百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎

文字の大きさ
24 / 127

第24話 何気ない会話の中に

しおりを挟む
 中華風たい焼きの名前の由来。それを工藤太郎なら知っているのではないかと思った工藤珠希はそれとなく聞いてみることにした。
 上手く聞き出す自信はなかったけれど、太郎なら聞いたことを素直に答えてくれる。そんな自信だけはあったのだ。

「なんでこれって中華風たい焼きなんだろう?」
「それって、中身がこしあんでしょ?」
「うん、そうだね。こしあんだけど、それがどうかしたの?」
「そのこしあんってのが中華風の秘密なんだよ」
「秘密って、胡麻団子もこしあんだったと思うだけど、それが中華風っていう名前の理由だったらショックだわ。そんなことないとは思うけど、そんな理由だったら本当にショックだわ」
「胡麻団子とは関係ないよ。その時は胡麻団子なんて見たことも無かったよ。おじさんなら知ってたかもしれないけど、俺は全然知らなかったからね。ちょっと前に食べに行った中華料理屋さんで初めて知ったんだし」

「何回か家族で中華を食べに行ったことはあったと思うけど、食後はいつも杏仁豆腐だったもんね。この前太郎が頼んでたセットのデザートが胡麻団子だった時があったけど、その時に初めて食べたって事?」
「うん、そうだよ。名前は知ってたんだけど、俺は串団子に胡麻が乗ってるのを想像したからビックリしちゃったよ。これは一体何なんだって思ったんだけど、よくよく観察してみたら胡麻がびっしりついていたからさ、そういう事なのかって納得したよね。それで、一口食べてみたらさらに驚いちゃった。周りの胡麻が甘いものだとばかり思ってたんで中にあんこが入っててさ、これは何なんだろうって思っちゃったよ。珠希ちゃんは胡麻団子って食べたことある?」
「え、普通にあるけど。太郎の前でも食べたことあったよね?」
「そう言えばそうかも。あの時は何を食べてるんだろうって思ってたけど、今になって思えば珠希ちゃんが胡麻団子を食べてたのを何回も見てたね」

 胡麻団子について話をしている二人ではあるが、工藤珠希が気になっているのは胡麻団子ではなくなぜあのたい焼きが中華風と言う名前になっているのかという事だ。太郎はその事について教えてくれるつもりはないのだろうか。工藤珠希は少し気になっていた。

「胡麻団子の事はもういいよ。それで、なんでこのたい焼きが中華風って名前になったのか教えてよ。あんまり焦らすのって良くないよ」
「ごめんごめん、焦らすつもりではなかったんだ。最近驚いたことを珠希ちゃんに教えたくてつい余計なことを言ってしまっただけなんだ」
「最近驚いたことって、あんたはそんな事に驚くよりももっとすごい体験してるでしょ。普通な感じで通話してるけどさ、あんたが今いるのって地球じゃないどこか別の世界なんだよ。宇宙船に乗っても行けないようなどこにあるかもわからないような場所にいるうえに、魔王を三体倒せって言われてそれもやり遂げたんでしょ。胡麻団子を初めて食べた衝撃よりもそっちの方が驚きだと思うんだけど、あんたの価値基準ってどうなってるわけ?」
「そう言われてもな、俺にとって魔王を倒すことなんてそこまで特別なコトじゃないからね。ほら、ゲームとかでもよく魔王を倒してたし、珠希ちゃんが勝てない相手もかわりに倒してあげてたでしょ」
「それはボクがゲーム下手なだけだし。それよりも、ゲームと現実を同じ尺度とで測るのは良くないと思うよ。さすがに死んだりはしないと思うけど、魔王と戦って太郎が怪我するのなんて見たくないからね」
「多少は怪我をすることもあるし、何だったら命を落としかけたこともあるんだけどね。イザーちゃんが何とかしてくれるから平気だったりするんだよ。この通話を繋ぐまで左手が無かったからね。再生してもらうのに少し時間がかかって待たせちゃったんだよ」

 画面に映し出されている太郎の手は何事も無かったかのように動いていた。
 左手を失っているというのが太郎の冗談なのかと思った工藤珠希ではあったが、無くなったという左手をよく見てみると日焼けとは異なる肌の色の違いがあるように感じていた。それが気のせいなのか、腕時計をしているからなのかハッキリとはわからないが、向こうの世界でもこちらと同じように命を落としたとしても生き返らせてくれる人がいるという事なのかもしれない。
 ドクターポンピーノ程ではないにしても、イザーにもそのような力があるという事なのだろう。

「その左手って、何ともないわけ?」
「今のところ特に不都合はないね。こっちで宴会をしてくれるってのも俺の傷を癒す時間を作るためだったりするみたいだよ。そっちに戻るころには完全に馴染んでると思うから安心してね。ほら、いつもみたいに珠希ちゃんの頭をなでなでしてあげるから」
「いつもって、ボクは太郎にそんなことしてもらったことないだろ。何を言っているんだ君は」
「そう言えば最近してなかったね。最後にしたのは小学校さん二年生の冬休みだったかな?」
「そんな昔の事なんて言われても覚えてないって。それに、太郎は左手で撫でたりしてなかっただろ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。 帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、ほのぼの学園百合小説。 ♪ 野阪 千紗都(のさか ちさと):一人称の主人公。帰宅部部長。 ♪ 猪谷 涼夏(いのや すずか):帰宅部。雑貨屋でバイトをしている。 ♪ 西畑 絢音(にしはた あやね):帰宅部。塾に行っていて成績優秀。 ♪ 今澤 奈都(いまざわ なつ):バトン部。千紗都の中学からの親友。 ※本小説は小説家になろう等、他サイトにも掲載しております。 ★Kindle情報★ 1巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4 2巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP 3巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3 4巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P 5巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL 6巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ 7巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0F7FLTV8P Chit-Chat!1:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H Chit-Chat!2:https://www.amazon.co.jp/dp/B0FP9YBQSL ★YouTube情報★ 第1話『アイス』朗読 https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE 番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読 https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI Chit-Chat!1 https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34 イラスト:tojo様(@tojonatori)

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...