恋愛アプリを使ってみたら幼馴染と両想いになれました

釧路太郎

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恋愛コミュニケーション

第八話

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 いつもの教室が暗く感じたのは雨が降っているからだけではなかった。亜紀ちゃんの事件もあったためだとは思うのだけれど、クラスのみんなが山口の悪口を聞こえるようにわざと言っていたのだった。さすがに奥谷君たちはそれを止めるように言っていたのだけれど、吉原君や瀬口君はそれに対して奥谷君が山口の事を好きだから庇ってるんだろうと言ってつかみ合いの喧嘩になってしまった。クラスの女子のほとんどは奥谷君の事が好きだったので吉原君たちを止めようとしていたのだけれど、男子の喧嘩に割って入るほど勇気のある人は誰もいなかった。このままではよくないと思って私が間に割って入ろうとしたのだけれど、その前に山口が奥谷君に向かって「うるさい、黙れ」と言ったことでその場は治まってしまった。
 男子の喧嘩が止まったのは良かったのだけれど、山口の言った言葉で吉原君たちはキレてしまったようだった。あっけにとられている奥谷君を除いた男子たちが山口の席を取り囲んでいるんだけれど、山口はそんな事を気にせずにスマホをいじっていた。
 直接殴ったりはしないんだろうけど、あれだけの人数の男子に囲まれたら私だったら気が動転してしまうかもしれないと思ったけれど、私は山口と違ってあんな状況にはならないと思う。そもそも、私は山口みたいに誰かにターゲットにされるような生き方はしていないのだ。

 早坂先生は男子たちが山口の席の周りに集まっているのを気にしてはいたのだけれど、早坂先生は特に何も聞いてこなかったし男子たちもそのまま席に戻っていったので何事も起きはしなかった。

 休み時間のたびに山口の席に男子が集まると言ったことは無かったけれど、男子だけではなくクラス中が重い空気に包まれているように私には思えた。ただ、奥谷君たちはそんなクラスの様子を察してなのかわからないけれど、山口の席の近くで話をしているのだった。会話の内容はちゃんと聞いていたわけじゃないんだけど、ゲームの話とか漫画の話ばかりしているのはいかにも男子だなって感じがして面白かった。

