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「リリ?」
部屋に帰ると、純玲は缶ビールサイズの妖精の姿を探した。しかし、その姿はどこにもなかった。
「まだ帰ってきていないんだ」
自分の恋人となる相手を探すと言って出て行った。だがあのなりでどうやって探す気だ。眼鏡をかけて人の姿になっているならナンパもできるだろうが――昨日のように? 結局あの女性たちがどこの誰か聞いていないことも思い出してしまった。当たり前のように女性に囲まれていたリリ。今も眼鏡をかけてナンパしていたらどうしよう。
思いついたら不安になり、純玲は急いで眼鏡をしまった机の引き出しを開ける。相変わらず奇妙な文様の眼鏡ケースの中に、リリを人の姿にするアイテムはあった。
「あった――。ったく、こんな気持ちにさせるなんてな。リリのヤツ」
小さいなりのときはぷにぷにして愛らしいくせに、人間バージョン姿は本当にハンパなく格好いい。浅黒い肌に金色の髪で深いエメラルドのような瞳。声だって鼓膜が痺れるほど響き、その他の音など聞きたくなくなるくらいだ。何度それで自我を失いかけたか分からない。
いや本当は失っていた。リリと練習だといって交わしたキスや触れ合った肌の温もり、すべてが心地よく純玲をえもいわれぬ高みに誘っていった。そして昨夜は――。
純玲は眼鏡をそのままにしてベッドに腰かけた。
「あ、あれ?」
布団の縁が持ち上がっていた。まさかと思い、捲ればリリが身動ぎもせずに手足を縮めて丸くなって眠っていた。
「リリ、こんなところにいたんだ。出かけたんじゃなかったのかよ」
つんと頬を突いてみる。
「うにゃん……」
リリは少しうるさそうに、ぴくりと肩を動かした。
「小さいとこんな可愛い顔してるんだ、リリって」
ポケットからティスモからもらった特濃恋乳を取り出して眠るリリの横に置く。
この特濃恋乳使えばリリは自分のものになる。だが果たしてそれでいいのか惑う。ティスモは気にするなといっていたが、恋乳の効力で無理やり気持ちを向かせるなど、けっしてやっていいことではない。
「お? スミレ? 帰ってたのか。悪いな、つい寝ちまった」
リリが目を覚ました。起き上がりこしょこしょと目を擦ったあと、純玲が傍らに置いたキャンディに気づき顔色を変えた。
「これは……、こんなもん、どこで? って、ティスモか?」
「うん。さっき会って、くれた」
「あいつ、こんなものまで持ってやがるのか」
ベッドの上で胡坐を組んで座ったリリは、忌々しそうに口元を歪める。
「どうしてそんな顔するんだ? いいお兄さんじゃないか」
「本気で思っているのか?」
「いやゴメン、ちょっと微妙」
リリをおもちゃ呼ばわりしていたことは、口にしないほうがいい。
「いいか、こんなティスモの恋乳に頼らなくてもな、オレはお前の願いを叶えるからな。ちょっと寝てしまったが、これから出かけて相手探す」
勢い込んで言うリリに、純玲は静かに首を振る。
「もう、いいんだ、リリ。探しに行かなくたって」
「どうしてそんなことを言うんだ。オレの力が信じられないからか?」
純玲は首を振った。力のことではない。
「俺の願いを叶えたい相手がここにいるから、出かけなくてもいいよ」
「はぁ? どこだ? どこにいる……って……えっ?」
きょろきょろと周囲を見渡したリリが純玲を見上げ、自らを指差す。
「そう、当たり」
だからリリがどんなに相手を探してくれても、願いが叶うことはない。
「え、ええっ!? スミ…レ? 何って言ってんだ、お前!?」
リリはくりりとした目を瞬かせた。
「リリが好きだ、って言ったんだ。俺もさっき意識したんだけどね」
思えば誰かに自分の気持ちを告げるのはこれが初めてかもしれない。どきどきとして胸がつまりそうで、ティスモに言われたからではないが、本当にうぶな中学生のようだ。
「何をバカなこと。か、勘違いしてるんだ、お前。今までいろいろアレアレしてしまったからさ。オレ、つい調子に乗っていろいろコレコレもしたし。だからちょっと時間をおけば間違いだったって気づくって」
