(超)自然科学部にようこそ!

稲葉海三

文字の大きさ
4 / 33
2.ヒミツの実験

2

しおりを挟む
 オレはさっきまでぐったりとつかれていたが、ドーナツを見ると、口の中につばがあふれてくるのを感じた。
 すぐに、ドーナツにかぶりつく。
 外側のフワフワのパン生地が破れ、中から甘くてドロッとしたカスタードクリームが、口の中に流れこんできた。

「はう……うめえ!」

 思わず声が出た。
 体の中にエネルギーが補給されていくのを感じる。

 すげー幸せな気分だ。

 そのまま、ムシャムシャと一心不乱に、ドーナツを食べつづけた。

「タクヤはホントに、おいしそうに食べるよね。ドーナツのCMに出れそうだよ」

 タマキがクスクスと笑う。

「しかたねーだろ。タマキも超能力を使えばわかるよ」

 オレはちょっとだけ顔が熱くなるのを感じる。
 夢中になって食べている姿なんて、あまりじっと見られたくはない。

「やっぱり、お腹が空く?」
「ああ、つかれるし、甘いものがたまらなくほしくなる」

 超能力を使った直後だけは、タマキよりも食い意地が張ってしまう。
 今日は特に超能力を使いすぎたせいか、かなりつかれてしまった。

「大変だねー。やっぱりむやみに使っちゃダメだよ。この部屋でやる実験はしょうがないけど、外では絶対ダメなんだからね」
「……わかってるって。もう、絶対に使わない」

 そもそも、外で超能力を使いたくなる場面というのは、めったにない。
 オレは、サイコキネシスやテレポーテーションなどのいろいろな超能力を使うことができるのだが……。

 それらの超能力は、非常に〝しょぼい〟のである。

 サイコキネシスで持ち上げられるのは、小石くらいがゲンカイ。
 テレポーテーションで移動できるのは、五十センチがゲンカイ。

 こんな能力を使うよりも、自分の手で持ち上げるか、足で移動する方がはるかに早い。
 しかも、超能力を使うとつかれてしまい、甘いものがほしくてたまらなくなる。
 甘いものでエネルギー補給をしないと、目を回してしまうのだ。
 こんな不便な能力なので、世界征服をしようだとか、悪をこらしめるスーパーヒーローになろうというのは、ムリなのである。

 こないだ、男の子の落とした五百円玉を側溝から拾ったときは、家に帰ってから、冷蔵庫の中に入っているプリンを全部食べた。

 ……そのせいで、あとで母さんにすげー怒られちまった。

「タクヤの絶対って信用できないんだよね。こないだだって――」
「――先生、今日の実験でなにかわかりましたか?」

 タマキのお説教がまだまだつづきそうなので、オレは長谷川先生に助けをもとめた。
 長谷川先生はニヤニヤとオレたちのことを見ていたが、実験の質問をされると、コーヒーを置いた。
 メガネの位置をクイッと直して、急にマジメな顔をする。
 この先生は、実験のことになると、真剣になるのだ。

「うん。今回の実験で、超能力の正体は………………!」
「ついに、わかったんですか?」

 長谷川先生がもったいつけるので、オレはごくりとつばをのむ。
 超能力の正体については、ずっと気になっていたのだ。
 だから、長谷川先生の言葉を待っていると……、

「なにも、わからなかったよ」

 ドタッ。

 長谷川先生の言葉に、思わず机に突っ伏してしまった。

「期待させといて、そりゃないっすよ」
「はははっ。ごめん、ごめん」

 先生はポリポリと頭をかく。

「でも、先生。うれしそうな顔してるよね? 実験に失敗したのに、どうして?」

 タマキが不思議そうに、先生にたずねた。
 たしかに、長谷川先生の顔は明るい。
 なにもわからず、実験が失敗したようには見えなかった。

「そいつはだね、失敗じゃないからさ。わからないことが、わかったからね」
「どういうこと?」
「今回の実験では、ガラス容器の中を真空にしといたんだ。だからサイコキネシスは、空気を伝わる力ではない。そのことがわかったのが大きい。超能力の正体はわからないけど、確実に一歩前進したということなんだ」
「へー、地道なんですね」
「そう! 科学ってのは、こういう地道なことを何千回、何万回とくりかえすことによって、発展していくんだ。結果を出すには、何十年とかかることもある」

