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18.涙はレモンタルトみたいに甘酸っぱい(3)
「テア、ちょっとそわそわしすぎじゃない?」
翌日。夕方になっても姿を現さない昨日の女の子が気になっている私に、ミストは言った。
「だって、もうお店を閉じる時間なのに来ないんだもの……」
もしかしたら、上手く渡せなかったのかも。ううん、美味しくないって突き返されたりして。
どうしよう、よく考えればレモンタルトなんて子どもにうけるはずがないわよね。
「ああ、不安だわ」
「もう。今日ずっとそんな調子なんだから」
――カランコロン
扉の鈴の音がしたので、思わず勢いよく振り返る。
「あら?」
そこにいたのは、昨日の女の子と、男の子、それから夫婦のような男性と女性。
夫婦らしきふたりは男の子と手をつないでいるので、きっと彼の両親なのだと思う。
そんなことより、どうしてこんな大所帯で?
「まさか、お菓子を食べてなにか悪いことでも!?」
「その逆ですよ」
ふっくらとした優しそうな男性は、見た目通りにゆったりとした口調でそう言った。
同じくふくよかな女性も、これでもかというくらい微笑み、幸せそうにしている。
「あの、どういうこと?」
昨日の女の子に助けを求めた。
すると、彼女もひどくうれしそうな顔で笑った。
「お姉さんが作ってくれたレモンタルトを食べたら、コリンが急に元気になったの!」
「元気に?」
「私から説明しましょう。息子のコリンは長らく病気がちで、明日から田舎で療養させようと思っていたんですよ。それが、ミミの持ってきたタルトを食べると急に元気になって」
男性の話を聞きながら、女の子――ミミは、コリンのほうをちらりと見た。ふたりは可愛らしく一瞬見つめあったあと、ふいと赤い顔をそらす。
初恋って、甘酸っぱいわよね。
コリンは確かに細身で色白だが、顔色はとても元気そう。
私が作ったレモンタルトで、どうして元気になったのかしら。
「テア、それって”薬術の天女”じゃ?」
首をかしげた私に、ミストが答えを出した。
「それでね、コリンは引っ越ししなくてよくなったの!」
ミミはとてもうれしいのかぴょんぴょんと飛び跳ねている。
そうよね、もとは療養のための引っ越しだから、元気になれば引っ越す必要もないものね。
「感謝の気持ちを伝えたくて、家族そろって来させていただきました。コリンが元気になって、本当に私たち幸せなんです。テアさん、とおっしゃったかしら。ありがとうね」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
「わざわざ、そんな……」
コリンの母親が、何かを渡そうと手を出すので、反射で私も手を差し出した。
ずしり、と重たいものが手のひらの上にのせられる。
「こ、こんなにいただけませんわ!」
それは、信じられないくらいの金額だった。
「いいえ、そんなお金なんかでは代えられないものをあなたはくれたのよ」
「私は商人をやっていまして。ぜひ、いろんなところでこのお店を宣伝したいと思っていますが、よろしいかな」
確かに、裕福そうな身なりをしている。
宣伝をしてくれるということで、そちらは喜んで了承した。
「それならなおさら、こんなにもらえません」
「聞きましたよ、ほとんど無償で、あの特別なレモンタルトを作ってくれたと。そんなことができる人はそうそういません」
コリンの両親は、有無を言わせず私にお金を握らせた。
とんだ億万長者だわ、こんなの。
「お姉さん、本当にありがとね。私、今度はちゃんとお金貯めて、サブレ買いに来る!」
ミミはそう言うと、コリン家族と一緒にお店を出ていった。
「テア、どうするの? そのお金」
「そうねえ。貯めておきましょうか」
「面白くない」
「貯金も大事なの」
そんな会話をしながら店じまいをする。
家族とか初恋って、すごく、いいわね。そんなことを考えながら。
ふと、ミストが私の顔を覗きこんだ。
「どうしてちょっと泣きそうなの?」
「え?」
私にも、自分の涙の理由は分からなかった。
翌日。夕方になっても姿を現さない昨日の女の子が気になっている私に、ミストは言った。
「だって、もうお店を閉じる時間なのに来ないんだもの……」
もしかしたら、上手く渡せなかったのかも。ううん、美味しくないって突き返されたりして。
どうしよう、よく考えればレモンタルトなんて子どもにうけるはずがないわよね。
「ああ、不安だわ」
「もう。今日ずっとそんな調子なんだから」
――カランコロン
扉の鈴の音がしたので、思わず勢いよく振り返る。
「あら?」
そこにいたのは、昨日の女の子と、男の子、それから夫婦のような男性と女性。
夫婦らしきふたりは男の子と手をつないでいるので、きっと彼の両親なのだと思う。
そんなことより、どうしてこんな大所帯で?
