ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

文字の大きさ
10 / 103
第1部 青春の始まり篇

 第2章 禁断の屋上ランチ【3】

しおりを挟む
 同日、時は飛んで、四限の終わりを知らせるチャイムの音が校舎に鳴り響き、俺は英語の教科書を鞄に直し、その引き換えに弁当箱を持って食堂へと馳せ参じようとしたその時だった。

「ねぇ岡崎君、今日のお昼よかったらご一緒できない?」

 意外な奴からのお昼のお誘い。前日は四限が終わるや否や、真っ先にどこかに消えていた天地魔白からの誘いだった。

「えっ!?」

 あまりにも唐突な出来事に、俺は思わず言葉を詰まらせてしまう。しかしこの言葉の詰まりすらも計算に入れていたのか、更に天地はこう続けた。

「屋上の階段前で待ってるから来てちょうだいね?」

 それだけ言い残して、天地はさっさと自分の弁当を持って教室を出て行ってしまった。まるで通り雨の様な奴だ……。

 拒否する間も天地は俺に与えなかったので、仕方なくだが俺は一度食堂へと向かい、徳永に事の発端だけを知らせると「そうなんだ……どうぞごゆっくり」と意味有り気な笑みを返され、その場で張り倒してやろうと思ったが、神坂さんの「ではまた明日」というお言葉と、エンジェルスマイルによって俺の怒りは中和(もしくは沈静)し、その手を振るうことは無かった。

 神坂さんにせいぜい感謝する事だな……。

 とまあそんなこんなで事なきを得た俺は、一階にある食堂から、その正反対の位置にあろう屋上への階段を上っている最中だった。

 一年の教室は全て二階にあるため、この高校に入ってからこんなに階段を上るのは初めてであり、更に登下校の道も平坦な道を歩いていたという事もあって、何だか久々に良い運動をしている様な気分になった。

 三年の教室が並ぶ四階をまで辿り着き、最後の階段を上ると天地はそこに立って待っていた。

「岡崎君疲れた顔してるわよ?もしかして運動は苦手な方?」

 自覚は無かったのだが、そんなに階段上りの疲れが顔に出ていたのだろうか……まあ疲れたには疲れたが。

「いや……苦手ではないけど得意でもないかな。一応中学時代は部活してたし」

「へぇそれは意外!何の部活をしてたの?」

「野球、まぁ入ったには入ったけど万年ベンチ入りも果たせずだったけど」

「ベンチウォーマーにもなれないなんて……頭を刈り上げただけのいがぐりボウズな中学時代を送ってたのね」

 毒を含む言い方を天地はするが、あながち間違ってないので言い返す事も出来ない。テレビで夏、甲子園を見る度にこんな青春を迎えたかったと僅かながら思う時もあるしな。

「満足な青春なんてほんの一握りの学生に与えられる特権であって、大半の学生は残念な青春を味わい大人になっていくのよ。恥じることは無いわ岡崎君」

 高校生活始まってひと月も経ってないのに、俺はその大半の学生に分類にされちまうのか。あぁ、悲しきかな我が青春。

「そんなちんけな事より岡崎君、ちょっとこっちに来て」

「俺の青春をちんけなもの扱いか……何だよ……」
 
 俺は招かれるがまま天地に着いて行くと、そこには屋上へと通じる扉がある……まさかと思うがコイツ……。

「おい、まさか屋上に行くっていうんじゃねえだろうな?」

「そのまさかよ」

「ちょっと待て!屋上には生徒の立ち入りは禁止って……」

「そんな事誰が言ったの岡崎君?サッカー馬鹿の山崎先生もいかにも影も頭も薄い校長先生も言ってなかったわよ?」

 確かに言われてみれば、誰もそんな事言ってなかったような……というかコイツ、俺以外の人間にも容赦無い罵倒をさらっと言ったよな今。

「口癖よ口癖。それじゃ行くわよ」

「とんでもねぇ口癖だな……」

 どうやら屋上への扉の鍵は既に天地によって開錠されていたらしく、何の抵抗も無しにガラリと開いた。屋上には春の蒼穹が広がっており、心地よい風も吹いて、まさに春日和な風景が広がっている。

