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BACK TO THE OCEAN Chapter3
第20章 はばかられる船出【2】
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「なあルーナ……」
「ん? なに?」
ルーナは左手に、僕のプレゼントしたボディクリームの入っているビニール袋を下げながら、僕の目を見る。
「ルーナはさ……こういう、戦いとかから縁の無い、普通の女の子になりたいなって思ったこととかある?」
「えっ? う~ん……」
ルーナは少しの間唸りながら考えていたが、しかしそれほど長い時間を掛けることなく、僕の質問の答えを返してきた。
「そんなこと一度も思ったことは無いっ! ……って言ったら嘘になるわね。モチロンあるわよ。特にわたしはその戦いによって、お父さんを……母国を失っているから尚更ね」
「そう……だよね……」
彼女の母国、ノースハーウェンは暁の火に問題視されたことによって、彼女の父であるレイヴン王もろとも、国ごと滅亡させられた。
それから彼女と、彼女の母親である女王と、その世話役であるゾフィさんはマグナブラへと逃げ延び、自分達の身の上がばれないよう、肩身の狭い生活をしていたのだろう。もしノースハーウェンの女王と王女が生きていたと知られれば、暁の火がそれを黙って見過ごすわけが無いだろうから。
「わたしはマグナブラに居たころ、市街地の外れの、本当に人の少ない場所にひっそりと住んでいたわ。まあ……そういう身の上だったっていうこともあって、わたしには友達なんていなかったから、一人で日陰でよく遊んでいたんだけど、その時にたまたまわたしと同じくらいの子達が、日向で何人かで鬼ごっこをしていたのよ。それを見て思ったの……何でわたしは、あの子達みたいになれないんだろう……ってさ」
「そうか……」
「あの頃は自分がどんな身分なのかなんて、分かってなかったからね。だからそれをお母さんに言ってみたら、お母さん、泣き出しちゃって……ずっとわたしを抱きながら『ごめんね』って言い続けてた……」
「…………」
「その日をキッカケに、わたしは周りの子と自分のことを比べなくなったわ。わたしにとってはこれが普通なんだ……ってね。それに、そんなことを考えたら、またお母さんを悲しませることになっちゃうからって……いかにも子供らしい発想でしょ?」
「いや……すごく立派なことだよ。むしろ僕がよっぽど小さい人間に見えてくる……普通に暮らしていたら、こんな気苦労はしなくて良かっただろうにとか、ルーナと平凡な日々を送れたらとか、今でも思っちゃうし……」
僕は両肩を落とし、ルーナに自分の弱さを吐露してしまう。
すると彼女は「ふうん」と言って腕を組むと、間髪入れずに僕へ、トンデモナイ選択を迫ってきた。
「じゃあ今から二人で逃げちゃおっか?」
「へっ!?」
僕はそれを聞いて、ガックリと落としていた両肩を、ビクンと跳ね上げ、その場であたふたとプチパニックを起こしてしまった。
「だってこれだけの人が居る場所だったら、二人で逃げても分からないでしょ」
「いやいやいやっ! でもさ……」
「でもその後、わたしがアンタと一緒に居るかは分からないけどね? もしかしたらアンタを放っておいて、一人で戻るかもしれないけど」
「えっ……」
「そしたらアンタは、みんなの元を離れたことを後悔するでしょ? かといって、もう離れる前の時間に戻れるわけでも無い」
「それは……」
「つまりはそういうことよ。一度起こってしまったことを巻き戻すことはできない。わたし達は今を進むことはできても、過去に進むことはできないのよ。だから普通の生活を断ち切った今、もうそこに戻ることはできない。今から二人で逃げたとしても、決してね」
「…………」
彼女の言う通り、もしここから逃げ出したとして、僕が普通の生活を送ることができるのかとと問われれば、そんなはずがない。
何故なら僕はこの国に居る限り、王の殺害に手を貸した、最低最悪の犯罪者であるという烙印を永久に背負い続けながら、肩身の狭い人生を送っていかねばならないからだ。
それこそ、こそこそと、死ぬまで人の目を気にしながら、日陰で一生後ろめいた生活をする羽目になるだろう。
なんせ僕は罪人であり、そしてこの戦いを放棄したことによって、唯一僕を認めてくれている仲間の……彼女の気持ちを、裏切ったことになるのだから。
一生、日陰者。一生、裏切り者。
それらのレッテルを張り続け、潰える日がやって来たら、何を成し遂げたこともなく、誰からも認められることも無く、罪人として、裏切り者として、朽ち果てていく……そんな人生にはたして、価値などあるのだろうか?
