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第10話 ジョージ義兄様のプラン
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実家の両親は、スノードン侯爵のところに平謝りに謝りに行ったらしい。
それを聞いた姉はカンカンだった。
「自分の娘が娼館に売られたと聞いて、謝りに行く親がどこにいるの?」
「お姉様、私、男を買いにやらされたので、身売りされた訳ではありません」
「この際、それはどうだっていいのよ! あなたの親は、スノードン侯爵に今すぐ娘を連れ戻せと要求されているらしいのよ! よくもまあ、そんなこと言えるわよね! それだったら、まず、侯爵が自分の夫人を売り飛ばした娼館にどうして逃したって聞くのが先よ」
まったくその通りと言えばその通りなのだけれど……姉様まで売り飛ばされたとか言い出したわ。社交界では、その説の方が定着しちゃってるのね。
大体、私は両親の家に行かなかったので、両親のところへ苦情を言いに行っても、どうにもならない。
だけど、事情を聞いてスノードン侯爵に謝るような親では何の助けにもならなかっただろう。姉を頼って正解でした。
「そもそも、呼び戻せって、離婚したかったくせに何言ってるのかしら? 呼び戻して何がしたいの?」
「お姉様、侯爵は私が行かされたあの娼館に調べに行くでしょうか?」
「白薔薇館に?」
姉はぐるりと頭を巡らせて、私に聞いた。
え……そんな名前だったの。
「お客様を白薔薇に見立てて、美しい花の集う場所……って意味らしいわ」
あのー、あのー、シャーロットお姉様、私が原因のトラブル事件ではあるのですが、そのネーミングセンス、どうしてもなんか微妙です。その上、生粋の貴族の令夫人のお姉様が、そんな案件にそこまで詳しくなるだなんて、これまた微妙と言うか、違和感ありまくりと言うか……。
「白薔薇館は大迷惑らしいわよ」
「ええ? どうしてですか?」
姉はニヤリとした。
「利用者がいるのよね」
「そりゃいるんでしょう」
中は客同士が会わない作りになっていたので、誰にも会わなかったけど。女性の声は聞こえた。
「表沙汰になりたくないのよ。中には旦那様がいらっしゃる方も多くて、ほとんどが秘密の利用ですからね」
ああ、なるほど。
「バレたら離婚というケースですね」
「そうでも、ないんだと思うの。冷え切ったご夫婦で、旦那様が外で愛人を作っていたら、奥様に同じように愛人がいてもお互い黙認というケースも多いと思うわ」
「そんな上級者コース、私には分かりませんけど」
「上級者かどうかはとにかく、ご夫婦の間では認め合っていたとしても、そんな内輪の話、知られたくないじゃない」
「そりゃもちろん」
「だけど、騒ぎになると、いろいろ名前が出てくる可能性がある訳です」
ああ、それじゃ、余計に私は世の中の皆さまにご迷惑を……。
「あなたが娼館に売られたって話の誤解を解くのをためらっているのは、それが理由なの」
「じゃあ、私は娼館に売られたことに?」
姉はますますニヤリ笑いを深めた。
「世間……社交界は非難轟々よ。わずか十六歳の新妻を娼館に売り飛ばして、古い愛人と再婚を目指したって」
「そのルート、どうすれば再婚できるのか、全然わかりませんが?」
「妻が悪いので、妻の有責で離婚すると親しい人には話していたらしいわ。でも、妻が娼館通いを始めたのならとにかく、夫が売り飛ばしたんじゃ全く話が変わって来るわ。それと、例のルシンダ。彼女も、スノードン侯爵の夫人は娼館を利用するような女なので、スノードン侯爵は離婚を考えているって、あちこちで話していたらしいわ」
とにかく情報が錯綜しているって、こういう場合を言うのか。
「スノードン侯爵は妻を返せと、うちの両親に、要求してるらしいわ。両親は必ず探してみせますと言ったそうよ」
