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第4話 モンゴメリ卿
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シャーロットはその様子を黙って見送った。
この調子だと、シャーロットは今晩、誰とも踊れそうにない。
ダンスフロアは、それぞれ似合いのカップルが踊っていた。若い者が多かったが、年配のカップルもいた。年配者は相当ダンスが得意な紳士淑女らしく、ダンスを楽しんでいる様子だった。
カーラはどこだろうと探すと、少し離れたところで踊っていたが、ダンスより会話に熱が入っているようだった。
というより、何か口論でもしているように見えた。
踊っている人たちより、もっと大勢の人たちが、カップルやグループでしゃべったり、一口食べたり飲んだりしていた。
こういうところなのねとシャーロットは納得した。知り合いの家の客間以外の場所は知らなかったから、こういった舞踏会の感じがつかめたのは収穫だろう。
自分に誘いがなかったのは少し寂しいような気はしたが、ここで踊る度胸はなかった。それにシャーロットはカーラをよく知っていた。
多分、意地でもシャーロットを躍らせないだろう。
「お母さまに言っておかなくちゃ」
これでは対抗馬ゲットどころの騒ぎではない。誰とも踊れなかった変わった令嬢と評判になりそうだった。
「失礼」
そばで声がした。
最初にカーラと踊った男性だった。
「さっきあなたのお連れの方に無理矢理かっさらわれて、あなたと踊れなかった悲劇の男です」
彼は苦笑していたが、シャーロットはあわてた。
「まあ、先ほどは失礼いたしました。私と来たら勘違いしてしまって」
「何の勘違いですか?」
彼は髪は黒かったが、濃い青の瞳で、それが生き生きと動くのだった。そして、口元にはうっすら微笑みを浮かべてシャーロットを見つめていた。
シャーロットは真っ赤になった。ああ、この人は私の勘違いを知らないんだわ。
「あ、いえ。あの……」
カーラに申し込まれたダンスを、自分に向けて申し込まれたと勘違いしたと説明するのはやはり恥ずかしかった。彼女は下を向いて、自分の光沢のある美しいドレスを手袋をした手で意味もなく撫でた。
「おきれいなお嬢さんはあなたのことですよ。さっきのご令嬢ではない」
男性はいやにはっきり言った。
「あなたはとても目立っていましたよ。あなたと踊りたい人は多いでしょう」
シャーロットはあわてた。目立たなければいけないのだが、それはそれで何か恥ずかしい。
「……そんなことはございませんわ」
「こんなパーティは出会いの場としては、最高なのですが、気を付けないといけません。あなたのお連れは、失礼ながら、何の役にも立っていませんね。代わりに自分が踊るだなんて。妙な男性とお近づきにならないように、ついてきたはずなのに、今あなたは一人じゃありませんか」
全くその通り。シャーロットは一言もなかった。
彼はモンゴメリ卿だと名を名乗り、シャーロットに、名前を教えて欲しいと言った。
「モンゴメリ卿?」
覚えがあった。社交界のドンと呼ばれる紳士だ。
モンゴメリ卿はシャーロットの名前を聞くとうなずいて言った。
「以前ピアでダーリントン伯爵令嬢と一緒にいたのはあなたでしょう?」
シャーロットはおずおずとうなずいた。
「あなたのような目の持ち主を忘れるわけがない」
「覚えていてくださいましたの?」
「ええ。あなたのことはね。さっき踊らされたカーラ・アンダーソン嬢という方は、聞いたこともなかったけれどね」
モンゴメリ卿は肩をすくめた。
卿は裕福で家柄がよく、もう四十過ぎだが未だ独身。女好きで、若い頃は、人に言えないようなところでも相当遊んでいたと聞く。
だが、ただの遊び人が社交界で暗黙の地位を得る訳がない。彼は十分な財産を持ち、洞察力に富み賢明で、そしてまた親切だったから人に慕われ、人気があったのだ。
もうひとつ付け加えるなら、美しい女性が好きだった。
初物に目がないモンゴメリ卿は、シャーロットの青緑の目に見入った。珍しい美しい色の目だ。もう少しして、色気が身に着いたらどんなことになるやら……モンゴメリ卿は微笑んだ。
「今日、ご一緒だったあの人はあなたとどういう関係の方なの?」
「また従姉妹なのですけれど……」
モンゴメリ卿は親切で話を聞き出すのがうまかった。彼女はモンゴメリ卿になら安心して話ができるような気がした。
さっきまではこの会場は敵だらけの途方にくれるような空間だったのに、知り合いが一人いればこうも違うのか。
「どうしても、今晩、誰か男性とお知り合いにならないといけないのです……」
ニコニコしながら話を聞いていたモンゴメリ卿だったが、ちょっとこれにはびっくりした。
何を言っているのだろう。
マッキントッシュ家は裕福で、一人娘がその財産すべてを受け継ぐだろうことは一般によく知られている。
その上、この娘はとても美しい。必死にモンゴメリ卿を見つめる様子はなんとも愛らしい。自分がどんなにかわいい娘で、男心をそそるのか、全然わかっていないらしい。
こんなに美しくて条件のいい令嬢が、必死になって男性と知り合いになりたがるだなんて。何もしなくても大勢やってきそうなのに? モンゴメリ卿は好奇心を起こした。
「一体、どうして、そんなことに?」
シャーロットはフレデリックから婚約を迫られていることを正直に話した。
「まだ、婚約なんて考えていなかったのです。結婚するためにデビューしたと言われれば確かにそうなのですけれど……」
モンゴメリ卿の目が愉快そうに踊った。彼は縁結びが好きなのである。それに紹介したい人がいた。
