グラクイ狩り〜真実の愛ってどこに転がってますか〜

buchi

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第66話 囮作戦を悪意的に解釈する

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 これは、少将による私の取り込み作戦に違いなかった。

 バルク少佐がおとり役に立候補するのを見て、彼は私を取り込むよい方法を思いついたのだろう。

 軍の中でバルク少佐(あるいはギルでも。誰でもいいが)と公認の仲になっておけという提案は、私を軍の中でがんじがらめに監視するためだろう。

 これを軍の仲間に知らせておけば、軍のメンバーは私を当然そういう眼で見る。

 少しでもおかしな行動を私が取れば噂になる。たとえば、元の夫に好意的なことをしゃべったとか、そんなささいな言動すら、このことに関心を持つ普通の人たちの間では噂になるだろう。作戦部にしてみれば安心だ。実にいい方法だ。裏切りを防ぐために。

 逆に中佐は私の意思確認に来はしたものの、私をよく知っているので、裏切り防止ではない提案をした。彼は本心から、バルク少佐と私のことを思って提案したのだ。
 この提案役をオスカーがやらされていたら、相手がギルに代わっているんだろう。

 男を使って軍の味方につくことを確実にさせ、作戦にやる気を起こさせようだなんて、よく人間がわかっていらっしゃるのかもしれないが、馬鹿にしている。

 少将は普段の私を知らないので、信用し切れなかったのだろう。
 あるいは、信用していたとしても、この方が確実だと思ったのだろう。

 気のいい中佐は、そのまま乗せられてきたのだろう。私の感情は、少将の手玉に取られるためのものじゃない。

「彼の心情を思うと放っておけない……か。うまいこと言うな。」

 中佐のコーヒーカップを手にしながら、私はつぶやいた。カップを一瞬、割ってやろうかと思った。
 誰もが信頼する軍のメンバーという言葉は、入隊して間がないギルを指す言葉ではないだろう。中佐の場合は、少佐を指しているのだろう。

 私は怒ったけれど、中佐が帰ってから冷静になると、このおとり作戦には、私を監視するほかに、スコットの猜疑心をあおる面もあることに気づいた。

 スコットと私は夫婦だった。もし、私がスコットが第二のジャニスだったことを知り、夫のために軍の情報を流そうとしても、バルク少佐が演じたあの場面を見れば、スコットは簡単には私を信用しないだろう。

 私に第二のジャニスがスコットであることを知らせた時には、囮作戦は始まっていた。私がスコットの信用を取り付けようと思っても、もう手遅れだ。

 また、万一、私が以前から誰が第二のジャニスなのかを知っていた場合も、あの場面は、スコットの猜疑心をあおる。私を信用しなくなるだろう。もし、私がスコットに情報を流していたとしても、スコットは今後その情報を信じなくなるだろう。

 あの作戦の内容は、私には絶対知らせてはならなかったのだ。

「私情には私情を、というわけか。すごいな。スパイ全滅作戦だ。少将が考えたのか。私は誰から見ても裏切り者と言うわけか」

 私は、コーヒーカップを片付けてから、シャワーを浴びて、歯を磨くと、ぐっすり寝ることにした。不眠になるほど悩むだけの価値はないだろう。自分のために眠るのが第一だ。

 兵を手駒として、スコットに勝負を挑むタマラ少将を考えると、鼻が曲がるほどのエリート臭を感じざるを得なかった。

 タマラ少将は肝心なことを知らないのだ。
 私がそんな人間じゃないということだ。

 それと、タマラ少将が考え付くくらいのことは、私だって気が付くということだ。
 だから、もし計算の上で、こういう提案をされたなら、された側は激怒するということも当然頭に入れておかなくちゃなるまい。まさか、気取られないとでも思っているわけじゃないだろう。
 代理人を使って、もっともらしい愛の告白をさせれば、(たとえ気に入らない相手だったとしても)有頂天になって、飛びつくとでも思っているのかな。なめられたものだ。
 

