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第42話 真実の愛合戦
アシュトン殿下が大声で言っているところだった。
「父から手紙が来た。私がバリー家に非公式に滞在するなら、マイラ王女殿下にお目にかかるようにと。縁談があるそうだった」
マイラ王女は金切り声で叫んでいた。
「あなたは無礼者です。それなら、どうして私をお茶に誘うなりしなかったのですか? 私をないがしろにした! 無視した! 私は誰にも相手をされず、一人寂しいまま孤独な時間を過ごしていたのです」
「そんなことないでしょ? ここの給仕を相手に愛をささやいていたじゃないか。私の出番なんかないようだね」
マイラ王女はキッとなって、アシュトン王子殿下をにらんだ。怖い。
「ええ、ええ。あなたみたいな子どもに用はないわ。私はこのロアンを連れて帰りますわ。私は真実の愛を見つけたのです! あなたと違ってね」
「私も真実の愛を見つけた。だから、あなたとの結婚話は論外だ」
「子どもが何を言ってるのかしら。真実の愛だなんて、笑わせないで頂戴」
「あなたの真実の愛の方が、怪しいもんだな。だが、これで話はなかったことにしてもらおう。元々、無理やりの縁談だったしね」
「無理やりって……私のセリフですわ! あなたとの結婚話がなくなって、せいせいするわ。それもこれも、すべてあなたが失礼過ぎるせいですわ。本来なら、私をお茶の一杯くらい誘うべきでした」
「コーヒー党なもんでね」
「父に言いつけておきます」
何が何だかわからない。
この二人は、お見合いでここまで来たのか。知らない間にここが会場に選ばれたと言うことか。
アシュトン殿下は確か、私と同い年のはず。二十一歳の王女殿下よりだいぶ年下だ。
別に無理だと言う程ではないが、特にお勧めするような年回りではない。
キティが言った。
「どうやら、縁談があったようですわね」
「あまり性格的に合いそうな気はしないんですけど」
私は聞こえないように小さな声で言った。不敬罪でも適用されたら困るもん。
「うまくいかなかった時のことを考えて、公式なお見合いを避けたのでしょうか」
ポーツマス夫人はさすが大人で、そんなことを言った。確かにマイラ王女にこれ以上瑕疵をつけると、完全に行き遅れになりそうだ。
突然、茶器が割れた音がしたので、私たちは部屋の真ん中で言い争っている二人の王族に目を戻した。
マイラ王女がアシュトン王子目掛けてカップを投げつけ、ロアン様が銀の盆でカップを叩き落とした音だった。
「ロアン様、すばらしい」
ポーツマス夫人がささやいた。
「ロアン様、頑張れ」
キティも小さな声で声援を送った。
「王子殿下、王女殿下。今回のことはお二人の結婚問題ではございますが、国の問題でもございます」
落ち着いて静かな声が響いた。
「いったん、王都に戻られてご報告なさってはいかがでしょう」
「国に戻るのはよいが、真実の愛の相手を連れてゆきたい。こんな気持ちになったのは初めてだ」
アシュトン殿下、何言っているの?
「ロアン、あなたの青い目に私は永遠を感じるの。私と一緒に来て」
マイラ殿下もやめてー。
「私は平民です。王室に出入り出来る身分ではございません。それに婚約者がおります。神に誓った相手です。彼女と引き裂かれたら私は死ぬでしょう」
マイラ王女はフフンと鼻で笑った。どうしよう、この人。
「マイラ王女。王宮に戻って父王のお許しを取ったらどうだ。それまで、このロアンはバリー殿が預かってくれるだろう」
私は心臓が締め付けられるような気がした。ロアン様が連れ去られてしまう?
「私も同じことをするつもりなんだ。まあ、私の方が勝算があるかもしれない。命の恩人の家の娘と結婚するのだから、父上もダメとは言わないだろう。彼女には侯爵位を贈るつもりだ」
ん?
「まあ」
ちょっと悔しそうにマイラ王女は言った。
「ロアン、あなたには伯爵の位をプレゼントするわ。そうすればどこへ行っても恥ずかしくないわ」
ロアン様が首を振った。
「どこかで平民の地金が現れてしまって、あなたに恥をかかせるでしょう」
マイラ王女がはっきり言った。
「それはあの泥棒猫のローズも同じよ。平民のくせに。私を騙していたのね。私の結婚相手になるはずだった王子殿下にこっそり取り入っただなんて、斬首でもいいと思うわ」
え?
