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第55話 グラクイが、全世界級の恐怖に成長する
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パレット中佐の隊の話は、最初は被害者の数の多さだけで話題になっていたが、詳細がわかるにつれ、対処のしようのない気持ちの悪い恐怖で世の中を震撼させていた。
グラクイは、この地方では現実の恐怖だったが、他のエリアでは噂に聞くだけの怪物の話だった。
だが、今回は死者の数が多かったことから、大きく取り上げられ、広く配信されたため、これまでとは違い、それぞれの地方や立場に従ってさまざま視点から取材が行われた。
したがって、残念ながら、地味だが新たな関心と恐怖を(報道されるたびに)何回にも分けて巻き起こした。
軍の作戦部は大変そうだった。少なくとも不用な迷惑はかけないように、私達は出来るだけ基地内から出ないようにした。出ると、軍に慣れているはずのこの地方の一般人からも好奇の目で見られた。
軍の中を歩いていてさえ、結構、めんどくさかった。
実際の救出劇(本当は死体を搬出したに過ぎなかったが)当時は、誰も細かい話をしなかった。
ベックもオスカーもギルも、全員が、家族にも話さなかった。
家庭で話すには不向きな話題だったし、軍で話したら士気が落ちるのは確実だった。だから、記事が出て初めて、(死者の数だけでなく)かなり嫌な事件だったことが、ようやくみんなに知れていったのだ。
細かいことが発表されていくと、バルク隊所属というだけで、軍の中でまで注目された。パレット隊が壊滅した今、実戦部隊といえば、このエリアではバルク隊だけだった。(訓練部隊などは別に存在する)
顔を知らない隊員や非戦闘員も、襟章を見て気が付くと、何気ないふうを装いながら、二度見した。その中でも特に、パレット中佐を救出に向かったメンバーは注目を浴びていた。
なにも気を使わなくてもいいのは、バルク隊の基地の中だけだった。
今では軍の施設の出入り口のそこここに報道が張り付いていたので、外部へ出る時は、避けて通るのが大変だった。
マスコミは、思いがけない時にやってきて張り付き、またいなくなると言った繰り返しだった。
捕まると、いろいろ聞かれる。
本当は、ストーリーが先に決まっていて、私たちの話や映像は、都合のいい部分だけ切り取って使われる。それが、わかっているので、とにかく捕まらないのが一番だった。
マスコミが興味を持ってしまう理由の一つは、グラクイの見た目の気味悪さだろう。それは、心のどこかに訴えるものがあった。
恐怖を抱かせる未知の生物、そういったものを体現する見た目だった。そして、なぜ、そんなに嫌な感じなのかと言うと、ヒトに似ているからなのだ。
隊の全員が、食事は軍の食堂で済ませ、基地と自室の往復だけで終わっていた。
その閉塞感は、なんとも言えないものがあった。たまに私服で変装して出かけていた。おっちょこちょいのジョウを外に出さないために、コッティとシュマッカーが頑張ってガードしてくれた。時々、ハイディが仲間に加わり、ジョウに技を掛けていた(なにかやらかしたに違いない)
バルク少佐を中心にジェレミーと各隊の隊長は額を寄せ合って、今後の対策を協議していた。多少の危険性があっても、パトロールを欠かしてはならないと私は主張した。
「各隊、投光機と光ボムを装備して、エリアを決めて巡回しよう。データを集めたい。グラクイに遭遇したら危険度や行動を観察しないといけない。これをしないと、いざという時に、対応が出来ない」
「データ集めですか? 住民を守ることは目的じゃないのですか?」
「データ集めは大局的に見れば、住民を守ることになる。新入り隊員のトレーニングにもなる。このあたりの住民は、荒野へ出て行くことは禁止されているし、危険だとわかっているから、出て行ったりしないはずだ」
バルク少佐が黙ってうなずいた。バルク少佐の頭の中が透けて見えるようだった。当面、兵を外に出したくないのである。
グラクイと戦う必要は、軍の立場からいえば、今は全くなかった。こんな時期に事故でも起こしたら、何を言われるかわからない。
さりとて、軍が引きこもったままという状態は、大勢いるマスコミの手前、非常にまずい。
軍はグラクイに対して、いろいろな作戦をてんこ盛りにして実施する機関であるべきだったからだ。権威ある某紙が論評に載せたとおり、「今となっては軍だけが頼りである」