理屈がもうサッパリわからなくなってきた。
「侯爵は、どうして妻を返せだなんて言うのかしら?」
自分が売ったくせに。……あ、売った訳じゃなかったっけ。
「あなたを閉じ込めておきたいのでしょう。でないと、社交界に妻を売り飛ばしたとか、噂が広がるでしょ?」
勝手だ。
勝手すぎる。
両親もだけど、侯爵も何を考えているのだろう。
もう、夕方だったので、外から馬車の音がして、ジョージ義兄様が帰ってきた。
義兄も同じ話を聞いてきたらしく、君のところの両親は変だよねと言い出した。
「娘の身が心配じゃないのかね」
だが、夕食を一緒に食べながら、ジョージ義兄様は、だんだん面白そうな顔つきになってきた。
「ねえ、ここはひとつ、君たちの両親にも協力してもらおうか」
シャーロット姉様はカタンとフォークを置いた。
「無理よ! あの人たちは凝り固まった発想しかないのよ? その考え方だけで動いているの。良縁で円満な夫婦であることが一番大切で、愛人は我慢しろ、殴られても半殺しに遭っても、笑って夫を褒め称えよという人たちですよ?」
「だからこそだよ。僕たちがどんなにそれは間違ってると言っても聞かないけれど、社交界全体が口を揃えて、おかしいと言えば、多少は聞く。少なくとも、考えるだろう」
「でも、一体何をどうするんですか?」
私は尋ねた。私の両親は、私の利益になりそうなことは何もしないと思う。
ただ、私を使うことしか考えない。
「探しに行って貰えばいいじゃないか。君を」
「私を? どこへ?」
「うん。そこなんだよ。ねえ、シャーロット。レジータ姉様に頼んで聞いてもらえない? 次のチャールストン卿が出席する会に、バセット伯爵夫妻とスノードン侯爵を呼んで、話をまとめさせようよ」
「どういう話をまとめさせるの? ジョージ? それにどうして会合の席がいいの? 自分たちの家に集めればいいんじゃないの?」
ジョージはニヤリと笑った。
「いや、そんなもんじゃ済ませてやらないよ。任せてくれよ」
それを聞いた姉はカンカンだった。
「自分の娘が娼館に売られたと聞いて、謝りに行く親がどこにいるの?」
「お姉様、私、男を買いにやらされたので、身売りされた訳ではありません」
「この際、それはどうだっていいのよ! あなたの親は、スノードン侯爵に今すぐ娘を連れ戻せと要求されているらしいのよ! よくもまあ、そんなこと言えるわよね! それだったら、まず、侯爵が自分の夫人を売り飛ばした娼館にどうして逃したって聞くのが先よ」
まったくその通りと言えばその通りなのだけれど……姉様まで売り飛ばされたとか言い出したわ。社交界では、その説の方が定着しちゃってるのね。
大体、私は両親の家に行かなかったので、両親のところへ苦情を言いに行っても、どうにもならない。
だけど、事情を聞いてスノードン侯爵に謝るような親では何の助けにもならなかっただろう。姉を頼って正解でした。
「そもそも、呼び戻せって、離婚したかったくせに何言ってるのかしら? 呼び戻して何がしたいの?」
「お姉様、侯爵は私が行かされたあの娼館に調べに行くでしょうか?」
「白薔薇館に?」
姉はぐるりと頭を巡らせて、私に聞いた。
え……そんな名前だったの。
「お客様を白薔薇に見立てて、美しい花の集う場所……って意味らしいわ」
あのー、あのー、シャーロットお姉様、私が原因のトラブル事件ではあるのですが、そのネーミングセンス、どうしてもなんか微妙です。その上、生粋の貴族の令夫人のお姉様が、そんな案件にそこまで詳しくなるだなんて、これまた微妙と言うか、違和感ありまくりと言うか……。
「白薔薇館は大迷惑らしいわよ」
「ええ? どうしてですか?」
姉はニヤリとした。
「利用者がいるのよね」
「そりゃいるんでしょう」