焦って要領を得ないまま言葉を並べているのだとしても、間違いだと言われるのは堪らない。
「何が間違いだって? アレしてコレしたことが影響してたとしても、そんなふうに言うな」
自分が惨めになってくる。
「じゃじゃあ訊くが、お前こそこの特濃恋乳何のためにもらってきたんだ。オレの恋乳じゃ効果薄いからって、三ノ宮千種に使うつもりじゃないのか? 効果バツグン、妖精にもバッチリOKの『シリーズ3』だぞ」
「だから、ティスモがお前に食べさせろ、ってくれたんだよ」
まだ言うか。疑り深い。もう千種のことはいいのだ。
「へ? オレ!? オレに!? そ、それって、これを使う相手はオレ!?」
やっと分かったリリが目を白黒させている。
「うん、ティスモがさ、この特濃恋乳は妖精にも効力を発揮するって言った。――だから、これは、お前にはやらない。これ使って無理やり好きになってもらいたくない。リリの心はリリのものだ」
やらない使わない始末してしまおう。こんな魔法アイテムを使ってまで好きになって欲しくない。純玲は特濃恋乳を手に取る。
「スミレ? やらないって、だからってお前が食うな!! お前が食べればどうなるか分かってるんだろ!? 昨日のあれどころじゃなくなるぞ!!」
純玲の行動を察したリリが、血相を変え声を上げる。
「分かってるよ。だから俺がこれ食べたらリリは出て行ってくれ。また縋ってしまうから」
「よせ、止めろ!! 分かったから!!」
純玲から特濃恋乳をぱしゅっと奪ったリリは、包みを広げあっという間に自分の口に放り込み、バリバリと噛み砕いた。
「リ、リリ!? どう――」
ぱふん、と男が現れる。もう何度も目にしている人の姿になったリリだ。だがいつもと違うのは眼鏡をかけていないことだった。
「眼鏡なしでもその姿になれるのか?」
「ああ。これは妖精にも効力を発揮する最強キャンディだからな」
いつもにも増した男ぶりでリリは、低い声でそう言った。
部屋に帰ると、純玲は缶ビールサイズの妖精の姿を探した。しかし、その姿はどこにもなかった。
「まだ帰ってきていないんだ」
自分の恋人となる相手を探すと言って出て行った。だがあのなりでどうやって探す気だ。眼鏡をかけて人の姿になっているならナンパもできるだろうが――昨日のように? 結局あの女性たちがどこの誰か聞いていないことも思い出してしまった。当たり前のように女性に囲まれていたリリ。今も眼鏡をかけてナンパしていたらどうしよう。
思いついたら不安になり、純玲は急いで眼鏡をしまった机の引き出しを開ける。相変わらず奇妙な文様の眼鏡ケースの中に、リリを人の姿にするアイテムはあった。
「あった――。ったく、こんな気持ちにさせるなんてな。リリのヤツ」
小さいなりのときはぷにぷにして愛らしいくせに、人間バージョン姿は本当にハンパなく格好いい。浅黒い肌に金色の髪で深いエメラルドのような瞳。声だって鼓膜が痺れるほど響き、その他の音など聞きたくなくなるくらいだ。何度それで自我を失いかけたか分からない。
いや本当は失っていた。リリと練習だといって交わしたキスや触れ合った肌の温もり、すべてが心地よく純玲をえもいわれぬ高みに誘っていった。そして昨夜は――。
純玲は眼鏡をそのままにしてベッドに腰かけた。
「あ、あれ?」
布団の縁が持ち上がっていた。まさかと思い、捲ればリリが身動ぎもせずに手足を縮めて丸くなって眠っていた。
「リリ、こんなところにいたんだ。出かけたんじゃなかったのかよ」
つんと頬を突いてみる。
「うにゃん……」
リリは少しうるさそうに、ぴくりと肩を動かした。
「小さいとこんな可愛い顔してるんだ、リリって」
ポケットからティスモからもらった特濃恋乳を取り出して眠るリリの横に置く。
この特濃恋乳使えばリリは自分のものになる。だが果たしてそれでいいのか惑う。ティスモは気にするなといっていたが、恋乳の効力で無理やり気持ちを向かせるなど、けっしてやっていいことではない。
