41 / 47
第41話 ギャルソンスタイルのイケメン
(39話の続き)コーヒーが無事にテーブルの上に置かれ、給仕が去ると、殿下は面白そうに私を見た。
「ずいぶん反応するね。あなたも興味があるのか。モテる若い給仕だな」
いえ、そうではなくてロアン様がウチの使用人になっているから驚いているのです。
「なっ? 面白いだろ? さあ、マイラ王女が身をあやまるところを見に行こう」
「え? 身をあやまるんですか?」
「いいから、いいから」
ついて来いと身振りをして、王子はガゼボから移動を始めた。ロアン給仕が持ってきたコーヒーはどうなるの?
王女殿下は朝食の間に続く外のテラスでお茶をしていた。
いつもは私が付き添うのだが、今朝は一人がいいと言い出して、変だなと思ったのだが殿下に呼ばれてそちらに付き合っていた為、忘れていた。
「見つかってはならん」
殿下は、庭をほふく前進し始めた。朝露で服が水浸しになってしまう。夕べは雨だったし。
私はうんざりして、キティに合図した。二人の話を聞きたいなら、朝食の間の真上の部屋のバルコニーに行って、バルコニーから聞けばいいじゃない。
「なるほど。すばらしいロケーションだ」
殿下がヒソヒソ声でほめてくれた。
「濡れないで済むし、丸聞こえだ」
どうでもいいので無視した。下で繰り広げられている会話の方が強烈だった。
「ロアン、愛しているわ」
なんで、実名をそのまま使ったんだろう、ロアン様。
椅子がガタンという音がした。
「おやめください、殿下!」
「何してるんだろうね?」
アシュトン殿下がささやいた。
「いいこと? ロアン。私と一緒ならどんな身分やお金も思うままよ。一国の王女なのよ?」
「王女殿下、ご冗談を」
「あなたの婚約者は市場で売り子をしているんですってね。王女とどれ程の差があるかわかる? それともあなたは、そんなことも分からない美しいだけの男なのかしら?」
王女殿下、セリフがなんだかすごい。
「全然違う世界があるのよ。あなたが知らない世界。王家のパーティに王女の夫として君臨するのよ」
「絶対にそれはありません」
「マイラ王女、評判悪いもん。それに彼、バリー家の使用人だろ? まあ、君臨は無理だね。いいさらし者になるのがオチだよ」
コメント、いちいちありがとう。アシュトン殿下。
「父に、今朝、手紙を送りました。もう、決めたの。ここで私は真実の愛を見つけたのです」
何の手紙を送ったのかしら!
「真実の愛、十回目くらいらしいんだよね。そろそろ父王が根負けする頃じゃないかな。バリー家の使用人風情なら、王女もろとも、失踪しても問題ないよね。王女、本気でトラブルメーカーだから、王家もいなくなって欲しいくらいじゃないかな」
王子殿下、ほんとによく知ってるね! なぜ?