中は客同士が会わない作りになっていたので、誰にも会わなかったけど。女性の声は聞こえた。
「表沙汰になりたくないのよ。中には旦那様がいらっしゃる方も多くて、ほとんどが秘密の利用ですからね」
ああ、なるほど。
「バレたら離婚というケースですね」
「そうでも、ないんだと思うの。冷え切ったご夫婦で、旦那様が外で愛人を作っていたら、奥様に同じように愛人がいてもお互い黙認というケースも多いと思うわ」
「そんな上級者コース、私には分かりませんけど」
「上級者かどうかはとにかく、ご夫婦の間では認め合っていたとしても、そんな内輪の話、知られたくないじゃない」
「そりゃもちろん」
「だけど、騒ぎになると、いろいろ名前が出てくる可能性がある訳です」
ああ、それじゃ、余計に私は世の中の皆さまにご迷惑を……。
「あなたが娼館に売られたって話の誤解を解くのをためらっているのは、それが理由なの」
「じゃあ、私は娼館に売られたことに?」
姉はますますニヤリ笑いを深めた。
「世間……社交界は非難轟々よ。わずか十六歳の新妻を娼館に売り飛ばして、古い愛人と再婚を目指したって」
「そのルート、どうすれば再婚できるのか、全然わかりませんが?」
「妻が悪いので、妻の有責で離婚すると親しい人には話していたらしいわ。でも、妻が娼館通いを始めたのならとにかく、夫が売り飛ばしたんじゃ全く話が変わって来るわ。それと、例のルシンダ。彼女も、スノードン侯爵の夫人は娼館を利用するような女なので、スノードン侯爵は離婚を考えているって、あちこちで話していたらしいわ」
とにかく情報が錯綜しているって、こういう場合を言うのか。
「スノードン侯爵は妻を返せと、うちの両親に、要求してるらしいわ。両親は必ず探してみせますと言ったそうよ」
理屈がもうサッパリわからなくなってきた。
「侯爵は、どうして妻を返せだなんて言うのかしら?」
自分が売ったくせに。……あ、売った訳じゃなかったっけ。
「あなたを閉じ込めておきたいのでしょう。でないと、社交界に妻を売り飛ばしたとか、噂が広がるでしょ?」
勝手だ。
勝手すぎる。
両親もだけど、侯爵も何を考えているのだろう。
もう、夕方だったので、外から馬車の音がして、ジョージ義兄様が帰ってきた。
義兄も同じ話を聞いてきたらしく、君のところの両親は変だよねと言い出した。
「娘の身が心配じゃないのかね」
だが、夕食を一緒に食べながら、ジョージ義兄様は、だんだん面白そうな顔つきになってきた。
「ねえ、ここはひとつ、君たちの両親にも協力してもらおうか」
シャーロット姉様はカタンとフォークを置いた。
「無理よ! あの人たちは凝り固まった発想しかないのよ? その考え方だけで動いているの。良縁で円満な夫婦であることが一番大切で、愛人は我慢しろ、殴られても半殺しに遭っても、笑って夫を褒め称えよという人たちですよ?」
「だからこそだよ。僕たちがどんなにそれは間違ってると言っても聞かないけれど、社交界全体が口を揃えて、おかしいと言えば、多少は聞く。少なくとも、考えるだろう」
「でも、一体何をどうするんですか?」
私は尋ねた。私の両親は、私の利益になりそうなことは何もしないと思う。
ただ、私を使うことしか考えない。
「探しに行って貰えばいいじゃないか。君を」
「私を? どこへ?」
「うん。そこなんだよ。ねえ、シャーロット。レジータ姉様に頼んで聞いてもらえない? 次のチャールストン卿が出席する会に、バセット伯爵夫妻とスノードン侯爵を呼んで、話をまとめさせようよ」
「どういう話をまとめさせるの? ジョージ? それにどうして会合の席がいいの? 自分たちの家に集めればいいんじゃないの?」
ジョージはニヤリと笑った。
「いや、そんなもんじゃ済ませてやらないよ。任せてくれよ」
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