません」

「私は君たちを全力で守る。君たちも、自分自身と私たちを守るために、義務を尽くすように」

 少将の目を見つめて、私は頭を下げた。少将はうなずき、出て行っていいと言う仕草をした。



 
 私と入れ替わりに、バルク少佐が入室していった。

 一体彼には、どんな話があるというのだろう。私は、部屋に入っていく彼の後姿を見ながら、それも気になった。

 だが、例の文官にうながされ、私は会議室から基地へ向かった。



 基地に戻ると、そこにはマイカしかいなかった。私は、ブルー隊の出撃状況を確認した。

「みんな、バラバラで出ています。グラクイをおびき寄せ処分する作戦です。
 もし、少尉がよければ、明日からでも、ブルー隊に加わってください。
 ブルー以外の隊とも組んで、護衛をしているんですが、人数が足らないです。
 もし、少尉が参加して下さったら、護衛の距離が稼げます」

「では、明日から参加しよう。ここでたっぷり寝たほうが活躍できるしね」



 急いで準備してから、しばらくグラクイ狩りに出るなら、おいしいものを食べておかなくちゃと思った。
 私は、夕食にカウンターしかない、ちょっと高いがおいしいものを食べさせる店へ行こうと思った。ただし、よく将校がひとりで夕飯を食べていることがあった。もし、誰か高級将校がいたら、隣の軍用食堂に切り替えよう。あそこなら兵卒しかいない。味は落ちるけど、気楽だ。



 そのとき、少佐から連絡が来た。

「今、どこにいるの?」

「え? 晩ごはんを食べようと思って。明日から、また、前線に出ますので」

「どこで?」

「まだ決めてません」

「おごるから来なさい」

「はい?」

「いいから。おれも今から行くから」

 少佐は店の名前を言うと、返事を聞かずに、GPSを切ってしまった。

 その店は、将校の利用はあまりなかった。ただ、困ったことには、外部客が多いので、制服での来店が難しい店だった。私は切羽詰って、マイカに電話した。服を借りてきて体を押し込んだ。私はあまり服を持っていなかった。


 着いてみると、少佐は、私より先に来ていた。
 彼も制服は避けたらしく私服だった。少佐は意外に普通の格好をしていた。

 軍の将校の私服は、人によっては、びっくりさせられる時があった。
 あまり着る機会がないからなのか、何の意味があるのかよくわからないファッションになっていることがあった。どこでもジャージの上下で押し通す者はとにかくとして、妙にインパクトがある柄物を着ていたり、上下の服の色合いやデザインの系統がちぐはぐだったりして、良く分からない時があった。
 普通の格好をしておけばいいのにと思ったが、何が普通かわからないとよく言われた。普通の説明には窮する。
 この点、少佐は無地のパンツとシャツにジャケットを着ているだけで普通だった。ただ、未だに亀をしているので、恐ろしく猫背に見えた。

 彼は私をじろじろ見て首をひねっていた。

「マイカに借りました」

「ああ、それで。なんか見覚えがある。たぶん、マイカが着ているところを見たことがあるんだな」



 一体何の話をするつもりだろう。

 少佐は店の中でも、あまり人に話を聞かれなさそうなところを指定して私を座らせた。

「すまないね、忙しいところを呼び出して」

 彼が丁重だった。

「聞いていいかどうかわからないけど、タマラ少将の話は個人的な話だったの?」

「ええ」

 特に話したくはない話なので、私は短い返事で済ませることにした。

「そう。私の方も全く個人的な話だった。君の話を聞かせてくれとは言わないけど、私は私の個人的な事情で、君を巻き込んでしまったらしいのでね」

「巻き込んだ?」

「そう。どうも申し訳ない気がしてきたのでね」


 申し訳ない?
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