 至極当然、屋上には誰もいないために人の声や気配は全く無い。いや、僅かに人の声は聞こえるのだが、それは下の階で団欒を繰り広げている上級生達の声であろう。

「岡崎君こっち、ここがわたし的には特等席だと思う場所よ」

 天地が指し示した場所は、屋上の階段がある場所が正面だとしたらその右横側の場所。その場所にはいい感じに座る事の出来る段差が存在し、フェンス越しには広々と広がる蒼天と街の風景が見て取れた。

「確かに良い場所だと思うが……もしかしてお前、屋上に来るの今日が初めてじゃないな?」

「ええ、昨日屋上の鍵を破ろうと思ったらあっさり出来ちゃって、その場所でお弁当食べたの。まるで世界を掌握した様な気分になれて気持ち良かったわよ」

 世界を掌握って……コイツは魔王にでもなった気でいるのか。と、それよりも……。

「なるほど……だから昨日四限が終わって即座に姿を消したのか。友達と団欒を繰り広げながら弁当を突く訳でも無く、こんな場所で一人泥棒みたいな事をこそこそして、青空を見てご満悦してたと」

「辛辣な言い方ね岡崎君。わたしの心が傷つくわ」

「俺はその倍は傷ついてるだろうさ」

「それもそうね。岡崎君のはガラスのハートだろうけど、わたしのは純正のダイヤモンドハートだから」

「そりゃ傷つかないだろうなっ!」

 傷をつけるどころか、傷つけるこっちの方が折れちまいそうだ。

「そんな他愛もないやり取りはいいから、早くお弁当食べましょ」

 他愛もないなんて身も蓋も無い事をさらっと言いやがって……まあ、他愛も無いか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夜の声

神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。 読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。 小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。 柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。 そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する

藤原 秋
恋愛
大規模な自然災害により絶滅寸前となった兎耳族の生き残りは、大帝国の皇帝の計らいにより宮廷で保護という名目の軟禁下に置かれている。 彼らは宮廷内の仕事に従事しながら、一切の外出を許可されず、婚姻は同族間のみと定義づけられ、宮廷内の籠の鳥と化していた。 そんな中、宮廷薬師となった兎耳族のユーファは、帝国に滅ぼされたアズール王国の王子で今は皇宮の側用人となったスレンツェと共に、生まれつき病弱で両親から次期皇帝候補になることはないと見限られた五歳の第四皇子フラムアーク付きとなり、皇子という地位にありながら冷遇された彼を献身的に支えてきた。 フラムアークはユーファに懐き、スレンツェを慕い、成長と共に少しずつ丈夫になっていく。 だがそれは、彼が現実という名の壁に直面し、自らの境遇に立ち向かっていかねばならないことを意味していた―――。 柔和な性格ながら確たる覚悟を内に秘め、男としての牙を隠す第四皇子と、高潔で侠気に富み、自らの過去と戦いながら彼を補佐する亡国の王子、彼らの心の支えとなり、国の制約と湧き起こる感情の狭間で葛藤する亜人の宮廷薬師。 三者三様の立ち位置にある彼らが手を携え合い、ひとつひとつ困難を乗り越えて掴み取る、思慕と軌跡の逆転劇。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

家出令嬢が海賊王の嫁!?〜新大陸でパン屋さんになるはずが巻き込まれました〜

香月みまり
恋愛
20も離れたおっさん侯爵との結婚が嫌で家出したリリ〜シャ・ルーセンスは、新たな希望を胸に新世界を目指す。 新世界でパン屋さんを開く!! それなのに乗り込んだ船が海賊の襲撃にあって、ピンチです。 このままじゃぁ船が港に戻ってしまう! そうだ!麦の袋に隠れよう。 そうして麦にまみれて知ってしまった海賊の頭の衝撃的な真実。 さよなら私の新大陸、パン屋さんライフ〜

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...