グラクイ狩り〜真実の愛ってどこに転がってますか〜

buchi

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第59話 敵対的グラクイの謎

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 パトロール時に、敵対的グラクイと遭遇することは、もうほとんどなくなっていた。出現率が、がくんと減ってしまったからだ。安全性は高まったが、不気味な感じだった。

 試しに卵を出してみたが、彼らは見向きもしなかった。まるで、また元の普通の野生動物に戻ったみたいだった。
 基地にこもって、コンピューターでデータをいじりながらいろいろ可能性を考えていると、オスカーがやってきた。

「おれだって不思議で仕方がないんだ。いきなり行動形式が変わるんだ。へんな連中だよ。なぜなんだろう?」

 オスカーの問いに私たちは黙った。


 私は勝手に攻撃的グラクイの裏には、第二のジャニスがいると信じていた。
 だが、それが誰にせよ、その人物の目的が何なのか、誰にも想像もつかなかった。

 軍の人間を攻撃する意味がなくなったのだろうか。
 
 ある考えが頭に浮かんだ。
 今は、グラクイの増殖を計画しているのかもしれない。

 もし、グラクイを増殖させたら?
  空はもっと暗くなり、人間は不利になる。
 今は人間の方が有利だ。少なくとも、今のところバルク隊は無敵だ。出会ったら最後、グラクイは撃退されている。でも、もっと空が暗くなったら?

「まずいな……」
 

 ジャニスは何を考えているのだろう。

 ジャニスはきっと邪悪な人間なのだろう。
 パレット中佐の隊を全滅させたのは、グラクイの希望ではない。明らかにジャニスの命令によるものと思う。

 ジャニスはグラクイを支配下に置いたが、公表をしていない。グラクイの生態を解明したのなら、本来は発表していいはずなのに、敢えて黙っている。つまり、秘密にしたいのではないか。

 理由は何か。グラクイを何かに使いたいのだろう。秘密の目的に。
 そして、その秘密の目的は人に言えないものなのだろう。

 人に言えるのなら、こんな大発明を黙っているはずがない。
 世間から喝采を浴び、ことによると、特許を取り、すごい大儲けができるかも知れないのだ。グラクイを利用して新たなサービスを始めることも出来るかもしれない。

 私は、バルク少佐と一緒にジャニスを狙撃しに行った時のことを思い起こした。
 ジャニスは、グラクイに食事を運ばせたり、掃除させたりしていた。
 もし、本当に、グラクイに命令することが可能なら、介護用や家事用に、グラクイは使えるに違いない。
 グラクイをロボットの代わりに使えば、大もうけが出来るかもしれない。
 命令のインプットの必要がないからだ。口で言えばいいだけだ。
 夜が得意なのと、完全沈黙が保証されているので、どうもダークな仕事ばかり発注されそうだが……例えば、殺人とか、窃盗とか。

 もっとも、彼らの吐く呼気が、本当に、空を暗くしている原因なら、そんな呑気な金儲けの話では済まない。
 グラクイを増殖させて、空をもっと暗くしたら、そのジャニスに逆らえるものは誰もいなくなってしまう。
 

 もし、光度が徐々にでも落ちているようなら、グラクイの個体数が増えているか、個体が大きく成長しているかの可能性がある。観測地点の増加と定期的な観測が必要だ。

「気象チームは、空の光度を測っているのだろうか。検査チームは動いているのだろうか」

 ジェレミーは知らないといった。私は自分で問い合わせをするしかなかった。最近は、オーツ中佐も私の奇妙な問い合わせに馴れてしまい、あきらめて各部署へつないでくれるようになっていた。

「それは、必要なのかな?」

 ばかげた質問をしながら、オーツ中佐自身、必要なことは理解しているようだった。でも、実行するのが相当面倒なので、あえて聞いたのだろう。

「必要なようですね」

 私はおとなしく答えた。こんな作業が面倒なことはわかっていた。しかし、きちんと計測すれば、グラクイの動静が把握できる。

「少将に上げてみよう。私も最近は、いろいろあってね。なかなか手が行き届かなくて」

 パレット中佐の事件が公表されて以来、軍には、不気味で目に見えない敵と戦うイメージが付きまとっていた。得体の知れない恐怖だった。

 軍の基地の中は、絶対的に安全ですといわれても、戦場は常に戸外だ。

 グラクイは一言も発さない。どこから湧いて出るかわからない。人間を集団で襲う上に、その目的は人間には理解できない。

 パレット隊の惨殺事件の詳細は、いくら軍が隠しても、どこかからばれていった。雑誌などは恐怖をあおるように書き立てていたし、ネット上では、パレット隊の生き残りと称する人物の体験談まで載っていた。
 ウソばっかりだ。なぜなら、生き残りなんかいないからだ。全員死んでしまったからだ。
 中佐は、その後、バルク隊が乗り込んでいって、グラクイを全て蹴散らした話を発表しようかと悩んだらしいが、前提として、全員死んでしまったことも、オマケで、もう一度公表することになる。みんなが、せっかくその事を忘れかけているのに。
 結局、いろいろ計算した上で、あきらめたらしかった。

「載せたところで、どうせ、平和慣れした連中の度肝を抜いて、思い切りビビらせるくらいの効果しか期待できませんよ。来年の入隊希望者がいなくなるのがオチです」

 私は、中佐に向かって言った。

 軍に入れば、人類の敵と戦えて、ヒーローになれるなら、まだ、応募のし甲斐もあるのだが、軍隊以外は襲われたことがまだ無いので、人類の敵が確定したわけでもない。

 しかも思い切り危険である。危険はかえって入隊希望者を増やす場合もあったが、相手が悪い。グラクイは襲い掛かってくる理由がわからない不気味な生物だった。


 静かな数週間が流れていき、私はパトロールに出かけるほかに、研究機関との連絡や、観測結果の分析などに没頭していた。
 腕の傷は完全とは言えなかったし、今はパレット隊が完全に消失していた。無理をしてはならない。なにかあったときに迎え撃てる体勢であるように。
 
 今、ここでやらないと、グラクイは、どんどん遠くへ行ってしまう。
 よく、わからない何かに連れられて、もっと手に負えないことになるのではないか、そんな予感がしてならなかった。

「でも、これ、無駄じゃない? ノッチ」

 ジェレミーまで、内心、そう思っていたらしい。

「そもそも、根絶なんか無理だし、グラクイを根絶させたら、軍はやることがなくなってしまうぞ?」

「安全のためにやってるんだよ。グラクイの根絶なんか、無理に決まってるよ」

 野生動物を絶滅に追い込んだら、どんな騒ぎになるか、身の毛がよだった。
 
「測ったり、データを記録するだけだよ」

 ジェレミーが不思議そうにしていた。

「ずいぶん熱心だなあ……」


 だって、仕方ないじゃないか。

 この仕事の意味が分かっているのは、自分だけだった。
 この前、ハンスの店で、レッドの四人に問い詰められた時のことは忘れられなかった。

 できることがあるのだ。

 だから、やるのだ。否も応もないのだ。
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