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プロローグ
第零話 うまなとイザー
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記録にも記憶にも残っていないくらい続いていた神と悪魔の争いは二人の可憐な少女の出現によって何事も無かったかのように終結したのだった。二人の少女は高く積み重ねられた神と悪魔の死体の上に立って空を見あがているのだが、そこに浮かぶ月はまるで大量の返り血を浴びたかのように真紅に染まっていた。
いくら死体を積み重ねても手の届かない位置にある月を恨めしそうに見ている少女と対照的にもう一人の少女は自分よりも大きな斧を使って転がっている死体を真っ二つに切断していた。急に静かになったことに疑問を持った人達が恐る恐る地上に出てみると、そこには今まで見た事も無かった異様な光景が広がっていた。
それまで我が物顔でこの地を支配していた悪魔とそれを治めようとしていた神の軍勢。その争いに巻き込まれないように地下へと逃げていた人類ではあったが、静かになったことで戦いに決着がついたのかと思い様子を見るために数にが地上へ出てきたのだ。地上に出てきた人間たちは高く積まれている神と悪魔の死体と謎の少女二人が何かをしているようなのだが、それがいったい何をしているのかという事を理解する事は出来なかった。あとからやってきた者達もこの少女たちがいったい何者で、自分たちの敵なのか味方なのかわからなかったのである。
死体の山に登る気になれ勝った若者は斧を振り回している少女に恐る恐る近付いて話しかけてみたのだけれど、夢中になって斧を振り下ろしている少女は若者の問いかけにも答えることも無く、冷酷なまなざしを死体に向けるさまはまるで機械として創り出されたのではないかと思ってしまうようだった。
もう一方の少女はいくら死体を積み重ねたところで月に届くことは無いという事を理解したのか、ゆっくりと死体の山から下りてくると遠くで見守っていた人間に向かってゆっくりと歩きだしていた。大半の者は身構えることも出来ず狼狽えるがかりで何も出来なかったが、ごく一部の者は絶対に敵わないと知りつつも家族を守るために立ち向かおうとしていたのだ。
「この辺には、他に神や悪魔っているのかな?」
少女の問い掛けに一瞬の間をあけて一人の老人が一歩前に歩み出た。
「この辺りにはもういないと思います。悪魔を退治してくれたのはありがたいのですが、なぜに神までその手にかけたのですか?」
「なぜって、そんなの理由なんて無いわよ。私に襲い掛かってきたんだからそれを排除するのは当然でしょ。それに、私とイザーをこんな風にしたのはあいつらなんだからさ、報いを受けて当然なんじゃないかな」
少女の言葉を聞いた者達はじりじりと後退りをして少女との距離をあけていた。少女と話をしていた老人は年齢を感じさせない動きで若者の後ろに隠れると、少女とは目を合わせずにしつつも少女からは決して目を離すことが無かった。
「神や悪魔を殺すことが出来るというだけでもそうなんじゃないかと思っていたんだが、もしかしてあなたは栗宮院うまな様ですか?」
少女は老人をかばうように建っている若者に向かって笑顔を向けると、その質問に答えるようにゆっくりと頷いていた。この少女二人は自分たちの敵ではないという事は理解出来たのだが、目の前に高く積まれている神や悪魔の死体を目の前にしては素直に喜んでいいのかわからず戸惑っている人間たちに向かって栗宮院うまなは優しくほほ笑んでイザーのもとへと近付いていった。
二人で何やら話をしているようなのだが、どんなに集中して会話を聞こうとしても距離が遠すぎて何を話しているのか聞くことは出来なかった。近付きさえすれば会話の内容も聞くことが出来るとは思うのだけど、二人に近付いて会話を聞こうとする勇気のある物は誰もいなかったのである。
イザーは手に持っていた斧を小さくすると柄の部分をまるで簪のように扱って髪を整えていた。長い黒髪を綺麗にまとめたイザーは見守っている人達を不安にさせないようになのか笑顔でゆっくりと歩み寄ってくるのだが、滲み出る狂気と先ほどまで見ていた凄惨な行為のせいで誰もその笑顔を信用してはいなかった。