……いや、そんな人生に価値など無い。
それだったら、自分が今欲されている場所で、自分の価値を見出してから死んだ方が、よっぽど幸せな人生であることに違いは無い。
そうだ……僕は仲間と、そしてルーナと、この修羅の中で生き抜いていくと心の中で誓っていたんだ……それをこの、辛い現実から一時的に逃げるためとはいえ、忘れかけていた。
あの時の覚悟を、今ハッキリと彼女に思い出させてもらった。
「……ごめんルーナ、僕は目の前の辛さから逃れるために、現実逃避をしていたみたいだ。君のお蔭で、本当に大切なものを失わずに済んだよ」
「そう、それは良かった。でもアンタなら、こう言ったら迷いを断ち切ってくれるって分かってたから、心配はさほどしなかったわ」
「フッ……えらく信用してくれてるじゃないか」
「だってわたしのパートナーだもん。当たり前でしょ?」
「そっか……パートナーか」
「嫌なの?」
「いや……ただこんな人通りの多い場所じゃ、それに応えるために抱いてあげることもできないなって思っちゃってさ。さすがに恥ずかしいし」
「ふふ、だったらこれはどう?」
「おおっ!?」
するとルーナは僕の左腕に彼女の右腕を絡ませ、ぐっと僕を引き寄せるようにして接近してきた。
感覚としては、半分抱き合っているような、そんな感覚だろうか。
しかし半分であっても、彼女の体の柔らかい感触や熱が、左腕から十分に感じ取れる。
無論、あの場所の感覚も、特に柔らかいし、彼女はそれなりに出ているから、僕の左肘付近が今、その部分にピッタリと接触しちゃっていることが、その感覚だけですぐに分かってしまった。
「あのルーナ……腕におっぱいが当たって……その……よからぬことが……」
「えっ……ちょっとダメよ! アンタ今女装してるんだから! っていうか、いい加減耐性をつけなさいよ!」
「耐性って……男である以上それは無理だよ。それにルーナだって、僕がおっぱい触ってなんとも感じないって言ったら嫌じゃない?」
「そりゃあまあ……どちらかといえば嫌ね」
「そうだろ? だからこれは、僕がルーナのことが好きだっていう一種の証なのさ」
「カッコ良くまとめたつもりみたいだけど、でも今は隠しなさい! ばれたらその部分、切り落とすからね!」
「ヒッ……! なんて恐ろしいことを! 男の唯一無二のモノにむかって……」
「ああもういいから! シャキシャキ歩いて、気を紛らわしなさい!!」
彼女は怒鳴りながらも、しかし体は一向に僕にくっつけたまま放そうとはせずに、サブウェイの駅に向かって歩き始める。
しかしこの状況、傍からはどう見えているのだろうか? 僕が元の男の恰好をしているならまだ、異性同士のカップルに見られるのかもしれないが、今僕は女装をしているからな。
非常に仲の良い友達同士……あるいは、同性のカップルと思われたりして?
まあ……どちらでもいいか、周りの目なんて。
周りからどう思われようとも、関係無い。
彼女の隣が、僕の居場所なのだから。
ルーナにこうしてくっついてもらえるだけで、僕は十分、幸せなのだから。
「ん? なに?」
ルーナは左手に、僕のプレゼントしたボディクリームの入っているビニール袋を下げながら、僕の目を見る。
「ルーナはさ……こういう、戦いとかから縁の無い、普通の女の子になりたいなって思ったこととかある?」
「えっ? う~ん……」
ルーナは少しの間唸りながら考えていたが、しかしそれほど長い時間を掛けることなく、僕の質問の答えを返してきた。
「そんなこと一度も思ったことは無いっ! ……って言ったら嘘になるわね。モチロンあるわよ。特にわたしはその戦いによって、お父さんを……母国を失っているから尚更ね」
「そう……だよね……」
彼女の母国、ノースハーウェンは暁の火に問題視されたことによって、彼女の父であるレイヴン王もろとも、国ごと滅亡させられた。
それから彼女と、彼女の母親である女王と、その世話役であるゾフィさんはマグナブラへと逃げ延び、自分達の身の上がばれないよう、肩身の狭い生活をしていたのだろう。もしノースハーウェンの女王と王女が生きていたと知られれば、暁の火がそれを黙って見過ごすわけが無いだろうから。
「わたしはマグナブラに居たころ、市街地の外れの、本当に人の少ない場所にひっそりと住んでいたわ。まあ……そういう身の上だったっていうこともあって、わたしには友達なんていなかったから、一人で日陰でよく遊んでいたんだけど、その時にたまたまわたしと同じくらいの子達が、日向で何人かで鬼ごっこをしていたのよ。それを見て思ったの……何でわたしは、あの子達みたいになれないんだろう……ってさ」
「そうか……」
「あの頃は自分がどんな身分なのかなんて、分かってなかったからね。だからそれをお母さんに言ってみたら、お母さん、泣き出しちゃって……ずっとわたしを抱きながら『ごめんね』って言い続けてた……」
「…………」
「その日をキッカケに、わたしは周りの子と自分のことを比べなくなったわ。わたしにとってはこれが普通なんだ……ってね。それに、そんなことを考えたら、またお母さんを悲しませることになっちゃうからって……いかにも子供らしい発想でしょ?」
「いや……すごく立派なことだよ。むしろ僕がよっぽど小さい人間に見えてくる……普通に暮らしていたら、こんな気苦労はしなくて良かっただろうにとか、ルーナと平凡な日々を送れたらとか、今でも思っちゃうし……」
