27 / 35
7.交錯する想い
6
しおりを挟む
電車を降りて、家に向かう河原沿いの道を歩いているとき、カケルがはじめて口をひらいた。
「如月とヒーローショーを観てもまだ時間があったから、ふたりで観覧車にのったんだ」
「うん」
あのとき考えた計画どおりだ。
観覧車なら、ふたりっきりで、だれにもジャマされない。
きれいな景色をながめながら、とてもロマンチックな告白になるはずだった。
「あずさは、知っていたのか?」
「……うん」
わたしは正直に話す。
わたしが計画し、コウタくんに協力してもらったことも。
「あずさは、オレが如月と付き合えばいいと思ったのか?」
「うん、そうだよ」
わたしの言葉に、カケルは深くため息をついた。
「オレの気持ちは、考えてくれなかったのか?」
「……だって、カケルもやよいちゃんのことが好きだって言ってたし、ふたりが両想いなら――」
「――なんだって! オレがいつそんなこと言った!」
「小学5年生のときにふたりでやった罰ゲームで……」
「あっ……!!」
カケルがギリッと歯をかみしめた。
驚いたような、くやしそうな、怒っていそうな、そんな顔。
「あんなくだらないこと、まだ覚えていたのかよ!」
「そんな……」
(くだらなくなんてない! カケルは、まさか忘れてたの?)
そう言いたいけど、そんなことを言えるフンイキではない。
……言う権利もない。
わたしにとっては、はじめての失恋で大事件だったけど、カケルにとっては、ムリヤリ好きな子を言わせられた、イヤな思い出でしかないのだから。
「……今のオレは、他に好きなやつがいるし」
「え、だれ?」
わたしは驚いて聞き返す。
でも、カケルは質問にはこたえず、わたしのことをにらみつけ、
「もういい……、おまえには、関係ない」
と言い捨てた。
そしてクルりとわたしに背を向けると、全速力で走りだした。
「あっ……」
わたしも追いかけようかと考えたけど、カケルに追いつけるわけがない。
小さくなるカケルの背中を、見送ることしかできなかった。
すぐにカケルの姿は、道のはるか向こうへと消えてしまう。
それからわたしは、家に向かって歩こうとする気にならず、そばにあった石の階段に座って、ボーッと川をながめ、今日のできごとを考えた。
やよいちゃんとカケルは両想いだと思っていたけど、実際にはちがっていたようだ。
あのころとカケルの気持ちが変わっているなんて、まったく考えなかったよ。
(いや、ウソだ!)
本当はその可能性もちょっぴりあるかもしれないと考えていたけど、確認する勇気がなかっただけ。
だって……。
カケルの口からもういちど、やよいちゃんのことが好きだと聞いてしまったら、わたしはあのときと同じく、失恋した気分を味わってしまう。
カケルの前で涙をこらえる自信が、まったくない。
とっくにあきらめたはずなのに、わたしはまだ、カケルのことが好きだという気持ちを捨てきれていない。
ひょっとして……、ひょっとしてだよ。
あのときとカケルの気持ちが変わっていて、わたしのことを好きだと言ってくれるかもしれない。
そんな都合のいい妄想をしたことも、何度かある。
でも、そんなことがあったとしても、つらいだけだよね。
やよいちゃんを裏切って、カケルと付き合えるわけがない。
だからわたしは、さっさとふたりに幸せなカップルになってもらい、わたしの初恋を終わらせてほしいと願っていたんだ。
そんな自分勝手な気持ちで、やよいちゃんの初恋が叶うように協力し、コウタくんを巻きこんで傷つけてしまった。
カケルもやよいちゃんの告白を断って傷ついた。
みんなで幸せになる、一番いい方法を選んだはずなのに。
わたしは……完全にまちがってしまった。
こんなことになるのなら、こないだわたしの部屋でふたりっきりになったときに、それとなく、カケルの気持ちを聞いておくべきだった。
そんなどうしようもない後悔ばかりが、頭に浮かんでくる。
(カケルの今の好きな人ってだれだろう?)
教室ではわたしたち以外の女子と話している姿を見ないから、部活関係で知り合った子がいるのかもしれない。
(わたしには関係ない……か)
カケルの拒絶の言葉が、胸に深くつきささった。
川の水面が急にぼやけて見える。
目が熱くなって、涙があふれてくるのを感じた。
あわてて目をこすって空を見上げると、空から水滴がポツリポツリと。
すぐに、ザーッと、はげしくふってきた。
わたしは雨やどりをせずに、しばらくそのまま、灰色の空をながめていた。
*
家に帰ると、雨にずぶぬれになっていたことをお母さんに怒られ、風呂に放りこまれた。
でも、雨が涙を洗い流してくれて、泣いていたことには気づかれなかったみたい。
ラッキーだったよね、あははははっ。
「如月とヒーローショーを観てもまだ時間があったから、ふたりで観覧車にのったんだ」
「うん」
あのとき考えた計画どおりだ。
観覧車なら、ふたりっきりで、だれにもジャマされない。
きれいな景色をながめながら、とてもロマンチックな告白になるはずだった。
「あずさは、知っていたのか?」
「……うん」
わたしは正直に話す。
わたしが計画し、コウタくんに協力してもらったことも。
「あずさは、オレが如月と付き合えばいいと思ったのか?」
「うん、そうだよ」
わたしの言葉に、カケルは深くため息をついた。
「オレの気持ちは、考えてくれなかったのか?」
「……だって、カケルもやよいちゃんのことが好きだって言ってたし、ふたりが両想いなら――」
「――なんだって! オレがいつそんなこと言った!」
「小学5年生のときにふたりでやった罰ゲームで……」
「あっ……!!」
カケルがギリッと歯をかみしめた。
驚いたような、くやしそうな、怒っていそうな、そんな顔。
「あんなくだらないこと、まだ覚えていたのかよ!」
「そんな……」
(くだらなくなんてない! カケルは、まさか忘れてたの?)
