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第15話 時間稼ぎ
返事ができない。私はヘンリー君と並んでいる人たちに目を向けた。確かに薬屋は大繁盛だ。
ヘンリー君は「並んでくださーい! おひとり様三個まででーす!」と叫んでくれている。
夕べ、騎士様は言葉を選んで伝えてくれたけど、時が経つにつれ事情がわかってきつつあるんだ。
両親の生死がはっきりしないので、バリー男爵家はそこに付け込んでいるのだ。後見人とか言って。
両親が死んでいたら、相続が発生して、商会も家も私のものになる。ドネルさんも私も、男爵の口出しなんか絶対許さない。
もし、もし、生きていてくれたら、私は家に戻れる。前のように安心して暮らせる。その時にはどんな目に遭ったか包み隠さず両親に伝えなくては。
あれ?
でも、どちらの選択にも薬屋になる道はないな?
いやいや。新しい商品としてバリー商会で売り出す道がある。
町の市場で売り出すことだけが販売方法ではないだろう。
私はもっと本気で商売に励まないかと勧めるグスマンおじさんに向き直った。
「実は弟が帰ってくるのを待っているんです」
時間稼ぎのために、グスマンおじさんに向かって、私はデタラメな話を始めた。
「乗っていた船が難波して消息不明なんです」
「えっ? 最近、バリー商会の会長が難破したんじゃないかって噂になってたけど、もしかして同じ船?」
「そうなんです。弟が帰ってこないと、いろいろ決められなくて。それに心配で」
私はうつむいた。本当に心配。両親が。
「そうか。そんな事情があったのか。じゃあ何か噂を聞いたら教えてあげるよ」
ありがたい。
「それで生活費のために、この店を始めたんです」
うっかり言ってしまった。
「えっ? なんで? 弟のお金で暮らしてたわけかい。弟さん、あんたより年下でしょ?」
しまった。兄にしとけば良かった。
「双子なんです」
私は渋々言った。
「でも、仕事で稼げる年じゃないよね? ご両親は?」
「うっ……田舎住いで弟が学校に行くことになったので、私もついてきたんです」
「じゃあ、生活費、ご両親に頼めば?」
「貧乏なので……」
グスマンさんはますます変な顔になった。
「学費は出せたんでしょ?」
「しょ、奨学金が当たったんです」
奨学金は当たらない。優秀だからもらえるものだ。
「へー。弟さん、優秀なんだなあ」
グスマンさんは感心した。
これ以上突っ込まれなくて良かった。
もう何も思いつかない。
「ローズさん、ハゲ治療薬と水虫の薬、売り切れになります。看板出しときますね」
薄い金髪を頭にべったり貼り付けたヘンリー君が忙しそうに走ってきて、『……は、売り切れました。またのご来店をお待ちしております』と書かれた看板を持って行った。最後尾あたりに置くのである。『ハゲ』『水虫』などと書かれたプレートが用意されていて、看板に貼っておくと、売り切れた商品がわかる。
ヘンリー君すてき。
まあ、そのまま読むと『ハゲ、売り切れました』になるけど。ハゲ、買う人はいないけど。
ヘンリー君が看板を設置すると、ちぇーっとか言う不満の声が上がっていた。またお越しくださいとヘンリー君が宥めている。
お店が開く前から行列はできていて、ヘンリー君は客の注文を聞いて、数が足らないと開店前でも看板を出してくれるのだ。これで苦情がずいぶん減った。
ヘンリー君、えらい。
店が始まると雑談どころではなく、私たちは次から次へと売りまくった。
あっという間に売り切れて、あっという間に仕事は終わってしまう。
なので、グスマンおじさんは、本腰を入れて商品を増やせと言っているのだ。
ヘンリー君は「並んでくださーい! おひとり様三個まででーす!」と叫んでくれている。
夕べ、騎士様は言葉を選んで伝えてくれたけど、時が経つにつれ事情がわかってきつつあるんだ。
両親の生死がはっきりしないので、バリー男爵家はそこに付け込んでいるのだ。後見人とか言って。
両親が死んでいたら、相続が発生して、商会も家も私のものになる。ドネルさんも私も、男爵の口出しなんか絶対許さない。
もし、もし、生きていてくれたら、私は家に戻れる。前のように安心して暮らせる。その時にはどんな目に遭ったか包み隠さず両親に伝えなくては。
あれ?
でも、どちらの選択にも薬屋になる道はないな?
いやいや。新しい商品としてバリー商会で売り出す道がある。
町の市場で売り出すことだけが販売方法ではないだろう。
私はもっと本気で商売に励まないかと勧めるグスマンおじさんに向き直った。
「実は弟が帰ってくるのを待っているんです」
時間稼ぎのために、グスマンおじさんに向かって、私はデタラメな話を始めた。
「乗っていた船が難波して消息不明なんです」
「えっ? 最近、バリー商会の会長が難破したんじゃないかって噂になってたけど、もしかして同じ船?」
「そうなんです。弟が帰ってこないと、いろいろ決められなくて。それに心配で」
私はうつむいた。本当に心配。両親が。
「そうか。そんな事情があったのか。じゃあ何か噂を聞いたら教えてあげるよ」
ありがたい。
「それで生活費のために、この店を始めたんです」
うっかり言ってしまった。
「えっ? なんで? 弟のお金で暮らしてたわけかい。弟さん、あんたより年下でしょ?」
しまった。兄にしとけば良かった。
「双子なんです」
私は渋々言った。
「でも、仕事で稼げる年じゃないよね? ご両親は?」
「うっ……田舎住いで弟が学校に行くことになったので、私もついてきたんです」
「じゃあ、生活費、ご両親に頼めば?」
「貧乏なので……」
グスマンさんはますます変な顔になった。
「学費は出せたんでしょ?」
「しょ、奨学金が当たったんです」
奨学金は当たらない。優秀だからもらえるものだ。
「へー。弟さん、優秀なんだなあ」
グスマンさんは感心した。
これ以上突っ込まれなくて良かった。
もう何も思いつかない。
「ローズさん、ハゲ治療薬と水虫の薬、売り切れになります。看板出しときますね」
薄い金髪を頭にべったり貼り付けたヘンリー君が忙しそうに走ってきて、『……は、売り切れました。またのご来店をお待ちしております』と書かれた看板を持って行った。最後尾あたりに置くのである。『ハゲ』『水虫』などと書かれたプレートが用意されていて、看板に貼っておくと、売り切れた商品がわかる。
ヘンリー君すてき。
まあ、そのまま読むと『ハゲ、売り切れました』になるけど。ハゲ、買う人はいないけど。
ヘンリー君が看板を設置すると、ちぇーっとか言う不満の声が上がっていた。またお越しくださいとヘンリー君が宥めている。
お店が開く前から行列はできていて、ヘンリー君は客の注文を聞いて、数が足らないと開店前でも看板を出してくれるのだ。これで苦情がずいぶん減った。
ヘンリー君、えらい。
店が始まると雑談どころではなく、私たちは次から次へと売りまくった。
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