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第7話 護衛のヘンリー君を紹介される
翌日、私がいつも通り仕事を終えるとグスマンおじさんが、紹介したい人がいるんだと言いだした。
「ここの市場の関係者なんだよね」
「はあ」
連れてこられた人は、薄い金髪の髪が頭にへばりついている小太りの男性だった。
「ヘンリー君だ」
グスマンさんは、なぜか額に汗をかいていた。
「私も市場の管理の仕事が忙しくてね。まあ、この店は人気で強引に買いたがる客が来るので誰か護衛がいた方がいいかなって」
「護衛ですか」
私はヘンリー君を上から下までじっとり観察した。
真っ青な丸い目が印象的な色白のおじさんだ。小太りでポチャポチャしていて、気が弱そう。
どう見ても筋肉質ではない。
護衛なんか絶対無理なんじゃ?
グスマンおじさんも、私の目つきの意味に気が付いたみたいだ。
「まあ、お客の整理係だと思えばいいんで」
「そうです」
ヘンリー君はにっこり笑って握手してきた。
「じゃ、私はこれで」
グスマンさんは走るように去っていき、私はヘンリー君と二人取り残された。
「僕、こういう客商売は初めてでして……」
「えっ?」
「屋内型なもので」
「何型?」
「あ、自宅に長らく篭ってまして。父が家からとにかく出てみろって言うのです。で、まあ仕方なくと言いますか」
気は弱そうでちょっとおぼつかないしゃべり方だけど、内容は理路整然、スラスラと言葉を紡ぎ出す。ただ、意味はわかるが、内容がね!
つまり役立たずですって、しれっと自己紹介したのでは?
「あのう、グスマンさんとはどのようなご関係ですか?」
グスマンさんが、なぜこんな役立たずを連れてきたのか。
娘の火傷跡で私には世話になってるんじゃなかったの?
「あ、グスマンは父の市場の管理人の一人なんです」
「父の市場とは?」
「あ、この市場のオーナーが僕の父なので」
おぼっちゃまか!
「あの、でも、それならどうしてこんなちっぽけな店の護衛なのですか?」
「護衛じゃないです。まあ、手伝いですね」
彼は照れた。
「まずはお店に慣れなくちゃダメだって父に言われたんです。それも、流行ってる店に行ってみろって」
「は、はあ……」
ちょっとだけ、グスマンさんが逃げた理由がわかった。
引きこもりの御曹司の教育なのか。
市場のオーナー自らの依頼だと断れないよね。どうして私の店に目を付けたのかはわからないけど。
でも、ヘンリー君、見た目からして無能そうだったけど、実際お荷物だった。グスマンさんなら、客同士がトラブルになっても瞬時に収めてくれるのに、ヘンリー君は目を白黒させて、二人の言い分を代わる代わる聞いてるだけ。
もっとも客の方がヘンリー君に逆ギレして、お前はなんなんだ?と食ってかかった時、彼は真価を発揮した。
「ヘンリー・マッスルです」
「マッスル!」
相手は爆笑した。
贅肉だらけだもんね、ヘンリー君。
「変な名前だな!」
「でも、ここの市場の名前は父の名前ですよ」
「は?」
私は知らなかったけど、町一番のこの市場の名前はマッスル市場と言うのだそうだ。
「じゃ、どうして、あんた、こんなところにいるの?」
客が聞く。
「修行です」
客の方は黙ってしまった。そして帰った。マッスル市場と、ことを構えるのはイヤだったのかもしれない。だから無事役目を果たしたのかな?