「もう、別に君達を殺そうなんて思ってないって。私達が君達を殺したって何のメリットも無いんだよ。それよりもさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
イザーが優しく問いかけても誰もそれに答えることは無かったのだ。このまま誰も何も答えなければみんな殺されてしまうかもしれない、誰もがそう思ってはいたのだが、誰もイザーの目を見て答えることが出来なかったのだ。
「みんなイザーの事を怖がってるみたいだよ。あんな風に楽しそうに死体を真っ二つにしてたら誰でも怖がっちゃうって。ここは私に任せてイザーは後ろで見てなさいって」
「なんで私の方が怖がられるのよ。みんなはまだ地上に出てきてなかったからうまなちゃんがあいつらを撲殺してるところを見てなかっただけだと思うんだけどな。私よりもうまなちゃんの方が狂暴で凶悪で狂気に満ち溢れていたと思うんだけど。私はうまなちゃんから言われてあいつらが再び動き出さないように脳と心臓を潰してただけだし」
その後も言い合いを続けているうまなとイザーではあったが、その様子をただ黙って見ている事しか出来ない人達は動くことも出来ずにいた。老人も若者も小さな子供でさえも二人のやり取りを見ている事しか出来なかったのだった。
しばらくやり取りは続いていたのだが、その永遠とも思える時間は急に終わりを迎えた。
「ねえ、誰かこの中に漫画とか描ける人っていない?」
うまなのその質問の意図を理解出来ない人達は戸惑い顔を見合わせているのだが、うまなの質問に対して沈黙を貫くことしか出来なかった。
「ここの人達も私達と一緒で何かを作る事なんて出来ないんだよ。だからね、この世界だけじゃなくて他の世界にも目を向けなきゃダメなんじゃないかな。ほら、うまなちゃんがこの前見付けてくれたあっちの世界の方が漫画とか小説とかいろいろ発展してるんだし、あっちの世界で探してみようよ」
「そうだね。でも、私達はあっちの世界に行くことなんてまだ出来ないんだよ。どうしたらいいんだろうね」
うまなとイザーは何かを期待するかのように人間たちをチラチラと見ているのだが、そんな風に見られたところでここに居る人間達にどうする事も出来るはずが無いのだ。チラチラと見てくるうまなとイザーと目を合わせないようにみんな視線を逸らしてはいるのだが、その中の一人の女性が周りを気にしながらゆっくりと人混みをかき分けて前に出てきた。
小柄で俯きながら歩いていて長くのばされた前髪で表情も確認する事は出来ないのだが、その女性は人混みをかき分けてうまなとイザーの前まで出てくると顔を少しだけ上げて小さく息を吐いた。
「あの、あっちの世界ってのが私にはわからないですけど、別の世界と繋がってるハコがあるんですけど、それを使ったらどうにかなるかもしれないと思うんです。でも、それが何なのかわからないし、全然使えなかっただごめんなさい。でも、他の世界の人にメッセージを送れるみたいなんです。えっと、あの、そんなの意味ないですよね。ごめんなさい」
全員の視線に耐えられなくなってしまった小柄な女性はキョロキョロと周りを見ながら人混みの中へ消えようとしたのだが、それよりも早くうまなとイザーに抱きしめられていたのだった。
「それってどこにあるのかな。もしかしたら、私達が探してるやつかもしれないね」
「絶対そうだよ。前にうまなちゃんが壊したあの箱と同じものだと思うし、今度こそあっちの世界の人とコンタクト取れるようになるよ」
「もう、あなたがいてくれて良かったよ。何か困ったことがあったら私達に何でも言ってくれていいからね。ちなみになんだけど、あなたは漫画を描いた事ってあるの?」
「いや、私は漫画を描いた事ないです。でも、短い小説なら書いたことあります。ほんの少しですけど」
「それは凄いよ。私もイザーも新しいものを作る事って出来ないからさ、素直に尊敬しちゃうよ。良かったら私達と友達になりましょうよ。ね、いいでしょ?」
「それは良い考えだね。また悪魔とか神がやってきたら私達二人で討伐しに来るからね。お友達ならそれくらいして当然だよね」
明らかに困っている様子の女性と同じように困っている周囲の人たちをよそに、うまなとイザーは何やら盛り上がっている様子であった。
誰よりも困惑している女性と喜んでいるうまなとイザー。それを一枚の絵に描き上げた謎の男。三人の女性と一人の男を中心にこれから物語は動いていくのであった。
いくら死体を積み重ねても手の届かない位置にある月を恨めしそうに見ている少女と対照的にもう一人の少女は自分よりも大きな斧を使って転がっている死体を真っ二つに切断していた。急に静かになったことに疑問を持った人達が恐る恐る地上に出てみると、そこには今まで見た事も無かった異様な光景が広がっていた。
それまで我が物顔でこの地を支配していた悪魔とそれを治めようとしていた神の軍勢。その争いに巻き込まれないように地下へと逃げていた人類ではあったが、静かになったことで戦いに決着がついたのかと思い様子を見るために数にが地上へ出てきたのだ。地上に出てきた人間たちは高く積まれている神と悪魔の死体と謎の少女二人が何かをしているようなのだが、それがいったい何をしているのかという事を理解する事は出来なかった。あとからやってきた者達もこの少女たちがいったい何者で、自分たちの敵なのか味方なのかわからなかったのである。
死体の山に登る気になれ勝った若者は斧を振り回している少女に恐る恐る近付いて話しかけてみたのだけれど、夢中になって斧を振り下ろしている少女は若者の問いかけにも答えることも無く、冷酷なまなざしを死体に向けるさまはまるで機械として創り出されたのではないかと思ってしまうようだった。
もう一方の少女はいくら死体を積み重ねたところで月に届くことは無いという事を理解したのか、ゆっくりと死体の山から下りてくると遠くで見守っていた人間に向かってゆっくりと歩きだしていた。大半の者は身構えることも出来ず狼狽えるがかりで何も出来なかったが、ごく一部の者は絶対に敵わないと知りつつも家族を守るために立ち向かおうとしていたのだ。
「この辺には、他に神や悪魔っているのかな?」
少女の問い掛けに一瞬の間をあけて一人の老人が一歩前に歩み出た。
「この辺りにはもういないと思います。悪魔を退治してくれたのはありがたいのですが、なぜに神までその手にかけたのですか?」
「なぜって、そんなの理由なんて無いわよ。私に襲い掛かってきたんだからそれを排除するのは当然でしょ。それに、私とイザーをこんな風にしたのはあいつらなんだからさ、報いを受けて当然なんじゃないかな」
少女の言葉を聞いた者達はじりじりと後退りをして少女との距離をあけていた。少女と話をしていた老人は年齢を感じさせない動きで若者の後ろに隠れると、少女とは目を合わせずにしつつも少女からは決して目を離すことが無かった。
「神や悪魔を殺すことが出来るというだけでもそうなんじゃないかと思っていたんだが、もしかしてあなたは栗宮院うまな様ですか?」
少女は老人をかばうように建っている若者に向かって笑顔を向けると、その質問に答えるようにゆっくりと頷いていた。この少女二人は自分たちの敵ではないという事は理解出来たのだが、目の前に高く積まれている神や悪魔の死体を目の前にしては素直に喜んでいいのかわからず戸惑っている人間たちに向かって栗宮院うまなは優しくほほ笑んでイザーのもとへと近付いていった。
二人で何やら話をしているようなのだが、どんなに集中して会話を聞こうとしても距離が遠すぎて何を話しているのか聞くことは出来なかった。近付きさえすれば会話の内容も聞くことが出来るとは思うのだけど、二人に近付いて会話を聞こうとする勇気のある物は誰もいなかったのである。
イザーは手に持っていた斧を小さくすると柄の部分をまるで簪のように扱って髪を整えていた。長い黒髪を綺麗にまとめたイザーは見守っている人達を不安にさせないようになのか笑顔でゆっくりと歩み寄ってくるのだが、滲み出る狂気と先ほどまで見ていた凄惨な行為のせいで誰もその笑顔を信用してはいなかった。
