真実の愛を貫き通すと、意外と悲惨だったという話(相手が)~婚約破棄から始まる強引過ぎる白い結婚と、非常識すぎるネチ愛のいきさつ

buchi

文字の大きさ
50 / 64

第50話 ラルフの戦勝自慢

しおりを挟む
 アレキアの海上の隊は、ラルフの予言通り、ずっと西にれて、パロナ王国との国境近くまで移動していた。

 ベロス公爵と王家の人たちが、ギャアギャア激論を戦わしていた間に、アレキアは思いもよらぬ場所から続々と無事上陸を果たし、その知らせを受けた王家は真っ青になった。

「このままでは、ルフランは乗っ取らっれてしまうのでは?」

「それにしても、なぜ、そんな辺鄙へんぴな田舎に上陸したのでございましょう? 何もないではありませんか!」

 動揺どうようした側近の言葉に、王妃様は気分が悪くなって、議会を出てしまった。


「これというのも、ベロス公爵、あなたが不用意に撤退てったいしたりするからだ」

 王妃様が出て行った途端、リッチモンド公爵、すなわち父は、ベロス公爵を責めたて始めた。ベロス公爵がすぐ興奮することを知っているのに。

 案の定、ベロス公爵は、父に向かってわめきたてた。

「なんですと! 私は、陛下の命を受けて進軍したのだ。戻って来ざるを得なかったのは、裏切り者の騎士どものせい。やつらこそ陛下の敵である」

 ベロス公爵は、国王に向かうと口からつばを飛ばして言い放った。

「不敬でございます。リッチモンド公爵には謹慎きんしんが適当でございます。陛下、ご決断を!」

「お待ちください! 父上! いえ、ベロス公爵!」

 居並ぶ高位の貴族を押しのけて現れたのはビンセントだった。
 騎士の格好をしていた。

「騎士の側にも言い分がございます。それにそのような謹慎などと……」

 ベロス公爵は自分に逆らう発言をした者が誰だかわかると、より一層激怒した。
 息子が下層の騎士の格好をしていたからだ。

「そのようないやしい者のなりをして。お前など、息子でも何でもないわ。勘当かんどうじゃ。今すぐ、この場を出よ。下層騎士の発言など聞く耳持たぬ」

「陛下!」

 リッチモンド公とビンセントは二人して、陛下の顔を見つめたが、ベロス公爵が立ちはだかった。

「陛下の意志は貴公らにあらず! この場を出よ!」

 王は話の成り行きがわかっていたのかわからなかったのか、一言も発さなかった。

 父とビンセントは、ベロス公爵に怒鳴どなられながら、腹の中でニヤリとした。

「出ろ、だとよ。ビンセント殿」

 二人は仲良く最敬礼をして部屋を後にしたそうだ。


「王は馬鹿だ。ベロス公爵ごときを止められないとはな」

「止められないに決まってるっておっしゃったのは、あなたではありませんか」

「これで当分宮廷に出仕しなくて済む。私はクビだ」

「私も同様です。沈む船に乗り続けるわけにはいきません。母がおりますゆえ」

 二人は顔を見合わせた。それから、言った。

「しからば、ごめん」

 二人は仲良く、とっとと王宮から出て行ってしまった。

 だが、出て行ったのは二人だけではなかった。多くの貴族たちが、父たちの後に続いて部屋を出て行ったらしい。


「泥船から逃げるネズミみたいなものさ。ビンセントだってそうさ。ベロス公爵家から縁を切りたかったんだ」

 ビンセントは、王の面前で勘当されたのだから、今後はベロス姓を名乗らなくても済みそうだとまで言っていたらしい。

 
 リッチモンド公爵が出入り禁止になり、ビンセントが廃嫡はいちゃくされて二週間ほどたったころ、ノートンの村からラルフは戻って来た。

「リッチモンド公爵はうまいことやったらしいな」

 ベロス公爵と真っ向、事を構えることは、うまいことだったの?

「もちろんそうだよ。これで、悪いのはベロス公爵だとはっきりするだろう。国王の威を借るキツネだ。実際には何の力もないくせに」

 私は、この出来事が王妃様がいなくなった途端に起きたことがショックだった。

 まるで、これまで王家を支えてきたのが、あの王妃様だったみたいだ。

「あながち、間違っていないよね」

 ラルフは同意した。つまり、王家を支えていたのは、王妃様だと言うのだ。

 私は、王妃のことは凡庸ぼんような人物だと思っていた。

「だが国王よりマシだ。これから坂道を転げ落ちていくように、王家はダメになっていくだろう」

 ラルフは、私が座り込んでいた書斎のソファの向かいに座った。

「ねえ、わかっている? あれがあなたの運命だったんだよ」

 ああ、それだ。それが私の受けたショックの原因だった。

「あなたが嫁入りすれば、王妃はそこまで追い詰められなかっただろうね。王太子も馬鹿な真似をしなかっただろうし、ベロス公爵の出番なんかなかった。リッチモンド公爵とババリア元帥が両輪となって財務と軍事を支えただろう。あなたなら、みんなが支えてくれただろう。なぜなら、無私の心で王家を支えるあなたは尊敬される存在になっただろうから」

「無私?」

「そう。あの王妃にしいたげられながらも、支え、助言し、王太子を説得して、まわりを説得して、最良の道を選んで彼らを導いていく。誰にもめられない。きっとずっと後世になれば、評価されるだろうけど、王家の人間はあなたを誉めないだろう。そのくせ、まずいことが起きた時は、外から嫁いできたあなたを責めるだろう」

