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16.涙はレモンタルトみたいに甘酸っぱい(1)
翌日。
ミストが言っていたように、お菓子のいいにおいがお客さんを何人か連れてきてくれた。
見立て通り、貴族や商人のお嬢さんが多いように見えた。
「ありがとうございました」
ミストは慣れない接客を必死にこなしていて、そんなところが可愛らしいと、お客さんにかわいがられていた。
店内に食べるスペースはないので、まだ味の感想は聞けていないけど、きっとおいしいと言ってもらえるはず。
「テア、お客さんそこそこ来てくれたね」
「そうね」
「明日も来てくれるかな」
「味を気に入ってもらえれば、繰り返し来てくれるお客さんも増えるはずよ」
新しいお店ができているということで入ってくるお客さんが大半。そこからどうリピーターを増やすかが、店主の腕にかかっていると言っていた。コニーさんが。
窓から外を見ると、夕日が綺麗に沈みかけている。
「そろそろ店じまいかしら」
ふと、視線を感じる。
ミストのほうを見てみると、彼女はじぃっと扉をにらみつけている。
「どうしたの?」
「扉の向こうから人の気配がするの」
――カランコロン
可愛らしい鈴の音が店内に鳴り響く。
「あら」
お店に入ってきたのは、小さな女の子だった。
「あなた、どうしたの? お母さんは?」
十歳くらいだろうか。ミストよりも幼い見た目の女の子は、緊張した面持ちでこちらに進む。
「あの、わたし、お友達にプレゼントを贈りたくて……っ」
よく見ると、その女の子はお金を握りしめている。
聞いてみれば、近々お引越ししてしまう男の子にあげるプレゼントを探していたらしい。
「いいにおいがしたから、ここにしようって思って」
「いいわ、じゃあ特別に、そのお友達限定のお菓子をつくってあげる」
「え……?」
少女はずっと下に向けていた顔を、ようやく上げてくれた。
やっと目が合ったので、ついうれしくなって微笑んでしまう。
「だから、そんなに悲しそうな顔をしないで。きっとお友達も、笑顔で見送ってほしいと思うの」
女の子はハッとして、こぼれそうな涙を拭いとった。
目が真っ赤になっているから、きっとずっと泣いていたんだろう。
私もお母さまと死別した時は、涙に明け暮れていた。
それでもいつからか前を向いて生きていけたのは、きっとお母さまとの思い出があるから。
「お友達はどんなお菓子が好きか知ってる?」
「甘いものっていうよりは、すっぱいものが好きって言ってた」
「テア、すっぱいお菓子なんて作れるの?」
会話を聞いていたミストは、不思議そうに私を見る。
その言葉を聞いた女の子も不安げな顔をした。
でも、大丈夫。
「あるに決まってるじゃない。ちょっとオトナな味だけど、すっぱくておいしいわ。材料もあるし、すぐ作ってあげる」
ミストが言っていたように、お菓子のいいにおいがお客さんを何人か連れてきてくれた。
見立て通り、貴族や商人のお嬢さんが多いように見えた。
「ありがとうございました」
ミストは慣れない接客を必死にこなしていて、そんなところが可愛らしいと、お客さんにかわいがられていた。
店内に食べるスペースはないので、まだ味の感想は聞けていないけど、きっとおいしいと言ってもらえるはず。
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「そうね」
「明日も来てくれるかな」
「味を気に入ってもらえれば、繰り返し来てくれるお客さんも増えるはずよ」
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窓から外を見ると、夕日が綺麗に沈みかけている。
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「どうしたの?」
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「あの、わたし、お友達にプレゼントを贈りたくて……っ」
よく見ると、その女の子はお金を握りしめている。
聞いてみれば、近々お引越ししてしまう男の子にあげるプレゼントを探していたらしい。
「いいにおいがしたから、ここにしようって思って」
「いいわ、じゃあ特別に、そのお友達限定のお菓子をつくってあげる」
「え……?」
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やっと目が合ったので、ついうれしくなって微笑んでしまう。
「だから、そんなに悲しそうな顔をしないで。きっとお友達も、笑顔で見送ってほしいと思うの」
女の子はハッとして、こぼれそうな涙を拭いとった。
目が真っ赤になっているから、きっとずっと泣いていたんだろう。
私もお母さまと死別した時は、涙に明け暮れていた。
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「お友達はどんなお菓子が好きか知ってる?」
「甘いものっていうよりは、すっぱいものが好きって言ってた」
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会話を聞いていたミストは、不思議そうに私を見る。
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