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恋愛アプリケーション

第一話

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 僕の両親はあまり世間体を気にしないのかもしれない。僕が就職もしないで家に引きこもっているのにもかかわらず、口うるさく何かを言ってくることが無いのだ。姉さんは僕に働けと言ってくることはあるけれど、あまり僕の事に関心が無いようで本気で説得してくるような感じではない。確か、姉さんは高校の先生になったと言っていたけれど、生徒に対しては僕に対する態度ではなくもう少し真剣に向き合ってあげていたらいいなと思うくらい、僕に対する態度は無関心に近いものがあった。
 だが、僕の両親があまり口うるさく仕事をしろと言ってこないのには訳があって、僕は外で働いていない代わりに歩い程度の収入をネット広告などで安定して稼ぐことが出来ているのだ。両親に危ない仕事をしていると思われていたりもしたのだが、インターネット関係の仕事をやっていると言っても理解してもらえず、編集した動画をいくつかみせたところテレビ関係の仕事なら安心だと妙に納得してもらえたのだった。ただ、僕が編集している動画は別に有名な人ではないのでそこまでの報酬はいただけていない。
 実は、動画編集や僕が個人的に投稿している動画以外にここ一年くらいで一気に成長したコンテンツが僕の主な収入源となっているのだ。学生時代に遊びで作って放置していたアプリが中高生の間で爆発的に流行しているらしく、いつからか知らないお金が口座に入金されるようになっていたのだ。今ではいくつかのサーバをレンタルで借りている状況になっているのだけれど、そのレンタル料を払っても毎月結構な額の広告収入が入ってくるようになっていた。
 アプリを作った時には広告収入で生活出来るといいなと思っていたのだけれど、そんなに甘いものではなかったようで、本当のことを言うと、口座に入金されてからもしばらくは何のお金が振り込まれたのかわからずに怯えていたりもしたのだ。
 ただ、アプリを使って何か犯罪行為が行われても困るし、変な利用者がいないといいなと思ったのだけれど、アプリをちゃんと利用するためには自分の本名と生年月日と血液型を登録しなければいけないので、そういった情報を晒すことが出来ない犯罪者予備軍たちはきっと登録することも無いだろうと思っていた。本当はもう少し細かい情報も入れたかったのだけれど、そうなるとお互いが両想いだったとしてもマッチングする確率が下がってしまいそうで、それは避けることにしていた。

 なぜこんなに急に恋愛アプリが流行り出したのかはわからないが、どこかのカップル配信者がこのアプリを紹介してポイントでファミレスに行ったことがきっかけの一つのようだった。そう言えば、両想いの人同士がアプリで連絡を取り合うとポイントが貯まって電子マネーと交換することが出来るようにしていたのを思い出した。って事は、ある程度は利用者にポイント還元されているにもかかわらず、僕のもとにはそれ以上に入ってきているということになるのではないだろうか。彼らがインフルエンサーなのかどうかは知らないが、少なくとも僕の作ったアプリを中高生に広めてくれた功労者であることは間違いない。
 ただ、アプリの性質上動画などは送ることが出来ないのだが、それは利用者の事を守ろうとしている運営側のポリシーなのだと説明されていたのは少し違うのだ。正確に言うと、アプリ内で動画を送りあうこともビデオ通話をすることもかのなのだが、それをするには回線やサーバを圧迫し過ぎるうえに、利用料も上がりそうな予感がしたので動画は不可にしただけなのだ。結果的には子供を犯罪行為から守ることになるとして多くの大人たちもそれはいい事なのだろうと納得していたみたいだった。

 さらに、それから半年も経つと、一部のテレビ局も恋愛アプリを取り扱うようになっていき、僕の住んでいる街でもそれなりに利用者が増えているようになっていた。ただ、ほとんどの人は好きな人を登録しただけで終わっており、片思いの人が積極的にアプリを使う機会はほとんどないようなものだった。それでも、両想いになっている人たちはポイントを貯めるためにたくさんのやり取りを続けてくれていたし、その分だけ広告が表示されているので僕にも収入が多く入ってくるようになっていた。
 本当は自前のサーバを設置した方がレンタルよりも費用は安く済むのだが、このアプリがいつまで持つのか見通しが不透明なため、いつでも減らせるようにと保険をかける意味でもレンタルにこだわったのだ。結果的に、僕はこの決断は間違っていなかったと確信することになるのだが、それはまだしばらく先の話である。

 そして、僕が作った恋愛アプリは姉さんが受け持っているクラスの生徒の間でも爆発的に流行ることになってしまったのだった。
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