ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

文字の大きさ
11 / 103
第1部 青春の始まり篇

 第2章 禁断の屋上ランチ【4】

しおりを挟む
 とりあえず俺と天地は、天地オススメの特等席とやらに座り、互いの弁当箱を広げる。こういう時ってのは、何故か他人の弁当箱の中を自然と覗きたくなるもので、俺もその例に漏れず天地の弁当箱の中身に視点を持って行っていた。

 アスパラベーコン、卵焼き、プチトマトにブロッコリーと、思ったよりスタンダードな弁当の内容だった……と思ったのだが、俺は気づく。この弁当箱の中には主婦御用達の冷凍食品が一つも存在していなかった。

「もしかしてお前それ……自分で作ってるのか?」

「ええ、朝の日課だもの」

「冷凍食品とか使わないのか?」

「わたし薄味が好きだから冷凍食品は濃くてあまり好みじゃないのよ。食べ物くらい自分で好きな様にして食べたいじゃない」

 どうやら俺は天地のスペックの高さを見くびっていた様だ……イタズラばかり考えているロクでもない奴だとすっかり思っていたが、よくよく考えると容姿端麗で頭の回転も良く、しかも料理も作りきる女子って……完璧だ!完璧すぎるじゃないかこの女!!

 俺はこんな奴と毎日戦っているのか……何だかつくづく今日の事といい、レベルの差を感じたような気がしたな。

「なにしみじみした顔してるのよ岡崎君。そんな顔しても弁当あげないわよ」

 別に貰おうとは思っていなかったが、でもちょっと食べてみたいという気持ちもあったかな……。

 それからは二人それぞれ手持ちの弁当を食べながら、風景を見ながら、会話を交わしていく。朝のホームルーム前にいつも話している様な、ロクでも無い会話を。

「ねえねえ、今日のイタズラの感想はどうだった?」

 早速天地はいつも通り、本日のイタズラのフィードバックを俺に求めてくる。そういえば今朝はあの後、俺は山崎教諭が教室に出席を取りに来るまでずっと机に突っ伏していたので、今日天地と直接会話を交わしたのは昼食に誘われた時が初めてだったんだな。

「お前の狙い通り、精神をズタボロにされたよ。まさか昨日の今日であんな作戦を思いつくとはな」

「岡崎君の精神がいつもボロボロのボロ雑巾みたいに、今にも穴が空きそうなのは知ってるわよ」

「知ってるなら修繕の時間くらい俺にくれよっ!」

 ボロ雑巾だって縫い直せば幾らでも使えるんだぞ。まあ限度はあるが。

「そうじゃなくて怒りの具合よ。少しとか普通くらいとか大盛りとか特盛とか」

 どうやら俺の怒りメーターとやらの単位は、定食屋で頼むご飯の量と同じ単位らしい。ご飯なら特盛がいいんだけどな。

「そうだな……敢えて言うなら少しよりも微量ってところかな。それよりも悔しさとか恥ずかしさの方が上回ってた気がするし」

「あらそうなの。岡崎君に羞恥心なんてまだあったのね」

「そっちかよっ!羞恥心くらいあるわっ!!」

 あるとは思っている、人並みには。だが妙に天地と関わり始めてから、そこら辺の感覚が薄れていっている気がしなくもないのだが……毒されてないよな俺?

「まあでも、今回のは色々盛り込み過ぎてわたしも疲れちゃったし、明日は軽いものにしとくはね」

「明日はって……明日もあるのか」

 俺は溜息と共に肩を落とす。まぁ、やる事は分かっていたんだけどな。

「これから三年間は岡崎君の朝に平穏は無いと思った方がいいわ。覚悟しておきなさい」

 まるで犯行声明を行うが如く、天地は満々のしたり顔で宣言する。俺にそれを拒否する権利は……多分無いんだろうなぁ。分かってしまう自分がつくづく情けない。

 そして再び視線は弁当へ。正直に言って、食べながら話すというのは中々難しい事だ。母親がよくガキの頃に「ご飯を食べるか話すかどっちかにしなさい!」と俺に注意していた様な気がするけど、今ならその意味が分かる。というより、そんな器用な事をこなしていたガキの頃の自分がどれだけ妙々たる器用な口を持っていたのかと少し羨ましく思った。

 弁当の中身を一口分の白米だけ残し、そういえばと俺から話を切り出す。

「天地、お前お嬢様なんだってな」

 そう、昨日の丁度今くらいの昼時に、俺は神坂さんの言っていた事を思い出したのだ。

 天地の中学の時の噂。神坂さん曰く、天地はどこかのお嬢様で、学校には滅多に来ない生徒だった。そんな今とは比べ物にならない天地の中学時代。それを本人に確かめようと思ってな。

「お嬢様……お嬢様ねぇ……まあ他人から見たらそうなんでしょうね……」

 この時、俺は初めて天地の困惑した顔を見た気がする。いつものニヤケ面からは想像のつかない、どこか物憂げで儚い表情。こう言っちゃなんだが、美形の顔をしている天地にはこういう表情の方が様になっている気がする……なに、ただの妄言さ。

「ねぇ岡崎君、あなたはどう思う?」

「何がだ?」

「豊かっていう意味。あなたにとって豊かな事ってどういう事だと思う?」

「豊か……か」

 何だか哲学的な話になっちまったな。いや、哲学なんざそもそもかじった事も無いから分からないのだが……。豊か……豊かねぇ……。

 その時、俺はふと弁当箱の中に残っている一口分の白米を見て思いついた。

「……毎日飯を食える事じゃねぇか?こうやって毎日美味い飯食って、学校で勉強して、友達と話して、漫画読んで、ゲームして、ふかふかなベッドで寝る。この日常こそが豊かな事そのものなんじゃないかって俺は思うね」

 世界には貧困で困ってる人がいるからとか、そう言う意味ではなく、俺はただこの日常に満足している。その満足っていうものこそが天地の言う豊かって事なんじゃないかと、まあ俺なりに考え付いたわけだ。普段なら考えもしない事だろうけどな。

「へぇ……岡崎君って意外と自分の考えってものをしっかり持ってるのね。わたしはてっきりお金持ちなんて間抜けな事を言うのかと期待してたんだけど」

 フッ……俺だってもう一高校生だ。これくらいの立派な意見の一つくらいは持ち合わせているさ。

「そうやって自分の事を立派だって思ってる内はまだまだ幼稚なのよ岡崎君」

 まるで右でかわしたはずのパンチを、左側からクリティカルに浴びせられた様なワンツーパンチ。というかコイツ、罵詈雑言のパターン幾つ持ち合わせてるんだよ。

「歩く雑言図書館と言ってもいいわよ」

「……それ言われて嬉しいのか?」

「割と」

 まあ……感性は人それぞれだし、純粋な悪意を持ってる天地らしいといえばらしいのだが。俺だったら多分嫌になるだろうな……そう言われている自分が。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

処理中です...