頼りになる軍は、せっせと予算のおねだりに精を出していた。某紙はまた、次のようにも語っていた。
「軍は長年、地道にこの怪物と対峙してきた。タマラ少将によると、科学的にこのある種の生物の生態を解明するため、世界的に高名な生物学者との共同研究がすでに始動しているとのことである」
やることがない上に、こう畳み掛けられては仕方がない。なにか、もっともらしい動きを見せないといけない。正直なところ、二~三週間ほど、休暇が欲しいところだった。
「パレット中佐隊が全滅だからなあ」
少佐は、ぼそぼそ言った。
「今、お前らを外へ出したくないんだ。それよりトレーニングをきちっとして、代替部隊を育成したいところなんだが」
「観察に、時間的な空白を作るわけには行かないですよ」
私は、冷たくそう言った。
「おれは、どっかの博士の下請けをやるつもりはない」
少佐はいやにはっきり言った。
「仕方ないですよ。なにかやってるように見せとかないとね。それと、いざ戦闘といわれても、ある程度リサーチしておかないと危険だ。空白期間は作れない。それに、荒野にマスコミは出てこない。せいせいする。外に出たい」
不本意ながら、全員がうっかりうなずいていた。面白いこともあったが、何を書きたてるかわからないマスコミには、みんな、うんざりしていたのだ。
ジェレミーと地図をにらんで、エリアを決め、シフトが組まれ、順番にパトロールを始めた。
「ま、安全第一にな」
バルク少佐が、気がなさそうに念を押した。
「適当にやっとけ。今回ばかりは、さぼっとけ。オレが許す」
装備をつけて、ライフルを担いだ。コッティと二人だ。GPSで移動する。
灰色の草原が、うっすらと青みを帯びてきたことに気がつかないでいられなかった。グラクイの数が減ったせいか、空が明るくなってきたのだろう。我々には有利だ。
「次は、光度の観測もしよう」
私は、コッティに言った。
「光度って何ですか?」
「ルクス計なんだけど。明るさを測りたいんだ。データをそろえよう。光度計を出来るだけたくさん設置したいところだ。気象の方の担当がなんと言うか、一度、確認しよう。空気は拡散するから、エリアごとの光度を検証したい」
コッティはなにか質問しようとしたが、止めて口をつぐんだ。
「GPSを確認しよう」
最早、草原で寝泊りするような悠長な作戦は許されていなかった。
グラクイはかつてのような平和主義者ではない。
ただ、夜の方が、グラクイの出現率が高いことから、夜は夜で、計器類が動いていた。人間の方は、昼間、移動しながらグラクイを捜し求めた。
私とジェレミーは、旧の気象センターへじわじわと近寄る戦法を取っていた。最も危険なのは旧の気象センターの付近のはずだった。我々はあの戦闘の時まで気がついていなかったが、ああなってみると、建物の中で戦うことは、我々にとって危険きわまりないことだった。たとえ、電気があったとしても配線を切られたら、基本的に建物は真っ暗になる。夜目の利かない人間にとって、それはそのまま死を意味する。
「コッティ、来たな」
「はい」
グラクイが出現したのだ。こちらへ近寄ってくるだろうか? コッティは少し緊張していた。
「少尉、南の方角にも一匹来ています」
「別れるか。襲撃してくる可能性を探りたい。すぐには殺さないで、一度反応を調べろ。危険なら、即、殺せ。だめなら、すぐ逃げろ。身の安全には代えられない」
「わかってます」
私は気象センター方向から来たグラクイを担当した。こちらの方が危険性が高いと判断したからだ。
どんどん距離をつめた。向こうもこちらに気づいたらしい。しかし、逃げなかった。逆に距離をつめてきた。間違いない。好戦的グラクイだ。
私は逃げることにした。距離を離したかった。追ってくるかどうかも見たかった。
ヤツは追ってきた。ただ、二者間の距離は広がっていく。人間の方が、足は速いのだ。ピストルでは無理で、ライフルなら狙えるだけの距離が空いた地点で、ライフルを構えて、スコープで狙った。簡単だ。いや、標的は動いているので、実際にはそう簡単ではない。ただ、平原は身を隠す場所がないので、こちらが圧倒的に有利だ。
一発でしとめた。
頭に当てたので、首が飛んだ。
ざくざく近づいていって、足元で倒れているグラクイを見て、にやりとした。
だが、そのとき、GPSが入った。ジェレミーだ。
「コッティのGPSに衝撃があった」