「ねえ、泉ちゃんは山口の事どう思ってるの?」
「私は特に何も思ってないかも。亜梨沙ちゃんは山口の事嫌いなの?」
「まあ、嫌いっていうか、好きじゃないかな。亜紀ちゃんにやったこともそうだけど、なんか言ってることとか行動がムカつくなって思うんだよね」
「そうだよね。ウチも山口の行動ってなんかムカつくって思ってるわ。でもさ、それって男子も一緒らしいよ。亜紀から聞いたんだけどさ、吉原たちが中心になって山口をいじめるって話が盛り上がってるんだって。ウチはさすがにいじめるのはやめた方がいいんじゃないかなって思うだけどさ、あいつら盛り上がりすぎて止められないんだよね」
「へえ、そんなことになってるんだ。私はさすがにいじめに参加しようとは思わないけど、止めようとは思わないかも。前々から思ってたんだけど、山口って自己中なとこあるし少しくらいは痛い目を見た方がいいんじゃないかなって思うんだよね。泉ちゃんはどう思う?」
「私も亜梨沙ちゃんと同じ気持ちだけど、梓ちゃんの言ってることも理解出来るよ。でもさ、私達が止めても山口は感謝とかそういうの思わなそうだなって思うんだよね」
「だよね。あいつを助けた奥谷だって『うるさい』って言われてたもんね」
「ねえ、あの状況で『黙れ』ってマジひいたよ。泉ちゃんの言う通りで助けたところで意味無さそうだもんね。なんであんな感じなんだろうね」
「ウチは山口の事高校から知ったんだけど、泉って小さい時から知ってたんでしょ?」
「うん、小学校の時から一緒だったけど、遊んだことってないかも」
「へえ、じゃあ、奥谷君とも一緒だったって事?」
「そうだね。奥谷君は昔はスポーツマンって感じだったかな。勉強は苦手そうだったけど、運動が得意だから女子に人気あったと思うよ」
「そうなんだ。その女子の中に泉って入ってないの?」
「え、私が奥谷君の事をって事?」
「そうそう、泉ってあんま恋バナとかしないからさ、昔はどうだったんだろうって思ってね」
「どうだったかな。昔の気持ちはあんまり覚えてないかも」
「ホントかな。亜梨沙は奥谷の事好きだったりするの?」
「うーん、カッコイイとは思うけど、私は奥谷君は競争率高そうだから遠慮し解こうかな。ね、泉ちゃん」
「え、あ、うん。競争率高そうだね。恋愛アプリでも奥谷君を登録してる女子多いみたいだしね。後輩たちも狙ってる子がいるみたいだけど、奥谷君機会が苦手だって言ってたし、そういうのあんまりやってなさそうだもんね」
「へえ、泉は奥谷の事詳しいんだね。もしかしたらもしかするのかな」
「ちょっとやめてよね。本当にそういうのじゃないんだからさ」
「でもさ、亜紀ちゃんは山口の事どう思ってるんだろうね?」
「なんかさ、亜紀はあんまり山口に関わりたくないって思ってるみたいなんだよね。でも、吉原たちが勝手に盛り上がっててどうすることも出来ない感じになっているのかも。亜紀が本当はどうしたいのかわかんないけど、今は亜紀よりもその周りの方が山口に対して怒ってるって感じなのかもね。ウチはそういうのって良くないと思うんだけど、いったん火が付いたらそういうのって止められないんじゃないかなって思うんだよ」
「そうだよね。今って亜紀ちゃんよりも周りの方が熱くなってる感じがするかもね。泉ちゃんは山口の味方じゃないと思うから聞くけど、みんなを止めたいって思ったりするかな?」
「どうだろ。いじめは良くないって思うけど、これはいじめじゃないんじゃないかって気もするんだよね。山口が何も気にしていないんだったらいじめじゃないのかなって思うんだけど、結局は山口がどう思っているかどうかじゃないかな」
「そうだよね。山口が何とも思ってないんだったらいじめじゃないよね。でもよかったよ。泉ちゃんがアレはいじめだって言ったら私はどうしたらいいかわからなくなってたからね。そうそう、いつの間にか恋愛アプリのポイントが貯まってたんだけど、放課後にカラオケ行かない?」
「お、亜梨沙はいつの間にか恋人出来てたのかよ。そういう事は内緒にしないで言えって」
「違うって、なんだかわからないけど友達同士でもポイントが貯まるプレミアム会員みたいなのになれたんだよ。そんなにやり取りしてないのに梓ちゃんよりポイント貯まってると思うよ」
「何だよ、恋人同士よりも友人同士の方がポイント貯まるって変な話だな。まあいいや、最近は面倒な事も多かったし、カラオケ行って騒ごうぜ。それとさ、そのプレミアム会員ってどうやったらなれるんだ?」
「よくわかんないけど、運営からメールが着て登録したらなれたよ。友達一人だけ誘えるって書いてたから泉ちゃんにしたんだけど、泉ちゃんは誰か招待した?」
「アレって招待とかできたの?」
「私が出来たから泉ちゃんも出来ると思うけど、梓ちゃんを招待したらみんなでずっと遊べそうじゃない」
「うん、やってみるね。招待を開いて送ってみるけど、無理かもしれない」
「え、どういう事?」
「なんかね、すでに両想いの人には送れないって書いてるよ」
「そうだよな。恋愛アプリが恋愛よりも友情を優先させるようなことをしちゃだめだもんな。それじゃあさ、山口が誰かと両想いになってるか確かめてみない?」
「ええ、それって山口と泉ちゃんがやり取りするって事じゃない。それって良くないと思うな」
「そうだよね。私も山口を招待するのってなんか嫌かも」
「そうだな。よく考えてみたらそうかもしれないな。じゃあさ、奥谷を招待してみようぜ。あいつだったら山口の事も知っているし、なんか山口の秘密を教えてもらえるかもしれないな」
「それいいね。私も奥谷君が誰かと両想いなのかは気になるし、泉ちゃんだったら奥谷君と昔から知り合いだから問題ないって」
「もう、二人とも何なのよ。でも、二人が言うから一応送ってみるね」

 私は無事に奥谷君を招待することが出来たのだが、それは同時に奥谷君が誰かと両想いではないという証明になった。この結果を一番喜んだのは亜梨沙ちゃんだったのだけれど、それに対する返事もメッセージもお昼休み中に返ってくることは無かった。

 奥谷君から初めて私にメッセージが届いたのは家に帰ってお風呂に入った後だった。

『招待してくれてありがとう』

 たった一行のメッセージでも私は嬉しい気持ちになることが出来た。
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