転職し過ぎてもはや俺の天職が定まらない件について

緋茉

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第1章 可愛い子には旅をさせろっていうけど可愛くない子は一体どうするんだよ!死ねってか!

1部

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魔王ネガティヌスによる支配が徐々に拡大していき、人々は恐怖に怯えながら日々を過ごしていた。
魔王に魂を囚われた者は、超絶望的にネガティブに陥り、魂は魔獣に埋め込まれ魔王の配下になってしまう。そして、残った身体はたくさんの厳しい法律のもとで社畜としての生活を送らなければならない。
そんな世界を人々は望んでいない。
彼らが望むは希望の光。
魔王を打ち倒してくれるものはいつ現れるのだろうか。

魔王が世界の支配を初めて3ヶ月。遂に世界の半分が堕ちた。西の世界、東の世界と分かれて栄えていたが、東の世界の陥落により、全てが闇に飲まれるのも時間の問題となって来ていた。
西の世界の教会は大神官を始め、全ての信者で力を合わせ世界に亀裂を作り結界を張ることで世界を分裂し西の守を固めた。

しかし、2ヶ月後の事だった。
西の世界にネガティブとなった人間の魂をもつ魔獣(ここでは異人と呼ぼう)が出没したのだ。
最初は数体だった。
王国はすぐに捉え被検体として解剖し、研究した。
だが、それは迂闊な行為だった。
被検体には強大な次元式の侵食魔法が仕掛けられていたのだった。
やがてそれは結界を蝕んだ。

再び魔王と西の世界との戦争が始まったのだった。

しかし閉じ込められていた2ヶ月間、魔王軍は更なる進化を遂げていた。
異人は進化し、強大な魔力を持った亜人となっていたのだった。

それから数日のうちに、王国は世界の端まで敗走する事になったのだった。


一方、西の世界の小さな村、バーヤン村では勇者が誕生していた。






俺、ルイの親父は魔王にやられた。
親父の仲間が身体だけは持ち帰ってくれたが…

「いいよ…畑仕事なんて…どうせ食って作って食って作ってのエンドレスなんだ…草食ってれば生きていけるんだから…野菜なんて…」

…この有様である。これはネガティブというよりケチな親父なんだけど。

それからと言うものの、親父は自分の部屋に引きこもり、ご飯の時だけは顔を出すがすぐに部屋にまた戻る。
そんな生活を、するようになっていた。

おのれ魔王…!よくも俺の親父を…!!
俺は手ぬぐいを机に叩きつけ、頭の中の魔王に罵声を浴びせた。

だが俺には何も出来ない。第1、お袋と家を捨ててどこかに行くわけにも行かない。

俺もまた希望の光を求める哀れな人間の1人なのだ。

翌日。

「うあぁおおおぉぁぁぁ!!やめろ!死なせてくれ!!」

早朝、俺は縄に手をかけどこかに逝こうとしている親父を引きはがすことで忙しかった。
大丈夫。いつもの事だ。

おのれ、魔王め!!

俺は今日も魔王に罵声を浴びせる。

さらに翌日。

「お、俺のプリンが…」

冷却機能付きタンスに収めていた俺の大切なプリンが消えてなくなっていた。

おのれ魔王め!!!!!ぶっ〇す!!!

「あら、ルイちゃんごめんね、お母さん我慢出来なくて~」

犯人はお袋だった。

傘を持っていない日に限って雨が降った時。せっかく耕した土を猪に荒らされた時。可愛い村の女の子の前でこけてしまった時…
俺は、どんな時も魔王に対する復讐心を忘れなかった。

絶対にお前だけは許さない…と。


そしてある日、こんな小さな村に西の世界の皇帝が自ら赴いてきたのだ。
「諸君!諸君らは魔王ネガティヌスの迫り来る恐怖にうんざりしてはいないか!」
皇帝がそう叫ぶと、至る所から村人の賛同する声があがった。
俺も腕を突き上げやじを飛ばした。
皇帝はニヤリと笑い大きな岩を部下に運ばせてきた。
その岩には何やら剣のようなものが突き刺さっている。あっ、剣だ剣。
「この剣は我が王国に代々伝わる伝説の剣だ。1000年前の魔王との戦争の際に勇者が使用した武器だ!これを抜けた奴は伝説の勇者となれるのだ!」
皇帝がそう言うと、一気に皆静まり返った。
「さあ、抜くが良い!抜けるものならなぬははは!!!」
皇帝がそう叫ぶと、村人のうちの1人が言った。
「皇帝抜けばいいじゃん」
「おっ、確かに!」
「皇帝偉いんだから抜けるんじゃね?」
「いいね!こっうってい!こっうってい!」
「「「こっうってい!!」」」

予想外の展開に流石の皇帝もうろたえていた。
流石うちの村の元気なおっさんども。どんどんと皇帝コールの数が増えてやがる。
「え、ええい!黙れ黙れ!俺じゃ抜けんのだよ!文句あるか!」
「なんだよ!ダメ皇帝!ぶーぶー!」
今度はブーイングの嵐だ。流石に皇帝が可哀想に見えてきたな。
うちのお袋も参加してるけど無視で。

「いいから一列に並んで抜いてみろ!!」

村人は剣の前に一列に並び、順番に抜き始めた。

「ぐぉ…抜けねえ…」
「ふんっ!ぬぬぬぬ…だめだぁ」
「えいっ!!それっ!あっ!見てルイちゃん!ちょっと動いたっ…て滑っただけごふっ…!」
お…お袋……歳を考えてくれ…

俺以外の全ての村人がチャレンジし終えたが、誰1人として剣を抜けたものは居なかった。

いよいよ俺の番だ。

だが何故だろう。俺が気づかないとでも思ってるのか…?明らかにクラッカー準備してるのが分かるんだけど。誰?暴発したやつ。これ絶対俺抜かないと行けないやつじゃん。プレッシャーやめろよ…

俺はゆっくりと柄に手をかける。

皇帝めっちゃ緊張しててちょっと笑いそうなんだけど、どうしよう。
自分抜けないのに俺抜いても恥だし、誰も抜けずに帰っても恥ずかしいし、この人何しに来たんだろ本当。 

「えい」

適当な事を考えながら、適当な掛け声で適当に剣を引いてみた。
すると、キュポンッ、という音と共に剣は見事に抜け、その美しい姿を現した。

「「おおおおお!!!!」」

背後から歓声があがる。そして、バレバレのクラッカーが飛び交った。

なんだろう、これじゃない感すごい。
勇者とか全く興味無いけど、これは違うなって、なんか分かった。

魔王迫ってきてるのに正直この展開は無いと思う…うん。


「さあ、勇者ルイよ、行くのだ」
「は?もう?まだ剣抜いたばっかじゃん…」
「急な展開で悪いが一刻を争う自体なのだぞ!理解してくれ!」
「なら何故ここまでグダった!!!時間有効に使え!!!」

勇者の剣を片手に皇帝にわめき散らす俺にお袋が近づいてきた。その隣には親父もいた。
「気をつけるのよルイ…」
擦り傷だらけのお袋は俺に優しい笑顔で言った。
「俺より気をつけるのはあんただと思う」
「ルイ…」
ネガティブであれから1度もまともな会話をしていない親父が俺に話をかけてきた。
「冒険なんて大変だな…食われたりしなければいいな」
「本当にやなやつだな魔王!!!!!許さぬ!!!!!」

俺は哀れみの表情を浮かべる父親を後にし村の門から抜けて走り去った。

剣…重い。

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