最後まで聞かずに走り出した。衝撃があっただ? まずい。コッティが、近づきすぎたのか、奇襲を受けたか。
私は場所の確認をした。三匹いる。
最も近い一匹は、すぐに狙えた。うまい具合に立ち止まっていた。簡単だ。頭に命中した。多分、死んだろう。
走り出した。もう二匹は、ほぼ同位置だ。コッティの近くだ。
見えるところまできた。コッティに向かってグラクイが二匹走っている。コッティは動いているが遅い。足をやられたのかもしれない。
コッティが危ない。早くしないと……
立ち止まり、先頭のほうを狙った。銃声が響く。倒れた。
次のが立ち止まった。チャンスだ。続いて撃った。これも倒れた。
GPSを確認した。ほかはいない。OKだ。全速力で走った。コッティに切れ切れに命令した。
「今すぐGPSで移動しろ。立ち止まっても大丈夫だ。全部グラクイは始末した」
「ああ、少尉、腕を撃たれたので、かすっただけなんですが、撃てないので、距離をとろうとして」
「返事はいい。私からジェレミーに連絡する。移動しろ」
「はい」
ジェレミーに手短に説明した。ジェレミーも必死だった。
射程に近づく前に、もう一度確認した。生き返っていれば、赤い点がGPSに反応する。一応大丈夫だった。
彼らの武器を確認しなければならない。何で撃ったのか。
しかし、ちらとヤツのうちの一匹が動いたように思った。念のため、再度、何発か撃ち込んだ。
本当にあぶない。
どうせ、逃げられやしない。ちょっと様子をうかがっていた。近づくたびに何発か撃った。
多分、穴だらけになっていたろう。
実際、そばによって見たら、穴だらけでかわいそうなくらいだった。しかし、たとえば爆弾を持っているということも考えられる。
慎重に死んだグラクイの持ち物を確認していった。
武器は全部で二種類づつ持参していた。
ピストルと、レーザーガンを持っていた。私はそれぞれを確認し、写真にとってから、別々の袋につめなおした。
気になったのは、彼らの体つきがどうも小さい点だった。三匹とも、小柄だった。
私が最初に撃ったやつと、コッティを狙っていたもう一匹のヤツも、同じように分けて写真にとって、全部の荷物ごと基地に戻った。
ジェレミーは大慌てらしかったが、とにかくコッティはたいしたことがなく、すぐに復帰できるだろうという連絡があった。
「それは、よかった。私は襲ってきたグラクイと、その武器を全部集めていた。研究しておかないと今後に差し支える。持って帰る」
グラクイは、この地方では現実の恐怖だったが、他のエリアでは噂に聞くだけの怪物の話だった。
だが、今回は死者の数が多かったことから、大きく取り上げられ、広く配信されたため、これまでとは違い、それぞれの地方や立場に従ってさまざま視点から取材が行われた。
したがって、残念ながら、地味だが新たな関心と恐怖を(報道されるたびに)何回にも分けて巻き起こした。
軍の作戦部は大変そうだった。少なくとも不用な迷惑はかけないように、私達は出来るだけ基地内から出ないようにした。出ると、軍に慣れているはずのこの地方の一般人からも好奇の目で見られた。
軍の中を歩いていてさえ、結構、めんどくさかった。
実際の救出劇(本当は死体を搬出したに過ぎなかったが)当時は、誰も細かい話をしなかった。
ベックもオスカーもギルも、全員が、家族にも話さなかった。
家庭で話すには不向きな話題だったし、軍で話したら士気が落ちるのは確実だった。だから、記事が出て初めて、(死者の数だけでなく)かなり嫌な事件だったことが、ようやくみんなに知れていったのだ。
細かいことが発表されていくと、バルク隊所属というだけで、軍の中でまで注目された。パレット隊が壊滅した今、実戦部隊といえば、このエリアではバルク隊だけだった。(訓練部隊などは別に存在する)
顔を知らない隊員や非戦闘員も、襟章を見て気が付くと、何気ないふうを装いながら、二度見した。その中でも特に、パレット中佐を救出に向かったメンバーは注目を浴びていた。
なにも気を使わなくてもいいのは、バルク隊の基地の中だけだった。
今では軍の施設の出入り口のそこここに報道が張り付いていたので、外部へ出る時は、避けて通るのが大変だった。
マスコミは、思いがけない時にやってきて張り付き、またいなくなると言った繰り返しだった。
捕まると、いろいろ聞かれる。
本当は、ストーリーが先に決まっていて、私たちの話や映像は、都合のいい部分だけ切り取って使われる。それが、わかっているので、とにかく捕まらないのが一番だった。
