【完結】人の婚約破棄を無断で利用しないでください。

buchi

文字の大きさ
9 / 21

第9話 婚約破棄実施中

自宅に帰ると兄が待っていた。

「なかなか難渋していてね」

忙しい兄が時間を取って、ウィザスプーン家と交渉しているのだが、うまくいかないのだという。

「チッ」

兄にしては乱暴に、手袋を脱いで椅子にたたきつけた。

「一体、何がそんなに手間取っていますの? 慰謝料の額ですか?」

「違うよ。婚約そのものを破棄したくないそうだ。両親が渋っている」

私は呆れた。

「だって本人が嫌だと言っていますのよ? あの場に大勢証人がいますわ。婚約破棄の意思は明らかですし、私だって、他の女性がいい男の人と結婚してもうまく行きっこないのに嫌ですわ。無理に結婚する必要はありません」

「その通りなんだが、どうしてもマリリン嬢とやらと結婚させたくないらしい」

「そんなことを言われても……」

私は今日見た風景を思い出した。ハーバート様は大勢の女の子に取り囲まれていた。

他に結婚する当てはいくらでもあるではないか。私でなくたっていいだろう。

「でも、お兄様。ハーバート様はとてもモテてらっしゃいましたわ? そんなにマリリン嬢と結婚させたくないなら、違う方と縁を結べば良いではありませんか」

そして、ハーバート様が大勢の?令嬢方に囲まれてらっしゃった様子を話すと、兄は事情を正しく理解して大笑いした。

「なるほどな。低位の令嬢ばかりとはハーバートも舐められたものだ。自業自得だがな!」

「マリリン嬢は、その令嬢方を私に追い払って欲しいと頼みに来ました」

兄は本気で不思議に思ったらしい。

「なんで? どうして助けてもらおうなんて考えたんだろう? 憎い恋仇じゃないのか?」

「そう言えば、おかしいですわね?」

「ハーバートはいつでもサラに頼っていたものな。恋人というより、飼い主みたいだった……それがマリリン嬢にも伝染したのかな?」

余計、不愉快ですわ!

「始末が悪いことに、ハーバートがマリリン嬢だけだと家が回らないとか言い出したんだよな」

兄が言いにくそうに教えてくれた。

私がギラッと兄を見ると、兄は言った。

「いや、わかっている。結婚する前から、浮気宣言みたいな言い分だ」

「お兄様、慰謝料は倍額にしましょう」

「そんなわけで、ウィザスプーン夫妻は土下座しかねない勢いで、ハーバートのは一時の気の迷いだからと……」

「それはウィザスプーン家のご事情ですわ。私には関係ありません」

「慰謝料の方は十倍をふっかけて、ハーバートのサインは取ってきた。ただ両親はどうしてもサラと結婚したいらしい」

「でも、ダメですわ。他のおうちから私のところに縁談は来ていませんの? 他家を盾にしましょう。実は、クリントン公爵家のオーウェン様から、学園で直接お話をいただいたのですが」

兄がびっくりしていた。

「それはまた……ずいぶんと話が早いね」

「お父さまの書斎に参りましょう。お母さまもご存じのようですわ」

書斎に行くと、母が父を叱っている声がした。

「あなたはサラの将来をちゃんと考えているのですか?」

ノックして声をかけて部屋に入ると、父が小さくなっていた。

「こんなにたくさん、お申し込みがあるというのに」

驚くべきことに、すでに二十通近くの申し込みが届いていた。

母が考慮に値すると決めたのがそのうちの五件。

「年配の伯爵家からの、婚約破棄された娘にとってはいいお話だとか言う失礼な手紙には、マリリン嬢でも紹介しておやりなさい」

「いい考えかも知れない。せっかく婚約破棄を派手に発表したのに、ウィザスプーン家は渋っているらしくて、その案件は宙に浮きそうだから」

兄が冷たく母に同意した。

プライドが高いところはよく似ている。

「ルイ、とりあえず、婚約がなくなったことだけはウィザスプーン家に飲ませなさい。賠償金の件はその後でもいいわ」

「ウィザスプーン家が渋っておりまして」

「自分から破棄しておいて、今更渋るも何もないわ。サラの縁談に差支えが出たらどうするの」

「ですので、立派な家からの正式なお話が来ているのでと、それを盾に断ろうと思いまして」

「わかったわ。私が行きます」

母は宣言した。

なんだか地獄の審判って、こんな感じじゃないかしら?

途端に父が、アルバートの命がどうとか言い始めた。

「あなた。親友の命と娘の幸せ、どちらが大事なんですか?」

なかなか究極の選択だ。

「私が訪問したくらいで、ウィザスプーン侯爵が死ぬみたいなことを言いだして」

ちょっと本気で死ぬかも知れない。母の本気は怖い。

「とりあえず、訪問のお知らせは出しておけ。恐喝しておこう」

兄が執事のセバスに命令した。

恐喝なの?

