グラクイ狩り〜真実の愛ってどこに転がってますか〜

buchi

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その後のエピソード

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 私は聞いたこともない、新設の変な部署に転勤したが、実質上は、例の基地に始終出入りしていて、よく荒野にフィールドワークのために出ていた。

 研究のためのグラクイが必要だったのだ。
 グラクイを捕まえるのはお手のものである。

 ただ、最近のグラクイは、以前同様、臆病な野生動物に戻ってしまっていて、捕まえるのが一苦労だった。

 この前の作戦の時に回収していた卵が役に当たった。
 孵化条件があまりはっきりしなかったので、困ったが、例の少佐の妻の文書は、なかなか役に立った。
 少佐は猛烈に嫌がったが、その日記はデータ化され、分析され、大勢の人が読まれた。
 多分、ローレンス博士の大学にもデータのコピーは残されていて、貴重な文献として、たくさんの研究者に読まれていることだろう。

 世の中はなかなか楽しい。

 私の後ろには、かつてのジャニスのように、忠実なグラクイが何匹もついて歩いていた。グラクイはファミリーなのだ。
 言語能力は恐ろしいほどで、実に簡単に習得した。ただし、生後決まった期間のみになる。
 ラテン語を教えるのはどうかと思ったので、普通に英語になったが、オスカーもジェレミーも、みんな、かなり驚いていた。
 今や、掃除や食事の支度はグラクイがやっている。夜中だ。昼間は彼らは寝ていた。

「こりゃいい。助かる」

 ジェレミーとオスカーの妻に頼んで、家事に使ってもらってみたが、二人とも大満足だった。
 夜、ごそごそ動くので、真夜中にトイレに行って悲鳴を上げたこともあったらしいが、これはオスカーの妻が、かわいらしいエプロンを買ってきて着せることで解決した。
 かつての銃を構えたグラクイを思うと、エプロン姿は、そぐわない気がしたが、この格好なら誰も悲鳴を上げないだろう。

「もう、この方法でグラクイを売りだしたらいいんじゃないかな? エプロン付で。いい値段で売れると思う。嫁さんにクリスマスプレゼントしたら、きっと、どんな家庭内問題も一瞬で消え去るよ」

「こんなので、ほんとうにいいのか? どこかの団体が、奴隷制度の復活とか言ってきそうだが……」

 私は真剣にそれが心配だった。

 オスカーの妻が、ギャップを面白がって、エプロン姿のグラクイの写真を、ネットに上げたがり、止めるのに一苦労した。

「かわいいわよ」

「(かわいいのは、エプロンだけだって)
止めて。なんか、変な保護団体とか、結成されそうだから」


 肝心の呼気の研究の方は、なかなか進まなかった。
 だが、ポイントはわかっているので、単に可能性を潰していけばいい作業だった。研究なんて、どこで当たるかわからない。この場合は、回答が必ずここにあるとがわかっている。

 タマラ少将は意外なところで、点数を稼いでいた。

 私の知らない間に、スコット家を相手に訴訟を起こし、元妻にかなりの遺産を渡すことに成功していた。

「彼は犯罪者だ。双方ともにとって、つまりあんたとスコットの家族のことだが、黙秘は望ましいことだ」

 少将は、訴訟が終わりかけた頃に、ようやく説明してくれた。
 と言うより、訴訟は出した途端に終わっていた。

 スコット家は、家の名が出ることを、何があっても回避したがった。訴訟どころか、進んで払いそうな勢いだった。

 愛する息子の死は、受け入れがたかったに違いないが、詳細をきちんと理解すれば、残った家族の世間体の方が大事になるに決まっていた。
 ほかの家族たちは、この先も生き続けていくのだから。悪い評判の元で暮らすのはつらいものだ。彼らには何の責任もないのだもの。
 そして、それは、私も全く同じだった。

「そんなわけで交渉は成立した」

 タマラ少将は、ちょっと嬉しそうだった。 
 そんな金は欲しくなかったが、少将は言った。

「金は金だ。受け取っておくといい。スコット家にとっては、はした金だ。こんな少額で沈黙が買えたら、彼らにとってはむしろ有難いだろう」

 私とユージンは、少将が得意そうに差し出した紙を覗き込んで、ぎょっとした。

 見たこともない大金だった。

「これは……」

「彼らは、金額が大きいほど、安心だと思ったのだ。保証が大きいと考えたのだ」

 金も名誉もある金持ちの発想なのだろう。

「君たちにとっては、問題は金額じゃなくて、双方が、公言しないことを確約した点だと思う。これで世の中であれこれ取り沙汰されることはない。静かに暮らせる」

 少将は、私に向かって、真剣に言った。

「それにだ。私だって、君が今やっている研究の値打ちは百も承知だ。すごい価値があるのもわかっている。だけど、軍が代価を払うわけにはいかんのだ。
 これ以上、無理矢理、昇進させるわけにもいかない。
 だけど、妥当な見返りはなくてはならない。でないと、君はまた、どこかへ行っちゃうかもしれない」

