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第37話 宝石のプレゼント(アラン殿下から)
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街歩きの日は快晴で、アランは胸が高鳴るのを覚えた。
「街っていいなあ」
爽やかな天候で、アランは思わずシエナに話しかけた。
二人とも、金持ちの町人風の格好である。
シエナはリオとよく街に出ていたので、リオが買った可愛らしい町人の娘風の服を持っていた。
「可愛いな。学校で着ている服と少し違うんだね」
「ええ。スカート丈が長いと歩くのに不便なので」
「そうなの」
アランは、少しだけ見える絹の靴下をはいた細い足をじっくり眺めた。
「じゃあ、疲れないうちに、街の広場を見学に行こう!」
「広場に興味がありますの?」
「うん。十二月祭の会場だって聞いたから!」
護衛には、後ろを目立たない様に付いてくるよう命じてある。
したがって、護衛兼通訳はリオが前に飛び出さないよう一生懸命押さえるのが本日の仕事になっていた。
後ろではリオがギリギリ歯を食いしばっていた。まさかシエナと出たいとか言う気じゃないだろうな。
「四百年の歴史があるって聞いたんだ」
「ええ。花火もダンスも屋台も出ます。みんな仮装するんですよ? その日ばかりは無礼講です」
アランはため息をついた。
「僕は、その頃には帰らなくちゃいけない。見ることはできないけど」
リオはほっとした。なんだ、そうか。
ゴートの始まりは、伝説によれば、竜が棲むが故に荒れ果てた土地へ一人の若者が聖剣を携えてあらわれ、悪竜に戦いを挑んだことに始まるという。
「へえ?」
「その英雄聖パトリック様を記念するお祭りですの」
広場の真ん中には、竜に刀を突き刺している英雄の銅像が飾られていた。
周りには、多くの店が立ち並び、広場から放射状に通りが広がっていた。
大勢の人や、馬車が行き交い、それはそれは賑やかだった。
「覗いてみよう」
大通りの宝飾店にアランはシエナを誘った。
裕福な町人風の格好は便利だ。店員も、さほど気にする様子がない。
これが王太子殿下のお出ましだったら、店主以下大勢が周りを取り囲んで、店の由来や自慢の宝石を並べ立てたりして大騒ぎになる。
「ねっ? このイヤリング、可愛くない? シエナにピッタリだ」
後ろではリオがイライライライラしていた。
「私は、通訳ですから、買っていただくわけにはいきません」
シエナが答えている。
「でも、買ってあげたくなっちゃった。とても似合いそう」
アランが店員にそのイヤリングを出して見せてくれと頼んでいる。
「アラン様、いつもお店でプレゼントを買ったりなさっているのですか?」
シエナが不思議そうに聞いた。
「いや? 街に出るのが初めてだよ。お店に入るのも」
そうですわよね……
「アラン様、婚約者やお好きな方はおられませんの?」
「あ? それ、興味ある?」
シエナは曖昧に微笑んだ。
「違います。イヤリングやネックレスなどの宝飾品は、ゴート国では恋人にあげるものなのですけど」
「そうなの?」
そう言えば、セドナでもそれは変わらない気がする。
「ええ。ですから、私が受け取るわけにはいきませんわ」
でも、君にあげたくなっちゃったんだよ。
アランは思った。
「だって、似合いそうなんだもの」
受け取ってほしい。どうして、そう思うんだろうな。
「ずいぶん、世話になったからね。これくらいお礼をさせてよ」
喜んでほしい。もしも、僕のプレゼントを喜んでくれたなら……そして、身につけてくれたら……
店の外では、ショーウィンドウに張り付いた、ガタイのいい男二人がもめていた。
「リオ様ってば。アラン様は、ただの天然なんですから!」
「やっていいことと悪いことがあるだろう!」
婚約者でもなければ、恋人でさえない男が言っていいセリフではない。
「何も考えていません! 大丈夫! 保証します。国に連れて帰ろうだなんて、これっぽっちも考えてもいません」
突然、恐怖に襲われたらしいリオが、美貌を蒼白にして護衛兼通訳のジョゼフを睨みつけた。
「そんなこと、あるのか? く、国に連れて行くって?」
