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マリゴールド嬢の受難
マリゴールド嬢は当然嘆き悲しみ、屋敷の者も茫然とした。婚約者の一家がすぐに乗り込んでくる話もよくあるが、マリゴールド嬢の婚約者は王子殿下だったので、乗っ取りにくることはなかった。だが、その隙を突いて、一番乗りを果たしたのが父の弟だった。何か若いころ不祥事をやらかして縁を切られていたらしい。ついでに言うと、超貧乏していた。それは全員の服装に現れていた。
このチャンスを逃すまじ。一家はゾロゾロと伯爵邸へ乗り込んできたのだ。
お決まりのお家騒動である。
ちなみに一家のメンバーを紹介すると、父に似ていなくもないが、どことなく下卑た顔付きの叔父。
父より若いはずなのに、どうして年上に見えるのか?
叔母の方はもっと嫌だった。
でっぷり太って、声は甲高く次から次へと取り留めもない話をずっと話し続ける。
肉に押し込まれたような黒い目が何だか酷薄そうで怖い。
そして一番問題なのは二人の従姉妹。
こちらは黙っていたが、じろじろじろじろ穴が開きそうなくらいマリゴールドを観察した。
「いい服着てるわね」
妹の方がついに口を切った。
「部屋を案内してよ。あんたの部屋を」
あんた? マリゴールドはまだ十五歳。マリゴールドの方が背は高いが、十八歳と十六歳の従姉妹は、マリゴールドよりずっと貫禄があった。
圧がすごい。それに多勢に無勢だった。
押し込まれるようにマリゴールドは自分の部屋を案内しなくてはならなくなり、親族の皆様方の圧力に耐えかねた執事や女中頭は、あまりよく知らない夫婦がご主人様の部屋を占拠していく様子を黙ってみてるほかなかった。
なにしろ、マリゴールド様ご一家に親族は少なかった。
奥様は一人娘だったし、だんなさまのご兄弟はこの叔父一人だけ。
叔父の素行がどうのこうので、彼はマルゴールドの祖父に家を追い出され、長い間貧乏してきたらしい。
「ずっと不公平だったんだ。兄貴ばかりが褒められて、財産を継いで。やっと天罰が下ったってもんだ」
「このドレス、ウエストがキツイわ。明日にでもドレスメーカーを呼ばなくちゃ」
叔父が父のガウンに身を包み、悠々と父の葉巻をふかして執事に高級ワインを注がせ、叔母は文句を言いながらも母の優雅な部屋着を嬉しそうに撫でていた。前が閉まっていなかったが。
その様子を見て温厚なマリゴールドも頭に血が上ってきて、「叔父様、そのガウンは父のものですわ」と抗議しようとした途端、誰かに後ろから足を引っ張られて床に転んだ。
「あらあ! まぬけな子ね」
姉のエレンが大きな声を出した。彼女は大柄で声も大きいのだ。
「おかあさま、令嬢教育は礼儀作法だけではありませんわ。厨房のお仕事や、部屋の片付けも知っとかなければいけないと思いますの!」
「それはそうね」
「私たちは既に習得済みですが、このマリゴールドには全く足りないと思います」
「特訓が必要ですわ」
妹のアメリアが嫌な目つきで宣言した。アメリアは母親に似てよく太って背が低く、姉妹二人とも真っ黒な癖の強い髪質だった。そして茶色と薄茶色のよく動く目をしていた。
嫌な予感は当たる。
マリゴールドは、その日から台所に追いやられ、人間がどんなに冷酷なのか思い知らされることになった。
このチャンスを逃すまじ。一家はゾロゾロと伯爵邸へ乗り込んできたのだ。
お決まりのお家騒動である。
ちなみに一家のメンバーを紹介すると、父に似ていなくもないが、どことなく下卑た顔付きの叔父。
父より若いはずなのに、どうして年上に見えるのか?
叔母の方はもっと嫌だった。
でっぷり太って、声は甲高く次から次へと取り留めもない話をずっと話し続ける。
肉に押し込まれたような黒い目が何だか酷薄そうで怖い。
そして一番問題なのは二人の従姉妹。
こちらは黙っていたが、じろじろじろじろ穴が開きそうなくらいマリゴールドを観察した。
「いい服着てるわね」
妹の方がついに口を切った。
「部屋を案内してよ。あんたの部屋を」
あんた? マリゴールドはまだ十五歳。マリゴールドの方が背は高いが、十八歳と十六歳の従姉妹は、マリゴールドよりずっと貫禄があった。
圧がすごい。それに多勢に無勢だった。
押し込まれるようにマリゴールドは自分の部屋を案内しなくてはならなくなり、親族の皆様方の圧力に耐えかねた執事や女中頭は、あまりよく知らない夫婦がご主人様の部屋を占拠していく様子を黙ってみてるほかなかった。
なにしろ、マリゴールド様ご一家に親族は少なかった。
奥様は一人娘だったし、だんなさまのご兄弟はこの叔父一人だけ。
叔父の素行がどうのこうので、彼はマルゴールドの祖父に家を追い出され、長い間貧乏してきたらしい。
「ずっと不公平だったんだ。兄貴ばかりが褒められて、財産を継いで。やっと天罰が下ったってもんだ」
「このドレス、ウエストがキツイわ。明日にでもドレスメーカーを呼ばなくちゃ」
叔父が父のガウンに身を包み、悠々と父の葉巻をふかして執事に高級ワインを注がせ、叔母は文句を言いながらも母の優雅な部屋着を嬉しそうに撫でていた。前が閉まっていなかったが。
その様子を見て温厚なマリゴールドも頭に血が上ってきて、「叔父様、そのガウンは父のものですわ」と抗議しようとした途端、誰かに後ろから足を引っ張られて床に転んだ。
「あらあ! まぬけな子ね」
姉のエレンが大きな声を出した。彼女は大柄で声も大きいのだ。
「おかあさま、令嬢教育は礼儀作法だけではありませんわ。厨房のお仕事や、部屋の片付けも知っとかなければいけないと思いますの!」
「それはそうね」
「私たちは既に習得済みですが、このマリゴールドには全く足りないと思います」
「特訓が必要ですわ」
妹のアメリアが嫌な目つきで宣言した。アメリアは母親に似てよく太って背が低く、姉妹二人とも真っ黒な癖の強い髪質だった。そして茶色と薄茶色のよく動く目をしていた。
嫌な予感は当たる。
マリゴールドは、その日から台所に追いやられ、人間がどんなに冷酷なのか思い知らされることになった。
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