百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎

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第1話 デートをするなら海と温泉どちらがお好き?

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 零楼館高校の歴史に今まで一度も外部入学生と言う言葉が刻まれる事は無かったのだが、その歴史に名を刻んだ工藤太郎はまさに非の打ち所のない完璧な男子だった。
 世界で一番厳しいと言われる零楼館高校の入試は合格の条件として全教科満点であるのが最低条件で、スポーツに関しても複数の競技において全国大会優勝を個人と団体で達成しているという事で合格判定が変わるというものなのだ。
 そんな条件を簡単に突破したことからも工藤太郎の優秀さは伝わると思うのだが、それ以上に零楼館高校の歴史に名を刻んだのが工藤珠希である。
 工藤珠希は零楼館小中高校に通う生徒の七割以上とほとんどの職員から入学するようにと指名されたのだ。
 なぜ彼女が指名されたのか、その理由は後になって知らされることになったのだが、それを聞いた工藤珠希は零楼館高校に入学したことを後悔したのである。
 それでも、それなりに楽しい時間を過ごすことが出来たのは嬉しかった。

 勉強についていくのは正直大変ではあったが、工藤珠希にとってそれ以上に大変なことは、学校にいるサキュバス達からの求愛を交わすことであった。
 工藤珠希は零楼館高校に通う百合系サキュバスに一目惚れされてしまった。積極的に声をかけてくる者こそ入学当初に比べて減ってはいるものの、どこに居ても見られているという事に関してはストレスが溜まって辛い日々を過ごすこととなっていたのである。

 何でも出来る工藤太郎とサキュバスに好かれ過ぎている工藤珠希。
 二人の日常は非日常へと変わってしまっていた。


「皆さんの提出してくれた課題は大変良く出来ていました。特に太郎君の映像レポートはとてもよく撮れていてアメリカ政府からも称賛の声が上がっていましたよ。ただ、太郎君にとって中南米の麻薬カルテルを壊滅するというのは簡単すぎたみたいですね。それなので次はもっともっと太郎君の才能を活かすために、異世界に行って魔王を三体ほど倒してきてもらう事にしましょうね。これは職員会議で決まって理事長も承認してくれたので決定事項ですからね。今度は一週間ではなく半年くらい課題に取り組んでもらってもいいですからね」
「すいません。俺一人で異世界に行って魔王を倒すとか無理だと思うんですけど。そもそも、その異世界ってどうやって行ってどうやって帰ってくればいいのかわからないんですけど」
「大丈夫です。先生も詳しいことはわからないんですけど、太郎君の才能と努力で何とでもなるはずですよ。ポンピーノ先生が色々と説明してくれると思うので太郎君は今すぐ処置室に向かってくださいね」
「でも、俺には難しいと思うんですけど」
「もう、これ以上太郎君にかまっている時間は無いので強制的にポンピーノ先生のところまで送り届けてもらいます。あとはよろしくお願いしますね」

 担任の片岡先生が廊下に向って何かの合図を送ると音もなく扉が開いて無数の触手が工藤太郎めがけて伸びてきた。工藤太郎はそれをよけようとしたのだが、隣と後ろの席の女子が工藤太郎の肩をおさえて触手を避けられないようにしていた。
 工藤太郎の悲鳴が学校中に響いていたのだが、誰もそんな事に興味を持つ人はいなかった。
 触手の正体が気になった工藤珠希ではあったが、その姿を見てしまうと何かされてしまうのではないかと考えるととても怖くて廊下を覗く勇気は持てなかった。

「うまなちゃんとイザーちゃんは美味しそうなチョコを作ったんですね。これは、二人の体をかたどってるんですか?」
「そうなんです。私とイザーちゃんのデータをとって立体プリントをしてそれの型をとってチョコレートを作りました。最初は溶かした金で私たちを飾ってもらおうと思ったんですけど、どうせなら珠希ちゃんに食べてもらった方がいいんじゃないかなって思ってチョコに変えました。」

 サキュバスの代表である栗宮院うまなとイザーは何かにつけて自分をかたどった食べ物を工藤珠希に食べさせようとしているのだが、今のところそれを意識して食べた事は無いのであった。
 おそらくだが、栗宮院うまなとイザーの中で作ったものを本当に食べてほしいという気持ちと食べずに見守っていてほしいという気持ちがせめぎあっているのだと思われる。実力行使をすればいくらでも無理やり食べさせることも出来ると思うのだが、それをしないという事は工藤珠希の自主性に任せているという事なのかもしれない。

「桔梗さんと愛華さんも素晴らしいレポートをありがとうございます。レジスタンス側のお二人がここまで珠希さんの事を調べてくれるとは思ってもみませんでした。お二人が共同で制作したこのレポートは職員の間でも大変評判ですからね。特に、寝起き直後の珠希さんの表情がとても評判でした」
「ありがとうございます。私たちが珠希ちゃんと遊んだ時の写真で喜んでもらえてよかったです。サキュバスのみんなは珠希ちゃんと一緒に一晩過ごすことが出来ないと思うのでお裾分けって事ですかね。でも、サキュバスのみんなは実際にその姿を見ることが出来ないんだもんね。それだけはちょっとかわいそうかも」

 生徒会長である栗鳥院柘榴と鈴木愛華はサキュバス達を挑発するようにそう言ったのだ。
 サキュバス達はその挑発には乗らずに工藤珠希の写真とレポートを真剣に見つつも口元は緩みっぱなしであった。
 それを見た工藤珠希は危機感を抱いていた。

「肝心の珠希さんですが、今回も課題は上手くいかなかったみたいですね。クラスのお友達に協力してもらってもいいですし、お友達に頼りづらければ先生が協力しちゃいますよ」
「それはちょっと。と言うよりも、なんでボクの課題だけテーマが決められてるんですか?」
「なんでって、珠希さんが特別指名生徒だからですよ。珠希さんの行動が他の誰かにとって良くないことになる可能性があるからなんです。たとえ同じことをしていたとしても、珠希さんが自分で選んでそれをやったのと学校に言われてそれをやったのでは見ている方も印象が違いますからね。というわけで、今回の珠希さんの課題は『デートをするなら海と温泉どちらがお好き?』に決まりました。海に行くにしても温泉に行くにしても歩いていくのは無理でしょうから先生が車を出してもいいですからね」
「遠慮しときます。ボクにはデートをするような相手なんていないからその課題も無理ですよ」
「太郎君が異世界に行っちゃったからって事でしょうけど、このクラスには珠希さんとデートしたいって思ってる人がたくさんいるから選んでくれていいですよ。もちろん、今回もサキュバスの中から選んでくれないとだめですからね」

 特別指名生徒である工藤珠希の苦労はいつまでも続くのであった。
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