「じゃあ、とりあえず一人紹介しよう。おおい、ジャック!」
この調子だと、シャーロットは今晩、誰とも踊れそうにない。
ダンスフロアは、それぞれ似合いのカップルが踊っていた。若い者が多かったが、年配のカップルもいた。年配者は相当ダンスが得意な紳士淑女らしく、ダンスを楽しんでいる様子だった。
カーラはどこだろうと探すと、少し離れたところで踊っていたが、ダンスより会話に熱が入っているようだった。
というより、何か口論でもしているように見えた。
踊っている人たちより、もっと大勢の人たちが、カップルやグループでしゃべったり、一口食べたり飲んだりしていた。
こういうところなのねとシャーロットは納得した。知り合いの家の客間以外の場所は知らなかったから、こういった舞踏会の感じがつかめたのは収穫だろう。
自分に誘いがなかったのは少し寂しいような気はしたが、ここで踊る度胸はなかった。それにシャーロットはカーラをよく知っていた。
多分、意地でもシャーロットを躍らせないだろう。
「お母さまに言っておかなくちゃ」
これでは対抗馬ゲットどころの騒ぎではない。誰とも踊れなかった変わった令嬢と評判になりそうだった。
「失礼」
そばで声がした。
最初にカーラと踊った男性だった。
「さっきあなたのお連れの方に無理矢理かっさらわれて、あなたと踊れなかった悲劇の男です」
彼は苦笑していたが、シャーロットはあわてた。
「まあ、先ほどは失礼いたしました。私と来たら勘違いしてしまって」
「何の勘違いですか?」
彼は髪は黒かったが、濃い青の瞳で、それが生き生きと動くのだった。そして、口元にはうっすら微笑みを浮かべてシャーロットを見つめていた。
シャーロットは真っ赤になった。ああ、この人は私の勘違いを知らないんだわ。
「あ、いえ。あの……」
カーラに申し込まれたダンスを、自分に向けて申し込まれたと勘違いしたと説明するのはやはり恥ずかしかった。彼女は下を向いて、自分の光沢のある美しいドレスを手袋をした手で意味もなく撫でた。
「おきれいなお嬢さんはあなたのことですよ。さっきのご令嬢ではない」
男性はいやにはっきり言った。
「あなたはとても目立っていましたよ。あなたと踊りたい人は多いでしょう」
シャーロットはあわてた。目立たなければいけないのだが、それはそれで何か恥ずかしい。
「……そんなことはございませんわ」
「こんなパーティは出会いの場としては、最高なのですが、気を付けないといけません。あなたのお連れは、失礼ながら、何の役にも立っていませんね。代わりに自分が踊るだなんて。妙な男性とお近づきにならないように、ついてきたはずなのに、今あなたは一人じゃありませんか」
全くその通り。シャーロットは一言もなかった。
彼はモンゴメリ卿だと名を名乗り、シャーロットに、名前を教えて欲しいと言った。
「モンゴメリ卿?」
覚えがあった。社交界のドンと呼ばれる紳士だ。
モンゴメリ卿はシャーロットの名前を聞くとうなずいて言った。
「以前ピアでダーリントン伯爵令嬢と一緒にいたのはあなたでしょう?」
シャーロットはおずおずとうなずいた。
「あなたのような目の持ち主を忘れるわけがない」
「覚えていてくださいましたの?」
「ええ。あなたのことはね。さっき踊らされたカーラ・アンダーソン嬢という方は、聞いたこともなかったけれどね」
モンゴメリ卿は肩をすくめた。
卿は裕福で家柄がよく、もう四十過ぎだが未だ独身。女好きで、若い頃は、人に言えないようなところでも相当遊んでいたと聞く。
だが、ただの遊び人が社交界で暗黙の地位を得る訳がない。彼は十分な財産を持ち、洞察力に富み賢明で、そしてまた親切だったから人に慕われ、人気があったのだ。
もうひとつ付け加えるなら、美しい女性が好きだった。
初物に目がないモンゴメリ卿は、シャーロットの青緑の目に見入った。珍しい美しい色の目だ。もう少しして、色気が身に着いたらどんなことになるやら……モンゴメリ卿は微笑んだ。
「今日、ご一緒だったあの人はあなたとどういう関係の方なの?」
「また従姉妹なのですけれど……」
モンゴメリ卿は親切で話を聞き出すのがうまかった。彼女はモンゴメリ卿になら安心して話ができるような気がした。
さっきまではこの会場は敵だらけの途方にくれるような空間だったのに、知り合いが一人いればこうも違うのか。
「どうしても、今晩、誰か男性とお知り合いにならないといけないのです……」
ニコニコしながら話を聞いていたモンゴメリ卿だったが、ちょっとこれにはびっくりした。
何を言っているのだろう。
マッキントッシュ家は裕福で、一人娘がその財産すべてを受け継ぐだろうことは一般によく知られている。
その上、この娘はとても美しい。必死にモンゴメリ卿を見つめる様子はなんとも愛らしい。自分がどんなにかわいい娘で、男心をそそるのか、全然わかっていないらしい。
こんなに美しくて条件のいい令嬢が、必死になって男性と知り合いになりたがるだなんて。何もしなくても大勢やってきそうなのに? モンゴメリ卿は好奇心を起こした。
「一体、どうして、そんなことに?」
シャーロットはフレデリックから婚約を迫られていることを正直に話した。
「まだ、婚約なんて考えていなかったのです。結婚するためにデビューしたと言われれば確かにそうなのですけれど……」
モンゴメリ卿の目が愉快そうに踊った。彼は縁結びが好きなのである。それに紹介したい人がいた。
「じゃあ、とりあえず一人紹介しよう。おおい、ジャック!」
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