しかし、ヘンリー君は確実に私より役に立たない。
実際に客同士が力づくのケンカになった時、ヘンリー君は本気で困って、肉をタプタプさせながら一目散に逃げて行った。使えないやつだなと思ったが、しばらくすると警備員を連れて帰ってきた。しかし、その頃には決着がついていて、問題の客たちはもう誰もいなかった。
「でもだからって、ヘンリー君泣かないで?」
警備員がつまらなそうに(侮蔑の目つきで)ヘンリー君をしばし眺め、去っていったあと、ヘンリー君はさめざめと泣きだした。
「僕、足が遅いんで。間に合わなかった」
「でも、警備の人を連れてきてくれてありがとう」
警備の人がいるだなんて知らなかった。ただ、私が呼びに行っても来ないんじゃないかな。こんな吹けば飛ぶような小さな店は、誰にも相手にされないと思う。ヘンリー君だからこそ、警備の人も動いてくれたわけで。
全然間に合わなかったけど。
とはいえ、ヘンリー君は学習しない人物ではなかったらしく、少しずつ客対応も覚えてくれた。一生懸命だ。
おじさんなのにな。
ヘンリー君は全然頼りにならないけど、一生懸命なので一緒に働いていて楽しかった。私の方が力持ちだと言うのは少々解せなかったけど。
男なのにな。
おかげで私は順調だった。従兄のジェロームもそのうち結婚するだろう。そうなれば当面の危機はなくなる。
今は暮らしていければいいや。
だが、ある日、例の騎士様が店に来た。
「なんのご用件ですか?」
騎士様、相変わらず偉そう。
「薬を買いに。ここからここまで全部買ってやる」
ダメだって。販売規制を敷いてるの。
待っていたお客さんたちがザワザしだした。
顔馴染みも多い。大抵は医者にかかれない貧乏な人たちで、子どもや家族の薬を買いに来たのだ。
この時勇気を振り絞って言ってくれたのがヘンリー君だった。
「おひとり様3箱までと決めておりまして……」
「なんだ、こいつは」
「あの、この列を見てください」
ヘンリー君が列を指した。
「ローズさんのデイジーブランドの薬を買うために、並んでるんです。みんなに行き渡るように、お一人様三つまでって決まりがあるんです」
「なんだとう?」
騎士様はみるみる機嫌を悪化させ、腰から剣を抜いた。
これには客も私もヘンリー君も、腰を抜かさんばかりに驚いた。
「なぜ、ローズ呼ばわりするのだ、キサマ」
えっ? そこ?
「しかも、なんで、ローズブランドじゃないんだ、わかりにくい」
だから、それはグスマンおじさんの……
「大体、なんでお前みたいなハゲでデブのオッサンが、ローズにまとわりついている!」
「ここの市場の関係者なんだよね」
「はあ」
連れてこられた人は、薄い金髪の髪が頭にへばりついている小太りの男性だった。
「ヘンリー君だ」
グスマンさんは、なぜか額に汗をかいていた。
「私も市場の管理の仕事が忙しくてね。まあ、この店は人気で強引に買いたがる客が来るので誰か護衛がいた方がいいかなって」
「護衛ですか」
私はヘンリー君を上から下までじっとり観察した。
真っ青な丸い目が印象的な色白のおじさんだ。小太りでポチャポチャしていて、気が弱そう。
どう見ても筋肉質ではない。
護衛なんか絶対無理なんじゃ?
グスマンおじさんも、私の目つきの意味に気が付いたみたいだ。
「まあ、お客の整理係だと思えばいいんで」
「そうです」
ヘンリー君はにっこり笑って握手してきた。
「じゃ、私はこれで」
グスマンさんは走るように去っていき、私はヘンリー君と二人取り残された。
「僕、こういう客商売は初めてでして……」
「えっ?」
「屋内型なもので」
「何型?」
「あ、自宅に長らく篭ってまして。父が家からとにかく出てみろって言うのです。で、まあ仕方なくと言いますか」
気は弱そうでちょっとおぼつかないしゃべり方だけど、内容は理路整然、スラスラと言葉を紡ぎ出す。ただ、意味はわかるが、内容がね!
つまり役立たずですって、しれっと自己紹介したのでは?
「あのう、グスマンさんとはどのようなご関係ですか?」
グスマンさんが、なぜこんな役立たずを連れてきたのか。
娘の火傷跡で私には世話になってるんじゃなかったの?
「あ、グスマンは父の市場の管理人の一人なんです」
「父の市場とは?」
「あ、この市場のオーナーが僕の父なので」
おぼっちゃまか!