 何十年……。
 十二歳のオレには、想像もできない。
 でも、とんでもなく長いってのはわかる。

「それは……大変ですね」
「大変と感じたことはないかな。朝丘くんのおかげで、どんどん研究が進んでいくし、いまはこの実験をしているときが、楽しくてしょうがないよ!」

 長谷川先生は、心からうれしそうな顔でいった。
 きっと、科学が大好きだからだろう。
 サッカーが好きな人が、うまくなるためにきびしい練習をするのが、つらくないのと同じなのかもしれない。
 
 オレは正直、先生のむずかしい話は、よくわからないときもある。
 でも、これだけよろこんでもらえるなら、しばらくは実験に協力しようと思ってしまうのだ。

「それじゃあ、今日の実験は、これで終わりですか?」
「うん、十分だよ。ありがとう」
「わかりました。それじゃ、帰ります」
「バイバイ、先生」 

 実験が終わったので、オレたちは帰ることにした。

   *

 学校からの帰り道。
 オレたちは、川沿いの道をのんびりと歩いていると、タマキが口を開く。

「この実験、そろそろやめない? やっぱり、超能力なんて忘れた方がいいと思う。超能力なんて使わないでも、フツーに生活できるじゃん」
「おまえ……毎回、おやつだけバカバカ食べて。そりゃないだろ」
「それは、そうなんだけど……」

 オレが呆れたように言うと、タマキはバツが悪そうな顔をした。
 オレにとっては超能力を使ったあとの甘いお菓子は大切なエネルギー補給であるが、タマキにはただのおやつでしかない。
 それでも、長谷川先生は毎回、タマキの分まで用意しておいてくれているのだ。

 一度、ふざけて「太るぞ」といったら、タマキにすんごい目でにらまれた。
 あんなに怖い目でにらまれたのは、タマキのあだ名を「タマキン」にしようとしたとき以来である。
 女子に対して絶対に言ってはいけない言葉というのはあるようだ。

「まったく、人助けとはいえ……、なんで見られちゃうかな」

 タマキがつぶやくように言った。

「うっ、だってさぁ。オレだって、気をつけてたんだぜ……」

 オレはタマキから顔をそらして、ゴニョゴニョとつぶやく。
 約束を破って超能力を使ったのも、それを見られてしまったのも、すべてオレが悪いさ。
 でもな。だれにも見られないように、ちゃんと気をつけてはいたんだぜ。
 周囲に人がいないことは、確認していた。

 それでも、長谷川先生は見ていたんだ。

「長谷川先生が武術の達人なんて、反則だろ! 気配を消すって、すげーぞ! まうしろにいたのに、マジで、ぜんぜん、気づかなかったんだ!」
「……人は見かけによらないよね」

 長谷川先生は長身でやせているが、『天神流柔術でんじんりゅうじゅうじゅつ』という武術の達人である。
 小さい頃からずっとやっていたので、師範の資格を持っているようだ。
 コンビニ強盗を捕まえて、表彰されたこともあるらしい。

 つまり、ムチャクチャ強い人なのだ。

「しかも東大を出たような、すごい人だったなんてな」

 東大――東京大学は、日本でトップレベルに、入学試験がむずかしい大学である。

 つまり、ムチャクチャ頭のいい人なのだ。

「ホント、人は見かけによらないよね。ちょっとヘンな先生だけど……」
「まあ、たしかにな」

 オレは苦笑した。
 長谷川先生は、オシャレなどにはまったく興味がなくて、いつも白衣を着て生活をしている。
 休みの日は、理科準備室でずっと、研究ばかりしているのだ。
 他の先生たちとくらべると、ヘンとしか言いようがない。
 フツーの若い先生なら、休日に買いものや旅行、デートなどをして過ごしているはずなのに。

「ただ、長谷川先生が超能力を研究して、世の中のために使いたいってのは、信じてもいいと思う」

 あの日、長谷川先生は、オレみたいな子どもに頭を下げて、実験に協力をお願いしてきた。
 そして、超能力を科学で再現する夢を、キラキラした目で語った。
 弱すぎてなんの役にも立たないオレの超能力が、世の中のためになるすばらしい能力……。
 そう説明されて、オレはうれしかったんだ。

「まあ、悪い先生には見えないけど」
「そのうち、タマキにもわかるって」
「そうかなぁ」

 長谷川先生ならきっと、超能力を意味のあるものにしてくれるはず。
 オレはそう、信じている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい

藤永ゆいか
児童書・童話
過去のある出来事から、空手や合気道を習うようになった私。 そして、いつしか最強女子と言われるようになり、 男子が寄りつかなくなってしまった。 中学では恋がしたいと思い、自分を偽って 学校生活を送ることにしたのだけど。 ある日、ひったくり犯を撃退するところを クラスメイトの男子に見られてしまい……。 「お願い。このことは黙ってて」 「だったら、羽生さん。 俺のボディーガード兼カノジョになってよ」 「はい!?」 私に無茶な要求をしてきた、冴えないクラスメイトの 正体はなんと、大財閥のイケメン御曹司だった!? * * * 「ボディーガードなんて無理です!」 普通の学校生活を送りたい女子中学生 羽生 菜乃花 × 「君に拒否権なんてないと思うけど?」 訳あって自身を偽る隠れ御曹司 三池 彗 * * * 彗くんのボディーガード兼カノジョになった 私は、学校ではいつも彼と一緒。 彗くんは、私が彼のボディーガードだからそばにいるだけ。 そう思っていたのに。 「可愛いな」 「菜乃花は、俺だけを見てて」 彗くんは、時に甘くて。 「それ以上余計なこと言ったら、口塞ぐよ?」 私にだけ、少し意地悪で。 「俺の彼女を傷つける人は、 たとえ誰であろうと許さないから」 私を守ってくれようとする。 そんな彗くんと過ごすうちに私は、 彼とずっと一緒にいたいと思うようになっていた──。 「私、何があっても彗くんのことは絶対に守るから」 最強女子と隠れ御曹司の、秘密の初恋ストーリー。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 現代日本と不釣り合いなとある山奥には、神社を中心とする妖討伐の一族が暮らす村があった。その一族を率いる櫛田八早月(くしだ やよい)は、わずか八歳で跡目を継いだ神職の巫(かんなぎ)である。その八早月はこの春いよいよ中学生となり少し離れた町の中学校へ通うことになった。  妖退治と変わった風習に囲まれ育った八早月は、初めて体験する普通の生活を想像し胸を高鳴らせていた。きっと今まで見たこともないものや未体験なこと、知らないことにも沢山触れるに違いないと。  この物語は、ちょっと変わった幼少期を経て中学生になった少女の、非日常的な日常を中心とした体験を綴ったものです。一体どんな日々が待ち受けているのでしょう。 ※外伝 ・限界集落で暮らす専業主婦のお仕事は『今も』あやかし退治なのです  https://www.alphapolis.co.jp/novel/398438394/874873298 ※当作品は完全なフィクションです。  登場する人物、地名、、法人名、行事名、その他すべての固有名詞は創作物ですので、もし同名な人や物が有り迷惑である場合はご連絡ください。  事前に実在のものと被らないか調べてはおりますが完全とは言い切れません。  当然各地の伝統文化や催事などを貶める意図もございませんが、万一似通ったものがあり問題だとお感じになられた場合はご容赦ください。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

【シスコン】シスターコントロール ~兄のダンジョン探索を動画サイトで配信して妹はバズりたい!~【探索配信】

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 西暦202x年、日本を襲った未曾有の大災害『日本列島地殻変動』により日本での生活環境は一変してしまった。日本中にダンジョンと呼ばれる地下洞窟が口を開き、周辺からは毒ガスが噴出すると言った有様だ。  異変から約一年、毒ガスの影響なのか定かではないが、新生児の中に毒ガスに適応できる肺機能を持った者たちが現れ始めていた。さらにその中の数%には優れた身体能力や頭脳を持つ者や、それだけでなく従来とは異なった超能力と言える特殊な異能力を持つ者もいた。  さらに八十年ほどが過ぎて二十二世紀に入ったころには人々の生活は落ち着き、ダンジョンを初めとする悪辣な環境が当たり前となっていた。そんなすさんだ世の中、人々の娯楽で一番人気なのはダンジョンを探索する限られた者たちの様子をリアルタイムで鑑賞することだった。  この物語は、ダンジョン探索に情熱を燃やす綾瀬六雨(あやせ りくう)と、その様子を配信してバズりたい綾瀬紗由(あやせ さゆ)という、どこにでもいるごく普通の兄妹が身近な人たちと協力し楽しく冒険するお話です。

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

処理中です...