 私はちょっとあっけにとられた。

「だから、スコット家に払ってもらうことにしたんだ。キャンベルと言う名前を発明したのは私だから、軍が払ったと考えてもいいだろう?」

 ずいぶん、めちゃくちゃな理屈だ。
 だが、マスコミから警察から、軍の内部まで、キャンベルの名前で通せるよう、全部彼が手配したのだ。少将のおかげには間違いない。

 もちろん、最初から、そんなつもりだったわけでは、なかっただろう。だって、私が土の話を少将にしたのは、キャンベルの名前が出た時より、ずっと後だったのだ。

 だが、彼は、何らかの報酬があった方がいいと思いつき、次に、簡単にお金を儲ける方法を思いついたのだろう。

「君には、正直に言っておかないとね。でないと、すぐ深読みするだろう。
 スコット家だって、金でカタが付けば、安心できる。これで、みんなが安心して暮らせる。不満が出ないと思う」

 私が、内心、ほっとしたのは否めない。
 それは、スコットの家族も同じ思いだったろう。

 私はユージンの顔を見た。彼は微笑んだ。

「もらっておけばいいと思う。なにがあるかわからないしね」



 グラクイの研究で、軍の施設ではできない分析部分は、大学を経て委託されていた。

「大学に戻ってきてくれるなら、大歓迎だよ。それは、あなたの意志次第だからね」

 ローレンス博士は、なにか奥歯にモノが挟まったような、そして、物欲しそうな口調で言った。

 最も肝心な部分は、私と軍が握っていた。

 ここで、私が抜けて大学に移るとバランスが狂って、がぜん大学が有利になるのだ。
 なにやら、謎の取り決めが(とは言え、内容の方は大体想像できたが)存在していて、軍と大学の役割と取り分が細かく決められているようだった。
 多分、そのせいで、ローレンス博士は、彼が望むほど、グラクイのご利益にあずかれないでいるのだろう。
 さすがタマラ少将は、法律の専門家だけあって、その分野ではローレンス博士を完全に出し抜いたのだ。

 唯一、その取り決めを台無しにできるのが、私の自由意志だった。

 私が退職するのは自由だった。

 だから、博士はそれとなく大学に戻らないかと勧めてみたりする。

 それを聞くたびに、厳然と構えたタマラ少将が、ほんのわずか心配そうな表情を浮かべるのを見るのは、実はちょっと愉快だった。

 
「行かないよ、ユージン」

 私は答えた。彼は、私が大学へ戻るんじゃないかと心配になったらしい。

「どこにも行かない。ずっと、あなたのそばにいるよ」
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感想 2

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みんなの感想(2件)

みたんこ
2021.07.24 みたんこ

余計なお世話だったら申し訳ありませんが、ハヤカワSFコンテストの募集リンク貼っておきますね。
とても面白い作品でした。ぜひぜひご一考くださいませ。


https://www.hayakawa-online.co.jp/smartphone/news.html?date=20210629122422

2021.07.25 buchi

こういったコンテストがあること自体知りませんでした。と言うより探そうと思いませんでした。教えてくださってありがとうございます。あらすじを強制的に読まさせれる人のことを思うと、かわいそうですが、そこは仕事と言うことで。こんな風に気に掛けてくださる方がいることに感謝です。

解除
みたんこ
2021.06.09 みたんこ

まだ読み始めたばかりなのですが、“ハヤカワ文庫” っぽいSF作品で面白いです。
今時はSFではなくて異世界モノっていうのかな? でも、ネット小説でみかけるファンタジーな異世界とは一線を画している骨太さ。
まだ序盤なので、この先も楽しみたいです。

2021.06.09 buchi

ありがとうございます。誰も読んでくれないので(笑)、ぜひぜひ読んでくださいませ。自分的には一番のお気に入りなのですが、逆にそう言うモノは読んでもらえませんので。

解除

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