「あの、でも、それならどうしてこんなちっぽけな店の護衛なのですか?」
「護衛じゃないです。まあ、手伝いですね」
彼は照れた。
「まずはお店に慣れなくちゃダメだって父に言われたんです。それも、流行ってる店に行ってみろって」
「は、はあ……」
ちょっとだけ、グスマンさんが逃げた理由がわかった。
引きこもりの御曹司の教育なのか。
市場のオーナー自らの依頼だと断れないよね。どうして私の店に目を付けたのかはわからないけど。
でも、ヘンリー君、見た目からして無能そうだったけど、実際お荷物だった。グスマンさんなら、客同士がトラブルになっても瞬時に収めてくれるのに、ヘンリー君は目を白黒させて、二人の言い分を代わる代わる聞いてるだけ。
もっとも客の方がヘンリー君に逆ギレして、お前はなんなんだ?と食ってかかった時、彼は真価を発揮した。
「ヘンリー・マッスルです」
「マッスル!」
相手は爆笑した。
贅肉だらけだもんね、ヘンリー君。
「変な名前だな!」
「でも、ここの市場の名前は父の名前ですよ」
「は?」
私は知らなかったけど、町一番のこの市場の名前はマッスル市場と言うのだそうだ。
「じゃ、どうして、あんた、こんなところにいるの?」
客が聞く。
「修行です」
客の方は黙ってしまった。そして帰った。マッスル市場と、ことを構えるのはイヤだったのかもしれない。だから無事役目を果たしたのかな?
しかし、ヘンリー君は確実に私より役に立たない。
実際に客同士が力づくのケンカになった時、ヘンリー君は本気で困って、肉をタプタプさせながら一目散に逃げて行った。使えないやつだなと思ったが、しばらくすると警備員を連れて帰ってきた。しかし、その頃には決着がついていて、問題の客たちはもう誰もいなかった。
「でもだからって、ヘンリー君泣かないで?」
警備員がつまらなそうに(侮蔑の目つきで)ヘンリー君をしばし眺め、去っていったあと、ヘンリー君はさめざめと泣きだした。
「僕、足が遅いんで。間に合わなかった」
「でも、警備の人を連れてきてくれてありがとう」
警備の人がいるだなんて知らなかった。ただ、私が呼びに行っても来ないんじゃないかな。こんな吹けば飛ぶような小さな店は、誰にも相手にされないと思う。ヘンリー君だからこそ、警備の人も動いてくれたわけで。
全然間に合わなかったけど。
とはいえ、ヘンリー君は学習しない人物ではなかったらしく、少しずつ客対応も覚えてくれた。一生懸命だ。
おじさんなのにな。
ヘンリー君は全然頼りにならないけど、一生懸命なので一緒に働いていて楽しかった。私の方が力持ちだと言うのは少々解せなかったけど。
男なのにな。
おかげで私は順調だった。従兄のジェロームもそのうち結婚するだろう。そうなれば当面の危機はなくなる。
今は暮らしていければいいや。
だが、ある日、例の騎士様が店に来た。
「なんのご用件ですか?」
騎士様、相変わらず偉そう。
「薬を買いに。ここからここまで全部買ってやる」
ダメだって。販売規制を敷いてるの。
待っていたお客さんたちがザワザしだした。
顔馴染みも多い。大抵は医者にかかれない貧乏な人たちで、子どもや家族の薬を買いに来たのだ。
この時勇気を振り絞って言ってくれたのがヘンリー君だった。
「おひとり様3箱までと決めておりまして……」
「なんだ、こいつは」
「あの、この列を見てください」
ヘンリー君が列を指した。
「ローズさんのデイジーブランドの薬を買うために、並んでるんです。みんなに行き渡るように、お一人様三つまでって決まりがあるんです」
「なんだとう?」
騎士様はみるみる機嫌を悪化させ、腰から剣を抜いた。
これには客も私もヘンリー君も、腰を抜かさんばかりに驚いた。
「なぜ、ローズ呼ばわりするのだ、キサマ」
えっ? そこ?
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