グラクイ狩り〜真実の愛ってどこに転がってますか〜

buchi

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第60話 謎のピクニック(安心して抱きしめられろ? 意味が分からん)

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 翌日、パトロールに出ようと基地に行くと、バルク少佐とジェレミーが待ち受けていた。二人とも、なにかあるらしい顔つきだった。私はきっとまた、なにか新しい作戦の準備があるのだと思った。

「そうなんだ。いつも急で悪いな」

 少佐は着いて来いと身振りをすると、例の防音の会議室へ行った。

「中佐が待ってる」

 会議室には窓がなかった。
 どの部屋にも窓はなかった。作る意味がないのだ。光なんか入ってこないからだ。外気を取り込むためなら、穴だけで充分だ。

 中では、中佐が待ち受けていて、私にバルク少佐とある作戦に参加するようにと伝えた。テストをしてみると言うのだ。

「まあ、おいおい作戦中に詳細は伝えるが、多分たいして危険じゃない。いきなりですまないが、今日の午後からスタートするから、十二時に基地に集合だ」

 私は、会議室を出てから、少佐に、糧食は持参する必要があるかと聞いた。少佐は少し考えてから、要らないだろうと答えた。

「多分、夕方までには帰ってこれるから、いらないだろう。まあ、飲み物くらいはあったほうがいいかもしれない。ただし、テントがいる。そっちのほうは、私が用意するから。ライフルと光ボムは用意しとけ」

 私は首をかしげた。なぜテントが必要なのかわからなかった。日帰りなのに?
 だが、少佐はさっさとどこかに行ってしまって、戻ってきたのは、十二時少し前だった。

 その時間には、ジェレミーはすでに待機していて、中佐も待っていた。少佐が中佐より後から来るだなんて、おかしな話だ。
 準備はすでに整っていて、基地には私にはよくわからない緊張感のようなものが漂っていた。

「準備はいいか? じゃ行くぞ」

 少佐は簡単に指令した。そして、先に行ってしまった。

 ちょっと戸惑いながら、私は指定の位置に飛んだ。



 どさりと地面に落ちると、数メートル離れたところで、バルク少佐も着地していた。

 彼は、荷物を降ろすと場所を検分して、

「さあ、テントから始めるか。ベースはここだから」と言った。

 大体、なぜ作戦の内容を言ってくれないのかよくわからない。しかし、中佐もジェレミーもみんな納得しているらしいので、とにかくテント張りに従事することにした。

 二人とも馴れているので、すぐに済んだ。

「で、この後はどうするんですか?」

 私はたずねた。

「うん。この後は、ここらへんでごろごろするしかないんだ」

 私は、少佐の顔を見た。少佐は、彼にしては珍しく、ちょっと困った顔をしていた。

「ごろごろ……ですか?」

「そうなんだ。無駄話でもしながらね」

「少佐、どうして言ってくれないんです? 作戦の前に普通は手順を伝えてくれるでしょう」

 私はむくれた。少佐の方は、かなり当惑した表情をしていた。
 この人が困った顔をしているのは珍しい。

「囮なんだ」

 私は驚いた。

「またですか」

「うん。また囮なんだ。我々は余程囮にご縁があると見える」

 バルク少佐が言った。

「どうして囮になれるんですか? また、なにか第二のジャニスとご縁があるとか?」

「そう。第二のジャニスが誰なのか、特定できたんだ」

 私はびっくりした。ビッグニュースじゃないか。

「まだ、発表されていないんですか? 確証がないということですか?」

「実は、かなりの確率で特定はできている。でも、まだ、言えない。もう少しだけ待ってほしい」

 私は黙った。こういうことはよくあることだ。
 しかし、私たちは今、囮になっている。これは誰を引っ掛けるための囮なんだろう。第二のジャニスか、それともその関連の誰かなのだろうか。

「でね、まず、お茶を飲むところから始まるんだ。」

 お茶?

