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第4話 魔法学とケネスの約束
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「まさか……」
魔法力だなんて、全く身に覚えがない。
家でも学校でも、そんな魔法っぽいことは見たことがないし、聞いたこともない。
『火曜日、午後4時に102番教室に集合すること』
女子寮で、その年、魔法学の授業を受けることになった者は、ローザただ一人だった。
「どうしよう……」
何があるかわからない。ローザは、地味目の紺のドレスを身に着け、出来るだけ目立たないようにそっと寮を出た。
魔法力があると認定されたローザたちは、授業後にこっそり102番教室部屋に集められ、魔法学の教科書とスケジュール表を渡された。
こっそり、と言うのはあまりに人数が少なすぎて、まるで目立たなかったからだ。
全学年を集めても人数は十名にも満たない。
どんなことを教えられるのかさっぱりわからない。少々おびえて、周りを警戒するように見回していると、同じクラスにケネスがいるのに気づいて目を丸くした。
ケネスもびっくりしているようだった。
「魔法力を持つ人は本当に少ない。魔法には、物体に作用する魔法と人の心に作用する魔法があります。皆さんはどちらの魔法力を持つかによってクラス分けされました」
集まった魔法学の生徒たちに向かって、魔法学担任のローゼンマイヤー先生は言った。
もう、ずいぶん年寄りの先生で、白いヒゲをヤギみたいに伸ばし、頭には三角形の変わった帽子をかぶっていた。
黒いビロード製でキラキラしたビーズやスパンコールがついている。
初めて見た時、ローザは、すっかり帽子に気を取られてしまい、先生の話は全然耳に入らなくなってしまった。
なんだか妙な魅力のある帽子だった。
「ローザ、あなたは白の魔法のクラスになりましたからね」
「先生、先生の帽子って、すごくすてきですね」
「ローザ、私の話、聞いていましたか?」
先生はため息をつき、その時、横からケネスが口を出した。
「ローザ、今度から一緒に行くことにしようね」
ローゼンマイヤー先生は明らかにホッとしたようだった。
「ローザ、聞きましたね? ケネスと一緒に来るようにしてください。ケネス、よろしく頼んだよ」
「はい、先生」
ケネスは心なしかうれしそうだったが、ローザは帽子に見とれていて気が付いていなかった。
魔法学は、時間は取られても出席するだけでよく、テストはない。
ローザもそこは嬉しかった。それにケネスが連れて行ってくれると言う。うっかり授業を忘れたりしないだろう。
でも、ケネスはヴァイオレットのことが気に入ってたんじゃないのかしら。
間抜けな姉が、ケネスの手を煩わしているとわかれば、ヴァイオレットがどんなに怒ることか。
マズイ。
黙っておこう。
ある日、ローザは一人で昼ごはんを大急ぎで食べていた。貴族の令嬢として、礼儀を失しないギリギリのスピードだった。
前の晩、本を読み過ぎて寝すごし、なんとか授業に滑り込み、ナタリーにノートを借りて課題をゴマ化し(ノートは部屋に忘れていた。課題をするのも忘れていた)他のにもかかわらず、バレて説教されて遅くなったのである。
次の授業は欠席できない。必須科目だ。ローザは頑張ってサンドイッチをほおばった。
「あら、ジョアンナがいるわ」
ふと、隣のクラスのジョアンナに気が付いた。
ジョアンナは、人けの少ない隅の、柱の陰に隠れるように座っていた。
「でもなー……」
ジョアンナは、割合、格好が派手だった。
学園内の身なりについては、華美にならないことと決められている。
あんまり派手だと、先生から注意を受けることがあるらしい。
しかし、ローザの見る限り、ジョアンナの格好は派手というより、襟元が開きすぎ、ドレスの色も明るいオレンジで目立つ。なんというか頑張りすぎである。
辛口ナタリーは「下品!」と、一言で切り捨てていた。
何人かの男子生徒は、これをなにかのサインと了解して、声をかける者もいる。今も誰かが横に座っている。
「すごーい。きっと、あれがモテるってことなのね」
ローザは自分の格好を見直した。今日のドレスの色は濃い灰色で、スカートも長め。襟元に白のレースを飾ってはいるので、異様に地味とまでは言われないだろうが、少なくとも目立たないだろう。
それなのに……
「ねえ、君は、ウォルバートさんだよね?」
一人で昼食をとっていると、突然、3人ほどの男子学生に取り囲まれた。
「!?」
ローザは緊張した。口の中にはサンドイッチがいっぱい詰まっていた。
「あ、ごめん。僕たち同じクラスなんだよ。気が付いてた?」
「え?」
ローザは狼狽した。
男子生徒は全くノーマークだった。誰が誰だかさっぱりわからない。
でも、知らないと言い切ったら失礼だろう。ローザはあいまいな微笑を浮かべた。
男子生徒たちは、ちょっとがっかりした様子だったがそれぞれ自己紹介を始めた。
「ルイとオスカー、それからフレッド」
絶対無理。3人もいっぺんに覚えられない。
「よろしく……」
ローザは弱々しくにっこりした。
全員が、がっついたような微笑みを返した。