そう言いたいけど、そんなことを言えるフンイキではない。
……言う権利もない。
わたしにとっては、はじめての失恋で大事件だったけど、カケルにとっては、ムリヤリ好きな子を言わせられた、イヤな思い出でしかないのだから。
「……今のオレは、他に好きなやつがいるし」
「え、だれ?」
わたしは驚いて聞き返す。
でも、カケルは質問にはこたえず、わたしのことをにらみつけ、
「もういい……、おまえには、関係ない」
と言い捨てた。
そしてクルりとわたしに背を向けると、全速力で走りだした。
「あっ……」
わたしも追いかけようかと考えたけど、カケルに追いつけるわけがない。
小さくなるカケルの背中を、見送ることしかできなかった。
すぐにカケルの姿は、道のはるか向こうへと消えてしまう。
それからわたしは、家に向かって歩こうとする気にならず、そばにあった石の階段に座って、ボーッと川をながめ、今日のできごとを考えた。
やよいちゃんとカケルは両想いだと思っていたけど、実際にはちがっていたようだ。
あのころとカケルの気持ちが変わっているなんて、まったく考えなかったよ。
(いや、ウソだ!)
本当はその可能性もちょっぴりあるかもしれないと考えていたけど、確認する勇気がなかっただけ。
だって……。
カケルの口からもういちど、やよいちゃんのことが好きだと聞いてしまったら、わたしはあのときと同じく、失恋した気分を味わってしまう。
カケルの前で涙をこらえる自信が、まったくない。
とっくにあきらめたはずなのに、わたしはまだ、カケルのことが好きだという気持ちを捨てきれていない。
ひょっとして……、ひょっとしてだよ。
あのときとカケルの気持ちが変わっていて、わたしのことを好きだと言ってくれるかもしれない。
そんな都合のいい妄想をしたことも、何度かある。
でも、そんなことがあったとしても、つらいだけだよね。
やよいちゃんを裏切って、カケルと付き合えるわけがない。
だからわたしは、さっさとふたりに幸せなカップルになってもらい、わたしの初恋を終わらせてほしいと願っていたんだ。
そんな自分勝手な気持ちで、やよいちゃんの初恋が叶うように協力し、コウタくんを巻きこんで傷つけてしまった。
カケルもやよいちゃんの告白を断って傷ついた。
みんなで幸せになる、一番いい方法を選んだはずなのに。
わたしは……完全にまちがってしまった。
こんなことになるのなら、こないだわたしの部屋でふたりっきりになったときに、それとなく、カケルの気持ちを聞いておくべきだった。
そんなどうしようもない後悔ばかりが、頭に浮かんでくる。
(カケルの今の好きな人ってだれだろう?)
教室ではわたしたち以外の女子と話している姿を見ないから、部活関係で知り合った子がいるのかもしれない。
(わたしには関係ない……か)
カケルの拒絶の言葉が、胸に深くつきささった。
川の水面が急にぼやけて見える。
目が熱くなって、涙があふれてくるのを感じた。
あわてて目をこすって空を見上げると、空から水滴がポツリポツリと。
すぐに、ザーッと、はげしくふってきた。
わたしは雨やどりをせずに、しばらくそのまま、灰色の空をながめていた。
*
家に帰ると、雨にずぶぬれになっていたことをお母さんに怒られ、風呂に放りこまれた。
でも、雨が涙を洗い流してくれて、泣いていたことには気づかれなかったみたい。
ラッキーだったよね、あははははっ。
0
あなたにおすすめの小説
未来スコープ ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―
米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」
平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。
恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題──
彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。
未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。
誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。
夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。
この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。
感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。
読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
宇宙人は恋をする!
山碕田鶴
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞/奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。】
私が呼んでいると勘違いして現れて、部屋でアイスを食べている宇宙人・銀太郎(仮名)。
全身銀色でツルツルなのがキモチワルイ。どうせなら、大大大好きなアイドルの滝川蓮君そっくりだったら良かったのに。……え? 変身できるの?
中学一年生・川上葵とナゾの宇宙人との、家族ぐるみのおつきあい。これは、国家機密です⁉
(表紙絵:山碕田鶴/人物色塗りして下さった「ごんざぶろ」様に感謝)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる