侯爵様にお菓子目当ての求婚をされて困っています ~婚約破棄された元宮廷薬術師は、隣国でお菓子屋さんを営む~

瀬名 翠

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17.涙はレモンタルトみたいに甘酸っぱい(2)

 今日はひとまずお店を閉めて、女の子には厨房から見えるところに座ってもらう。
 ミストにはもちろん、お手伝いをしてもらわないとね。

「バターをとってきてちょうだい」

 とってきてもらったバターをクリーム状になるまでよく練りこむ。横からグラニュー糖も加えてもらって、すりこんでいく。
 レモンの皮を少しだけすりおろして、ボウルに投入。卵黄も一緒に入れて、さらによくすり混ぜる。

「え、レモン!?」
「そう。レモンタルトを作るの」

 「へぇ~」と感動しているミストに小麦粉を入れてもらう。スケッパーで切るようにして混ぜ、生地をまとめていく。
 まとまった生地を魔道具で冷やし、再び取り出す。
 生地を麺棒で均等に伸ばし、そっと型に敷きこんだ。

「チーズケーキの土台と似てるね」
「そうね。でも味は全然違うと思うわ」

 魔道具のオーブンで焼き、きつね色になるまで目を話さない。
 焼きあがったら冷ますために置いておく。

 次に、新しいボウルに全卵や砂糖を入れて、しっかりマゼマゼ。
 レモンから果汁を絞りだし、それも合わせて混ぜ合わせる。
 ボウルから鍋に移して、混ぜながら沸騰するまで待つ。

「わあ、ぶつぶつしてる!」

 沸騰したら、火からおろして裏ごしながらボウルに移す。
 それが冷えたら、バターを加えて混ぜ合わせる。

 仕上げに、焼きあがったタルト生地にボウルのクリームを注ぎ、表面を平らにすれば、あとは冷やすだけ。
 
「なんか、涼しいにおいがしていいね」
「そうね。暑いこの時期にぴったりだと思うわ」

 冷やしたレモンタルトを、慎重に八等分する。
 それを可愛く、でも男の子にあげるものだから可愛すぎないように、丁寧にラッピングする。

「うわぁ、すてき……!」

 できあがったレモンタルトを見せると、女の子は頬を赤らめて感動してくれた。

「こっちのラッピングしたほうは、お友達のプレゼントの分。こっちのお皿のは、いまあなたが食べてみて」
「いいの?」

 頷くと、女の子は嬉しそうにレモンタルトを口にした。

「おいしい!」
「でしょう」

 鼻が高い。
 ミストにも食べてもらおうと思い、いったん厨房に戻ると――

「ほんとだ、すっぱいのにおいしい……」

 もうすでに食べていた。

「爽やかなくちどけ、さっくりとした食感。レモンクリームのすっぱさと、ほんのり爽やかなタルト生地が絶妙に合ってる。おいしい!」

 相変わらず感想を言うのが上手だこと。

「お姉さん、その、私これだけしか持ってないんだけど、足りるかな……?」

 そっと渡されたお金は、マドレーヌ一つを買うにも足りない。
 でも、きっと親の手伝いを頑張ってコツコツと貯めたんだろう。

「ちょっと足りないけど、これでいいわ。その代わり、結果を教えてくれる?」
「結果?」
「例えば泣いて喜んでくれたよ、とか」
「うん、分かった! 明日渡すから、その帰りにまた寄るね!」

 レモンタルトを大事そうに抱え、少女は店を出た。

「いいの? お金全然足りなそうだけど」
「いいの。別れは切ないものだからね」

 少女が帰った後、キッチンの片付けをし、急いで侯爵邸へと帰った。
 もちろん、作ったレモンタルトも持って。


「うまい! 爽やかですっきりした甘さのなかに、すっぱさが織り込まれていて非常にうまい!」

 レオナード様も、相変わらず上手な食レポをしてぺろりとたいらげてしまった。

「ぜひ俺の嫁に――」
「なりませんって、言ってます。いい加減諦めてください」

 まったく、諦めの悪いレオナード様だ。
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