上 下
13 / 13
第1章 1度目の人生での反省点と今後の人生プラン

花の蕾

しおりを挟む
完全に男が見えなくなった瞬間、侯爵は俊敏な動きで後ろに隠していたエリーの方に向き直った。

「エリー!!!怖かったよな……!!」

そう言ってエリーの瞳をのぞいてくる父の顔を見て、エリーは少し安心した。

「………お父様、あの方は…?」

エリーがそう聞くと侯爵は渋い顔をした。

「あの若造………あのお方はこの国の第二皇子殿下だ。」

(やっぱり王族だ)

髪や瞳の色でエリーが察した通りあの男は王族ーーしかも第二皇子だったとは。

「なぜ第二王子殿下が侯爵家に?何か父上に用があったのでしょうか?」

わざわざ王族の、しかも第二皇子というと皇位継承権第一位の第一皇子に次いで第二位だ。そのような人物がわざわざ都市部から離れた侯爵家になぜやってきたのだろうか?
エリーが疑問に思ってそう聞くと、侯爵はエリーの頭を撫でた。

「そうだな…………殿下が我が家にやってきた理由はまだほころんですらいない花の蕾をわざわざ見にきた、というところかな」

そう言って呆れたように、しかしその奥底で怒りを堪えきれていない様子で侯爵は言った。

(花の蕾?)

侯爵家が誇るバラは今日も満開で美しく香っているし、その他の花も今の季節の暖かく心地の良い天気に庭園で咲き誇っている。
その中に蕾の花などあっただろうか?

「まあ、二度とエリーに抱きつくなど馬鹿な真似はできぬよう今後一切この家には入れさせないから安心しなさい」

にっこりと侯爵は笑った。








「シモン、お父様何か隠している気がするんだよね」

その夜、夕食を家族揃って食べた後、自室に戻ったエリーは後ろに控えているシモンにポツリと言った。
シモンはエリーの寝巻きを準備している。さらりとした柔らかいシルクの寝巻きは貴族しか着られない贅沢品だ。

「そうでしょうか?」

エリーを着替えさせるために前に立ったシモンはいつもの様に穏やかな声色で答える。が、幼い頃からシモンと共に過ごしているエリーには勘づくものがあった。

(お父様だけでなく、シモンも俺に隠してるな…………)

父だけでなく長年付き従う侍従も、というと兄や母、この屋敷中の使用人がエリーに隠しているのかもしれない。

シモンがエリーの服のボタンをひとつずつ丁寧に外していく。

シモンはエリーよりも背が高いため、必然的にシモンの顔を見る時はエリーがシモンを見上げる形になる。
部屋の明かりに照らされたシモンはいつも通り綺麗だ。明るい茶髪はシャンデリアの光に照らされ暖かい印象になっている。夜ならではの少し暗い雰囲気がシモンの彫りの深い顔に影を落とし、その顔立ちをより一層際立てていた。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...