「あなたの婚約者の名前を教えて。その人と離れても不幸にならないように手配できるわ」
なんだか含みのある言い方だなあ。王女殿下、やっぱり怖いわ。
覚悟を決めたようにロアン様が言い出した。
「私はあなたとは結婚しません。私は……」
「あ、そんなこと言わない方が……マイラ王女殿下、こんなところでお目に掛かれるとは、嬉しい驚きです!」
アシュトン殿下が大声を出した。
「誰?」
金切り声が叫んだ。
「いやだなあ。僕ですよ。アシュトンです」
変わり身早いな、アシュトン王子。盗み聞きしてたくせに、さわやか笑顔でごく当たり前のようにバルコニーから身を乗り出して挨拶している。
「まああ。アシュトン王子殿下、あなたでしたの」
さすがの王女もアシュトン王子には穏やかな反応だわ。だけど、あのマイラ王女がこんな場面を見られて黙ってるはずがない。
とにかく、私はいない方がいいに決まっている。見られないように、バルコニーから部屋の中に飛び込んだ。
これ、マズい展開。絶対マズい。心臓がドキドキ言っている。
「どうして、こんなところにお越しになったのかしら?」
「面白い話をしているな―と思って」
私は下の修羅場はお構いなく、ソロリソロリと二階の部屋から抜け出そうとした。
ああ、町はずれの薬作りの家が懐かしい。
こんな騒ぎは何もなかった。
図書室にでもこもろうかしら。ヘンリー君の気持ちが今になってわかってきた。
この世に関わると労力を使うのだ。それに何一つ思うようにはいかない。
没我の境地に浸ろうと束の間の休息を求め、図書室のソファに身を横たえたところで……
ばたんと乱暴にドアが開き、目を血走らせたポーツマス夫人とキティと目が合った。
「いた!」
「みつけた!」
「え……何か御用でしょうか」
思わず、自分の家の使用人に敬語を使ってしまった。
「どこへ行かれるのです? アシュトン王子殿下がお呼びです」
下の朝食の間では、オールバックにかき上げた黒髪の青年がしょんぼり立っていた。
いつも偉そうにしてたのに、今回は相手が悪い。
薄いシャツを通して筋肉質なのがわかる。私、筋肉フェチではないけれど。確かにアシュトン殿下よりぐっとたくましいしイケメンだわ。
イケメンはチラチラと私を見てくる。
だが、私は首を振った。あんなの、手がつけられない。
二人の王族は、もうすごい早口で言い争っていた。さっきまでは友好的にあいさつを交わしていたのに。
何があったの?
「ずいぶん反応するね。あなたも興味があるのか。モテる若い給仕だな」
いえ、そうではなくてロアン様がウチの使用人になっているから驚いているのです。
「なっ? 面白いだろ? さあ、マイラ王女が身をあやまるところを見に行こう」
「え? 身をあやまるんですか?」
「いいから、いいから」
ついて来いと身振りをして、王子はガゼボから移動を始めた。ロアン給仕が持ってきたコーヒーはどうなるの?
王女殿下は朝食の間に続く外のテラスでお茶をしていた。
いつもは私が付き添うのだが、今朝は一人がいいと言い出して、変だなと思ったのだが殿下に呼ばれてそちらに付き合っていた為、忘れていた。
「見つかってはならん」
殿下は、庭をほふく前進し始めた。朝露で服が水浸しになってしまう。夕べは雨だったし。
私はうんざりして、キティに合図した。二人の話を聞きたいなら、朝食の間の真上の部屋のバルコニーに行って、バルコニーから聞けばいいじゃない。
「なるほど。すばらしいロケーションだ」
殿下がヒソヒソ声でほめてくれた。
「濡れないで済むし、丸聞こえだ」
どうでもいいので無視した。下で繰り広げられている会話の方が強烈だった。
「ロアン、愛しているわ」
なんで、実名をそのまま使ったんだろう、ロアン様。
椅子がガタンという音がした。
「おやめください、殿下!」
「何してるんだろうね?」
アシュトン殿下がささやいた。
「いいこと? ロアン。私と一緒ならどんな身分やお金も思うままよ。一国の王女なのよ?」
「王女殿下、ご冗談を」
「あなたの婚約者は市場で売り子をしているんですってね。王女とどれ程の差があるかわかる? それともあなたは、そんなことも分からない美しいだけの男なのかしら?」
王女殿下、セリフがなんだかすごい。
「全然違う世界があるのよ。あなたが知らない世界。王家のパーティに王女の夫として君臨するのよ」
「絶対にそれはありません」
「マイラ王女、評判悪いもん。それに彼、バリー家の使用人だろ? まあ、君臨は無理だね。いいさらし者になるのがオチだよ」
コメント、いちいちありがとう。アシュトン殿下。
「父に、今朝、手紙を送りました。もう、決めたの。ここで私は真実の愛を見つけたのです」
何の手紙を送ったのかしら!
「真実の愛、十回目くらいらしいんだよね。そろそろ父王が根負けする頃じゃないかな。バリー家の使用人風情なら、王女もろとも、失踪しても問題ないよね。王女、本気でトラブルメーカーだから、王家もいなくなって欲しいくらいじゃないかな」
王子殿下、ほんとによく知ってるね! なぜ?