「お? スミレ? 帰ってたのか。悪いな、つい寝ちまった」
リリが目を覚ました。起き上がりこしょこしょと目を擦ったあと、純玲が傍らに置いたキャンディに気づき顔色を変えた。
「これは……、こんなもん、どこで? って、ティスモか?」
「うん。さっき会って、くれた」
「あいつ、こんなものまで持ってやがるのか」
ベッドの上で胡坐を組んで座ったリリは、忌々しそうに口元を歪める。
「どうしてそんな顔するんだ? いいお兄さんじゃないか」
「本気で思っているのか?」
「いやゴメン、ちょっと微妙」
リリをおもちゃ呼ばわりしていたことは、口にしないほうがいい。
「いいか、こんなティスモの恋乳に頼らなくてもな、オレはお前の願いを叶えるからな。ちょっと寝てしまったが、これから出かけて相手探す」
勢い込んで言うリリに、純玲は静かに首を振る。
「もう、いいんだ、リリ。探しに行かなくたって」
「どうしてそんなことを言うんだ。オレの力が信じられないからか?」
純玲は首を振った。力のことではない。
「俺の願いを叶えたい相手がここにいるから、出かけなくてもいいよ」
「はぁ? どこだ? どこにいる……って……えっ?」
きょろきょろと周囲を見渡したリリが純玲を見上げ、自らを指差す。
「そう、当たり」
だからリリがどんなに相手を探してくれても、願いが叶うことはない。
「え、ええっ!? スミ…レ? 何って言ってんだ、お前!?」
リリはくりりとした目を瞬かせた。
「リリが好きだ、って言ったんだ。俺もさっき意識したんだけどね」
思えば誰かに自分の気持ちを告げるのはこれが初めてかもしれない。どきどきとして胸がつまりそうで、ティスモに言われたからではないが、本当にうぶな中学生のようだ。
「何をバカなこと。か、勘違いしてるんだ、お前。今までいろいろアレアレしてしまったからさ。オレ、つい調子に乗っていろいろコレコレもしたし。だからちょっと時間をおけば間違いだったって気づくって」
焦って要領を得ないまま言葉を並べているのだとしても、間違いだと言われるのは堪らない。
「何が間違いだって? アレしてコレしたことが影響してたとしても、そんなふうに言うな」
自分が惨めになってくる。
「じゃじゃあ訊くが、お前こそこの特濃恋乳何のためにもらってきたんだ。オレの恋乳じゃ効果薄いからって、三ノ宮千種に使うつもりじゃないのか? 効果バツグン、妖精にもバッチリOKの『シリーズ3』だぞ」
「だから、ティスモがお前に食べさせろ、ってくれたんだよ」
まだ言うか。疑り深い。もう千種のことはいいのだ。
「へ? オレ!? オレに!? そ、それって、これを使う相手はオレ!?」
やっと分かったリリが目を白黒させている。
「うん、ティスモがさ、この特濃恋乳は妖精にも効力を発揮するって言った。――だから、これは、お前にはやらない。これ使って無理やり好きになってもらいたくない。リリの心はリリのものだ」
やらない使わない始末してしまおう。こんな魔法アイテムを使ってまで好きになって欲しくない。純玲は特濃恋乳を手に取る。
「スミレ? やらないって、だからってお前が食うな!! お前が食べればどうなるか分かってるんだろ!? 昨日のあれどころじゃなくなるぞ!!」
純玲の行動を察したリリが、血相を変え声を上げる。
「分かってるよ。だから俺がこれ食べたらリリは出て行ってくれ。また縋ってしまうから」
「よせ、止めろ!! 分かったから!!」
純玲から特濃恋乳をぱしゅっと奪ったリリは、包みを広げあっという間に自分の口に放り込み、バリバリと噛み砕いた。
「リ、リリ!? どう――」
ぱふん、と男が現れる。もう何度も目にしている人の姿になったリリだ。だがいつもと違うのは眼鏡をかけていないことだった。
「眼鏡なしでもその姿になれるのか?」
「ああ。これは妖精にも効力を発揮する最強キャンディだからな」
いつもにも増した男ぶりでリリは、低い声でそう言った。
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