「父から手紙が来た。私がバリー家に非公式に滞在するなら、マイラ王女殿下にお目にかかるようにと。縁談があるそうだった」
マイラ王女は金切り声で叫んでいた。
「あなたは無礼者です。それなら、どうして私をお茶に誘うなりしなかったのですか? 私をないがしろにした! 無視した! 私は誰にも相手をされず、一人寂しいまま孤独な時間を過ごしていたのです」
「そんなことないでしょ? ここの給仕を相手に愛をささやいていたじゃないか。私の出番なんかないようだね」
マイラ王女はキッとなって、アシュトン王子殿下をにらんだ。怖い。
「ええ、ええ。あなたみたいな子どもに用はないわ。私はこのロアンを連れて帰りますわ。私は真実の愛を見つけたのです! あなたと違ってね」
「私も真実の愛を見つけた。だから、あなたとの結婚話は論外だ」
「子どもが何を言ってるのかしら。真実の愛だなんて、笑わせないで頂戴」
「あなたの真実の愛の方が、怪しいもんだな。だが、これで話はなかったことにしてもらおう。元々、無理やりの縁談だったしね」
「無理やりって……私のセリフですわ! あなたとの結婚話がなくなって、せいせいするわ。それもこれも、すべてあなたが失礼過ぎるせいですわ。本来なら、私をお茶の一杯くらい誘うべきでした」
「コーヒー党なもんでね」
「父に言いつけておきます」
何が何だかわからない。
この二人は、お見合いでここまで来たのか。知らない間にここが会場に選ばれたと言うことか。
アシュトン殿下は確か、私と同い年のはず。二十一歳の王女殿下よりだいぶ年下だ。
別に無理だと言う程ではないが、特にお勧めするような年回りではない。
キティが言った。
「どうやら、縁談があったようですわね」
「あまり性格的に合いそうな気はしないんですけど」
私は聞こえないように小さな声で言った。不敬罪でも適用されたら困るもん。
「うまくいかなかった時のことを考えて、公式なお見合いを避けたのでしょうか」
ポーツマス夫人はさすが大人で、そんなことを言った。確かにマイラ王女にこれ以上瑕疵をつけると、完全に行き遅れになりそうだ。
突然、茶器が割れた音がしたので、私たちは部屋の真ん中で言い争っている二人の王族に目を戻した。
マイラ王女がアシュトン王子目掛けてカップを投げつけ、ロアン様が銀の盆でカップを叩き落とした音だった。
「ロアン様、すばらしい」
ポーツマス夫人がささやいた。
「ロアン様、頑張れ」
キティも小さな声で声援を送った。
「王子殿下、王女殿下。今回のことはお二人の結婚問題ではございますが、国の問題でもございます」
落ち着いて静かな声が響いた。
「いったん、王都に戻られてご報告なさってはいかがでしょう」
「国に戻るのはよいが、真実の愛の相手を連れてゆきたい。こんな気持ちになったのは初めてだ」
アシュトン殿下、何言っているの?
「ロアン、あなたの青い目に私は永遠を感じるの。私と一緒に来て」
マイラ殿下もやめてー。
「私は平民です。王室に出入り出来る身分ではございません。それに婚約者がおります。神に誓った相手です。彼女と引き裂かれたら私は死ぬでしょう」
マイラ王女はフフンと鼻で笑った。どうしよう、この人。
「マイラ王女。王宮に戻って父王のお許しを取ったらどうだ。それまで、このロアンはバリー殿が預かってくれるだろう」
私は心臓が締め付けられるような気がした。ロアン様が連れ去られてしまう?
「私も同じことをするつもりなんだ。まあ、私の方が勝算があるかもしれない。命の恩人の家の娘と結婚するのだから、父上もダメとは言わないだろう。彼女には侯爵位を贈るつもりだ」
ん?
「まあ」
ちょっと悔しそうにマイラ王女は言った。
「ロアン、あなたには伯爵の位をプレゼントするわ。そうすればどこへ行っても恥ずかしくないわ」
ロアン様が首を振った。
「どこかで平民の地金が現れてしまって、あなたに恥をかかせるでしょう」
マイラ王女がはっきり言った。
「それはあの泥棒猫のローズも同じよ。平民のくせに。私を騙していたのね。私の結婚相手になるはずだった王子殿下にこっそり取り入っただなんて、斬首でもいいと思うわ」
え?
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