「もう、別に君達を殺そうなんて思ってないって。私達が君達を殺したって何のメリットも無いんだよ。それよりもさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
イザーが優しく問いかけても誰もそれに答えることは無かったのだ。このまま誰も何も答えなければみんな殺されてしまうかもしれない、誰もがそう思ってはいたのだが、誰もイザーの目を見て答えることが出来なかったのだ。
「みんなイザーの事を怖がってるみたいだよ。あんな風に楽しそうに死体を真っ二つにしてたら誰でも怖がっちゃうって。ここは私に任せてイザーは後ろで見てなさいって」
「なんで私の方が怖がられるのよ。みんなはまだ地上に出てきてなかったからうまなちゃんがあいつらを撲殺してるところを見てなかっただけだと思うんだけどな。私よりもうまなちゃんの方が狂暴で凶悪で狂気に満ち溢れていたと思うんだけど。私はうまなちゃんから言われてあいつらが再び動き出さないように脳と心臓を潰してただけだし」
その後も言い合いを続けているうまなとイザーではあったが、その様子をただ黙って見ている事しか出来ない人達は動くことも出来ずにいた。老人も若者も小さな子供でさえも二人のやり取りを見ている事しか出来なかったのだった。
しばらくやり取りは続いていたのだが、その永遠とも思える時間は急に終わりを迎えた。
「ねえ、誰かこの中に漫画とか描ける人っていない?」
うまなのその質問の意図を理解出来ない人達は戸惑い顔を見合わせているのだが、うまなの質問に対して沈黙を貫くことしか出来なかった。
「ここの人達も私達と一緒で何かを作る事なんて出来ないんだよ。だからね、この世界だけじゃなくて他の世界にも目を向けなきゃダメなんじゃないかな。ほら、うまなちゃんがこの前見付けてくれたあっちの世界の方が漫画とか小説とかいろいろ発展してるんだし、あっちの世界で探してみようよ」
「そうだね。でも、私達はあっちの世界に行くことなんてまだ出来ないんだよ。どうしたらいいんだろうね」
うまなとイザーは何かを期待するかのように人間たちをチラチラと見ているのだが、そんな風に見られたところでここに居る人間達にどうする事も出来るはずが無いのだ。チラチラと見てくるうまなとイザーと目を合わせないようにみんな視線を逸らしてはいるのだが、その中の一人の女性が周りを気にしながらゆっくりと人混みをかき分けて前に出てきた。
小柄で俯きながら歩いていて長くのばされた前髪で表情も確認する事は出来ないのだが、その女性は人混みをかき分けてうまなとイザーの前まで出てくると顔を少しだけ上げて小さく息を吐いた。
「あの、あっちの世界ってのが私にはわからないですけど、別の世界と繋がってるハコがあるんですけど、それを使ったらどうにかなるかもしれないと思うんです。でも、それが何なのかわからないし、全然使えなかっただごめんなさい。でも、他の世界の人にメッセージを送れるみたいなんです。えっと、あの、そんなの意味ないですよね。ごめんなさい」
全員の視線に耐えられなくなってしまった小柄な女性はキョロキョロと周りを見ながら人混みの中へ消えようとしたのだが、それよりも早くうまなとイザーに抱きしめられていたのだった。
「それってどこにあるのかな。もしかしたら、私達が探してるやつかもしれないね」
「絶対そうだよ。前にうまなちゃんが壊したあの箱と同じものだと思うし、今度こそあっちの世界の人とコンタクト取れるようになるよ」
「もう、あなたがいてくれて良かったよ。何か困ったことがあったら私達に何でも言ってくれていいからね。ちなみになんだけど、あなたは漫画を描いた事ってあるの?」
「いや、私は漫画を描いた事ないです。でも、短い小説なら書いたことあります。ほんの少しですけど」
「それは凄いよ。私もイザーも新しいものを作る事って出来ないからさ、素直に尊敬しちゃうよ。良かったら私達と友達になりましょうよ。ね、いいでしょ?」
「それは良い考えだね。また悪魔とか神がやってきたら私達二人で討伐しに来るからね。お友達ならそれくらいして当然だよね」
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