グラクイ狩り〜真実の愛ってどこに転がってますか〜

buchi

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第67話 ダメな感じに、思考が向かってると思う。自虐的?

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「せめて、護衛をつければ……」

「殺す気か、拉致する気かわからない。それがわかるまではダメだ。拉致する気だったら、護衛が危険だ。私が助かっても護衛が殺されるかもしれない」

「拉致されたら、どうなるんだ」

「知らない。想像がつかない」

 私は下を向いたまま答えた。やりたいわけではなかった。だけど、ほかにどうしたらいいのか。第二のジャニス、スコットの行動の理由の一つは私のせいかもしれなかった。いつかのバルク少佐と一緒だ。それを思うと、荒野に出かけないではいられなかった。
 私は、ジェレミーのほうに向き直って、本来の目的を頼んだ。

「だから、昼間パトロールに出してくれ。まだ、危険が少ないし、自分で何とかできる範囲が広がる。それにジェレミーたちも昼間の方が監視しやすい。万一、ジャニスが出てきたらチャンスだ」

「チャンスってなんの?」

「話を聞いていなかったのか? ジャニスを殺すチャンスだ」

「そんなもの、ジャニスが街中にいるときにズドーンと。街中なら、グラクイはいないじゃないか」

 私はまじめな顔で、指を振って見せた。

「だめだめ。殺人罪に問われる。戦場認定されているここでなきゃ。『戦闘中の殺害は殺人罪に問われない。』」

「だって、ジャニスは実際に二十人殺している」

 ジェレミーは憤慨して叫んだ。

「それは戦場での話だ。それにジャニスの命令によるものかどうかの証明が出来ない。だから、早くカタをつけるために、今、ここでジャニスを始末しようと苦労している」

「それはおかしいだろ? ジャニスは許されるのに、こっちはダメなのか? パレット少佐の事件は奇襲攻撃だった。卑怯だ」

「ダメなんだ。それじゃ。だから、我々も卑怯な手に出ようとしている。元妻を使って、彼の感情を逆なでしている。ジャニスのプライドを傷つけようとしている」

 ジェレミーは、私がその手口を思いついたかのように、私のことをにらんだ。

「なぜ、個人の犠牲の上にたつような計画を立てるんだ」

「一番、早くて、効率的で、犠牲が少ないからさ。議論の余地はない。算数の問題なんだろ」

 だから、一応納得しているんだ。仕方ない。

「死ぬとしても私一人だ。長引けば、別のもっと大勢の兵が死ぬかもしれない。ジェレミー、だから頼むよ。よく監視しててくれ。ジャニスが出てきたと時、どうするかの手筈は、もう決まっているんだろう」

「ああ、決まっている。だがね……」

「たとえ、それが私を必ず殺す作戦だったとしても、仕方ないことだ。それに、ジャニスが全く出てこない可能性もある。ただグラクイばかりが出てくる可能性もある」

「それもいやだ。ノッチ、その場合単に君の危険性が増えるだけで何の成果も出ないんだろう」

「そのとおりだ」

 私は、のめりこむような少佐の椅子から立ち上がった。彼は大きいのに私は背が低かった。この椅子は体に合わない。
 あの二十人のことは私の責任じゃない。関係ない。少佐だって、自分が勝手に立候補したんだ。自分のことくらいどうにかできるだろう。

 全部分かっているが、それでも私はここで、囮になって暮らす。なんでこんなバカなことをしているんだろう。どうして、とっとと逃げ出さないんだろう。
 死んだ仲間のことを考えると、一歩も動けない気がした。もし、万に一つでも、チャンスがあるなら、チャレンジしようと思う。どうせ誰も私を助けられない。
 
「少佐の椅子に座り込んでいるのが、ばれたら怒られるからな。それから、今のは内緒だぞ」

「どこへ行く、ノッチ」

「射撃場だよ。練習しとかなきゃ」

 私はゆっくりと倉庫へ消えた。
 気に入りの銃と糧食を選ぼう。
 私に残されたものは自分だけ。自分となじみの銃だけだ。

 いま、日常を離れることは動揺することだ。動揺すればするほど、危険性が高くなる。命中率が落ちるだろう。注意力も。それはそのままうかつな死を意味する。

 鼻が曲がるほどのエリート臭の、人を人とも思わない人間の手の上で転がされて死ねるか。
 私は、誰もいない倉庫の暗闇の中でゆっくりライフルを手にとり、狙いをつけてみた。
 スコットもタマラ少将も頭はいいかもしれないが、私だって彼らが考えそうなことくらい見当が付く。
 私は大体へそ曲がりなんだ。彼らの思うとおりになってたまるか。
 私のことは放っておいてくれ。なぜこんなところで私の心を踏み潰すんだ。

 私は、制服のまま射撃場に乗り込んで、3時間続けて練習した。
 見物が山のように出たのかもしれなかったが、全然気にならなかった。
 完全無視した。食欲は全然無かったが、時間になったので軍の食堂で飯を食い、また撃ちに行った。そのあと簡単に飯を済ませ、健康的に風呂に入り、猛烈に疲れていたのでありがたいことに眠ることが出来た。

 翌日は朝早くから基地へ出かけ、レッド隊と打ち合わせした後、ひとりでパトロールに出た。
 誰にも会いたくなかった。
 中佐も少佐も、私に話す言葉はもうないだろう。私だってあるものか。

 私は荒野でまたもやライフルを担いで、たったひとりで立っていた。

 灰色の風が渡る。
 風が吹くと草がなびく。
 太陽はないが、雲が模様を描いて空を流れていく。
 子供のころ、果てしがないように見えるあの荒野の先には、何があるのだろうと想像していた。
 大人になって、なにもないのだとようやく気が付いた。
 何かがあるかもしれないのは、そこに人がいるからだ。
 今の私には誰もいなかった。

 定期的にグラクイの存在をチェックしながら、私はただ黙っていた。
 風景が心にしみた。
 自然や美しい物はそれだけで傷む心を癒してくれるものだ。
 それから、思い出したが、私以外の人間には、この流れゆく雲やかすかに光るオーロラめいた光は見えないらしい。

 その日のパトロールは何事もなくすんだ。


「続けなくてはならない。私が定期的にパトロールに出てくることを自然に知ってもらわなくてはならない」

 基地へ戻ってきた私はジェレミーに向かって言った。

「そうすれば、ジャニスが出てくる可能性が増える」

 ジェレミーは理解していた。

「可能性かもしれないが、危険性というほうが正しいよ。危険性が高まっていっていると」

「うん。でも今日は何もなかった。案外えさとして機能していないんじゃないかと思いたい」

 私は笑った。レッドの他の連中は私とジェレミーを遠巻きにしていた。ジェレミーあたりがみんなに話したに違いない。自分で事情を話す気にはとてもなれなかったので、正直言って説明してもらって、ほっとした気分だった。

 でも、彼らの中へ入っていく気にはなれなかった。事務的な仕事は無論こなしたが、それ以上のことが出来なかった。今日はだめだ。だが、明日ならきっと大丈夫だ。
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