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第4話 家出決定
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従姉妹のエミリが足音も高くバタバタと部屋を出て行ってから、私は呆然として考え込んだ。
始末するとはどういう意味だろう?
まさか殺されるのだろうか。
……おかしいとは、思っていた。
だって、ご飯の量が少なすぎる。
私はやせっぽっちで背も高くないけど、それでもあの量では普通だったら生きていない。どういうカロリー計算しているのかわからないけど。
料理番は意地悪なので、私が困った様子をしているのを見ると楽しそうだった。
バーバラ叔母は親切な人ではないから、料理番にも結構ひどい仕打ちをしていた。理由もないのに、料理にケチをつけたことも、一度や二度ではない。ストレスが溜まっていると思う。
でも、だからって、私に食事をくれないのはあんまりだ。生死に関わる。
私に魔力が無かったら、もう、ずっと前に飢え死にしていたかもしれない。
それくらい、冷遇されていた。
「まあ、そんなことにはならないけどね」
いつの間にか、小麦粉や蜂蜜や、スープ鍋の中身がなんとなく減っていたはず。ばれては面倒だから、そんなにたくさんは持ち出せなかったし、デザートのような使用人にも人気の料理はパクるのが難しくて、甘いものは食べられなかったけど。
魔法は、オリビア伯母さまに教わった。
伯母は父の姉で、美人で優秀で、隣国マグリナの大侯爵家に堂々と嫁いだ。
(この結婚について、フリージアの王家は、後で、大失敗したと後悔したらしいけど)
たまに母国へ里帰りすることがあり、そんな時は、私は大喜びで伯母に遊んでもらっていた。
魔法は本当におもしろい。
伯母がいない時は書物で学ぶしかなかったが、伯母が来た時には大歓迎して、わからないところを聞いたり、知らない魔法を教えてもらったりした。
従兄弟たちが男の子ばかりだったせいもあってか、伯母は、私をとても可愛がってくれていた。
「リナはすごいわ!」
伯母様は、よくほめてくれた。褒められるってことは、とてもうれしい。
「リナ。でも、黙っておきましょうね。あなたの力を悪用しようとする者が現れたら困るから」
魔力を持つ者がいる。
それは、ほんの身内だけしか知らないロビア家の秘密だった。
新参者で、素性もよくわからないバーバラ夫人とエミリが、この秘密を知る由もない。
明日、あの親子は、王宮に参上するそうだ。
バーバラとエミリは、この婚約の本当の意味を知らないから、平然と婚約者の差し替えを申し出るのだろう。
エミリを見ている限り、魔力のカケラも感じられない。
魔力のない娘など、絶対に王家に相手にされないと思うのだけど。
だから、おそらく婚約者の差し替えはうまくいかない。
多分、バーバラ夫人たちは、理由がわからなくて、激怒して帰って来るだろう。
「うーん。まずいわ……」
八つ当たりが心配。特にエミリ。彼女はとても感情的だ。何をされるかわからない。
私は決心した。
長らく計画していたプランを、ついに実行に移す時がきたのだ。
こんな家、出て行ってやる。
たった一人、ロビア家に残った忠実な使用人は、古くから仕えている総執事のセバスだけだった。
どうして彼が、ロビア家に残ってくれたのか、わからない。
彼ほど優秀なら、他のおうちでも引く手あまただと思う。
私は、セバスにだけは、家出の決意を伝えた。
どんなに止められても絶対に出ていくつもりだ、こんな家。
「すばらしいご決断でございます。お嬢様なら、どこへ行っても大丈夫です。暮らしていけます」
セバスは、家出に太鼓判を押した。
「は……」
……あのう、私、薄幸の美少女で、大事に大事に育てられた深窓の姫君なんですけど? 家出、止めないの?
「リナ様のことは、お小さい頃から見ておりました。おばあさまや伯母様に似てらっしゃいます」
ええと、私のおばあさまは、夫である公爵亡きあと、広大な公爵領をまとめ上げ、改革に次ぐ改革を実行して、ただでさえ名門の公爵家の名を全国に知らしめた女傑なのですが。
まあ、それもあって私と王家との婚約話が順調に進んだように思う。
オリビア伯母様も、堂々たる大魔法使い。
「私におばあさまや伯母様のような実行力はないと思うのですけれど。まあ、婚約者はエミリにお譲りするとして」
エミリと王太子殿下との婚約は、実現しないのではないかしらと思うけど、お譲りする件に関しては、全然悔しい気持ちにはならなかった。
だって、私は婚約者のイアン王太子に、会ったこともなかったのだから。
始末するとはどういう意味だろう?