マスコミが興味を持ってしまう理由の一つは、グラクイの見た目の気味悪さだろう。それは、心のどこかに訴えるものがあった。
恐怖を抱かせる未知の生物、そういったものを体現する見た目だった。そして、なぜ、そんなに嫌な感じなのかと言うと、ヒトに似ているからなのだ。
隊の全員が、食事は軍の食堂で済ませ、基地と自室の往復だけで終わっていた。
その閉塞感は、なんとも言えないものがあった。たまに私服で変装して出かけていた。おっちょこちょいのジョウを外に出さないために、コッティとシュマッカーが頑張ってガードしてくれた。時々、ハイディが仲間に加わり、ジョウに技を掛けていた(なにかやらかしたに違いない)
バルク少佐を中心にジェレミーと各隊の隊長は額を寄せ合って、今後の対策を協議していた。多少の危険性があっても、パトロールを欠かしてはならないと私は主張した。
「各隊、投光機と光ボムを装備して、エリアを決めて巡回しよう。データを集めたい。グラクイに遭遇したら危険度や行動を観察しないといけない。これをしないと、いざという時に、対応が出来ない」
「データ集めですか? 住民を守ることは目的じゃないのですか?」
「データ集めは大局的に見れば、住民を守ることになる。新入り隊員のトレーニングにもなる。このあたりの住民は、荒野へ出て行くことは禁止されているし、危険だとわかっているから、出て行ったりしないはずだ」
バルク少佐が黙ってうなずいた。バルク少佐の頭の中が透けて見えるようだった。当面、兵を外に出したくないのである。
グラクイと戦う必要は、軍の立場からいえば、今は全くなかった。こんな時期に事故でも起こしたら、何を言われるかわからない。
さりとて、軍が引きこもったままという状態は、大勢いるマスコミの手前、非常にまずい。
軍はグラクイに対して、いろいろな作戦をてんこ盛りにして実施する機関であるべきだったからだ。権威ある某紙が論評に載せたとおり、「今となっては軍だけが頼りである」
頼りになる軍は、せっせと予算のおねだりに精を出していた。某紙はまた、次のようにも語っていた。
「軍は長年、地道にこの怪物と対峙してきた。タマラ少将によると、科学的にこのある種の生物の生態を解明するため、世界的に高名な生物学者との共同研究がすでに始動しているとのことである」
やることがない上に、こう畳み掛けられては仕方がない。なにか、もっともらしい動きを見せないといけない。正直なところ、二~三週間ほど、休暇が欲しいところだった。
「パレット中佐隊が全滅だからなあ」
少佐は、ぼそぼそ言った。
「今、お前らを外へ出したくないんだ。それよりトレーニングをきちっとして、代替部隊を育成したいところなんだが」
「観察に、時間的な空白を作るわけには行かないですよ」
私は、冷たくそう言った。
「おれは、どっかの博士の下請けをやるつもりはない」
少佐はいやにはっきり言った。
「仕方ないですよ。なにかやってるように見せとかないとね。それと、いざ戦闘といわれても、ある程度リサーチしておかないと危険だ。空白期間は作れない。それに、荒野にマスコミは出てこない。せいせいする。外に出たい」
不本意ながら、全員がうっかりうなずいていた。面白いこともあったが、何を書きたてるかわからないマスコミには、みんな、うんざりしていたのだ。
ジェレミーと地図をにらんで、エリアを決め、シフトが組まれ、順番にパトロールを始めた。
「ま、安全第一にな」
バルク少佐が、気がなさそうに念を押した。
「適当にやっとけ。今回ばかりは、さぼっとけ。オレが許す」
装備をつけて、ライフルを担いだ。コッティと二人だ。GPSで移動する。
灰色の草原が、うっすらと青みを帯びてきたことに気がつかないでいられなかった。グラクイの数が減ったせいか、空が明るくなってきたのだろう。我々には有利だ。
「次は、光度の観測もしよう」
私は、コッティに言った。
「光度って何ですか?」
「ルクス計なんだけど。明るさを測りたいんだ。データをそろえよう。光度計を出来るだけたくさん設置したいところだ。気象の方の担当がなんと言うか、一度、確認しよう。空気は拡散するから、エリアごとの光度を検証したい」
コッティはなにか質問しようとしたが、止めて口をつぐんだ。
「GPSを確認しよう」
最早、草原で寝泊りするような悠長な作戦は許されていなかった。
グラクイはかつてのような平和主義者ではない。