うっかり、余計なことを言ってしまったことに気づいたジョゼフだったが、ここは何とかごまかさなくてはならない。
あの調子では、連れて帰りたいと言い出しかねないと、最近、ジョゼフは不安になっていたのだ。
「まさか、本気?」
そう聞くリオの顔が怖い。超怖い。
「いや、あの、多分大丈夫」
「多分て何?」
店の外の殺伐とした男二人をよそに、店内は妙に甘ったるい空気に満たされていた。
「本当に、それくらいの金、問題にならないよ。僕の小遣いがいくらあると思っているの?」
店の中では、アランがセドナ語で優しくささやいて、シエナが大困惑していた。
「それは……アラン様がお金持ちだってことはわかっていますけれど、私は通訳としてのお給金はいただいていますから、それで十分です」
「十分じゃないよ」
シエナが困っているのを見ていると、何だか楽しくなってきた。
それにシエナは着飾らせたら、きっとすごい美人になる。ジョゼフも評判の美人だと言っていた。
「お嬢様、付けてみられませんか?」
女性の店員が、アランの手招きに応じて、宝飾店内でさえキラキラした輝きを放つイヤリングを耳につけてくれた。
アランはうっとりした。
耳元で光るイヤリングが、首やうなじ顔形の美しさを引き立てる。
アランは突然、自国の宮廷舞踏会を思いだした。
あの時の令嬢たち。彼女たちのドレスを。
この銀を帯びた金色の髪、紫がかった大きな目、スラリとした体つきに、あの豪奢なドレスを纏わせたら……
絶対に、誰よりもきれいになる。
突然、アランの心のどこかに小さな火が点いた。
「これがいいな。プレゼント決まり!」
彼は、店員にイヤリングを包むよう命じた。
「アラン様。そんなわけには……」
そんな高価なものをいただくわけには参りませんと、シエナは言い出した。
厚かましいとかいう言葉とは真逆にいる娘だ。
王宮にいっぱいいた、欲にまみれた本心を隠している令嬢たちと全然違う。
「遠慮が過ぎるぞ。アッシュフォード子爵からは、受け取ったんだよね?」
突然、アッシュフォード子爵の名前が出てきた。
「ドレスも宝石も」
「え……はい」
「アッシュフォード子爵は知り合い?」
「……違います……けど」
「知っている僕からのプレゼントは受け取れないの? アッシュフォード子爵は顔も知らないんだよね?」
あの時は事情があって……そう言いたかったが、アラン様の表情が真剣で、説明する雰囲気じゃなかった。
一体、どうしちゃったのかしら。
アランはニコッと笑った。
次はドレスを買いに行こう。アッシュフォード子爵よりも高いドレスを。
そして、この逸品を思う存分着飾らせよう。
みんなの見る目が違ってくるだろう。
本人すら気づいていないかも知れない、本当の姿、本当の値打ちを知らしめたい。僕の横で……
「ねえ、確か、今度、騎士学校でダンスパーティがなかったっけ?」
「ありますわ。でも、招待状が無いと入れないんです」
「弟のリオがいるじゃないの?」
「来なくていいって言ってますわ。それにリオは弟ですもの。婚約者ではあるまいし、呼ぶ理由がありません。私も出たくないですし」
どうせ他の男に見せたく無いだけだろう。アランは意地悪く考えた。
「この間は、私の学校の主催でしたので、しかもその時には私に婚約者がいたので、出席しないと格好がつかなかったんです。ドレスがなくて、本当に困っていました、あの時は。だから……」
アッシュフォード子爵からのプレゼントは本当に嬉しかった。
今となっては、だんだんとその意味が怖くなってきているけど。
アランはシエナの様子を見て、考えた。
リオが呼ばないなら、自分が呼べばいいさ。
アランは王太子なのだ。ツテなんか、いくらでもある。
自分があつらえさせたドレスをシエナに着せて、連れ回す。
誰にも自分の真意はわからないだろうし、そこの目を爛々と光らせた男にはいい薬だと思う。少々のことで騒ぎ立てて。
「さ、シエナ。支払いはジョゼフに任せて、他のものも見てみない? こういうものは、たくさんみておいた方が目を養えるんだよ?」
アランは金を持ち歩かない。そう言った仕事は護衛兼通訳のジョゼフの仕事だ。
アラン殿下はシエナを連れて、その場を離れてしまい、ジョゼフはリオと二人残された。
金を払いながら、リオを黙らせながら、ジョゼフは思った。