ローザは微笑みが引きつったような気がした。どうしよう……
魔法力だなんて、全く身に覚えがない。
家でも学校でも、そんな魔法っぽいことは見たことがないし、聞いたこともない。
『火曜日、午後4時に102番教室に集合すること』
女子寮で、その年、魔法学の授業を受けることになった者は、ローザただ一人だった。
「どうしよう……」
何があるかわからない。ローザは、地味目の紺のドレスを身に着け、出来るだけ目立たないようにそっと寮を出た。
魔法力があると認定されたローザたちは、授業後にこっそり102番教室部屋に集められ、魔法学の教科書とスケジュール表を渡された。
こっそり、と言うのはあまりに人数が少なすぎて、まるで目立たなかったからだ。
全学年を集めても人数は十名にも満たない。
どんなことを教えられるのかさっぱりわからない。少々おびえて、周りを警戒するように見回していると、同じクラスにケネスがいるのに気づいて目を丸くした。
ケネスもびっくりしているようだった。
「魔法力を持つ人は本当に少ない。魔法には、物体に作用する魔法と人の心に作用する魔法があります。皆さんはどちらの魔法力を持つかによってクラス分けされました」
集まった魔法学の生徒たちに向かって、魔法学担任のローゼンマイヤー先生は言った。
もう、ずいぶん年寄りの先生で、白いヒゲをヤギみたいに伸ばし、頭には三角形の変わった帽子をかぶっていた。
黒いビロード製でキラキラしたビーズやスパンコールがついている。
初めて見た時、ローザは、すっかり帽子に気を取られてしまい、先生の話は全然耳に入らなくなってしまった。
なんだか妙な魅力のある帽子だった。
「ローザ、あなたは白の魔法のクラスになりましたからね」
「先生、先生の帽子って、すごくすてきですね」
「ローザ、私の話、聞いていましたか?」
先生はため息をつき、その時、横からケネスが口を出した。
「ローザ、今度から一緒に行くことにしようね」
ローゼンマイヤー先生は明らかにホッとしたようだった。
「ローザ、聞きましたね? ケネスと一緒に来るようにしてください。ケネス、よろしく頼んだよ」
「はい、先生」
ケネスは心なしかうれしそうだったが、ローザは帽子に見とれていて気が付いていなかった。
魔法学は、時間は取られても出席するだけでよく、テストはない。
ローザもそこは嬉しかった。それにケネスが連れて行ってくれると言う。うっかり授業を忘れたりしないだろう。
でも、ケネスはヴァイオレットのことが気に入ってたんじゃないのかしら。
間抜けな姉が、ケネスの手を煩わしているとわかれば、ヴァイオレットがどんなに怒ることか。
マズイ。
黙っておこう。
ある日、ローザは一人で昼ごはんを大急ぎで食べていた。貴族の令嬢として、礼儀を失しないギリギリのスピードだった。
前の晩、本を読み過ぎて寝すごし、なんとか授業に滑り込み、ナタリーにノートを借りて課題をゴマ化し(ノートは部屋に忘れていた。課題をするのも忘れていた)他のにもかかわらず、バレて説教されて遅くなったのである。
次の授業は欠席できない。必須科目だ。ローザは頑張ってサンドイッチをほおばった。
「あら、ジョアンナがいるわ」
ふと、隣のクラスのジョアンナに気が付いた。
ジョアンナは、人けの少ない隅の、柱の陰に隠れるように座っていた。
「でもなー……」
ジョアンナは、割合、格好が派手だった。
学園内の身なりについては、華美にならないことと決められている。
あんまり派手だと、先生から注意を受けることがあるらしい。
しかし、ローザの見る限り、ジョアンナの格好は派手というより、襟元が開きすぎ、ドレスの色も明るいオレンジで目立つ。なんというか頑張りすぎである。
辛口ナタリーは「下品!」と、一言で切り捨てていた。
何人かの男子生徒は、これをなにかのサインと了解して、声をかける者もいる。今も誰かが横に座っている。
「すごーい。きっと、あれがモテるってことなのね」
ローザは自分の格好を見直した。今日のドレスの色は濃い灰色で、スカートも長め。襟元に白のレースを飾ってはいるので、異様に地味とまでは言われないだろうが、少なくとも目立たないだろう。
それなのに……
「ねえ、君は、ウォルバートさんだよね?」
一人で昼食をとっていると、突然、3人ほどの男子学生に取り囲まれた。
「!?」
ローザは緊張した。口の中にはサンドイッチがいっぱい詰まっていた。
「あ、ごめん。僕たち同じクラスなんだよ。気が付いてた?」
「え?」
ローザは狼狽した。
男子生徒は全くノーマークだった。誰が誰だかさっぱりわからない。
でも、知らないと言い切ったら失礼だろう。ローザはあいまいな微笑を浮かべた。
男子生徒たちは、ちょっとがっかりした様子だったがそれぞれ自己紹介を始めた。
「ルイとオスカー、それからフレッド」
絶対無理。3人もいっぺんに覚えられない。
「よろしく……」
ローザは弱々しくにっこりした。
全員が、がっついたような微笑みを返した。
ローザは微笑みが引きつったような気がした。どうしよう……
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