それから、兄は山積みになった手紙の束の中から、クリントン公爵家の手紙をつまみ出した。

「これでいいだろう。実際にクリントン家と結婚するかどうかはとにかく、公爵家の名前を借りてウィザスプーン家を脅しておこう」

「とりあえず中身を読んでおきなさい。結婚の話でなくて、ルイをパーティに誘うとか言うお話だったら困りますから」

父宛ての封書を兄はペーパーナイフできれいに切って中身を改めた。

「大丈夫。サラ嬢との縁談をご検討いただけませんかになっている」

母が得意げに鼻の穴をふくらませた。

「昔から、お話を持ってきてくださいましたもの。ウィザスプーン家からしつこく頼まれたので、仕方なく承諾したのですわ。もちろん、クリントン家からお話は来ると思っていました」

「まあ、本人もまんざらではないらしい。学園でオーウェンから直接申し込まれたらしいから」

兄が説明すると、父が余計なところで反応した。

「オーウェンの方が好きだったのか?」

「お父さまったら」

私は父に向かって言った。

「私、学園内ではハーバート様以外の方とお話したことがございませんでした。婚約者以外の方と親しくするのは、ルール違反でございましょう。ですから、当然、全く存じ上げません」

「サラ」

母が言った。

「すぐに決めてはいけません」

「どうしてでございますか?」

「いいですか? サラ。女のお友達は相性もわかって冷静に付き合えるものです。でもね、男性は……わかるでしょ? ハーバートが全くふさわしくない女性に恋をしてしまったのよ。ハーバートは、あなたのことが好きだった。だけど、年頃になって出会った女性は特別なのよ」

母は私のそばによって、頬を撫でた。

「いろんな男性と会ってごらんなさい。まだ、決めてはダメよ。お兄様がうんと言いそうな方をお選びなさい」

「?」

私は、クリントン様で問題はないと思っていたのだけれど、兄を振り返った。

兄は苦笑いしていた。

「サラはもっと疑ってかからないといけないな。お申込みのあった男性とは、少し話をしてみるといい」

◇◇◇

そんなわけで、私は、学園に行こうとして、馬車を降りた途端に、男性から声をかけられた。

「おはよう! 偶然だね。今日はなんの授業なの?」

気軽過ぎる。

思わず顔をしかめて、誰だか確認したら、マーク・アラン殿下だった。

「お、おはようございます?」

第三王子殿下が朝から一体なにを?
感想 50

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された王太子妃候補は第一王子に気に入られたようです。

永野水貴
恋愛
侯爵令嬢エヴェリーナは未来の王太子妃として育てられたが、突然に婚約破棄された。 王太子は真に愛する女性と結婚したいというのだった。 その女性はエヴェリーナとは正反対で、エヴェリーナは影で貶められるようになる。 そんなある日、王太子の兄といわれる第一王子ジルベルトが現れる。 ジルベルトは王太子を上回る素質を持つと噂される人物で、なぜかエヴェリーナに興味を示し…? ※「小説家になろう」にも載せています

「愛があれば十分だ」と私を捨てた婚約者へ――では、その婚約破棄の条件から確認いたしましょう

師走
恋愛
伯爵令嬢リディア・エーヴェルは、貴族たちの婚約や離縁、持参金や相続に関わる条件調整を陰でまとめてきた実務家だった。 だがある夜会で、婚約者である王太子側近ユリウス・グランツから「君は条件ばかりで冷たい。愛があれば契約などいらない」と一方的に婚約破棄されてしまう。 静かに婚約破棄を受理したリディアは、その場で持参金返還、贈与品、名誉回復の文言など必要事項の確認を始めるが、誰もその意味を理解しない。 けれど彼女が婚約から外れた直後から、王都では縁談、婚約、離縁の調整が次々と滞り始める。今まで多くの案件を陰でまとめていたのは、ほかでもないリディアだったのだ。 そんな中、法務局の裁定官補佐セオドア・ヴァレントから、王女ヘレナの婚姻条件を見直してほしいと依頼が舞い込む。 北方大公家との政略結婚。けれど提示された条件は、婚姻ではなく人質の引き渡しに等しいものだった。 「条件は愛の代わりではありません。ですが、愛が壊れたときに人を守ることはできます」 傷つきながらも再び交渉の場に立つリディアは、王女の未来を守るため、そして自分自身の人生を取り戻すため、契約と誠意を武器に王都最大の婚姻交渉へ挑む。 一方、自分を支えていたものの大きさに気づいた元婚約者は、今更になって復縁を望み始めるが――。 小説家になろう様でも掲載中

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

「お遊戯で子を育てるな」と追放された宮廷養育係——前世の保育士が作った遊びの教育を、王立学院が丸ごと導入した

歩人
ファンタジー
「子供に歌を教え、絵を描かせ、庭で走り回らせる——それが教育だと? ふざけるな」 侯爵令嬢マリカは婚約者にそう嘲笑され、宮廷養育係の職を解かれた。 前世で保育士だった彼女が行っていたのは、遊びに見せかけた発達支援プログラム。数を数える鬼ごっこ、言葉を覚える歌遊び、協調性を育む共同制作——子供たちは「楽しい」と笑いながら、同年代の二年先を進んでいた。 マリカが去り、旧来の家庭教師が戻った途端、子供たちは勉強を拒否し始めた。 王立学院の入学試験で辺境の子供たちが首席を独占したとき——「お遊戯」の本当の意味が明かされる。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)

『冷酷な悪役令嬢』と婚約破棄されましたが、追放先の辺境で領地経営を始めたら、いつの間にか伝説の女領主になっていました。

黒崎隼人
ファンタジー
「君のような冷たい女とは、もう一緒にいられない」 政略結婚した王太子に、そう告げられ一方的に離婚された悪役令嬢クラリス。聖女を新たな妃に迎えたいがための、理不尽な追放劇だった。 だが、彼女は涙ひとつ見せない。その胸に宿るのは、屈辱と、そして確固たる決意。 「結構ですわ。ならば見せてあげましょう。あなた方が捨てた女の、本当の価値を」 追放された先は、父亡き後の荒れ果てた辺境領地。腐敗した役人、飢える民、乾いた大地。絶望的な状況から、彼女の真の物語は始まる。 経営学、剣術、リーダーシップ――完璧すぎると疎まれたその才能のすべてを武器に、クラリスは民のため、己の誇りのために立ち上がる。 これは、悪役令嬢の汚名を着せられた一人の女性が、自らの手で運命を切り拓き、やがて伝説の“改革者”と呼ばれるまでの、華麗なる逆転の物語。

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。