この護衛(リオのことだ)、本気でいらなかったのでは? 余計手間がかかるだけだ。
「何を考えているんだ、あのヤロー」
「大丈夫ですから。あれでも、立場はきちんと弁えていますから。品行方正で優秀なんです。リオさん、ちょっと、耳元で怒鳴るのやめて。黙っててください。三千ギルですか?」
「毎度、ありがとうございます。金貨ですね」
「品行方正! 誰が!」
リオが吠えた。
「だからこそ、ここでハメ外してるんですよ。それ以上、何か言わないで。不敬罪になりますよ。自国に帰っちゃえば、全然気にもならないでしょ?」
リオには、ああ言って何とかなだめたものの、ジョゼフは宿舎に帰ってから、アランに説教しないわけにはいかなかった。
ジョゼフは、護衛兼通訳だが、アランより十歳ほど年上で、監視役も兼ねている。
リオが危険なので、店の中に入るわけにいかなかった。その間に、シエナ相手にアランが好き勝手していたのである。
全く、本気で、あの護衛(リオのこと)は要らないんじゃないかな。
妙なライバル意識を燃やして、アラン様が訳のわからないことを始めてしまった。
アラン様……王太子殿下は言い訳した。
「いずれ返してやる。まさかセドナに連れて行くわけには行かないからな。だから、心配するな。ちょっとだけ、自由に遊ぶ時間が欲しいんだ。それには、ダンスの相手も必要なんだ」
自由な遊びに女の子は必需品なわけですね。
ジョゼフは、内心でため息をついた。
「ダンスなんか、セドナに帰れば、希望者が鈴なりでしょうが」
「違う、違う。シエナがいいんだ。その希望者たちと違って、下心がないし、事情を知った上で相手してくれるからとても楽なんだ」
「事情って、王太子殿下のお忍びだってことですか?」
「そうそう。ダンスには行きたい。でも、ダンスの相手の令嬢もダンスの相手のことは気にする。どこの誰だか知りたがるでしょ? 適当な説明をしなきゃならない。だけどシエナなら、説明なんか思いつかなくてもいいし、ほどほどに相手してくれる」
いかにも、もっともらしいことを言っている。
でも、多分、そうじゃない。
美人なら、他にもいる。
アランは、いろいろ理屈をこねているけど、シエナを連れて行きたいんだ。
ジョゼフはげっそりした。この先、どんな騒ぎが待ち受けていることやら。
「街っていいなあ」
爽やかな天候で、アランは思わずシエナに話しかけた。
二人とも、金持ちの町人風の格好である。
シエナはリオとよく街に出ていたので、リオが買った可愛らしい町人の娘風の服を持っていた。
「可愛いな。学校で着ている服と少し違うんだね」
「ええ。スカート丈が長いと歩くのに不便なので」
「そうなの」
アランは、少しだけ見える絹の靴下をはいた細い足をじっくり眺めた。
「じゃあ、疲れないうちに、街の広場を見学に行こう!」
「広場に興味がありますの?」
「うん。十二月祭の会場だって聞いたから!」
護衛には、後ろを目立たない様に付いてくるよう命じてある。
したがって、護衛兼通訳はリオが前に飛び出さないよう一生懸命押さえるのが本日の仕事になっていた。
後ろではリオがギリギリ歯を食いしばっていた。まさかシエナと出たいとか言う気じゃないだろうな。
「四百年の歴史があるって聞いたんだ」
「ええ。花火もダンスも屋台も出ます。みんな仮装するんですよ? その日ばかりは無礼講です」
アランはため息をついた。
「僕は、その頃には帰らなくちゃいけない。見ることはできないけど」
リオはほっとした。なんだ、そうか。
ゴートの始まりは、伝説によれば、竜が棲むが故に荒れ果てた土地へ一人の若者が聖剣を携えてあらわれ、悪竜に戦いを挑んだことに始まるという。
「へえ?」
「その英雄聖パトリック様を記念するお祭りですの」
広場の真ん中には、竜に刀を突き刺している英雄の銅像が飾られていた。
周りには、多くの店が立ち並び、広場から放射状に通りが広がっていた。
大勢の人や、馬車が行き交い、それはそれは賑やかだった。
「覗いてみよう」
大通りの宝飾店にアランはシエナを誘った。
裕福な町人風の格好は便利だ。店員も、さほど気にする様子がない。
これが王太子殿下のお出ましだったら、店主以下大勢が周りを取り囲んで、店の由来や自慢の宝石を並べ立てたりして大騒ぎになる。
「ねっ? このイヤリング、可愛くない? シエナにピッタリだ」