 
 翌日、基地に出てみると、私はパトロールに行っていいことになっていた。外出制限はないらしい。まあ、そのまま毎日が囮の生活だが。

「ジェレミー、あの囮作戦、見てたのかい?」

 ジェレミーがいたので、さすがに、聞かないではいられなかった。

 ジェレミーは少し困った様子だった。

「君の同意はなかったそうだね」

「聞いたんだったら、わかったろ。少佐に抱きつかれて、もう、どうしようかと思ったよ。テントのふたを閉めた時点で、離してくれて事情を教えてくれたけど」

 私は笑った。

「なんだ、笑ってるのか、よかった」

 ジェレミーは少しほっとしたようで、微笑んだ。私は単刀直入に聞いた。

「ジャニスが誰だか聞いたかい?」

 ジェレミーは答えてくれた。彼もはっきりさせておいた方がいいと判断したのだろう。

「ああ。あんたの元のだんなだって聞かされたよ。だから、ぼくも君に何も伝えられなかった。極秘事項だ」

 ジェレミーは私の反応を見ていた。

「そうらしい。困った話だ。もう、これからは毎日が囮生活だ」

 私は、いつもは少佐が座っている席にどさりと座った。

「それで、その話はみんな知ってるのかな?」

「いや。少佐より下はぼくだけだと思う。後の連中に話す必要はなかったのでね」

 ジェレミーは答え、私は黙った。

「これで、私は裏切り者扱いかもしれないな。パレット隊二十人分の恨みを背負うかも知れない」

「君がここ二年間、軍を離れたことがないことをみんな知っている。パレット隊を救出に向かうとき、先頭を切って走って行ったのは君だ。一番負傷していたのも君だ」

 私は黙っていた。

「だがね、ジェレミー、そんなこと何の役にも立たないかもしれない。まあいい。とにかく、軍は私にパトロールに出ていいって言った。私をよく監視してくれよ。疑いをかけられたくない。それともうひとつ、ジャニスは私に対しても特に情け容赦があるとは考えにくい。昨日だって本気だった。本気で殺す気だった。特に他の男といちゃついてるような妻に容赦しないだろう」

 ジェレミーは、はっとしたようだった。私は続けた。

「私を殺すか、何をする気なのか、ジャニスがどう出るか全然わからない。私にはわからない」

「ノッチ、でも、それは、その状態で、パトロールに出ろというのは危険なんじゃないのか」

「危険だ。とても危険だ。でも、それがタマラ少将の狙いだ」

「君を殺すことか?」

「違う。そうじゃない。タマラ少将の狙いは、ジャニスをおびき寄せて殺すことだ。私はそのためのえさだ。えさは目に付くようにパトロールに出なくちゃダメだ。えさとして機能すればいいんだが」

 ジェレミーは、緊張した顔で私を見つめていた。彼は第二のジャニスの性格なんか知らないし、私ほど事情に通じていない。しかし、話は大体わかったようだった。

「最もうまくいけば、えさとして機能して、ジャニスが、おびき寄せられ殺される。私は生き残る。あるいは負傷する。または死ぬ。
 次点は、えさとして機能したがうまくいかなかった場合、つまりジャニスに逃げられてしまった場合のことだ。この場合でも、私が生き残るケースと、死ぬケースとが残る。
 負傷してでも、生き残りさえしたら、利用価値はある。また、何回でもえさとして使われるだろう。でも、回数が増えるほど、値打ちが下がるだろうな。
 えさとして機能しない場合は、何も起こらない。ただの兵士だ」

「ノッチ、えさとして機能しないよう望むよ」

 呆然としたジェレミーが言った。

「最もうまく行けばと言った。みんなのためには、最もうまくいかなくてはならない。すなわち、早い時期のジャニスの死だ」

「ノッチのためには、機能しないほうがいい」

「機能しないこともないんじゃないか。昨日の有様を見ていると」

 私はうそぶいた。それから、下を向いた。
 話しているうちにようやく気づいた。これは、過酷な運命だった。命を危険にさらしながら、囮として荒野をさまよい続ける。やりたくない。
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