グラクイ狩り〜真実の愛ってどこに転がってますか〜

buchi

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第36話 知らない間に人気者になる

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 その日は溺れるほどシャワーを浴び、歯も気が済むまできれいに磨いた。テイクアウトで、遅い夕飯を簡単にとり、ひたすら寝た。

 翌日は、まず汚い服をクリーニングに出した。
 帰りにカフェで贅沢な朝飯を取った。カリカリベーコン、バターで焼いたオムレツ、すてきなキツネ色に焼いたトースト、バター、ママレード、オレンジジュースといい香りのする美味しいコーヒーだ。朝飯といっても、もう昼を過ぎていた。

 思いついて、見舞いより先に自分が患者として、肩と肋骨を診てもらうことにした。
 病院に近寄ろうとすると、正面玄関で誰かがもめていた。なんだろう。どうやら報道らしい。たぶん、あれだけいろいろ事件があった後だから、ノルライドは忘れ去られているはずだが、危険だ。

 私は裏口に回ることにした。
 今日は少しはこぎれいにしているから、そんなに怪しまれないだろうと思ったが、ここは看護師だけでなく警備員も優秀だった。
 診察に来たと言ったら、正面へ回れといわれた。
 報道のような連中がいるから嫌だと言ったら、何様のつもりだと言い返された。
 そこで考え込んでいたら、顔見知りの看護師が通りかかったので、頼み込んで中へ入れてもらった。

「いいわよ。今、正面玄関はね、マフィ少尉という人の名誉の負傷話を探しているらしいわ。なにか売れるストーリーが作れるといいらしいの。でも、話そのものは、もう、記者さんが作ってあって、それにあった写真とかを撮りたいらしいのよね」

 むかついた。なにが名誉の負傷だ。いや、名誉の負傷に間違いないが、そのあとがいけない。黙って病院送りになっておけばよいものを、散々、てこずらせやがって。

「あの人は、唯一無傷で活躍したノルライド少尉も探すんだって言ってたわ。そんなとこを通りかかったら、確かに危険だわね。でも、その格好じゃ誰にもわかんないんじゃないの? ただの女の人よ」

 いやあ、看護師さん、あんたはいい人だ。そうですか、私、ただの女の人に見えますか。

「もう少し、ちまちま歩いてね、そんな大またじゃなくて。そんなに早く歩かない。肩を張らない、顎を引っ込めて。まあ、でも、無駄でしょうね。なんか男の人と話しているような気がしてきたわ」

「あんただって、けっこう男らしいじゃないですか、さばさばしてるって言うか」

 一応、反撃を試みた。

「目つきがなんだか違うわよ。さあ、ここよ。さっさと診てもらってきなさいよ」

 私は丁寧にお礼を言って別れた。警備員はノルライドだとわかると、ぴたっと黙って首を伸ばして顔を覗き込んでいた。この顔、そんなに珍しいですかね?

 医者によると安静第一らしいが、ライフルを乱射した割には影響は少なかったらしかった。少なくとも、これから一週間は撃たない予定だから、かなりましだろう。

 ライフル乱射の件は、医者には黙っておいた。ばれたら何か言われるに決まっている。黙っときゃわからないだろう。


 それから、オスカーの病室によってみた。
 オスカーの嫁さんは、とても小柄な、めちゃくちゃかわいい人で、ベッドの脇に腰掛けてオスカーの世話をしていた。
 四人部屋で全員がバルク隊だった。どうも、隣室もバルク隊だったらしい。シンも来ていたし、ブラックのケムシアもいた。彼とは一言二言しゃべった。
 隣の隣の部屋には、苦手なマフィ少尉がいるらしかった。
 シンにでも様子を聞いてから、彼の見舞いには行くことにしようと、私は考えた。無理やり病院送りにしたことを、まだ恨んでいるかも知れない。

 オスカーの嫁さんとしゃべっていて、唯一困ることは、どうも私が縦横そろって大きすぎて、身をかがめないとしゃべれないことだ。
 まったく誰が華奢なものか。

「ボス狙いをしていたらしい。シルバー、レッド、ブラック隊とも、全員隊長がやられている。やつらは、ブルーのボスをおれと勘違いしていたらしい」

 オスカーが言った。

「らしいね。それでみんな容態はどうなの?」

「レッドのマフィ少尉が重傷。聞いた限りでは、ほかの連中は、すぐ退院できるらしい。みんな軽傷だったよ」

「それはよかった。バルク隊はほぼ全滅に近い状態だった。いや、誰も死んではいないけどね。みんなケガ人になっちまった。早く出てきて欲しいよ。オスカーはいつ出られそうなの?」