「あなたの婚約者の名前を教えて。その人と離れても不幸にならないように手配できるわ」
なんだか含みのある言い方だなあ。王女殿下、やっぱり怖いわ。
覚悟を決めたようにロアン様が言い出した。
「私はあなたとは結婚しません。私は……」
「あ、そんなこと言わない方が……マイラ王女殿下、こんなところでお目に掛かれるとは、嬉しい驚きです!」
アシュトン殿下が大声を出した。
「誰?」
金切り声が叫んだ。
「いやだなあ。僕ですよ。アシュトンです」
変わり身早いな、アシュトン王子。盗み聞きしてたくせに、さわやか笑顔でごく当たり前のようにバルコニーから身を乗り出して挨拶している。
「まああ。アシュトン王子殿下、あなたでしたの」
さすがの王女もアシュトン王子には穏やかな反応だわ。だけど、あのマイラ王女がこんな場面を見られて黙ってるはずがない。
とにかく、私はいない方がいいに決まっている。見られないように、バルコニーから部屋の中に飛び込んだ。
これ、マズい展開。絶対マズい。心臓がドキドキ言っている。
「どうして、こんなところにお越しになったのかしら?」
「面白い話をしているな―と思って」
私は下の修羅場はお構いなく、ソロリソロリと二階の部屋から抜け出そうとした。
ああ、町はずれの薬作りの家が懐かしい。
こんな騒ぎは何もなかった。
図書室にでもこもろうかしら。ヘンリー君の気持ちが今になってわかってきた。
この世に関わると労力を使うのだ。それに何一つ思うようにはいかない。
没我の境地に浸ろうと束の間の休息を求め、図書室のソファに身を横たえたところで……
ばたんと乱暴にドアが開き、目を血走らせたポーツマス夫人とキティと目が合った。
「いた!」
「みつけた!」
「え……何か御用でしょうか」
思わず、自分の家の使用人に敬語を使ってしまった。
「どこへ行かれるのです? アシュトン王子殿下がお呼びです」
下の朝食の間では、オールバックにかき上げた黒髪の青年がしょんぼり立っていた。
いつも偉そうにしてたのに、今回は相手が悪い。
薄いシャツを通して筋肉質なのがわかる。私、筋肉フェチではないけれど。確かにアシュトン殿下よりぐっとたくましいしイケメンだわ。
イケメンはチラチラと私を見てくる。
だが、私は首を振った。あんなの、手がつけられない。
二人の王族は、もうすごい早口で言い争っていた。さっきまでは友好的にあいさつを交わしていたのに。
何があったの?
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』
富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
【完結】帳簿係の地味令嬢、商会の不正を見抜いて王宮に見出されました。
夏灯みかん
恋愛
王都の商工会議所で働く、地味な帳簿係エミリー。
真面目に記録をつけることだけが取り柄の彼女は、同僚から軽く扱われ、雑用を押しつけられる日々を送っていた。
そんなある日――エミリーは、孤児院への配給物資の記録に、わずかな“ズレ”があることに気づく。
数量は合っている。
だが、なぜか中身の重量だけが減っている。
違和感を覚えたエミリーは、自ら倉庫へ足を運び、現物を確認する。
そこで見つけたのは、帳簿では見えない“静かな不正”だった。
しかしその矢先――不正の責任を押しつけられ、職場から追い出されそうになってしまう。
それでもエミリーは諦めない。ただ一つ、自分が積み上げてきた“記録”を信じて。
「では、正式な監査をお願いいたします」
やがてその記録は、王宮の政務監査官リオンの目に留まり――
隠されていた不正はすべて暴かれる。
そして、彼女を軽んじていた者たちは、その代償を支払うことになる。
これは、地味で目立たなかった一人の帳簿係が、
“正しく記録した”ことで不正を暴き、王宮に見出されるまでの物語。
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
成功条件は、まさかの婚約破棄!?
たぬきち25番
恋愛
「アリエッタ、あなたとの婚約を破棄する……」
王太子のアルベルト殿下は、そう告げた。
王妃教育に懸命に取り組んでいたアリエッタだったが、
それを聞いた彼女は……?
※他サイト様にも公開始めました!