英雄のいない世界で

赤坂皐月

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THE GROUND ZERO Chapter3

第10章 沈黙の戦場【7】

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「どうしたコヨミ、急に走り出して……って……こ、こやつは……っ!」

 僕の後を追い、マジスターとルーナが駆けてきたが、どうやらマジスターは顔を見て、それがジョンだということが分かったようだった。

 それもそのはず、三日前に僕はジョンとマジスターの訓練を共に受けていたのだから……忘れているはずが無い。

「マジスターさん、この人知ってるの?」

「ああ……マグナブラの新人兵士で……コヨミと一緒に居た後輩だ」

「えっ……」

 僕が振り返ると、ルーナは目を丸くして、両手で口元を押さえていた。

 そこに僕は、補足を入れる。

「マジスター、コイツは僕にとって後輩でもあり……唯一の親友だ……」

「そうか……そうだったか……」

 マジスターは顔を曇らせ、俯く。

 そして僕は再び、地面に倒れているジョンに視線を向ける。

 体には無数の弾丸の痕があり、出血も酷い……その悲惨な姿をまじまじと見て、瞬間、僕の中である程度抑えていた悲しみの感情が一気に込み上げてきたのだ。

「コイツは……僕と最後に分かれる時……もっともっと自分の正義を貫くために上を目指すって言ってたんだよ……マグナブラを守る兵士になるって、ずっと言ってたんだよ……それなのに……それなのに何でこんなところでっ!!」

 拳にありったけの力を込め、僕は大地を叩く。

「クソッ!! クソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 無念が、怒りが、悲しみが……様々な感情が入り混じって、今の状況が把握できないほどに僕は涙を流し、そして怒り狂うように地面を殴った。

 一発……二発……三発、四発、五発、六発! 七発っ! 八発っ!! 九発っ!! 

 体の底から悔しさが込み上げ、何発も何発も殴り続けたが、十発目に差し掛かったところで僕の腕に急に強い抵抗が掛かった。

 振り向くと、僕の腕を掴んでいたのはマジスターだった。 

「コヨミ……お前の気持ちは分かる。だが彼も兵士だ。戦場に駆り出された時から、ある程度は覚悟していたに違いない」

「…………」

「正面に弾を受けているが、背中からの出血は見られない。彼はマグナブラを守るために、命の危険にさらされながらも、敵に背中は一切向けなかった……彼は立派な兵士だ……教官であるわしが保証してやる!」

「……そうか、立派な兵士か……」

 ここで僕は一度、両手の拳の力を緩めた。

 僕の中の怒りが、悲しみが、様々な感情が収まったからだ。

「だからコヨミ、お前は志半ばで散った彼の分まで……いや、彼以上のことを果たさねばならん! それは分かってるな?」

「ああ……分かってる」

 しかし僕はまたここで、緩めた拳を再び力強く握り締めた。

 しかしそれは先程のような、感情からのものではなく、志による力だった。

「ジョン……お前は自分を犠牲にしてまで、最期まで立派にマグナブラを守ろうとしたんだな……だけど……だけど僕はお前のように、自分の信念を、勇者になる道を貫くことができそうにない。新たな信念、この世界を暁の火から解放するという信念ができたからね」

 僕の新たな信念……いや、僕だけじゃない。

 僕とマジスターとルーナの三人。ヘイトウルフの信念だ。

 しかしそれは、勇者の道とは大きく外れることになる。いや……むしろ真反対と言ってもいいだろうか。

「僕達はこの世界を変えなくちゃならない……自分の、全ての人々の意思が通る世界にするために。しかしそのためには、勇者のように、そしてお前の信念のように、何かを守るなんて言ってられない。今のこの世界は、僕達の望んでいる世界じゃないからな。だから……」

 そう、だからこそ僕はここで、ジョンの前で誓う。

 それは今までの僕の信念とは真逆であり、そしてジョンとは違う道を行くことになるから。

「だから僕は誓うよ……僕はこの世界を、必ず壊してみせる」

 守るのではなく、壊す。

 この世界の規範となりつつある暁の火を崩壊させることは、この世界の現在の秩序を破壊するに等しいことだ。

 だからこそ世界を壊す……そんな大それたことが本当に実現できるかどうか、保証まではできないけれど、でもやれるところまでやってみるさ。

 お前が守れなかったその分を、僕が破壊で補ってみせる。 

「世界を壊すって……それじゃあ勇者どころか、世界を脅かす大魔王様ってかんじね」

 ふっ……と、苦笑いを浮かべながら、ルーナは僕にそんな意地の悪いことを言ってきた。

「大魔王ね……まあそれもいいかもしれないな。このままじゃ名誉どころか、汚名もこの世に残せそうにないし。それこそライフ・ゼロとは言わないが、魔物じゃなく、世界初の人間の魔王ってことになるのかな……」

 僕はジョンの元から立ち上がり、自分の拳で目元の涙を拭い去った。

 いつまでも、メソメソしてはいられない。

「だけど、僕が大魔王じゃなく、新たな世界を創り出すための勇者であることは、少なからずこの世界で二人は知ってくれているはずだしね?」

 僕は振り返り、ルーナとマジスターを交互に見つめる。

「ふん……さあどうかしらね?」

「おいおいルーナ、そこはそうだって言ってくれよ……」

「言ったらアンタ、調子に乗りそうだから」

「ちぇっ……可愛げがねぇの」

 そんな僕の姿を見て、ルーナはいつものように僕に反発するように答え。

「カッカッカッ! もし大魔王と呼ばれる時が来たとしても、少なからずわしはお前を立派な戦士とは思ってやるぞ?」

「そこは戦士じゃなくて勇者でいいじゃないかマジスター……」

「勇者としてはそうだな……本当に世界が解放されたら……だな?」

「どいつもコイツも手厳しいな……」

「カッカッカッ!!」

 マジスターはこれまたいつも通り、笑いながら冷静な評価を僕に下してきた。

 そう……かつて僕を絶望の淵からすくい上げ見守ってくれたのは、ジョンたった一人だった。

 しかし今は、僕には二人仲間がいる。しかも互いに命を預けれるほど、信頼できる仲間が二人も。

 いや……もしかしたらジョン、お前もどこかで僕を見守ってくれてるだろうか……いや、そんな甘いことを考えたらまた「そんな甘えちゃダメっす!」とか言って、お前に怒られてしまうな……。
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