「一週間で出られるらしいの。うまくいけば、五日くらいですむかも」

 オスカーの妻はうれしそうだった。

「一週間、休暇だけど、みんなが回復してくるまで、どうせ休暇は伸びるよ。バルク隊は壊滅状態さ。建て直しを計っている間は、パレット中佐麾下の隊が護衛を勤めている」

「うちの隊みたいにゃ、行かないさ」

 私は笑ったし、周りもニヤリとしていた。

 四人部屋の他のベッドのカーテンが開いて、顔をのぞかせたのはレッドのコッティとシュマッカーとジョウだった。なるほどシンが来ていたはずだ。

「ノルライド少尉は、マフィ少尉を病院に叩き込んだそうだな?」

「本人は大反対してたけどね。でも、放っておいたら死んでたぞ」

「いや、いいんだ。マフィ少尉には申し訳ないことをしたと思ってるんだ。俺たちが、先にやられちまったもんで」

 結構、部下には慕われていたんだな。私とは常に仲が悪かったが。

 シンが入ってきて仲間に加わった。大きな声を出して騒いでいたら、あっという間に、例の看護師が来て、追い散らされた。予想できたことだった。

 シェリの病室にも行った。ここは、各隊の女性ばかりが入っていた。さすがに男性ばかりの職場らしく、それぞれに男の友達、恋人、夫がついていて、なんとなくうらやましかった。
 あんなふうに、気遣ってくれる特別の存在がいるといいな……と、ちょっと思いかけた。自分には誰もいない……でもないか、ギルが来てくれることがあった。
 そこまで考えたが、考えるのは止めることにした。突き詰めて考えると、大抵ろくな事にならない。
 
 軽い怪我だったので、マフィ少尉を除くと、全員、数日中には出る予定らしかった。
 一通り、見舞いを済ますと、私は誰にもそれと知れないように一人で帰った。

 
 帰りながら考えた。今後、灰色の草原に、狩りに出る作戦は、減るかも知れなかった。
 グラクイが凶暴化している様子を考えると、少なくとも、単独行動は今後禁止される可能性があった。もう一人で荒野に出ることはないんだろうか。

 荒野で、夜、ひっそりと見るうすら明るい空。音のない世界。

 心が伸び広がっていくのを感じる。風が吹くにつれ、雲が模様を描いていく。なにも考える必要が無くなっていく。

 病院には人がたくさんいる。基地にも人がいる。でも、荒野には誰もいなかった。

 私は自室に戻った。一人になれるけれど、部屋は狭いのでいやだ。テイクアウトの食事をひとりで取った。
 それから三日間はほとんど部屋から出なかった。

 いや、毎日、基地か病院には顔を出した。
 でないと変なヤツと言われてしまうだろう。誰かと会っているように取り繕えばいいのだ。誰とも会話を交わしはするが、誰とも深入りをしない。私と会った者、見かけた者は、多いはずだ。変なヤツとは言わせない。

 そのあと、いつも射撃場に行った。
 ロングのコースで射撃の練習は欠かさなかった。
 とにかく私ほどの腕の者はいない。光度の低い荒野限定だけど。
 少なくとも、射撃だけは優秀なのだと、そう信じたかった。なにしろ、他に頼るものは何もなかった。オスカーみたいに愛妻がいるわけでもなかったし、ナオハラみたいに飲み会で発散することもできなかったから。

 毎日、地味で性別不明の服を着ていったので、どこの誰ともわからなかったろう。
 誰も誘わず一人で来ているので、基地の人間も、私が来ていることは知らない。 
 ところが、突然うしろがどやどやと騒がしくなった。

「ノルライド少尉が来てるって?」

「どこ? どこ?」

「ロングのコースだってよ。顔、見たことないのよ! なかなか美人だって言うじゃない!」

「わからないようにして来てるんだって!」

 後ろを数人の女の子たちが、どたどた射撃場を駆け抜けていった時は、耳を疑った。

 誰がそんなこと、しゃべって歩いてるんだろう。

「見物の方は、そこへ入ってはいけませーーーん!」

 受付の女性が大音響で怒鳴っていた。

 この騒ぎに私があっけにとられていると、後ろから肩をぽんとたたかれた。
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