【完結】 お前を愛することはないと、だんなさまに宣言されました。その後、イケメン隣国の王子が物欲しそうに付きまとって来るんですけど?!

buchi

文字の大きさ
9 / 27

第9話 頼もしい姉たち

しおりを挟む
噂は千里を走ると言う。

私、スノードン侯爵夫人トマシンが夫の手で娼館に送り込まれた話は、大誤解をはらみつつ、至る所で大暴走した。

「みんな、あなたが娼館に売られて逃亡したって思い込んでるわ」

誰かのお茶会に出席して、自宅に帰ってきたシャーロット姉様が、ため息をつきながら言った。
侍女が手際よく姉からコートやバッグを受け取っていた。

「はあ?」

私は姉の家で姪や甥と遊んでいたが、変な声を出してしまった。

「私は娼館に男を買いに行かされたんですけど?」

「うん。でも、ふつう娼館と言う言葉は、男が女を買いに行く場所として認識されているでしょ?」

「そうね」

私も侯爵から説明を受けるまで、娼館なんか、よく知らなかったわ。

「スノードン侯爵の頭の中がどうなっているのかわからないけど、そもそも、普通の貴婦人は娼館と聞けば、全員、男性用を想像すると思う」

それはそうでしょう。その上、まともな娼館とか、まともじゃない娼館とか、娼館のレベルまで言われても、この世の中に、そんなに数があるとは思えない。

「その知識、男のスノードン侯爵が持っているとも思えないわ。どう考えてもルシンダの入れ知恵でしょう」

「はあ。そうね。とんだところからお里が知れたわね」

私はまだ見ぬルシンダを想像しながら、そう言った。娼館などにまで、造詣が深いなんて、ずいぶん世慣れた人である。私一人では、絶対に太刀打ちできない。
姉のところに逃げてきて正解だった。

姉たちは、結婚して子どももいて、そのつながりもあれば、社交界にも出入りしている。夫がいるから、婚家先の親族との付き合いもある。知識も豊富だ。伝手もある。

私は、同じように家に帰らない方がいいと助言してくれたリオンのことを思い出した。
馬車代を返さなきゃいけないのだが、あの娼館には二度と行きたくない。

「晩御飯のあとで、ジョージとも相談しましょうよ。きっとジョージもこの話をどこかで聞いていると思うわ」


夕食前には、レジータ姉様のチャールストン卿邸から、使いの者が来て、スノードン侯爵からレジータ姉様宛ての手紙をシャーロット姉様に渡した。

レジータ姉様も相当活躍しているらしい。あわてたスノードン侯爵が、弁解の手紙をチャールストン卿夫人宛に送って来たらしかった。

姉のところの使用人が持ってきたその手紙を読んで、弁護士の資格を持つジョージ義兄様がしかめつらをした。でも、よく見ると、そのしかめつらはニンマリしていた。

「ふふっ。バカな男だ。離縁と損害賠償金を要求しよう。あなたがゆっくり暮らせるだけの」

私はうなずいた。

お金は欲しい。

だって、いつまでも姉様のおうちにいるわけにはいかないからだ。

まだ赤ちゃんのジョージ二世はとてもかわいいし、姉のドラは三歳の割に口が達者で面白い。二人とも、とにかくかわいい。でも、だからと言って、いつまでもお邪魔する訳にはいかない。

しかし、ジョージ義兄さまは言った。

「しばらくはここにいなさい。その方が安心だ。スノードン侯爵は姉の家にいると聞いて、チャールストン卿の邸宅を想像しているらしい。ここへは絶対に来ないはずだ。それに、侯爵がチャールストン家に侵入しようものなら、それこそただでは済まないからね」

そう言ってクツクツ笑った。

チャールストン卿は、治安維持関係の仕事をしているらしい。自宅の警備は厳重を極めているそうだ。

「それよりも、この件で初めて私はチャールストン卿と話をしたよ」

ちょっと男爵は嬉しそうだった。

「なかなかお近づきになれない人だからね。だけど今回の件で、義兄弟だと認識してもらえてうれしかった。気難しい人だと言われているし、仕事上は関係ないので知り合いじゃなかったんだ。話してみたら、彼、チェスの名人で私もチェスならかなりの腕前だからね。話題が合ってよかったよ」

それからジョージ義兄さまは、ちょっと得意げにシャーロット姉様に言った。

「チャールストン卿は、隣国のお家騒動にも介入しているらしい。私に法的措置の相談をしてきたよ。ちょっといい風向きだと思うね」

私が世話になることで、ジョージ義兄様の助けになるなら、それは嬉しい。

「隣国の王太子が、真実の愛を得たと言う理由で突然王太子の座を降りて、第二王子が王太子になった話は知っているよね?」

「あら。それ、聞いたことがありますわ。一時話題になっていましたわ」

姉が熱心に言ったが、私も膝を乗り出した。

「でも、王太子の座争いに乗らなかった第三王子がいるのを知っている?」

「まあ、いいえ?」

「彼は誰が王太子になるのかわからなかった時、担ぎ出されそうになって失踪したんだ」

「ええー? そんなこと、あるのでしょうか?」

「第二王子は割と陰湿な性格らしい。邪魔者は容赦なく片付けてしまうとチャールストン卿は言っていた。第三王子は、王太子になる野心はなかったんだろう。今、この国に隠れ潜んでいると言う情報があるそうだ」

「そう言えば、そんな噂がありましたわね。でも、少し前ですわ。それきり何も話題になってませんわ」

「裏取引で、第三王子が母国へ帰らないよう仕向ければ、シンシア地方の帰属を我が国に認めると言う交換条件を出しているそうだ」

私たちは、へえと言った。

そんな難しい政治向けの話はよくわからない。

「きっと黙っておいた方がいいんでしょうね?」

姉が聞いた。

「もちろん! もちろんさ。だけど、政府内ではよく知られた話らしい。ただ肝心の王子が見つからないので、やきもきしてるんだそうだ」

「ジョージ、その件に関しては、私たち、役に立てそうもないわ」

「ごめんよ、シャーロット。ても、今のはチャールストン卿の愚痴さ。愚痴の相手になれるのは名誉なことだよ」

レジータ姉様の旦那様は、すごく偉い人だったんだ。

「トマシン、安心して。実は、チャールストン卿は警視総監を兼ねている。軍事に功労があったんだけど、今は平時だからね。治安維持の意味から、名誉職でやってるんだ。スノードン侯爵だって、チャールストン卿が絡むなら絶対に手が出せないよ」

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

婚約破棄のお相手は

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、ギリアム王子が平民の婚約者に婚約破棄を宣言した。 幼い頃に「聖女では」とギリアムの婚約者として引き取られたものの、神聖力が発現しなかったロッティナ。皆は婚約破棄されるのも当然だと思っていたが……。

処理中です...