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第59話 殿下でなければ守れない
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もう二人の距離は近すぎて、ドアにべったり張り付いていたエドワードにもローザの声は聞こえなかった。
エドワードは、宣言した通り、ローザをアレクのところにうまく連れて来たのに、無残にもすぐ部屋から追い出されたのだ。
「どうなってる? エドワード」
事後責任を感じた「アレクとローザくっつけ隊」は、今必死になってのぞきをしていた。
チームリーダーはレオ殿下で、実働部隊はエドワードとアイリーンである。そのほかにアリスがいた。
「今、無理矢理キスしています。ローザ嬢が真っ赤ですね。フッ」
エドワードが報告すると、学校の女子寮から連れてこられたアイリーンが言った。
「ローザは、いえ、ローザ様は殿下のこと、大好きですもの」
彼女は笑っていたが、目には涙がにじんでいた。
「それなら、どうして冷たくあしらっていたの?」
レオ殿下が聞いた。
「宮廷の女官に言われたらしいのですわ。カスターシャ姫とのご結婚がもう決まっていると。婚約者がいる男性にまとわりつくとは、礼儀知らずだし、思い上がりも甚だしいと」
エドワードはため息をついた。
女官たちの辛辣さは知っている。
彼女たちとて、王太子殿下の気を引けるものならと内心はやきもきしている。ましてやアレクは(ローザ嬢はあまり気が付いていないらしいが)端正な美貌の持ち主だ。
ローザ嬢が鉄壁の守りに入るのも無理はない。婚約者のいる男、しかも王太子に近づくのは大問題だ。下手をすると貴族社会から追放を食らう。
王太子の方から近づくのも、ローザにとってはNG。それに応じれば、王太子はとにかく、ローザは何を言われるかわからない。
アレクは完全に手詰まり状態だった。(ケネスのように女子寮前で待つわけにはいかない。王太子殿下はそんな真似できない)
「その女官どもは、王太子妃に憎まれる危険を冒したことになるな」
レオ殿下が冷たく口を挟んだ。
「私はアレクにも、ローザ嬢にも感謝しているよ。アレクとローザのコンビは完ぺきだった」
「あのプランに危険はなかったのですか?」
エドワードが聞いた。
「ない。アレク自身を傷つけたり、あの世界に引きずり込むことは不可能だ。彼は、究極の鈍感力の持ち主だ。取り込んだところで、意味がないから、どうせ外へ放り出される」
「でも、ローザ嬢が引きずり込まれる危険はあったのでは?」
かねがね思うところのあったエドワードは、レオ殿下に質問した。
「もちろん。引きずり込まれないと、私のアリスが帰ってこない。ローザの魔力量を見た魔女どもが放っておくはずがない。彼女は囮だったんだ。でも、アレクがローザを見捨てると思うかい? 絶対、ついて行くに決まってる。だから、アリスも戻ってくると思ったんだ」
大丈夫さとレオ殿下は豪快に笑った。
「ところで、その世界の破壊方法はわかっておられたのですか?」
ネチネチとエドワードが確認してきた。
「知らん」
レオ殿下は堂々と言い放った。
「え?」
エドワードは顔をしかめた。やっぱりか。
「知ってたら、教えている。でも、どうせどうにかするさ、アレクのことだ。ローザが危険だと分かった途端に、死に物狂いでどうにかする。それに、そこまでバカじゃないし」
完全ノープラン……
さては、何が役に立つかわからないので、魔道具だとか言って、荷物を手当たり次第持たせたな。どおりで重かった。
「あの二人には感謝している。彼らのために全力を尽くすつもりだ。どんなことでもしてやろう」
レオ殿下のヘルプは、なにか、迷惑な匂いがするような。
傍らのアリスは、また勝手な私服に逆戻りした殿下を嬉しそうに見つめていた。
その時、部屋の扉が開いて問題の二人が出てきた。
アレクは嬉しそうだった。欲しい言葉を無理矢理ローザからもぎ取ったのだろう。
しかし、叔父の姿を見ると、途端に不満そうになった。
「叔父上、ローザから指輪を預かってませんか?」
「指輪? 俺は知らんが、なんの話だ?」
「これと対のやつですよ! ローザは王弟殿下にお返ししたと言ってました」
「知らないなあ。手元に届いてない」
「わかりました」
エドワードがさわやかに割り込んだ。
「その女官が手元に持っているわけですな。ローザ嬢に嘘を吹き込んだ女でしょう。かしこまりました。存分に仕返ししたらよいわけでございますね? そのせいで私も余分に授業を受けるはめになりましたし、お手伝いいたしましょう」
「うん。私も酷い目にあったよ! ローザに無視された」
王太子殿下はエドワードに向かって、サックリ命じた。
「ローザが婚約者だと正式に発表したい」
「かしこま……」
エドワードが答える前にレオ殿下が口をはさんだ。
「まかせろ」
レオ殿下が力強く請け合った。
「いや、自分で出来るから」
「力一杯応援するぞ」
「迷惑だから」
「なんだと?! 人の好意を無にする気か!」
「国王陛下ご夫妻も、お二人のご結婚を切にお望みでした」
二人の殿下が言い争っている時、エドワードがローザの耳元でささやいた。
ローザはびっくりして、大きな目をさらに大きくして尋ねた。
「私などを、ですか? なぜ?」
「白の魔女の力を王家の監視下に置きたいのでしょう」