「まさか、お菓子を食べてなにか悪いことでも!?」
「その逆ですよ」
ふっくらとした優しそうな男性は、見た目通りにゆったりとした口調でそう言った。
同じくふくよかな女性も、これでもかというくらい微笑み、幸せそうにしている。
「あの、どういうこと?」
昨日の女の子に助けを求めた。
すると、彼女もひどくうれしそうな顔で笑った。
「お姉さんが作ってくれたレモンタルトを食べたら、コリンが急に元気になったの!」
「元気に?」
「私から説明しましょう。息子のコリンは長らく病気がちで、明日から田舎で療養させようと思っていたんですよ。それが、ミミの持ってきたタルトを食べると急に元気になって」
男性の話を聞きながら、女の子――ミミは、コリンのほうをちらりと見た。ふたりは可愛らしく一瞬見つめあったあと、ふいと赤い顔をそらす。
初恋って、甘酸っぱいわよね。
コリンは確かに細身で色白だが、顔色はとても元気そう。
私が作ったレモンタルトで、どうして元気になったのかしら。
「テア、それって”薬術の天女”じゃ?」
首をかしげた私に、ミストが答えを出した。
「それでね、コリンは引っ越ししなくてよくなったの!」
ミミはとてもうれしいのかぴょんぴょんと飛び跳ねている。
そうよね、もとは療養のための引っ越しだから、元気になれば引っ越す必要もないものね。
「感謝の気持ちを伝えたくて、家族そろって来させていただきました。コリンが元気になって、本当に私たち幸せなんです。テアさん、とおっしゃったかしら。ありがとうね」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
「わざわざ、そんな……」
コリンの母親が、何かを渡そうと手を出すので、反射で私も手を差し出した。
ずしり、と重たいものが手のひらの上にのせられる。
「こ、こんなにいただけませんわ!」
それは、信じられないくらいの金額だった。
「いいえ、そんなお金なんかでは代えられないものをあなたはくれたのよ」
「私は商人をやっていまして。ぜひ、いろんなところでこのお店を宣伝したいと思っていますが、よろしいかな」
確かに、裕福そうな身なりをしている。
宣伝をしてくれるということで、そちらは喜んで了承した。
「それならなおさら、こんなにもらえません」
「聞きましたよ、ほとんど無償で、あの特別なレモンタルトを作ってくれたと。そんなことができる人はそうそういません」
コリンの両親は、有無を言わせず私にお金を握らせた。
とんだ億万長者だわ、こんなの。
「お姉さん、本当にありがとね。私、今度はちゃんとお金貯めて、サブレ買いに来る!」
ミミはそう言うと、コリン家族と一緒にお店を出ていった。
「テア、どうするの? そのお金」
「そうねえ。貯めておきましょうか」
「面白くない」
「貯金も大事なの」
そんな会話をしながら店じまいをする。
家族とか初恋って、すごく、いいわね。そんなことを考えながら。
ふと、ミストが私の顔を覗きこんだ。
「どうしてちょっと泣きそうなの?」
「え?」
私にも、自分の涙の理由は分からなかった。
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