ただ、夜の方が、グラクイの出現率が高いことから、夜は夜で、計器類が動いていた。人間の方は、昼間、移動しながらグラクイを捜し求めた。
私とジェレミーは、旧の気象センターへじわじわと近寄る戦法を取っていた。最も危険なのは旧の気象センターの付近のはずだった。我々はあの戦闘の時まで気がついていなかったが、ああなってみると、建物の中で戦うことは、我々にとって危険きわまりないことだった。たとえ、電気があったとしても配線を切られたら、基本的に建物は真っ暗になる。夜目の利かない人間にとって、それはそのまま死を意味する。
「コッティ、来たな」
「はい」
グラクイが出現したのだ。こちらへ近寄ってくるだろうか? コッティは少し緊張していた。
「少尉、南の方角にも一匹来ています」
「別れるか。襲撃してくる可能性を探りたい。すぐには殺さないで、一度反応を調べろ。危険なら、即、殺せ。だめなら、すぐ逃げろ。身の安全には代えられない」
「わかってます」
私は気象センター方向から来たグラクイを担当した。こちらの方が危険性が高いと判断したからだ。
どんどん距離をつめた。向こうもこちらに気づいたらしい。しかし、逃げなかった。逆に距離をつめてきた。間違いない。好戦的グラクイだ。
私は逃げることにした。距離を離したかった。追ってくるかどうかも見たかった。
ヤツは追ってきた。ただ、二者間の距離は広がっていく。人間の方が、足は速いのだ。ピストルでは無理で、ライフルなら狙えるだけの距離が空いた地点で、ライフルを構えて、スコープで狙った。簡単だ。いや、標的は動いているので、実際にはそう簡単ではない。ただ、平原は身を隠す場所がないので、こちらが圧倒的に有利だ。
一発でしとめた。
頭に当てたので、首が飛んだ。
ざくざく近づいていって、足元で倒れているグラクイを見て、にやりとした。
だが、そのとき、GPSが入った。ジェレミーだ。
「コッティのGPSに衝撃があった」
最後まで聞かずに走り出した。衝撃があっただ? まずい。コッティが、近づきすぎたのか、奇襲を受けたか。
私は場所の確認をした。三匹いる。
最も近い一匹は、すぐに狙えた。うまい具合に立ち止まっていた。簡単だ。頭に命中した。多分、死んだろう。
走り出した。もう二匹は、ほぼ同位置だ。コッティの近くだ。
見えるところまできた。コッティに向かってグラクイが二匹走っている。コッティは動いているが遅い。足をやられたのかもしれない。
コッティが危ない。早くしないと……
立ち止まり、先頭のほうを狙った。銃声が響く。倒れた。
次のが立ち止まった。チャンスだ。続いて撃った。これも倒れた。
GPSを確認した。ほかはいない。OKだ。全速力で走った。コッティに切れ切れに命令した。
「今すぐGPSで移動しろ。立ち止まっても大丈夫だ。全部グラクイは始末した」
「ああ、少尉、腕を撃たれたので、かすっただけなんですが、撃てないので、距離をとろうとして」
「返事はいい。私からジェレミーに連絡する。移動しろ」
「はい」
ジェレミーに手短に説明した。ジェレミーも必死だった。
射程に近づく前に、もう一度確認した。生き返っていれば、赤い点がGPSに反応する。一応大丈夫だった。
彼らの武器を確認しなければならない。何で撃ったのか。
しかし、ちらとヤツのうちの一匹が動いたように思った。念のため、再度、何発か撃ち込んだ。
本当にあぶない。
どうせ、逃げられやしない。ちょっと様子をうかがっていた。近づくたびに何発か撃った。
多分、穴だらけになっていたろう。
実際、そばによって見たら、穴だらけでかわいそうなくらいだった。しかし、たとえば爆弾を持っているということも考えられる。
慎重に死んだグラクイの持ち物を確認していった。
武器は全部で二種類づつ持参していた。
ピストルと、レーザーガンを持っていた。私はそれぞれを確認し、写真にとってから、別々の袋につめなおした。
気になったのは、彼らの体つきがどうも小さい点だった。三匹とも、小柄だった。
私が最初に撃ったやつと、コッティを狙っていたもう一匹のヤツも、同じように分けて写真にとって、全部の荷物ごと基地に戻った。
ジェレミーは大慌てらしかったが、とにかくコッティはたいしたことがなく、すぐに復帰できるだろうという連絡があった。
「それは、よかった。私は襲ってきたグラクイと、その武器を全部集めていた。研究しておかないと今後に差し支える。持って帰る」
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