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第12話 無理やりのご招待は騎士様の下心?
そんなことを言われても、私には考えがまとまらなかった。
もし偽者のローズ嬢が現れて、財産を全部持っていってしまったら……代わりに私は安全になるけど、今度こそ本当に何もかも取られてしまう。
「ジェロームとアイリーンとツンケンしたその姉、厚かましいバリー男爵夫妻に仕返しをしたくないか?」
そこはアイリーンじゃなくてリンダですってば。
だが、復讐の一言は心に突き刺さった。
騎士様の力を借りれば、方法があると言うのだ。
「一人で頑張っても限界がある。俺は騎士団に顔がきくし、伯爵をよく知っている」
騎士様はちょっと顔をしかめた。
「知り過ぎだ。清廉潔白すぎる」
「民としてはその方がありがたいです」
私は小さい声で言った。
「まあ、そんな訳だから、俺の家に下女として就職すれば、完全に安全だぞ。店の方は今のまま続けてくれて構わない。下女の仕事なんかしなくていい。誰もお前の家事の腕前には期待していないから」
私は騎士様の申し出を断ったのだけど、あっという間に都合よく現れた馬車に詰め込まれた。
「食事も済んだしな。夜になったら、誰かをやって荷物を全部持ってきてやる」
「え? ちょっと? どうしてそんな?」
ガラガラと馬車は行先も聞かず勝手に動き出した。
「騎士様?」
「ロアン」
「は?」
「俺の名前はロアンなんだ。騎士様だなんて呼ばないで欲しい」
ええと。まあ、それはそうかもしれない。騎士は職業名だから、家の中で呼んだらおかしいかも。
それより問題は騎士様がにやけていることだ。
「練習で呼んでみて」
どういう意味なの?
「必要があれば呼びます」
私は窓の外の景色を見るのに忙しかった。騎士様の家はどこなのかしら。マッスル市場から遠いと困るのだけど。
だが、ほどなくして馬車は停まり、どの家だろうと私はキョロキョロした。
「降りろ。ここだ」
「これ……ですか?」
ただの家ではない。立派な邸宅だ。家族は誰も一緒に住んでいないと言っていたような。こんな大きな家、必要なのかしら?
「あの、こちらで一人住まいですか?」
騎士様は小首を傾げた。
「最愛の妻を募集中だ」
私はスカートを翻し、こんな珍回答をする男からはサッサと離れることにした。だが、背中から騎士様の声がかかった。
「違う。そっちじゃない。お前の部屋はこっちだ」
広いメインの廊下を進んでいく。ふつう下女の部屋は三階などの狭い小部屋のはずなんだけど。家族がいないって言ってたから、部屋が余っているのかしら?
そして私は、自分にあてがわれた部屋に入って仰天した。
前の私の部屋と同じくらいの大きさの同じような部屋である。天蓋付きのベッド、小さなテーブルとソファ、書き机とそれ用の椅子もあれば、どうも水回りと衣裳部屋につながるらしいドアまである。
「帰してください!」
私は涙目になって言った。
この人、お金持ちだったんだ! 助けるとか言って、身寄りがないことを知ってさらってきたんだ。好きに出来ると思って。
これじゃジェロームの妻の方がマシ。正妻には権利がある。
「おい、どうした。この部屋が嬉しくないのか」
イケメン騎士様はひどく驚いた様子で聞いた。
嬉しいはずがない。とんだイケメンだ。きっとモテるので、自分と一緒なら大喜びだと思ったのかもしれない。
私は自活の道を探していた。薬を作って、それを売って、一人でも生きていく。
好きな人ができたら結婚するかもしれないが、こんなやり方はないだろう。
私は騎士様に体当たりした。普段の騎士様ならびくともしないだろうけど、すっかり騎士様はうろたえていて、隙だらけだった。不意を突かれてよろめいたところを、私は突進した。
幸い、屋敷内には誰もいなかった。私はきた道を戻って正面玄関にたどり着くと、ドアを開けようとしたが鍵がかかっていた。振り返ると、花瓶が乗った小卓が目についたので、それでガラスを割って外に出ようと振りかぶったところで騎士様に取り押さえられた。
「ローズ、何をするんだ!」
「帰してください! 帰して!」
騎士様はがっちり私を捕まえた。
「あの家にか。危ないぞ。俺は聞いたんだ。引っさらって殺してやるって」
私はうそつきの顔を見た。
「そんなことないわ」