エドワードはローザの反応をじっと見ていた。
「アレク様を愛していらっしゃるなら……信じてください。彼なら、あなたを守れます」
エドワードは、宣言した通り、ローザをアレクのところにうまく連れて来たのに、無残にもすぐ部屋から追い出されたのだ。
「どうなってる? エドワード」
事後責任を感じた「アレクとローザくっつけ隊」は、今必死になってのぞきをしていた。
チームリーダーはレオ殿下で、実働部隊はエドワードとアイリーンである。そのほかにアリスがいた。
「今、無理矢理キスしています。ローザ嬢が真っ赤ですね。フッ」
エドワードが報告すると、学校の女子寮から連れてこられたアイリーンが言った。
「ローザは、いえ、ローザ様は殿下のこと、大好きですもの」
彼女は笑っていたが、目には涙がにじんでいた。
「それなら、どうして冷たくあしらっていたの?」
レオ殿下が聞いた。
「宮廷の女官に言われたらしいのですわ。カスターシャ姫とのご結婚がもう決まっていると。婚約者がいる男性にまとわりつくとは、礼儀知らずだし、思い上がりも甚だしいと」
エドワードはため息をついた。
女官たちの辛辣さは知っている。
彼女たちとて、王太子殿下の気を引けるものならと内心はやきもきしている。ましてやアレクは(ローザ嬢はあまり気が付いていないらしいが)端正な美貌の持ち主だ。
ローザ嬢が鉄壁の守りに入るのも無理はない。婚約者のいる男、しかも王太子に近づくのは大問題だ。下手をすると貴族社会から追放を食らう。
王太子の方から近づくのも、ローザにとってはNG。それに応じれば、王太子はとにかく、ローザは何を言われるかわからない。
アレクは完全に手詰まり状態だった。(ケネスのように女子寮前で待つわけにはいかない。王太子殿下はそんな真似できない)
「その女官どもは、王太子妃に憎まれる危険を冒したことになるな」
レオ殿下が冷たく口を挟んだ。
「私はアレクにも、ローザ嬢にも感謝しているよ。アレクとローザのコンビは完ぺきだった」
「あのプランに危険はなかったのですか?」
エドワードが聞いた。
「ない。アレク自身を傷つけたり、あの世界に引きずり込むことは不可能だ。彼は、究極の鈍感力の持ち主だ。取り込んだところで、意味がないから、どうせ外へ放り出される」
「でも、ローザ嬢が引きずり込まれる危険はあったのでは?」
かねがね思うところのあったエドワードは、レオ殿下に質問した。
「もちろん。引きずり込まれないと、私のアリスが帰ってこない。ローザの魔力量を見た魔女どもが放っておくはずがない。彼女は囮だったんだ。でも、アレクがローザを見捨てると思うかい? 絶対、ついて行くに決まってる。だから、アリスも戻ってくると思ったんだ」
大丈夫さとレオ殿下は豪快に笑った。
「ところで、その世界の破壊方法はわかっておられたのですか?」
ネチネチとエドワードが確認してきた。
「知らん」
レオ殿下は堂々と言い放った。
「え?」
エドワードは顔をしかめた。やっぱりか。
「知ってたら、教えている。でも、どうせどうにかするさ、アレクのことだ。ローザが危険だと分かった途端に、死に物狂いでどうにかする。それに、そこまでバカじゃないし」
完全ノープラン……
さては、何が役に立つかわからないので、魔道具だとか言って、荷物を手当たり次第持たせたな。どおりで重かった。
「あの二人には感謝している。彼らのために全力を尽くすつもりだ。どんなことでもしてやろう」
レオ殿下のヘルプは、なにか、迷惑な匂いがするような。
傍らのアリスは、また勝手な私服に逆戻りした殿下を嬉しそうに見つめていた。
その時、部屋の扉が開いて問題の二人が出てきた。
アレクは嬉しそうだった。欲しい言葉を無理矢理ローザからもぎ取ったのだろう。
しかし、叔父の姿を見ると、途端に不満そうになった。
「叔父上、ローザから指輪を預かってませんか?」
「指輪? 俺は知らんが、なんの話だ?」
「これと対のやつですよ! ローザは王弟殿下にお返ししたと言ってました」
「知らないなあ。手元に届いてない」
「わかりました」
エドワードがさわやかに割り込んだ。
「その女官が手元に持っているわけですな。ローザ嬢に嘘を吹き込んだ女でしょう。かしこまりました。存分に仕返ししたらよいわけでございますね? そのせいで私も余分に授業を受けるはめになりましたし、お手伝いいたしましょう」
「うん。私も酷い目にあったよ! ローザに無視された」
王太子殿下はエドワードに向かって、サックリ命じた。
「ローザが婚約者だと正式に発表したい」
「かしこま……」
エドワードが答える前にレオ殿下が口をはさんだ。
「まかせろ」
レオ殿下が力強く請け合った。
「いや、自分で出来るから」
「力一杯応援するぞ」
「迷惑だから」
「なんだと?! 人の好意を無にする気か!」
「国王陛下ご夫妻も、お二人のご結婚を切にお望みでした」
二人の殿下が言い争っている時、エドワードがローザの耳元でささやいた。
ローザはびっくりして、大きな目をさらに大きくして尋ねた。
「私などを、ですか? なぜ?」
「白の魔女の力を王家の監視下に置きたいのでしょう」
エドワードはローザの反応をじっと見ていた。
「アレク様を愛していらっしゃるなら……信じてください。彼なら、あなたを守れます」
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