まさか殺されるのだろうか。
……おかしいとは、思っていた。
だって、ご飯の量が少なすぎる。
私はやせっぽっちで背も高くないけど、それでもあの量では普通だったら生きていない。どういうカロリー計算しているのかわからないけど。
料理番は意地悪なので、私が困った様子をしているのを見ると楽しそうだった。
バーバラ叔母は親切な人ではないから、料理番にも結構ひどい仕打ちをしていた。理由もないのに、料理にケチをつけたことも、一度や二度ではない。ストレスが溜まっていると思う。
でも、だからって、私に食事をくれないのはあんまりだ。生死に関わる。
私に魔力が無かったら、もう、ずっと前に飢え死にしていたかもしれない。
それくらい、冷遇されていた。
「まあ、そんなことにはならないけどね」
いつの間にか、小麦粉や蜂蜜や、スープ鍋の中身がなんとなく減っていたはず。ばれては面倒だから、そんなにたくさんは持ち出せなかったし、デザートのような使用人にも人気の料理はパクるのが難しくて、甘いものは食べられなかったけど。
魔法は、オリビア伯母さまに教わった。
伯母は父の姉で、美人で優秀で、隣国マグリナの大侯爵家に堂々と嫁いだ。
(この結婚について、フリージアの王家は、後で、大失敗したと後悔したらしいけど)
たまに母国へ里帰りすることがあり、そんな時は、私は大喜びで伯母に遊んでもらっていた。
魔法は本当におもしろい。
伯母がいない時は書物で学ぶしかなかったが、伯母が来た時には大歓迎して、わからないところを聞いたり、知らない魔法を教えてもらったりした。
従兄弟たちが男の子ばかりだったせいもあってか、伯母は、私をとても可愛がってくれていた。
「リナはすごいわ!」
伯母様は、よくほめてくれた。褒められるってことは、とてもうれしい。
「リナ。でも、黙っておきましょうね。あなたの力を悪用しようとする者が現れたら困るから」
魔力を持つ者がいる。
それは、ほんの身内だけしか知らないロビア家の秘密だった。
新参者で、素性もよくわからないバーバラ夫人とエミリが、この秘密を知る由もない。
明日、あの親子は、王宮に参上するそうだ。
バーバラとエミリは、この婚約の本当の意味を知らないから、平然と婚約者の差し替えを申し出るのだろう。
エミリを見ている限り、魔力のカケラも感じられない。
魔力のない娘など、絶対に王家に相手にされないと思うのだけど。
だから、おそらく婚約者の差し替えはうまくいかない。
多分、バーバラ夫人たちは、理由がわからなくて、激怒して帰って来るだろう。
「うーん。まずいわ……」
八つ当たりが心配。特にエミリ。彼女はとても感情的だ。何をされるかわからない。
私は決心した。
長らく計画していたプランを、ついに実行に移す時がきたのだ。
こんな家、出て行ってやる。
たった一人、ロビア家に残った忠実な使用人は、古くから仕えている総執事のセバスだけだった。
どうして彼が、ロビア家に残ってくれたのか、わからない。
彼ほど優秀なら、他のおうちでも引く手あまただと思う。
私は、セバスにだけは、家出の決意を伝えた。
どんなに止められても絶対に出ていくつもりだ、こんな家。
「すばらしいご決断でございます。お嬢様なら、どこへ行っても大丈夫です。暮らしていけます」
セバスは、家出に太鼓判を押した。
「は……」
……あのう、私、薄幸の美少女で、大事に大事に育てられた深窓の姫君なんですけど? 家出、止めないの?
「リナ様のことは、お小さい頃から見ておりました。おばあさまや伯母様に似てらっしゃいます」
ええと、私のおばあさまは、夫である公爵亡きあと、広大な公爵領をまとめ上げ、改革に次ぐ改革を実行して、ただでさえ名門の公爵家の名を全国に知らしめた女傑なのですが。
まあ、それもあって私と王家との婚約話が順調に進んだように思う。
オリビア伯母様も、堂々たる大魔法使い。
「私におばあさまや伯母様のような実行力はないと思うのですけれど。まあ、婚約者はエミリにお譲りするとして」
エミリと王太子殿下との婚約は、実現しないのではないかしらと思うけど、お譲りする件に関しては、全然悔しい気持ちにはならなかった。
だって、私は婚約者のイアン王太子に、会ったこともなかったのだから。
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