ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

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第1部 青春の始まり篇

第3章 天地魔白の秘密【2】

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 それから徳永と神坂さんとは一年三組の教室の前で別れたのだが、その別れ際に徳永が「じゃあ頼んだよ」とまるで最後に俺に釘を刺すかの如く念押しをし、俺の教室へと向かう足の重さはいつも以上のものとなった。

 ただでさえ、これから天地魔白あまちましろによる独断イタズラショーが始まるというのに……一体何故俺は高校に入ってから、こんなに面倒事を背負い込む男になってしまったんだと甚だ疑問に思うね。何でなんだ俺?

 決して答えなんて出ないだろう自問自答を繰り返しつつ、俺は四組を越えて、五組の教室へと向かって行く。さて、ここから一歩踏み出せばそこは、天地大魔王によって創造された魔の巣窟が広がっている。

 一体今日はどんなトラップが仕掛けられているのだろうかと、俺は兜の緒を締めて教室の戸を開ける。だが、そこにはイタズラなんかよりももっと腰を抜かす様な光景が広がっていた。

 天地が……いない。

 ここ数日間、俺よりも必ず先に来て、俺を嵌めようとあらゆるイタズラを用意し、そしてそのセットが終わっているという事を見せつけるが如く座席に堂々と着いている俺の隣の座席が、今日はまさかの空席状態。

 もしや、まだイタズラのセットが終わって無かったのだろうか?しかし昨日は軽いものにすると言っていたし、それに俺の大方の登校時間は奴も把握しているものだとばかり思っていたのだが。

 俺はなんだか拍子抜けし、自分の座席へと向かって歩こうとしたのだが、その瞬間、俺は勘づいちまった。どうやらここ数日で、俺の中に眠っていた第六感は天地のイタズラの刺激により覚醒し、更に研ぎ澄まされた様だ。

 俺の勘づいた事っていうのはつまり、俺自身が拍子抜けし、油断をしたところを隠れていた天地が突いて来るという、いかにも有り得そうな展開の事だった。それだったら例え、背後から「わっ!」と大声をあげる程度のものであっても、イタズラとしては滞りなく終える事が出来るだろう。

 それに、昨日天地が言っていた通り、如何にも簡易的なイタズラである。この線……意外にあり得るんじゃないか?

 俺の中の疑念は、確信へと変わりつつあり、周囲への警戒を強める。ここは既に敵地……何処から攻め入って来てもおかしくはない。右に左に後ろに前に、俺はあらゆる方角に目を向ける。

 しかしこうやって物事を見ると、その場にある全ての物が怪しく見えてくる。これが疑心暗鬼ってやつか。

 それにしても何も起こしてこないな……俺の事をまるで、挙動不審な人間を見る目で追っているクラスメイトの視線もそろそろきつくなってきたのだが。
 
 結局平穏無事に、俺は自分の座席まで辿り着く事が出来たのだが、何だろう……妙な物足りなさを感じる。平和第一主義者であるはずの俺なのに、この何も起こらない平和そのものがむしろ異常な様な、そんな奇妙な気持ちに苛まれていた。

 すると、そんな自分の座席の前で呆然と立ち尽くす俺を見兼ねたのか、一人のクラスメイトが俺に声を掛けて来た。それはクラス委員長である、早良愛良さわらあいらだった。
 
 早良もまた、天地とは少し異なる方向性で美人であり、なにより天地と大きく異なる所はその中身である。世話好きで委員長気質、先生からもクラスメイトからも支持されており、クラスの輪の中心にはいつも彼女の存在がある。まさにそういう意味じゃ彼女はパーフェクトだと言えるな。

「岡崎君、天地さんならまだ来てないわよ。いつもはわたしよりも先に教室に来て、岡崎君の机の周りで色々と仕掛けてるはずなんだけど……もしかして風邪引いたのかな」

 昨日の時点ではそういう様子は見られなかったのだが、まさか本当に風邪だったのだろうか?しかしあの天地なら、平然を装う事など器用にやってのけそうなもんだから、あながち本当に患っていたのかもしれないな。それに、他に学校を休む理由なんて俺には思いつかないし。

「そういえば早良さん、天地のやつはいつもここに何時に来ているんだ?」

 先程の早良の、わたしより早くという言葉を耳にし、唐突に気になった。そういえば俺は、天地が学校にいつ来ているのかを正確には知らない。俺よりも前に必ず登校しているという事は分かっていたのだが。

「そうね……わたしもちゃんとした時間は知らないんだけど、クラス委員長って朝、教室の扉を開けるっていう事も仕事なの。だからいつも七時には職員室から鍵を持って、この教室に来てるんだけど、いつも天地さんはわたしより先にこの教室の前に立ってるわ」

「七時にって事は……天地はそれより前……六時頃にはここに来てるって事なのか!?」

 あいつのやる事は一々俺の予想斜め上を行き、仰天とさせてくるな。俺が学校へ登校するのはいつも八時以降だというのに、それよりも一時間以上も前に登校し、俺へのイタズラの用意をしているというのか。もはや物好きという領域を遥かに凌駕しているな。

 いや待てよ……だとしたらあいつ、そもそも何時に起きてるんだ?毎日自分の弁当は自分で作るとか言ってたし……早起きは三文の徳と言うが、そんな早くに起き過ぎて、風邪でも引いたんじゃ三文なんてむしろマイナスにしかならないからな。

「でも天地さん、用意してる時いつも楽しそうにしてるのよ?昨日のブーブークッションを用意してる時だって、ずっと試行錯誤しながら、それでも所々で笑いながら用意してたもの」

 それはきっと、イタズラを成功させた時のしてやったり感と俺のマヌケ面でも想像してたのだろうさ。端からアイツは失敗する事なんて眼中に無さそうだし、常に成功するビジョンしか持ってなさそうだしな。

「フフッ、それだけであんなに毎日早く登校して、あんな楽しそうな顏を出来るかしらね?乙女にあまり恥はかかせちゃダ・メ・よ?」

 それからにこやかに笑って、再び早良はクラスメイトの女子の集まりへと戻って行く。

 まったく早良といい、徳永といい、最近の若者はすぐそういう話に繋げたがるんだな。どいつもコイツもアホだらけだ。

 俺と天地はそういう関係じゃない。あいつは一方的に俺を研究材料にしているだけだし、俺もまたそれに付き合っているだけ。それだけの仲なんだ。それにあいつも、最初に恋煩いとかそんなんじゃないと断言していたし、俺だってそのつもりだからな。だからそれ以上とか、そんなものは一切存在しない。

 しかし……いつもの習慣が無くなったとなると、なんというか一気に一日のモチベーションがガタついたというか、何故かは分からないが調子の悪いスタートダッシュを踏み出した様な気になってならない。これがルーティンの力というものなのだろうか。

 それから程なくしてホームルームとなり、山崎やまざき教諭がいつも通り出席をとる際、天地が本日丸一日休みだという事を言った様な気がするが、俺はずっと頭の機能をスリープモードにしていた為、その他の事はほぼ聞き漏らしていた。

 そして山崎教諭の言っていた通り、俺の隣の席はその日ずっと空席のままになっていた。何だか居なければ居ないで物足りない様な、切ない気分になるのは何なんだろうな。

 俺はそんな憂鬱な気分を心の中にモンモンと抱えながら、授業の内容など全く耳に入らず、午前中の時間はそうやって過ぎ去っていった。
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