「ピクニック風を装う」

 そういうと、少佐は自分からお茶の用意を始めた。

「そして、とても楽しそうな雰囲気を醸し出して」

「なぜ?」

「そういう囮なんだって。実は、私だって、すごく困っているんだから。協力してほしいな」

「はあ」

「いかにも、遊んでいる風でお願いします」

 そんな変な注文は初めてだ。

 二人で用意したので、すぐに済んだ。

「ビスケットもある。くつろいだ感じで」

 言葉の割には、なんだかピクニックの雰囲気がまるでなかった。むしろ、すごい緊張感が漂っていた。

 二人で差し向かいで、黙って、お茶とお菓子を食べていた。

 灰色の草原は、全くピクニックには不向きだった。別に見るものもないし、戸外用の戦闘用ウェアを着こんでいるので感じないが、多分、気温は零度近くで、快適とは程遠いはずだった。お茶があっという間に冷めてしまう。

「あの、少佐……」

「うん……」

「これ、なんなんですか?」

「だから、囮なんだ。飲み終わったら、次をやるので」

「次?」

 意を決したように、少佐が向き直った。

「ええと、抵抗しないでほしい」

「はあ? 何を?」

「まず、横に座ります」

 なに? これ
 二人で並んで座った。訳がわからない。

「あの、すみません、少佐。作戦の理由を教えてもらうわけには……」

「あとで。今は、ここで語らわなくてはならない」

 こんな少佐は見たことがない。確かに困り果てているようだった。いつもは大声で、ガンガン指令を飛ばすのに、すっかり自信なさげで、目を伏せてしょんぼりしていた。
 たまにはいいんじゃないだろうか、こんな少佐も。なかなか、かわいい。

 大体、少佐と一緒の時は、命がけだったり殺人だったり、ロクな仕事ではなかったから、あまりよく見たことはなかったが、別にまずい容貌ではなかった。
 彼の年齢の正確なところは知らないが、娘が学校を卒業したと言っていたから、もうたっぷり四十は回っているはずだった。だが、見たところは相当若くて、三十代に見えた。禿げてもないし、デブでもなかった。
 
「語らう? 何を」

「う……。そう、常々、思ってたけど、いつまでグラクイ狩りを続ける気なんだ」

 思わず、びっくりして少佐の顔を見た。
 
「どういう意味ですか?」

 今度は、この話題については、いつものバルク少佐に戻っていた。

「君はもう三十だ」

 バルク少佐は、もう四十代だろう。

「そして、こんなに細い。細すぎる。君の体格はハイディとは全然違う」

「それがなにか」

「無理をしないでほしい」

「無理ではないと思います」

「一番危険そうなところへ行くだろう」

「たまたま任務がそうなっただけです。指名したのは少佐です」

「そういうこともあった。君が一番適任だったからだ。だけど、何回も怪我をしている。そろそろ限界だろう」

 嫌な顔をしてそっぽを向いた。なにが楽しいピクニックだ。

「グラクイの研究の専門に変わった方がいい……心配だ」

 え? 何がどうして、心配だって?
 少佐が私を心配しているところなんて、見たこともない。

 と思ったが、横に並ぶ少佐を見て、思い出した。

 彼は心配していた。と言うより、気にしていた。

 もしかしたら、ギルよりずっと気にかけていた。その気にかけ方は、まるで空気のようで、知らん顔をしているのに、ずっと透視しているみたいだった。
 そして、少佐の方は大人なだけに、本当にわかりにくい気にかけ方だった。多分、気が付いていたのは私一人だけだったろう。

 いつからだったか忘れたが、そう、あの旧の気象センターでグラクイに襲われて入院した時以降、彼は怒らなくなった。


「ギルと付き合っているの?」

 唐突に彼が聞いてきた。

 ものすごくびっくりした。

「そんなことに関心があるのですか?」

「関心がある……かも知れないが、それより、ちょっと事情があって……」

 また、訳のわからない、煮え切らない態度で聞いてくる。

「ギルの恋人だと聞いたが」

「違います」

 思い切り否定してしまった。

「好きなんじゃないの?」

「そういう意味で好きじゃありません。仕事仲間としては大好きです」

 ほうとため息をついていた。

「よかった。安心して続きができる」

 はあ? 安心して続きができる?

 次の瞬間、私は少佐に抱きしめられていた。

 びっくりした。

 あんまり、びっくりしすぎて声も出なかった。
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