後ろではリオがイライライライラしていた。
「私は、通訳ですから、買っていただくわけにはいきません」
シエナが答えている。
「でも、買ってあげたくなっちゃった。とても似合いそう」
アランが店員にそのイヤリングを出して見せてくれと頼んでいる。
「アラン様、いつもお店でプレゼントを買ったりなさっているのですか?」
シエナが不思議そうに聞いた。
「いや? 街に出るのが初めてだよ。お店に入るのも」
そうですわよね……
「アラン様、婚約者やお好きな方はおられませんの?」
「あ? それ、興味ある?」
シエナは曖昧に微笑んだ。
「違います。イヤリングやネックレスなどの宝飾品は、ゴート国では恋人にあげるものなのですけど」
「そうなの?」
そう言えば、セドナでもそれは変わらない気がする。
「ええ。ですから、私が受け取るわけにはいきませんわ」
でも、君にあげたくなっちゃったんだよ。
アランは思った。
「だって、似合いそうなんだもの」
受け取ってほしい。どうして、そう思うんだろうな。
「ずいぶん、世話になったからね。これくらいお礼をさせてよ」
喜んでほしい。もしも、僕のプレゼントを喜んでくれたなら……そして、身につけてくれたら……
店の外では、ショーウィンドウに張り付いた、ガタイのいい男二人がもめていた。
「リオ様ってば。アラン様は、ただの天然なんですから!」
「やっていいことと悪いことがあるだろう!」
婚約者でもなければ、恋人でさえない男が言っていいセリフではない。
「何も考えていません! 大丈夫! 保証します。国に連れて帰ろうだなんて、これっぽっちも考えてもいません」
突然、恐怖に襲われたらしいリオが、美貌を蒼白にして護衛兼通訳のジョゼフを睨みつけた。
「そんなこと、あるのか? く、国に連れて行くって?」
うっかり、余計なことを言ってしまったことに気づいたジョゼフだったが、ここは何とかごまかさなくてはならない。
あの調子では、連れて帰りたいと言い出しかねないと、最近、ジョゼフは不安になっていたのだ。
「まさか、本気?」
そう聞くリオの顔が怖い。超怖い。
「いや、あの、多分大丈夫」
「多分て何?」
店の外の殺伐とした男二人をよそに、店内は妙に甘ったるい空気に満たされていた。
「本当に、それくらいの金、問題にならないよ。僕の小遣いがいくらあると思っているの?」
店の中では、アランがセドナ語で優しくささやいて、シエナが大困惑していた。
「それは……アラン様がお金持ちだってことはわかっていますけれど、私は通訳としてのお給金はいただいていますから、それで十分です」
「十分じゃないよ」
シエナが困っているのを見ていると、何だか楽しくなってきた。
それにシエナは着飾らせたら、きっとすごい美人になる。ジョゼフも評判の美人だと言っていた。
「お嬢様、付けてみられませんか?」
女性の店員が、アランの手招きに応じて、宝飾店内でさえキラキラした輝きを放つイヤリングを耳につけてくれた。
アランはうっとりした。
耳元で光るイヤリングが、首やうなじ顔形の美しさを引き立てる。
アランは突然、自国の宮廷舞踏会を思いだした。
あの時の令嬢たち。彼女たちのドレスを。
この銀を帯びた金色の髪、紫がかった大きな目、スラリとした体つきに、あの豪奢なドレスを纏わせたら……
絶対に、誰よりもきれいになる。
突然、アランの心のどこかに小さな火が点いた。
「これがいいな。プレゼント決まり!」
彼は、店員にイヤリングを包むよう命じた。
「アラン様。そんなわけには……」
そんな高価なものをいただくわけには参りませんと、シエナは言い出した。
厚かましいとかいう言葉とは真逆にいる娘だ。
王宮にいっぱいいた、欲にまみれた本心を隠している令嬢たちと全然違う。
「遠慮が過ぎるぞ。アッシュフォード子爵からは、受け取ったんだよね?」
突然、アッシュフォード子爵の名前が出てきた。
「ドレスも宝石も」
「え……はい」
「アッシュフォード子爵は知り合い?」
「……違います……けど」
「知っている僕からのプレゼントは受け取れないの? アッシュフォード子爵は顔も知らないんだよね?」
あの時は事情があって……そう言いたかったが、アラン様の表情が真剣で、説明する雰囲気じゃなかった。
