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おパンツ戦争
第112話 誰にでもできる事
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校内放送で工藤太郎の復活を知った工藤珠希は眉一つ動かさずに自分に与えられた使命を全うしていた。
誰でも出来る仕事をこのタイミングで自分に押し付けてきた事に若干腹を立てつつはあったが、生真面目な性格ゆえに任されてしまった事は粛々とやり遂げるのであった。
「キリの良いところで今日はお終いにしよう。このまま帰ってもいいんだけど、みんなさっきの放送が気になってるだろうし、太郎ちゃんの様子を見に行ってもいいんじゃないかな。珠希ちゃんは特に気になってるだろうし」
「ボクは別に気にしてないですけど。太郎が死なないってのは誰よりもボクが一番よくわかってますから」
「そうか、そうだったね。君が誰よりも一番よく太郎ちゃんのことを知っているという事だったね。でも、そんな君が迎えに来てくれたら太郎ちゃんは嬉しいんじゃないかな」
「そうかもしれないですけど、どうせ学校から帰る時は二人だけですから。その時に聞きたいことは聞きますよ」
手を止めずに資料を整理している工藤珠希にかける言葉はこれ以上なかった。
一緒に作業をしている生徒たちも気をつかってくれていることがわかるのだけれど、工藤珠希の様子は一向に変わる気配がなかった。
自分の作業が一段落着いた生徒が大半だったのだが、工藤珠希が黙々と作業を続けていたこともあって誰一人として席を立てずにいた。
そんな中、何度目かの校内放送で工藤太郎の声が聞こえてきたのだ。
工藤珠希は一瞬だけ動きを止めたのだが、すぐに自分の与えられている作業に集中するかのように資料に顔を近付けていた。
一人の生徒が立ち上がって資料を教員に渡すと、それに続くかのように他の生徒たちも続々と席を立って資料を渡していった。
それでも、工藤珠希は変わらずに資料整理を続けていた。
「そこらへんでやめてもいいんだよ。たまたまここを通りかかった君に頼んでおいてこんな事を言うのは変かもしれないけれど、今君がするべき事は資料整理じゃないんじゃないかな」
「大丈夫です。ボクは意外とこういう作業好きだったりするんですよ。頼まれた仕事は最後までやり遂げたいって思いますし」
「そうは言ってもね、私も手が空いているなら少しでいいんで手伝って欲しいってお願いしただけだからね。そこで終わらせてくれても大丈夫だから。太郎ちゃんも君に会いに来て欲しいって思ってるんじゃないかな?」
「どうでしょうね。ボクに会いたいって思ってるんだったとしたら、地球に帰ってきた時に真っ先に連絡してくるんじゃないですかね?」
「それはどうだろう。私は宇宙船の事は詳しくないんで何とも言えないけれど、伝えられなかった理由があるのかもしれないよ。例えば、物凄いスピードで移動していて重力が凄くて何も出来なかったのかもしれないし」
「そうかもしれないですね。普通の人間じゃ耐えられないような力が体にかかってるって言ってましたもん。普通の人間じゃ耐えられないって、太郎が普通の人間じゃないみたいな言い方で笑っちゃいましたけどね。どこからどう見ても普通の人間なのに、自分の事を特別な人間なんだって思ってるのかって考えたら、ボクはちょっとおかしくて笑っちゃいましたよ」
「まあ、その辺はどうなんだろうね。少なくとも、私たちは珠希ちゃんのことも太郎ちゃんのことも特別な人間だと思っているよ。太郎ちゃんはイザーちゃんとも張り合える力を持っているし、珠希ちゃんはサキュバスを幸せな気持ちにしてくれる特別な力を持ってるって話だからね」
零楼館高校に入学してからわずかの期間に多くの事を経験しすぎて感覚がマヒしているのかもしれないが、工藤太郎が瀕死の状態に陥っても何とかなると思っていた。
人類の科学力ではたどり着けないほど遠い宇宙まで行った工藤太郎が何事も無かったかのように戻ってくる。それも十分に信じられないことなのだが、栗宮院うまなとイザーの行動を見ていると全てが当たり前のようにも感じていた。
工藤太郎がいなくなることを怖いと思ったことは何度もあったけれど、どんなに離れても戻ってくるという安心感が生まれていたのも事実である。
家に工藤太郎のいない日を何度も繰り返すうちに、工藤珠希は少しずつ強くなっていったのかもしれない。
会えない時間を過ごしているうちに言いたいことはたくさんあったのだけれど、それを口にすることは“まだ”時間が足りないのかもしれない。
自分の言いたいことをまとめるためにも、このなんてことの無い作業はちょうど良かった。
ただ、それだけの理由でこの場に残っている。
「先生はボクに気にせずに太郎の所に行っていいですよ。鍵を置いていってくれたらボクが施錠して職員室に届けておきますから」
「それは良くないと思う。珠希ちゃんが残るというのであれば、私も残るよ」
「大丈夫ですよ。ボクは変なことしないですし。もう少し時間がかかりそうですし。先生も太郎の事が気になってるんじゃないですか?」
「気にはなっているけど、さすがに珠希ちゃんを残して行くことは出来ないよ」
「ボクの事なら気にしなくてもいいですよ。別に一人になったからって悪い事とかしないですから」
