ソウルメイト

たこみ

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第一話 ログアウトする

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古い記憶に、満天の星空を見上げたというものがある。

その場に自分と一緒に誰かがいたということは覚えている。
けれどその人は黙ってその場を離れていった。

私たちの間には排他的な考えがあって、別々の道へ進む未来など予想もしていなかったと思う。
あの人のことだから、きっと期限を決めて私から距離を置いたのだろうと考えていた。

だから忘れない。

意図的にあの人が自分を置いていったという事実を知ったときに走った、雷に打たれたような衝撃を。


飛べない鳥。
いつも後方で見守っていてくれたあの人がいないと、私は一人では何もできないということを知った。

手遅れかと思ったが、生き直すことにした。

わかってもらいたかった。
どれだけ私があなたを必要としていたかを。






どこにいようと彼女の幸せを願ってはいるが、願わくば自分のことは忘れてほしい。

止まってはいけない。
彼女からそっと離れた時に振り向きたい気持ちに駆られたが、思いとどまった。

深い森に入ると、天を仰いだ。
心の隅に彼女の存在をそっと置いておこう。

歩き続けよう。
満身創痍になるまで。

闇に溶け込みながら半日ほど歩くと、ある村にたどり着いた。
数日食いつなげる金は持ってきたが、残りは彼女に持たせた。

とりあえず仕事を探さなけらばならない。
その村にある唯一の、古びたテーマパークの清掃員になることができた。

そして安い家賃の寝床も確保した。
毎朝布団から身を起こすと、自分は一人なのだということを実感するが、憑かれたように仕事をすると、足腰にはくるが彼女のことを考えずに済んだ。

日が落ちる頃、この生活を自分はどれぐらい続けることになるのだろうと漠然と思った。


「物静かだよな」
唯一気を許した職場のアーサーが共にビラを配りながらそう言う。
彼は俺が何かから逃げてこの生活をしていることに気が付いている。

夕食を共にとりながら、時々酒を勧めてくるので、かぶりを振る。
深酒をすると、我を忘れて彼女のことを求めたくなってしまうような気がして怖いのだ。

「なあクルト、おまえの顔に見覚えがあるというヤツがいるんだが・・」
ある日ほろ酔いのアーサーが何気なく言った言葉に、内心ひやりとしたが、「へえ」とだけ答えた。

話に食いつかない俺に彼は苦笑すると、さては禁を犯してどこかから逃げてきたなと冗談を言った。
俺は珍しく笑って見せると、あながち間違ってはいないよと心の中でアーサーに思った。





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