僕は両肩を落とし、ルーナに自分の弱さを吐露してしまう。
すると彼女は「ふうん」と言って腕を組むと、間髪入れずに僕へ、トンデモナイ選択を迫ってきた。
「じゃあ今から二人で逃げちゃおっか?」
「へっ!?」
僕はそれを聞いて、ガックリと落としていた両肩を、ビクンと跳ね上げ、その場であたふたとプチパニックを起こしてしまった。
「だってこれだけの人が居る場所だったら、二人で逃げても分からないでしょ」
「いやいやいやっ! でもさ……」
「でもその後、わたしがアンタと一緒に居るかは分からないけどね? もしかしたらアンタを放っておいて、一人で戻るかもしれないけど」
「えっ……」
「そしたらアンタは、みんなの元を離れたことを後悔するでしょ? かといって、もう離れる前の時間に戻れるわけでも無い」
「それは……」
「つまりはそういうことよ。一度起こってしまったことを巻き戻すことはできない。わたし達は今を進むことはできても、過去に進むことはできないのよ。だから普通の生活を断ち切った今、もうそこに戻ることはできない。今から二人で逃げたとしても、決してね」
「…………」
彼女の言う通り、もしここから逃げ出したとして、僕が普通の生活を送ることができるのかとと問われれば、そんなはずがない。
何故なら僕はこの国に居る限り、王の殺害に手を貸した、最低最悪の犯罪者であるという烙印を永久に背負い続けながら、肩身の狭い人生を送っていかねばならないからだ。
それこそ、こそこそと、死ぬまで人の目を気にしながら、日陰で一生後ろめいた生活をする羽目になるだろう。
なんせ僕は罪人であり、そしてこの戦いを放棄したことによって、唯一僕を認めてくれている仲間の……彼女の気持ちを、裏切ったことになるのだから。
一生、日陰者。一生、裏切り者。
それらのレッテルを張り続け、潰える日がやって来たら、何を成し遂げたこともなく、誰からも認められることも無く、罪人として、裏切り者として、朽ち果てていく……そんな人生にはたして、価値などあるのだろうか?
……いや、そんな人生に価値など無い。
それだったら、自分が今欲されている場所で、自分の価値を見出してから死んだ方が、よっぽど幸せな人生であることに違いは無い。
そうだ……僕は仲間と、そしてルーナと、この修羅の中で生き抜いていくと心の中で誓っていたんだ……それをこの、辛い現実から一時的に逃げるためとはいえ、忘れかけていた。
あの時の覚悟を、今ハッキリと彼女に思い出させてもらった。
「……ごめんルーナ、僕は目の前の辛さから逃れるために、現実逃避をしていたみたいだ。君のお蔭で、本当に大切なものを失わずに済んだよ」
「そう、それは良かった。でもアンタなら、こう言ったら迷いを断ち切ってくれるって分かってたから、心配はさほどしなかったわ」
「フッ……えらく信用してくれてるじゃないか」
「だってわたしのパートナーだもん。当たり前でしょ?」
「そっか……パートナーか」
「嫌なの?」
「いや……ただこんな人通りの多い場所じゃ、それに応えるために抱いてあげることもできないなって思っちゃってさ。さすがに恥ずかしいし」
「ふふ、だったらこれはどう?」
「おおっ!?」
するとルーナは僕の左腕に彼女の右腕を絡ませ、ぐっと僕を引き寄せるようにして接近してきた。
感覚としては、半分抱き合っているような、そんな感覚だろうか。
しかし半分であっても、彼女の体の柔らかい感触や熱が、左腕から十分に感じ取れる。
無論、あの場所の感覚も、特に柔らかいし、彼女はそれなりに出ているから、僕の左肘付近が今、その部分にピッタリと接触しちゃっていることが、その感覚だけですぐに分かってしまった。
「あのルーナ……腕におっぱいが当たって……その……よからぬことが……」
「えっ……ちょっとダメよ! アンタ今女装してるんだから! っていうか、いい加減耐性をつけなさいよ!」
「耐性って……男である以上それは無理だよ。それにルーナだって、僕がおっぱい触ってなんとも感じないって言ったら嫌じゃない?」
「そりゃあまあ……どちらかといえば嫌ね」
「そうだろ? だからこれは、僕がルーナのことが好きだっていう一種の証なのさ」
「カッコ良くまとめたつもりみたいだけど、でも今は隠しなさい! ばれたらその部分、切り落とすからね!」
「ヒッ……! なんて恐ろしいことを! 男の唯一無二のモノにむかって……」
「ああもういいから! シャキシャキ歩いて、気を紛らわしなさい!!」
彼女は怒鳴りながらも、しかし体は一向に僕にくっつけたまま放そうとはせずに、サブウェイの駅に向かって歩き始める。
しかしこの状況、傍からはどう見えているのだろうか? 僕が元の男の恰好をしているならまだ、異性同士のカップルに見られるのかもしれないが、今僕は女装をしているからな。
非常に仲の良い友達同士……あるいは、同性のカップルと思われたりして?
まあ……どちらでもいいか、周りの目なんて。
周りからどう思われようとも、関係無い。
彼女の隣が、僕の居場所なのだから。
ルーナにこうしてくっついてもらえるだけで、僕は十分、幸せなのだから。
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