「その点は心配していないよ。ただ、珠希ちゃんを一人にしちゃうってのが良くないんじゃないかと思うんだ。今は太郎ちゃんのことを気にしているサキュバスが多いんだけど、珠希ちゃんが一人だけだって気付いたらどうなってしまうんだろうね?」
誰でも出来る仕事をこのタイミングで自分に押し付けてきた事に若干腹を立てつつはあったが、生真面目な性格ゆえに任されてしまった事は粛々とやり遂げるのであった。
「キリの良いところで今日はお終いにしよう。このまま帰ってもいいんだけど、みんなさっきの放送が気になってるだろうし、太郎ちゃんの様子を見に行ってもいいんじゃないかな。珠希ちゃんは特に気になってるだろうし」
「ボクは別に気にしてないですけど。太郎が死なないってのは誰よりもボクが一番よくわかってますから」
「そうか、そうだったね。君が誰よりも一番よく太郎ちゃんのことを知っているという事だったね。でも、そんな君が迎えに来てくれたら太郎ちゃんは嬉しいんじゃないかな」
「そうかもしれないですけど、どうせ学校から帰る時は二人だけですから。その時に聞きたいことは聞きますよ」
手を止めずに資料を整理している工藤珠希にかける言葉はこれ以上なかった。
一緒に作業をしている生徒たちも気をつかってくれていることがわかるのだけれど、工藤珠希の様子は一向に変わる気配がなかった。
自分の作業が一段落着いた生徒が大半だったのだが、工藤珠希が黙々と作業を続けていたこともあって誰一人として席を立てずにいた。
そんな中、何度目かの校内放送で工藤太郎の声が聞こえてきたのだ。
工藤珠希は一瞬だけ動きを止めたのだが、すぐに自分の与えられている作業に集中するかのように資料に顔を近付けていた。
一人の生徒が立ち上がって資料を教員に渡すと、それに続くかのように他の生徒たちも続々と席を立って資料を渡していった。
それでも、工藤珠希は変わらずに資料整理を続けていた。
「そこらへんでやめてもいいんだよ。たまたまここを通りかかった君に頼んでおいてこんな事を言うのは変かもしれないけれど、今君がするべき事は資料整理じゃないんじゃないかな」
「大丈夫です。ボクは意外とこういう作業好きだったりするんですよ。頼まれた仕事は最後までやり遂げたいって思いますし」
「そうは言ってもね、私も手が空いているなら少しでいいんで手伝って欲しいってお願いしただけだからね。そこで終わらせてくれても大丈夫だから。太郎ちゃんも君に会いに来て欲しいって思ってるんじゃないかな?」
「どうでしょうね。ボクに会いたいって思ってるんだったとしたら、地球に帰ってきた時に真っ先に連絡してくるんじゃないですかね?」
「それはどうだろう。私は宇宙船の事は詳しくないんで何とも言えないけれど、伝えられなかった理由があるのかもしれないよ。例えば、物凄いスピードで移動していて重力が凄くて何も出来なかったのかもしれないし」
「そうかもしれないですね。普通の人間じゃ耐えられないような力が体にかかってるって言ってましたもん。普通の人間じゃ耐えられないって、太郎が普通の人間じゃないみたいな言い方で笑っちゃいましたけどね。どこからどう見ても普通の人間なのに、自分の事を特別な人間なんだって思ってるのかって考えたら、ボクはちょっとおかしくて笑っちゃいましたよ」
「まあ、その辺はどうなんだろうね。少なくとも、私たちは珠希ちゃんのことも太郎ちゃんのことも特別な人間だと思っているよ。太郎ちゃんはイザーちゃんとも張り合える力を持っているし、珠希ちゃんはサキュバスを幸せな気持ちにしてくれる特別な力を持ってるって話だからね」
零楼館高校に入学してからわずかの期間に多くの事を経験しすぎて感覚がマヒしているのかもしれないが、工藤太郎が瀕死の状態に陥っても何とかなると思っていた。
人類の科学力ではたどり着けないほど遠い宇宙まで行った工藤太郎が何事も無かったかのように戻ってくる。それも十分に信じられないことなのだが、栗宮院うまなとイザーの行動を見ていると全てが当たり前のようにも感じていた。
工藤太郎がいなくなることを怖いと思ったことは何度もあったけれど、どんなに離れても戻ってくるという安心感が生まれていたのも事実である。
家に工藤太郎のいない日を何度も繰り返すうちに、工藤珠希は少しずつ強くなっていったのかもしれない。
会えない時間を過ごしているうちに言いたいことはたくさんあったのだけれど、それを口にすることは“まだ”時間が足りないのかもしれない。
自分の言いたいことをまとめるためにも、このなんてことの無い作業はちょうど良かった。
ただ、それだけの理由でこの場に残っている。
「先生はボクに気にせずに太郎の所に行っていいですよ。鍵を置いていってくれたらボクが施錠して職員室に届けておきますから」
「それは良くないと思う。珠希ちゃんが残るというのであれば、私も残るよ」
「大丈夫ですよ。ボクは変なことしないですし。もう少し時間がかかりそうですし。先生も太郎の事が気になってるんじゃないですか?」
「気にはなっているけど、さすがに珠希ちゃんを残して行くことは出来ないよ」
「ボクの事なら気にしなくてもいいですよ。別に一人になったからって悪い事とかしないですから」
「その点は心配していないよ。ただ、珠希ちゃんを一人にしちゃうってのが良くないんじゃないかと思うんだ。今は太郎ちゃんのことを気にしているサキュバスが多いんだけど、珠希ちゃんが一人だけだって気付いたらどうなってしまうんだろうね?」
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