「違う。本当だ。ジェロームには愛人がいる。そいつにローズを名乗らせている。本物のローズを知らない家のパーティなんかに同伴して、婚約者だと紹介している」
もし偽者のローズ嬢が現れて、財産を全部持っていってしまったら……代わりに私は安全になるけど、今度こそ本当に何もかも取られてしまう。
「ジェロームとアイリーンとツンケンしたその姉、厚かましいバリー男爵夫妻に仕返しをしたくないか?」
そこはアイリーンじゃなくてリンダですってば。
だが、復讐の一言は心に突き刺さった。
騎士様の力を借りれば、方法があると言うのだ。
「一人で頑張っても限界がある。俺は騎士団に顔がきくし、伯爵をよく知っている」
騎士様はちょっと顔をしかめた。
「知り過ぎだ。清廉潔白すぎる」
「民としてはその方がありがたいです」
私は小さい声で言った。
「まあ、そんな訳だから、俺の家に下女として就職すれば、完全に安全だぞ。店の方は今のまま続けてくれて構わない。下女の仕事なんかしなくていい。誰もお前の家事の腕前には期待していないから」
私は騎士様の申し出を断ったのだけど、あっという間に都合よく現れた馬車に詰め込まれた。
「食事も済んだしな。夜になったら、誰かをやって荷物を全部持ってきてやる」
「え? ちょっと? どうしてそんな?」
ガラガラと馬車は行先も聞かず勝手に動き出した。
「騎士様?」
「ロアン」
「は?」
「俺の名前はロアンなんだ。騎士様だなんて呼ばないで欲しい」
ええと。まあ、それはそうかもしれない。騎士は職業名だから、家の中で呼んだらおかしいかも。
それより問題は騎士様がにやけていることだ。
「練習で呼んでみて」
どういう意味なの?
「必要があれば呼びます」
私は窓の外の景色を見るのに忙しかった。騎士様の家はどこなのかしら。マッスル市場から遠いと困るのだけど。
だが、ほどなくして馬車は停まり、どの家だろうと私はキョロキョロした。
「降りろ。ここだ」
「これ……ですか?」
ただの家ではない。立派な邸宅だ。家族は誰も一緒に住んでいないと言っていたような。こんな大きな家、必要なのかしら?
「あの、こちらで一人住まいですか?」
騎士様は小首を傾げた。
「最愛の妻を募集中だ」
私はスカートを翻し、こんな珍回答をする男からはサッサと離れることにした。だが、背中から騎士様の声がかかった。
「違う。そっちじゃない。お前の部屋はこっちだ」
広いメインの廊下を進んでいく。ふつう下女の部屋は三階などの狭い小部屋のはずなんだけど。家族がいないって言ってたから、部屋が余っているのかしら?
そして私は、自分にあてがわれた部屋に入って仰天した。
前の私の部屋と同じくらいの大きさの同じような部屋である。天蓋付きのベッド、小さなテーブルとソファ、書き机とそれ用の椅子もあれば、どうも水回りと衣裳部屋につながるらしいドアまである。
「帰してください!」
私は涙目になって言った。
この人、お金持ちだったんだ! 助けるとか言って、身寄りがないことを知ってさらってきたんだ。好きに出来ると思って。
これじゃジェロームの妻の方がマシ。正妻には権利がある。
「おい、どうした。この部屋が嬉しくないのか」
イケメン騎士様はひどく驚いた様子で聞いた。
嬉しいはずがない。とんだイケメンだ。きっとモテるので、自分と一緒なら大喜びだと思ったのかもしれない。
私は自活の道を探していた。薬を作って、それを売って、一人でも生きていく。
好きな人ができたら結婚するかもしれないが、こんなやり方はないだろう。
私は騎士様に体当たりした。普段の騎士様ならびくともしないだろうけど、すっかり騎士様はうろたえていて、隙だらけだった。不意を突かれてよろめいたところを、私は突進した。
幸い、屋敷内には誰もいなかった。私はきた道を戻って正面玄関にたどり着くと、ドアを開けようとしたが鍵がかかっていた。振り返ると、花瓶が乗った小卓が目についたので、それでガラスを割って外に出ようと振りかぶったところで騎士様に取り押さえられた。
「ローズ、何をするんだ!」
「帰してください! 帰して!」
騎士様はがっちり私を捕まえた。
「あの家にか。危ないぞ。俺は聞いたんだ。引っさらって殺してやるって」
私はうそつきの顔を見た。
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