 からかうような調子でラルフは、それでもやさしく言った。

「逃げられてよかったじゃないか。そんな運命から」

「でも、そのせいで王太子は亡くなった」

 ラルフは肩をすくめた。

「誰かに支えてもらっていない限り、その責任に耐えられない人間が王太子にふさわしいと思う?」

 私は黙った。一国の王太子に生まれついたと言うことは恐ろしいことだった。

「それより、アレキアとの戦いは、今、どうなっていますの?」

 国王とベロス公爵は、今頃になって、アレキアの目的地がマルケでないことを知ったらしい。

 ビビりまくって善後策を議論していたそうだが、残って聞いていたゲイリーによると的外まとはずれれもいいところだったとか。

「なぜ、ノートンを目指したのか、彼らは知らないからね。それに、軍事なんかまるで素人しろうとだからな」

 ラルフは、その問題の地から戻ってきた。
 ノートンの村は金鉱をめぐってアレキアと激戦になっていたはずだ。さぞ、大変だったのでは……

 だが、ラルフは平然としていた。

「あなたが、歓待するだなんて経費の無駄遣いだと言っていた連中が、アレキアの軍勢全員を仕留めたよ」

 全員を仕留めた? 私は耳を疑った。

「全滅ということですか? アレキアの軍勢はどれほどの規模だったのですか?」

「数千だね。こっちは数百どまりだけど。そして全滅ではなくて、全面降伏だね。殺したわけじゃないからな」

 ラルフはあっさり言った。

「海から金鉱にたどり着くためには、どうしても狭い渓谷けいこくを通り抜けなくてはならない。幅は数十メートルだ。こちらは地元民だからね、地勢をよく知っている。谷を見下ろす高地から、火矢を射かけたり石を落としたり、その辺はアイデア次第だ。後列の連中は、川から流れてきた味方兵の死体に相当驚いたらしい。進軍は止まってしまった。まあ、すでに半数くらいに減っていたがね。今度は背面から襲撃しゅうげきした。ふるい立つ連中を止めるのに苦労した」

「奮い立つ連中?」

「そうなんだよ。騎士連中ときたら、例のマックスの娘たちの前でいいところを見せたがったんだ。めるのが大変だったよ」

 ラルフはため息をついてみせた。

「止めたんですか?」

「もちろんだよ。殺しちゃダメだ。身代金を取らなきゃいけないからね」

「は? 身代金?」

「奴隷兵もそれなりの金で売れる。騎士クラスの戦士たちの身内には、身代金を要求した。金額の交渉で少し時間がかかっているが、円満に合意に達した連中はもう帰国していると思う」

 売った…… それではまるで奴隷狩りのような?

「人聞きが悪いな。交渉だよ」

 ラルフは力をこめた。

「アレキアの太守は話の分からない男じゃない。捕虜の中に太守のおいざっていたんだよ。もちろん首を切ってお返ししてもよかったんだが、太守が喜んで交渉に応じてくれたんでね」

「太守の甥……?」

 私は繰り返した。だから何なの? 意味が分からない。

 アレキアは確か一夫多妻制だ。

 太守の子どもは数十人いるらしい。甥は、もしかすると数百人単位でいるかもしれない。私は天文学的な太守の親族愛に思いをせた。

「大事な甥御様なのですね……?」

 太守は残虐ざんぎゃくな性格だと聞いたことがある。親族とは言え、この大甘おおあまな措置は信じられなかった。

「なにしろ絶世ぜっせいの美男子でね」

「……絶世の美男子……」

 どんな人なんだろう。

「太守が寵愛ちょうあいしているらしい。ただあいにく若者らしく、無鉄砲むてっぽうな性格で、どうしても戦いに出たいと頑張って太守も根負けしたらしい。金鉱を攻略して手柄を立てたかったらしいな」

 それは……うちのアレックス王太子殿下よりバカじゃないのか。

「あのう……もしかして、今回の騒動はそれが原因だったとか言うオチじゃないでしょうね?」

 ラルフが微妙な顔をした。

「そうかも知れない。他国の内情などわからないが、それでアレキアの行動が全部説明できるだけに、なんとも言えない。アレキア人の商人に言わせると、いつもの太守の気まぐれだそうだが。甥には骨抜きだそうで」

 話は妙な方向に進んでいく。

「ええと、甥だけど愛人?」

「もちろん。僕はアレキア人商人と親しくてね。返した方がいいと彼からアドバイスされたので、傷一つ付けずにお返ししたんだ。太守も大変お喜びだったが、しばらくはお仕置きをされるそうだ」

 太守自身、多くの妻妾さいしょうを抱える身であると聞いたのだけれど、これはどういうことなのかしら。
 ラルフの方は、別な話題に移っていった。

「この甥の身代金が莫大ばくだいでね。で、今回の出費はほぼペイした。非常にうまく行ったよ」

「あの……ラルフ……」

 私はたまりかねて、ラルフに聞いた。商魂たくましすぎる。

「やはりそれは人身売買では?」

 ラルフがちょっと目を見張った。

「あ、これはアレキアの知り合いの商人の助言に従っただけなんだよ……」

「嘘……」

 絶対に嘘だ。喜んで身代金の取り立てに手を出したに決まってる。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~

岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。 「これからは自由に生きます」 そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、 「勝手にしろ」 と突き放した。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...