一体、どうしちゃったのかしら。
アランはニコッと笑った。
次はドレスを買いに行こう。アッシュフォード子爵よりも高いドレスを。
そして、この逸品を思う存分着飾らせよう。
みんなの見る目が違ってくるだろう。
本人すら気づいていないかも知れない、本当の姿、本当の値打ちを知らしめたい。僕の横で……
「ねえ、確か、今度、騎士学校でダンスパーティがなかったっけ?」
「ありますわ。でも、招待状が無いと入れないんです」
「弟のリオがいるじゃないの?」
「来なくていいって言ってますわ。それにリオは弟ですもの。婚約者ではあるまいし、呼ぶ理由がありません。私も出たくないですし」
どうせ他の男に見せたく無いだけだろう。アランは意地悪く考えた。
「この間は、私の学校の主催でしたので、しかもその時には私に婚約者がいたので、出席しないと格好がつかなかったんです。ドレスがなくて、本当に困っていました、あの時は。だから……」
アッシュフォード子爵からのプレゼントは本当に嬉しかった。
今となっては、だんだんとその意味が怖くなってきているけど。
アランはシエナの様子を見て、考えた。
リオが呼ばないなら、自分が呼べばいいさ。
アランは王太子なのだ。ツテなんか、いくらでもある。
自分があつらえさせたドレスをシエナに着せて、連れ回す。
誰にも自分の真意はわからないだろうし、そこの目を爛々と光らせた男にはいい薬だと思う。少々のことで騒ぎ立てて。
「さ、シエナ。支払いはジョゼフに任せて、他のものも見てみない? こういうものは、たくさんみておいた方が目を養えるんだよ?」
アランは金を持ち歩かない。そう言った仕事は護衛兼通訳のジョゼフの仕事だ。
アラン殿下はシエナを連れて、その場を離れてしまい、ジョゼフはリオと二人残された。
金を払いながら、リオを黙らせながら、ジョゼフは思った。
この護衛(リオのことだ)、本気でいらなかったのでは? 余計手間がかかるだけだ。
「何を考えているんだ、あのヤロー」
「大丈夫ですから。あれでも、立場はきちんと弁えていますから。品行方正で優秀なんです。リオさん、ちょっと、耳元で怒鳴るのやめて。黙っててください。三千ギルですか?」
「毎度、ありがとうございます。金貨ですね」
「品行方正! 誰が!」
リオが吠えた。
「だからこそ、ここでハメ外してるんですよ。それ以上、何か言わないで。不敬罪になりますよ。自国に帰っちゃえば、全然気にもならないでしょ?」
リオには、ああ言って何とかなだめたものの、ジョゼフは宿舎に帰ってから、アランに説教しないわけにはいかなかった。
ジョゼフは、護衛兼通訳だが、アランより十歳ほど年上で、監視役も兼ねている。
リオが危険なので、店の中に入るわけにいかなかった。その間に、シエナ相手にアランが好き勝手していたのである。
全く、本気で、あの護衛(リオのこと)は要らないんじゃないかな。
妙なライバル意識を燃やして、アラン様が訳のわからないことを始めてしまった。
アラン様……王太子殿下は言い訳した。
「いずれ返してやる。まさかセドナに連れて行くわけには行かないからな。だから、心配するな。ちょっとだけ、自由に遊ぶ時間が欲しいんだ。それには、ダンスの相手も必要なんだ」
自由な遊びに女の子は必需品なわけですね。
ジョゼフは、内心でため息をついた。
「ダンスなんか、セドナに帰れば、希望者が鈴なりでしょうが」
「違う、違う。シエナがいいんだ。その希望者たちと違って、下心がないし、事情を知った上で相手してくれるからとても楽なんだ」
「事情って、王太子殿下のお忍びだってことですか?」
「そうそう。ダンスには行きたい。でも、ダンスの相手の令嬢もダンスの相手のことは気にする。どこの誰だか知りたがるでしょ? 適当な説明をしなきゃならない。だけどシエナなら、説明なんか思いつかなくてもいいし、ほどほどに相手してくれる」
いかにも、もっともらしいことを言っている。
でも、多分、そうじゃない。
美人なら、他にもいる。
アランは、いろいろ理屈をこねているけど、シエナを連れて行きたいんだ。
ジョゼフはげっそりした。この先、どんな騒ぎが待ち受けていることやら。
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